混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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次話から新章に移る予定です。


9/26改稿



3-B 有ったかもしれない休日 後編(閑話)

 

 一回戦Aブロックはランス側の勝利に終わり、一回戦Bブロックが始まる。

 ユーリとサラvsファビアンとクリフである。

 これは老人対若者だろうか?

 

 特に味気ない海パンを履いたユーリとピンク色のビキニを付けたサラが緊張しながらコートに入る。

 

 それに対し、老人ズはやる気満々でコートに入る。

 

「ふぉふぉふぉ。最初からユーリ達と当たるとはのう」

「ワシらも元気が出るわい」

 

 いや、元々元気そうですけどねと心の中で突っ込むユーリ。

 

 

 

 

 試合開始のホイッスルが鳴る。

 

 最初のサーブはユーリ側だ。

 

 サラがサーブを打つ。

 そこそこの速さで飛んで行くボールはネットを越え、コート端に飛ぶ。

 

「いいね!! サラ!!」

「ありがとー!!」

 

 コート端に飛んだボールは地面に落ちるーーと思われたが、クリフにレシーブされる。

 

「なっ!?」

 

 真ん中からいきなり端に移動したクリフの速さに驚くが、クリフは魔法師。直ぐに納得する。

 

 高く上げられたボールはファビアンがスマッシュする。

 

 その先にはユーリの顔。

 

「え?」

 

 ととぼけた声を出し、顔面に直撃する。頭が強く揺さぶられ、そのまま倒れるように砂浜に倒れ込むユーリ。

 

 悲鳴を上げてサラが走って来る。

 

「ユーリ君!? 大丈夫!? ちょっと酷いんじゃないの?」

 

 サラはユーリを抱き起こしながら二人に抗議する。

 

 だが二人は悪そびれた様子も無く、むしろ不思議そうにしている。

 

「もしワシらがユーリを狙わなければ、サラ、お主を狙うのじゃぞ? ユーリは怒るじゃろ? それにユーリは男じゃ。このぐらい大丈夫じゃ」

 

 そうクリフが反論する。それを聞いてサラは更に反論しようとしたが、下から伸びる手に遮られる。

 

「サラ。二人の言うとおりだよ。僕がサラを守るんだ」

 

 そう言いながらサラの手を借りながら立ち上がる。

 

「ユーリ君……」

 

 サラはまだ何か言い出そうだったが飲み込み、ゆっくり立ち上がる。

 

 

 

 

 試合再開のホイッスルと共にクリフ側からサーブが打たれる。

 流石に宣言した通り、サラは狙わずにユーリを狙って来る。

 ユーリは肉体強化魔法を使い、レシーブする。

 

「サラ、今だ!!」

 

 そのかけ声と共にサラがスマッシュを打つ。

 ファビアンを狙ったコースだ。

 

 ファビアンは魔法師では無いので、行けると思ったようだった。

 

 しかし、ファビアンは老いても現役軍人。

 魔法師では無くても、現役軍人。

 サラ程度の球を返すのは事など、朝飯前だ。

 

 ファビアンはレシーブをして、クリフに渡す。

 クリフはスマッシュを打つーーが姿勢が崩れ、そのボールはサラに向かってしまう。

 

 サラの目には走馬灯のように見えていた。

 もちろん死にはしないだろうが、かなり痛い。

 だが逃げようとするが身体は動かない。

 

 いつか来る痛みに備えて必死に腕で庇うーーが、その痛みはいつまで待っても来ない。

 

 恐る恐る目を開けると、目の前には慣れ親しんだ背中がある。

 ユーリの背中だ。

 

 ユーリはゆっくり振り返るとサラに弱々しい笑顔で微笑む。

 

「サラ……怪我……無い?」

 

 サラは必死に首を縦に何度も振る。

 

「良かった……」

 

 と言ってユーリは砂浜に倒れ込む。

 

「ユーリ君!?」

 

 サラが慌てて起こすが、ユーリは疲れて寝てしまっていた。

 

