混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
-地球連合軍 ロンドン ユルゲンサイド-
不規則な振動が身体を揺さぶる。だが、緩やかな振動で不快には感じない。しかし、一旦意識が戻ってから覚醒するには十分だ。
目を開くと周りには沢山の兵士が居た。
どうやらここはトラックの中らしい。
ユルゲンが目覚めたのに気付いたのか、兵士が話しかけて来る。
「ユルゲン少将、お目覚めですか? 先程は申し訳ありません」
その言葉と共に差し出された水で乾いた喉を潤す。
気づいたらカラカラの喉が次第に潤って来る。
そして一息ついたユルゲンはその兵士の顔を見て、意識を失う前の事を思い出す。
燃え盛る炎に立ち向かう様に送りだした部下が脳裏を過ぎる。
「ーーっ!? オイ、アイツは!?」
ユルゲンは強く問い詰める。
その問いに兵士は俯きながら答える。
「
その言葉を聞いた途端、ユルゲンは慌てて兵士を押しのけ、トラックの入り口まで行く。
砂煙と生暖かい風がユルゲンの顔に吹き付ける。そこから見えるのは爆破された橋と海を隔てた向こうに見える火の手が上がるカレーの街。
燃え盛る街はまるで世紀末を思い起こさせる。
ユルゲンはボロボロと涙をこぼし、声にならない声をあげる。
「アイツには妻と腹の中の子供が居るんだぞ!! 何で、何でアイツは死を選んだんだよ!! 俺には妻子は居ない!! なら生き残るのはアイツだろ!!」
ユルゲンは何故だ、何故だと悔やむ。
そんなユルゲンに兵士は答える。
「我々は軍人です。ならば考える事は損得勘定です。アイツが死に、ユルゲン少将が生きる事が最良と判断したのでしょう……無論我らも同じ考えです」
改めて決意する兵士にユルゲンは目を見開く。兵士達の目から死への恐怖が入り混じっていたが、それを家族の為、国の為にという使命感で押し殺しているのが見えた。
その様子を見たユルゲンはそしてけじめが着いたのか立ち上がる。
「……皆ありがとう。俺は皆に期待され、守られて来た指揮官だ。ならば期待に答えなければならない。必ずや勝利してやる!! 俺はお前らの命を預かる!!」
兵士達はおう!! と応える。
戦いを経て、更に団結力が増したユルゲン達だった。
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ロンドンに到着すると基地は怪我人や避難民でごった返して居た。
怪我人は廊下が埋まるほどいて、民間の病院にも送るがまだまだ足りない。
避難民にはテントや宿舎、民間の施設を使ってギリギリだ。
こんな状態にロンドンが混乱しない訳は無い。
しかしユルゲンはルーカスの協力も有り、何とか混乱を鎮める。
俺はもう迷わん。俺に命を預ける奴がいる限り、俺は常に最良を選択し続けよう。散った者の為に……
ユルゲンは火の手上がるカレーの方向を見て強く誓った。
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戦況はヨーロッパ以外でも大きく動く。
アフリカ方面では反乱軍は鎮圧されたが火星独立軍と交戦中。
地球連合軍劣勢と情報が入る。
インド方面ではニューデリーが陥落し、ラーマン少将はオーストラリアに退却。
オーストラリア方面ではエルス国に動きは無く、未だ沈黙。
反乱軍は鎮圧。
アジア方面は日本で交戦中。日本の陥落は時間の問題である。
北米方面はユーラシア大陸から撤退。アラスカにて防衛陣地を構築中。反乱軍は鎮圧。
各方面で火星独立軍が前線に到着し、次々と劣勢の報告が入ってくる。
この報告にルーカスは頭を抱える。
やはりか……既にHAWは量産体制に入っている。これだけ各方面に展開出来るのもそれが理由だろう。
と判断するのと同時に更なる情勢も判断出来てしまう。
反乱軍だけではHAWの量産は出来ない。設計図が有ったとしても時間がかかるーーって事は大きな企業も付いてるな。
とルーカスは判断する。
