混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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9/23改稿




3-5 エルス国の選択

 -エルス国本部ウェリントン ブライスサイド-

 

 エルス国本部ウェリントンの中心、白い建物の中で非公式の代表会談が行われていた。

 この事を知っているのは近臣の一部の者だけだ。

 

 そう広く無い部屋で二人の男はテーブルを挟んで向かいあって座っていた。

 優しそうな40代ぐらいの男、エルス国代表ブライスと誠実そうな若い男、地球連合国代表ルーカスである。

 どちらも笑顔だが漂う雰囲気は張りつめていた。

 

 優しそうな男は一息置いた後、口を開く。

 

「戦争無き世界、ですか……見事です。いい未来でしょう。ですが貴方に実現出来ますか?」

 

 ブライスはにこやかな笑顔だが、目は鋭くルーカスを見定めている。

 この危機的で地球連合国と同盟を組むリスクはかなり高い。だからこの命運を分けるこの談話に力を入れるのは当然だ。

 

 ルーカスはその視線に負けじと答える。

 

「私は優れた仲間と部下を持っている。この誰もが悪しき地球連合軍の統治によって埋もれて来た人材だ。更にこれからも人材を発掘するつもりだ。今までの地球連合軍とは我らは違う!! 

 そして火星独立軍を倒さなければ、地球に安静など訪れん!! また奴らは一枚岩では無い。今は地球連合国という敵が存在するから大人しいが地球連合軍が負けた時、本性を表すだろう。そんな奴らに人類の行く末を任せる訳には行かん!!」

 

 ルーカスは想いの全てをブライスにぶつけた。

 

 地球連合軍には優秀な人材が居る。

 そして火星独立軍は一枚岩では無い。もし地球連合国が敗れ、火星独立軍が地球を支配した時、仲間割れを始めるだろうと予想出来る。

 そんな火星独立軍に未来が託せるか不安。

 

 という意見である。

 

 これは確かに的を射ていた。

 火星独立軍のほとんどは身元不明ばかりで、地球連合軍からの裏切り者も多い。また、混乱に動じて犯罪を起こす(やから)も少なくない。

 上層部や指揮官は意志が届くが、末端までは意志は行き届かない。

 そして、急激に大きくなった組織をまとめれずにいた火星独立軍。

 

 それに比べ、地球連合軍は統率が取れていた。

 もちろん方面軍ごとの意志の差は有るにしろ、兵士まで軍人としての意志が有るのは明らかだ。

 

 違うのは役員の恩恵を受けていた者ばかりだった。

 恩恵を受けれなくなった奴らは再起を図るため火星独立軍にも多く流れている。

 

 火星独立軍も把握しきれて居ないほど、急激に大きくなりすぎたし、戦力を頼らず負えない面もある。

 

 この差はブライスが判断する材料となる。

 

 確かに……地球連合軍は元々軍隊としては上出来だ。怠けてる部分があったが、今は戦争状態。軍人である彼らは否が応でも戦地に行くのだ。皆、必死に訓練に取り組んでいるだろう。

 正直、火星独立軍は勢いが有る内は皆が一丸となって前を見るが、劣勢となると……どうなるか。

 

 とブライスは冷静に分析する。

 この分析した結果とルーカスの描く未来を材料として最終判断を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 ブライスは立ち上がり、ルーカスに手を差し出す。

 

「ルーカス殿、よろしく頼む」

 

 その言葉にルーカスは目を大きく見開き、力強く握手する。

 

「ああ!! よろしく頼む、盟友!!」

 

 ここにエルス国と地球連合国の同盟が成る。

 後日、内外に向けて正式に同盟が締結された事を発表した。

 

 同盟の内容は

 

 1、エルス国が攻撃を受けた場合、地球連合軍は援軍を差し向ける。エルス国からは地球連合軍に対し、援軍を送る必要は無い(エルス国は自衛で精一杯)

 

 2、技術を共有する(全てを出す義務は無いが、戦争に勝つため最大限提供するだろう)

 

 3、地球連合国はエルス国に対し、資源や資金援助を一定量提供する(エルス国は資金、特に資源が乏しく戦争状態になるには厳しい為)

 

 4、エルス国は地球連合軍に対し、人的提供をする(兵士では無く、魔法師や優秀な人材を貸し出す形で提供する)