 そんな様子に皆が安心する。

 

 ユーリが棄権で、クリフ側の勝利……となる訳だが、クリフ達は首を横に振る。

 

「ワシらの負けじゃ。サラは狙わんと言ったのにサラに行ってしまい、ユーリが身体を張って守り、ユーリは一言もわしらに文句を言わん。もはや心意気が負けたわ」

 

 クリフ達はユーリに暖かい視線を向け、ゆっくりコートを離れて行った……

 

 クリフ達の棄権により、ユーリ側の勝利に終わる。

 

 

 

 

 

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 一回戦Cブロック

 

 ライル&アンジェリカvsルーカス&アイリーン

 

 ルーカス、アイリーンは説明するまでも無いが、面識の無いライルとアンジェリカが組むチームには誰もが興味深々だった。

 

 そもそも何故こういう組み合わせなのだろうか?

 

 それはライルがけしかけたからである。

 アンジェリカがユーリに好意を寄せている事に気づいたライルはアンジェリカに耳打ちする。

 

 勝てばユーリとデート出来るぞと。

 

 そしてこの二人が組むことになった。老人ズは老人の息が合ったのだろう。

 

 ライルはアンジェリカを騙している訳だが悪意は無く、どうなるか楽しんでいるだけである。

 

 

 

 

 さてさて、サーブ権はルーカス側だ。

 

 サーブはアイリーンが打つ。

 もちろん魔法を使ってだ。

 

 しなやかな肢体を使ってサーブを打つ。

 ものすごいスピードで飛んで行ったボールはライルに軽々と捌かれる。

 

「嬢ちゃん!!」

「はい!!」

 

 ライルがトスを上げ、アンジェリカが打ち込む。

 その小柄な身体には似つかわしくない程の速さのボールを打ち出す。

 

 見事な連携プレーのボールは易々とルーカス達を抜いて行く。

 

 ライル、アンジェリカ 1ポイント

 ルーカス、アイリーン 0ポイント

 

 状況は不利だった。

 只でさえルーカスが足手まといなのに、ライルとアンジェリカが連携している。

 もはやこのままでは勝ち目は無かった。

 

 そこでルーカスは一計を (あん)じる。

 

「アイリーン、そう言えば知ってるか?」

 

 突然のルーカスからの問いに首を傾げるアイリーン。

 

「今回、優勝したら何でも一つ出来るらしいぞ」

 

 アイリーンはその言葉を聞くとルーカスに素早く詰め寄る。

 

「ホントですか!? な、何でも!?」

「あ、ああ」

 

 キラキラと目を輝かせるアイリーンの勢いに若干驚いたルーカスだが、同時に納得もする。

 

 まあ、アイリーンも女性だから宝石とか指輪欲しいよな……とルーカスは思い付く。

 

 だがルーカスの想像は大きく外れる。アイリーンは女性だが、軍人気質。宝石や指輪等にそこまで興味は無い。ファッションの一部ぐらいらしい。

 

 そんなアイリーンが欲しいのは……ルーカスーーでは無く、ルーカスと1日デート権だった。

 思考は何て乙女なのだろうか。

 

 

 

 

 さてさて、ルーカスの思惑通り? には行ったらしく、アイリーンのやる気は頂点。

 腕をしきりに回しており、素振りまでし出す始末。

 

 試合開始のホイッスルと共に、ライルからサーブが放たれる。

 相変わらず早いボールはアイリーンの手元に。アイリーンは全力でレシーブして、ルーカスに繋げトスを上げさせる。そこにアイリーンが全力で思いをぶち込む。

 

 ものすごいスピードで飛んで行ったボールはライルを直撃、まさかの気絶させる程の威力だった。

 

「ハア、ハア、ハア……」

 

 肩で息しているアイリーンは心の中で謝る。

 

 私の優勝の為にごめんなさいと。

 

 ライルの続行不可能によりルーカス側の勝利に終わる。

 

 

 

 

 

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 二回戦ーーというより準決勝だろうか。

 

 ランス&サイオンvsユーリ&サラである。

 これはランス側が有利か?