大きな企業には研究者が沢山いるのでメカニズムは理解され、量産に至ったという事だろう。
また今まで隠れて作っていたが、今は敵対するとなると全力生産するだろう。もはや今の戦力以上になられたらこちらは一瞬で終わってしまうだろう。
こちらもHAWを作りたいのだが、人型兵器の研究者はこぞって火星独立軍に行ってしまい、ほとんど残って居ない。
これも今までの統治の結果だ。
ルーカスはハア……と大きくため息をつく。
落ち込むルーカスをアイリーンは慰める。
「これも地球連合軍の統治の結果ですよね……どこかの国が技術提供をしてくれないですかね~」
どこかの国か……地球には地球連合国以外の国はエルス国ーー
そのアイリーンの言葉に反応して突如立ち上がるルーカス。
「ーーっ!? そうか!! 技術提供か!!」
ルーカスはコートを取り、走って部屋を出て行く。
「えっ? ルーカス長官!? どこに行くのですか!?」
アイリーンも慌ててルーカスに続いて部屋を出て行く。
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通信機に通信が入る。
「こちらはエルス国防衛軍。貴機はエルス国の領空に侵入している。直ちに進路を変えるか、意図を明らかにせよ」
ぴったりと後ろに付く戦闘機からロックオンされる。
そうここはエルス国領空。
ルーカスは飛行機で領空侵犯していた。
ルーカスは通信を返す。
「こちらは地球連合軍最高司令長官ルーカスだ。そちらの代表と話がしたい」
との返信に戦闘機のパイロットは困惑する。
「まさか……こんな所に地球連合軍最高司令官が? ……司令部に報告する。そちらはこのまま状態を維持せよ」
戦闘機のパイロットは司令部に伝える。
この間に流れる緊張は計り知れない。一触即発の状態なのだ。
しばらく経ち、通信が入る。
「貴機の入国は認められない。直ちに進路を変更し、領空内から退去せよ。退去しない場合は撃墜命令も出ている。繰り返す直ちに退去せよ」
予想外の反応に機内は騒然とする。
「まさか、エルス国が断るとは!? 今まで友好国だったのに!!」
「いや、当然だろう。我らは今劣勢。そして同盟を締結したのは前政権。我らとは
ルーカスの冷静な分析ーー確かにルーカスが立ち上げた地球連合国はもはや別物と言ってもいい。またエルス国は中立で居たいのだろうーーに機内は静まり返る。
アイリーンはルーカスに尋ねる。
「どういたしますか? ルーカス長官」
機内の視線はルーカスに集まる。
悩んでいたルーカスは何か思いついたのか突如立ち上がり、機長に尋ねる。
「機長、エンジンを切って航行し、着陸出来るか?」
その突拍子な言葉に機長は間抜けな声を出してしまう。
「はぁ!? ……失礼しました。エンジンを切って着陸する事は理論上は可能ですが完全に安全とは言えません」
と安全が保障出来ないと言っている機長だが、これはかなり危険な事である。
だがルーカスはゴーサインを出す。
「よし、ならやってくれ。我らはこれが上手く行かなければ死ぬとも同然だ」
ルーカスは機長の肩に手を置き、実行させる。
機長は1つのエンジンを切る。
エンジンが止まったのを確認したルーカスは戦闘機に向け通信をする。
「こちらは退去するつもりだが、エンジンに異常が感知された。緊急着陸を要請する」
ルーカスは後ろに張り付く戦闘機にチラッと目を向ける。これが故意と気づかなければ作戦は成る。
「こちらからもエンジンが停止したのを確認した。司令部に報告する」
返事が返って来るまで短い時間だったが緊張のあまり、とても長く感じる。
しばらくすると、管制塔から通信が入る。
「貴機の緊急着陸要請を受諾した。直ちに近くの空港に着陸せよ」
この通信の後、直ぐに後ろに付いていた戦闘機達が離れていく。
ルーカス達はそれを見て安堵し、指示に従い近くの空港に着陸する。
着陸すると飛行機の周りを装甲車や兵士が取り囲む。
銃は向けられて無いが、雰囲気はピリピリとしている。正に一触即発の雰囲気だ。
「全員抵抗はするな。我らは戦いに来た訳じゃない」