 

 

 以上の点が同盟の主な締結内容だ。

 

 一見、エルス国側有利に見えるが、同盟締結と技術提供が地球連合軍には飛んで喜ぶぐらい嬉しい事だ。

 同盟締結により、オーストラリアと南米大陸は後ろに敵は居なくなり、一方方向に戦力を集中させられる。

 

 また技術提供は今、地球連合軍に全く無い人型兵器の技術、知識が入って来るのである。

 エルス国は以前から人型兵器には一目置いていて、ちまちまと開発を進めていたが、戦争状態になると分かり、猛ピッチで開発が進んでいる。

 直に国産のHAWを開発するだろう。

 

 それに対し、エルス国は最近安定しない資源、資金を安定して手には入る。国として助かる。

 また、地球上にいる限りいつか戦争に巻き込まれるのだ。

 なら早く決断しなければ攻められる可能性すらあっただろう。

 

 もう既にいくつかの独立国も陣営を明らかにしている。

 まだ決めてなかったのはエルス国以外、片手で数えられるしか無い。

 

 なのでこの時期の同盟はどちらもwin-winの同盟となったのだ。

 

 もしエルス国が火星独立軍側に付いた場合、地球連合軍は厳しい状況になるのは間違い無かった。

 オーストラリアとは分断され、南米大陸には常に敵と接するので、アフリカに派遣していた南米方面軍は戻すしかなくなり、アフリカは厳しい状況になる。

 またHAWの技術も手に入らないのでもはや詰みになっていただろう。

 

 だがエルス国がこちらに付いたので希望は見えて来たのだ。

 

 

 

 

 

 

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 -火星独立軍北京基地 ユーリサイド-

 

 地球連合軍とエルス国が同盟を組んだ事は既に報告を受けていた。

 会議室には重い雰囲気が漂っていた。

 

 最初に重い口を開いたのはサイオンだった。

 

「……まさか中立を貫くと思っていたエルス国が向こうに付くとはな……」

 

 この言葉に皆が頷く。

 誰もが中立かこちらに付くと思っていたから衝撃はすごかった。

 今まで多くの人がこちらに(なび)いて来ているのだ。

 情勢はこちらに傾いてると判断していたが認識を改める必要が有るだろう。

 

 次にユーリが重い雰囲気を打ち消すように発言する。

 

「皆、エルス国は敵に回ったが戦力としては大した事は無い。また我らに今流れは有る。このまま地球連合軍をひねりつぶそう!!」

 

 おう!! と皆が答える。

 更に侵攻を進める為、指示を出していく……

 

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍本部 ルーカスサイド-

 

 ここはお祭り騒ぎだった。

 同盟締結がなった日、本部はとても騒がしかった。

 

 ルーカスもあまり騒がしい事は好きでは無いが、この日はルーカスも参加していた。

 むしろルーカスが一番喜んでいたかもしれない。

 

 同盟締結し、本部に戻って来たルーカスは今まで抑えてた気持ちを爆発させる。

 

「やっっっっっったぞぉぉぉぉーーーーー!! アイリーン!! 何とかなるかもしれん!! いやこれから俺らの反撃だ!!」

 

 ルーカスはアイリーンの手を握って、ピョンピョン跳ねながら踊る。

 

「はい!! ルーカス長官おめでとうございます!! やっと反撃が出来ますね!!」

 

 アイリーンもルーカスに合わしてピョンピョン跳ねて踊る。

 

 

 だがそんな時、ドアがガチャと開く。

 入って来たのは報告に来た兵士。

 

 踊っていた二人の動きが止まり、三人の視線が交差する。

 間に流れる気まずい沈黙。

 

 それを打ち破ったのは兵士だ。

 

「……忙しい所、お邪魔しました。報告書はこちらに置いておきます」

 

 それだけを言い報告書を置いて直ぐに扉を閉め、バタンという音だけが響く。

 

 残された二人は視線を交差させ、今の現状に気づいたのか慌てて離れる。

 

「す、すまん。我を忘れてはしゃいでしまった」

「い、いえ、私も失礼しました」

 

 二人は恥ずかしさのあまりしばらくの間、目線すら合わせなかったという……

 


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