 

 試合開始のホイッスルと共にユーリ側からサーブが放たれる。

 サーブはユーリだ。

 ユーリが放つボールは容赦ないスピードでランス達に襲いかかる。

 やはり気心の知れた仲間とは全力でやりたい物だ。

 

 全力で放たれたボールはランスによってレシーブされ、サイオンがトスをして、ランスが打ち込む。

 

 それをユーリがレシーブを受け、サラがトスをして、ユーリが打ち込む。

 

 これが無限に続くと思えたーーがランス側はランスとサイオン。

 ユーリ側はユーリしかレシーブ出来ない。ユーリが限界になるのは直ぐだ。

 

 ドンドン目に見えて、ユーリの動きが鈍くなって行く……

 

 そんなユーリも見て、ランスとサイオンは視線を交わす。

 そして同時にお腹を抑え、苦しみ出す。

 

「イタタタタタタ……」

「ヤバい……腹が痛い」

 

 二人は痛みで地面をのた打ち回る。腹痛にしてはオーバーリアクションである。

 

 試合は中断され、アンジェリカが二人を診察するーーが一瞬で仮病と察する。

 

 クスッと小さく笑い、皆に二人の状態を知らせる。

 

「皆さん、ランスさんとサイオンさんはただの腹痛で問題有りませんが試合は出来ないです」

 

 それを聞いた博士は試合終了を宣言する。

 

 ユーリ側の勝利だ。

 

 

 

 

 

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「さあ、待ちに待った決勝戦。この一戦で優勝チームが決まる。そんな戦いを実況するのは私、作者の銀氷の魔女だ!!

 

 さてさて優勝景品は何でも券だ。

 金や宝石、もちろんあんな事やこんな事。何でもござれだ。

 優勝した二人に一枚ずつ配られる!!」

 

 まあ何でも出来ると言ったが、もちろん常識の範囲内だ。

 

 

 最初にユーリ側を説明する。

 

「さてさて、それを巡る2つチームを紹介しよう。

 火星独立軍チーム、ユーリ&サラ!!

 若い身体が生み出す俊敏性と熱いカップルが繰り出す愛の連携!!

 そして、今まで挫けなかった強い思い!!

 この3つがユーリ達の力だ!!」

 

 続いてルーカス側を説明する。

 

「それに対し地球連合軍チーム、ルーカス&アイリーンが対抗する!!

 二人は軍人。それにアイリーンは屈指の肉体派魔法師!! まだまだ若い魅力的な肢体から繰り出されるボールは凄まじいの一言!! ライルを一撃で倒した実力もある。

 これは面白い戦いになりそうだ!!」

 

 熱の入った実況に観衆が沸き上がる。

 火星独立軍側、地球連合軍側どちらも一番見たかった組み合わせだ。

 

「さあ、両チームの選手が配置に着く。サーブ権はルーカス側。打つのはアイリーン。ライルを一撃で倒した力を見せてくれるかーー?」

 

 実況が終わると同時にホイッスルが鳴り、試合が始まる。

 アイリーンがボールを高く上げ、落ちてきた所を打ち込む。

 

 ボールは今まで以上の強さで打たれ、ものすごいスピードでユーリに飛んで行くーーがユーリは反応する。

 

 ユーリがレシーブをして、サラがトスをして、ユーリが打ち込む。

 そのボールは端に決まる。

 

 ユーリ側 1ポイント

 ルーカス側 0ポイント

 

「決まったーー!! ユーリのボールはキレイに端に入る。これはアイリーンも反応出来ない!! さてさて、最初はユーリ側が得点したがルーカス側は巻き返せるのか!?」

 

 熱い実況を横にユーリがサーブを行う。

 

 安全なサーブを選択して来たユーリにルーカスがレシーブする。

 真上に上がったボールは正にトスだ。そのボールをアイリーンが打ち込む。

 