ルーカスは部下に指示を出す。
護衛達もルーカスに従い武装解除する。
そして飛行機から両手を上げ抵抗する気は無いと意思を示し、降りていく。
目の前には大量の兵士と装甲車。
そして指揮官らしき人が前に出てくる。だが迷彩服では無く、緑色の軍服だ。
ルーカスの前に立つと敬礼する。
「お初にお目にかかります、ルーカス長官。リーダーがお待ちです」
指揮官はルーカス達を何台もの高級車のような黒塗りの車に分けて、乗車させる。
ルーカスはアイリーンと一緒に後部座席に乗る。
座るとバックミラー越しに運転手と目が合い、軽く会釈される。
指揮官は助手席に乗り、扉が閉まると車はゆっくりと動き始める。
先頭を装甲車が走り先導していく。
街中を走る事もあったが様々な人種がいたが誰もが笑顔で過ごしている。戦争によって荒廃した都市と比べて、同じ地球上とは思えない様子だ。
今地球連合国では不穏な雰囲気が漂っており、どこも
鎮圧された所も有るが、今は息を潜めてるだけだ。
そんな事を考えていると車が止まる。
ふと外を見ると、後部座席の扉が開かれる。
どうやら到着したみたいだ。
車から降りると快晴の日差しが照りつける。
思わず手で遮ると目の前には白塗りの大きな建物が現れる。
まるでホワイトハウスだ。
ルーカス達は兵士達と共に屋内を進んで行く。
さも見学ツアーのようだった。
そして奥の扉で兵士達が止まる。
それに釣られ、ルーカス達も止まる。
「護衛の方はここまでです。これ以降は最低限のみでお願いします」
指揮官が頭を下げ、頼んで来る。
客人であるルーカス達に断る意義は無い。
アイリーンだけを連れ、中に入って行く。
中はこじんまりとした小さな部屋だった。
いや、小さいは語弊がある。
部屋はそれなりにデカいが、一国の代表が使うには小さいだろう。まあ、ルーカスの基準だが。
扉を開けた音で気づいたのだろう、40歳ぐらいの男だろうか優しそうな男が近づいて来る。
ルーカスの前まで来ると手を差し出して来る。
「初めまして、ルーカス長官。ようこそエルス国へ」
ルーカスは差し出された手を握り、握手する。
「初めまして、ブライス代表。歓迎感謝します」
するとブライスは笑い出す。
「歓迎ですか……歓迎はしてません。我が国は中立を貫き通すつもりです。侵入を拒んだつもりでしたが、まさかあのような手を使うとは見事ですな」
作戦を見透かされたルーカスは冷や汗をかく。そんなルーカスに追撃を入れるブライス。
「どの国だろうと救難信号を出した飛行機は救助しなければいけません。救助しなければ国の信用に関わりますから。それを利用したのはもはや拒みようがなかった……ですが一国の代表がやる策では有りませんよ?」
ブライスは呆れと驚嘆の混じったため息をつく。
内心、心が痛い話だがルーカスはめげずに口を開く。
「確かに一国の代表がする事では無いですが、代表である私がこのような事をしてまでエルス国に来ました。私としてはそれほどまでもエルス国を買ってるつもりです」
思いを込めた眼差しでブライスを見つめる。
するとブライスはふう……とため息をつき、ルーカスに座るよう促す。二人は対面で座る。
「ルーカス長官、……いや、ルーカス殿。さっきまでは国の代表として話をして来ましたが、私は貴方個人の話を聞きたい」
「……分かった。今からは個人の発言をしよう。単刀直入に言う。
エルス国と地球連合国で正式に同盟を組みたい」
この話に予想していたのか顔色一つ変えないブライス。
「同盟ですか……私はこの先どうなるのか予想出来ない。予言者でも超能力者でも無い私は未来が見えない。だが、未来を作る事は出来る。ルーカス殿、貴方の描く未来はどんな世界だ?」
スケールの大きな質問にルーカスは驚く。
この人は今では無く、戦後まで見通している。流石、エルス国の代表なだけは有る。
と感嘆もする。
ルーカスは姿勢を正し、質問を
「私の描く未来はーー」
ルーカスは一旦目を伏せ、目を上げた時瞳に強い意志を宿したのが分かる。
「ーー戦争無き世界だ」