混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
-地球連合軍 ドーバー ユルゲンサイド-
地獄の退却戦から1ヶ月……あれから今まで火星独立軍には大きな動きは無かった。異様な程の静けさだ。今まで破竹の勢いで進撃して来た火星独立軍が全く攻撃を仕掛けて来ないのだ。ドーバー海峡を挟んでのにらみ合いだ。
ドーバー海峡が広いからでは無い。たった34kmしかない。
500km/sで飛んだとしても5分もかからない。
そう、性能的には全く問題ないのだ。それにもかかわらず、動きが無く不気味だ。
元イギリス領のグレートブリテン島のフランスとの連絡口--ドーバー--には地球連合軍の多数の部隊が詰めていた。
幸いにもドーバーには広い敷地が沢山有るので、展開には困らなかった。
こちらは相手がいつ仕掛けて来るかと構えて気が気でない。
だがもちろん半分ずつの交代で警戒している。持久戦で不利に成ることは無い。
HAWの開発の時間稼ぎが出来る分こちらに取ってありがたい。
兵士が空を見上げる。
今日も戦争状態とは思えないほどの清々しい朝だ。鳥のさえずりが少し疲れた心を癒やしてくれる。
目を閉じれば自然が織りなす音や風が心地良く感じる。たまに香る磯の匂いがアクセントになる。
余りの心地よさに
大きく口を開け、新鮮な空気を肺に充満させる。心無しか、表情も緩む。目の前に広がる青い広々とした海。これが非番で夏ならば駆け出していただろう。
海を細い目で眺めていると遠くに豆粒のような物が海の少し上にポツポツと見える。鳥かな? と思って見ていると突如鳴る警報に身体をビクリと震わせる。
「全軍、第一種戦闘配備!! 敵HAWが接近中!! 迎撃しろ!!」
スピーカーからこれを聞いた途端、兵士の身体は動いていた。今までの訓練の賜物だろう。
ハッチを開け、戦車に乗り込む。
昔とは違い既に戦車のシステムは電子化されており、タッチパネルで簡単だと言いたい所だが空を飛んでいる相手には撃つように想定されてない。
もう勘で撃つしかない。
後は味方の対空兵器に任せるしかない。
次々と砲煙が舞い、轟音が鳴り響き敵を倒す為に撃ち続ける。
だが、その努力も虚しくHAWにはほとんど当たらない。
むしろ以前よりHAWの動きが機敏になっていた。
「クソッ!! ちょこまかと!!」
口からは自然と愚痴が零れる。
何発も撃っているが全く当たらない自分が情けなくなる。
だが、それをあざ笑うかのようにHAWは攻撃を始める。
HAWの右手のマシンガンからは次々と
HAWのマシンガンの口径は70mm。それに対し戦車の装甲は70mmの攻撃を耐えられるようには設計されていない。そもそも上部装甲は戦車の脆さの代表例だ。
そして動き回っても対して機動力の無い戦車。もちろん70km/sぐらい出すが軽く500km/s出すHAWに取っては止まっているように見える。
勝負は火を見るよりも明らかだ。一方的な蹂躙でこの戦いに終止符が打たれる。
部隊が全滅した事が直ぐにユルゲン達に伝わる。
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拳を固く握りしめているユルゲン。
既にロンドンにも侵攻の知らせは伝わっていた。
「……この動きを見るに奴らは改良を重ねてるという事だな」
ユルゲンは報告にあったHAWの映像を見ていた。
既知のHAWより、機動力、航続距離、追加装甲。
明らかに改良されていた。
欠点であった航続距離を燃料タンクの増設により延長し、追加装甲によって燃料タンクの保護と防御力の増加、そして出力が上がり機動力の増加。
また地上用に何点か改良を積み重ねてるそうだ。
もはやウランバートル戦のような失態は無いだろう。
もう既存兵器では太刀打ち出来ないとユルゲンも判断する。
「ルーカス長官に通達。これより我が軍はグレートブリテン島を破棄する。迅速に新型兵器の援護を頼むと伝えろ」
「はっ!!」
兵士は駆け足で部屋を出て行く。
それを見届けたユルゲンはゆっくり立ち上がる。
「さて、地獄の退却戦partⅡと行こうかね」