 真上から打たれたような急角度のボールはユーリも反応出来ない。

 

「お、ルーカス側が得点したーー!! これは分からない。分からないぞぉぉぉぉぉ」

 

 ユーリ側 1ポイント

 ルーカス側 1ポイント

 

 

 

 

 

 

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 その後、両チームは一歩も譲らず、9対9となる。

 

「さあー、両チームリーチ。どちらがいれても優勝だ!! これは最後まで見逃せない!!」

 

 マイクを持った手に力が篭もる。

 

 ホイッスルが鳴り、サーブが放たれる。サーブはユーリ側だ。

 今日一番のサーブはど真ん中だ。

 

 直ぐにアイリーンが対処するーーがボールが真上に上がらず、斜め横に飛んでしまう。

 

 あっ!? というアイリーンの声と同時にルーカスは反応していた。

 変な所に飛んだボールはゆっくりと放物線を描いて、コート外に落ちようとしていた。

 

 ルーカスは思いっきり飛び込む。

 

「届けえぇぇぇぇぇーー!!」

 

 右手に全力を賭け、伸ばすーー

 

 

 

 ポンッという音と共にボールは舞い上がる。

 だがボールはアイリーンまで届かない。

 

「ルーカスさん!! ありがとうごさいます!! 後は私が!!」

 

 ボールは低いがアイリーンはアンダーで打ち返す。

 とりあえずは危機を脱したみたいだ。

 

 だが、そんなチャンスを見逃すはずも無いユーリだった。

 

 

 高く上がったボールをそのまま打ち込む。

 

 体勢の崩れているルーカス達には反応出来ないーーがルーカスは諦めない。

 

「俺はアイリーンが喜ぶ所を見て見たいんだよぉぉぉぉぉーーー!!」

 

 ルーカスは飛び上がり身体でブロックする。

 

 ボールは見事に顔面に当たり、ブベッという情けないルーカスの声と共に勢いを失い地面に落ちる。

 

 ボールが落ちた瞬間、時が止まったような気がした。

 誰もがボールの行方を探す。

 

 

 

 

 

 

 ボールは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーリ側に落ちていた。

 

 その瞬間、観衆がこの日一番沸き上がる。

 うおぉぉぉぉぉぉーという歓声で埋め尽くされる。

 

「ボールはユーリ側……要するにルーカスのブロックが成功し、ユーリ側のコートに落ちたという事だーー!! という事はルーカス側が10ポイント、優勝だあぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!」

 

 またもや歓声が上がり、奮戦した両チームを褒め称える。

 

 ユーリは気絶しているルーカスに黙礼し、コートから出る。

 その隣をサラが歩く。

 

「……惜しかったね、ユーリ君」

 

 慰めの言葉にユーリは黙って頷く。内心ユーリはとても悔しがっていた。

 

 

 

 

 

 

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 ん? ……何か柔らかいな。砂浜はこんなに柔らかかったのか……

 とぼんやりとした意識の中、頭に感じる柔らかさを堪能していた。磯の香りと日差しの温かさと頭の心地よい感触はルーカスを極楽へと誘うーー

 

「ーーって、おい!! 砂じゃなくお前か!?」

 

 素早く飛び起きたルーカスはアイリーンから離れる。

 

 ルーカスが非難? したのはアイリーンだった。

 

「さすがにルーカスさんを砂浜に寝かせる訳にはいきませんので膝枕しましたが、……私の足堅かったでしょうか?」

 

 少し不安そうに聞いてくるアイリーンにルーカスは言葉に詰まる。

 

「い、いや、皆でそこまで運んでくれれば良かったのだが……」

 

 だがアイリーンは横に首を振る。

 

「皆様はそこらへんに置いとけと言って、遊びに行ってしまいました」

 

 アイツら……と微かに怒りを覚えたルーカスだった。

 

 砂浜を赤く照らす夕日が休日の終わりを告げていた……

 

 


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