口調は気楽だが、内心これからの犠牲の多さを考えると心が潰されそうであった。
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-地球連合軍カーディフ基地 ユルゲンサイド-
グレートブリテン島の西部の湾岸基地である。
グレートブリテン島の中ではそこそこ大きな方である。
ここで集結し、退却を進めていた。
「まずは民間人からだ。劣勢な我らに付いて来てくれる貴重な人材だ。最優先で北米まで連れて行け」
ユルゲンは先に次々と民間人を船に乗せて行く。そして満載になったら出発させる。
ユルゲンが乗るのは最後の船だ。
急いで乗せているが、いかんせん数が多く、それに対し船の入り口は狭い。
まだまだ時間がかかりそうだ。
砲声や爆発音が次第に近づいて来る。
「く、ルーカスまだか……」
ユルゲンは手に汗を握りながら低く唸る。頼みの援軍が早く来るのを必死に祈る。
その時、ロンドン方面から火星独立軍のHAWが一機、低空で飛んで来る。
近くまで来ると出航する船に気付いたのか船にマシンガンの照準を合わせるーー
ーー銃口がゆっくりと民間人の乗っている船に向けられるーー
ユルゲン達は近くの武器を取り、必死に注意を向けさせようとしたが内心では分かっていた。
我らは無力で民間人すらを守れないのか……と。
だが、奇跡……いや、希望はあった。
突然、HAWの腹から青い光が出て動かなくなったのである。
HAWが停止し、落下すると後ろに青色のHAWが居たのである。
右手にレーザーブレードを持ち、左手に盾を持つ青色のHAWだった。
火星独立軍は黒に対し、このHAWは青で形も違う。
ユルゲン達が呆然と眺めていると周りに何機もの青色のHAWが集まって来る。
その中の一機がユルゲンの前に膝を付き、腹にあるハッチを開け、中からパイロットが出てくる。ユルゲンに対し話掛けて来る。
「上から失礼します。このような形でのご無礼をお許し下さい」
確かに階級が上である者に対し上から見下ろすというのは無礼である。
だが、そんな事気にするユルゲンでは無い。
「いいや、戦闘中だ。気にする事では無い。それよりもまさかこれは……?」
「はい、地球連合軍のHAWです。名称は saviourです」
「セイバー……救世主か。ふっ、いい名前だな。まさに俺達のとって救世主だ」
再度見上げると名前の影響か負ける気がしなくなる。それほど味方のHAWは頼もしく見える。
「ですが、現在展開しているのは6機。敵を撃退するには全く足りません。我々の任務はユルゲン少将の安全な撤退を支援する事です。なので撤退して頂いて宜しいでしょうか」
少し不安そうな兵士の声にユルゲンは笑って答える。
「ふっ、もう俺が此処にいても無駄だろう? もう、既存兵器の時代は終わった。俺に出来る事は無い」
自虐的なユルゲンにパイロットはフォローしようとするがユルゲンに遮られる。
「そんな事はいい。撤退したいのだがまだ時間はかかる。全軍には味方だからと通達しとくからおもっいきりやって来い。これは命令だからな?」
にやけるユルゲンにパイロットは頭を下げ、機体を立たせ編隊を組んで飛び立つ……
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-地球連合軍 セイバー -
さっきユルゲンに頭を下げた男はモニターで戦況をチェックしていた。
「ロンドンはほとんど陥落しているが、まだ微かな抵抗が見られるな。ロンドンには主力が居るかも知れんな。流石に主力とやり合う戦力は無い。我々の任務は時間稼ぎ。ならばーー」
パイロットはモニターから目を離し、
「ーー攪乱するだけだ」
そういえば、ドーバー海峡に橋がある記述をしていましたが調べた所無いみたいです(-ω-;)
なので、作られたという事にします。
後、今回のように既存兵器の性能が出て来ますが、私はそこまで詳しく無く、詳しい方から見たら間違えているかもしれませんσ(^_^;
なので、詳しい方がいらっしゃいましたら是非、Twitterか活動報告にてお教え願いませんでしょうか?
例えば、戦車に対し70mmは効かないよ等有りましたらお願いします。