混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
-地球連合軍本部 ルーカスサイド-
地球連合軍本部は北米大陸、ニューヨーク郊外にある。
敷地のほとんどが埋め立て地である。そこにはたくさんの建物や滑走路。もはや、そこには大きな島が存在していた。
本部から少し離れた陸地。
秘密の抜け道ーー隠し滑走路があるという場所があった。
そこから飛び立とうとする飛行機を落とした男ーーライル。
ルーカスはライルを見た時、嬉しさのあまり身体が震えた。
ルーカスとライルはおもっいきりハグする。優しいハグでは無く2人共力強くである。
だが先に音を上げるのはルーカスだった。
「ぐ……あ……タンマ……」
ルーカスはギブアップとバンバンとライルの背中を叩く。
ライルはニヤニヤとしながら身体を離す。
「また、最近なまってるなぁ?」
「いててて……最近は事務仕事ばかりで運動してない。そういうお前はパトロールか?」
「ああ、世界中をパトロールして来たぜ。全く騒がしいと思ったら戦争とクーデターかよ。だからあんなに治安が悪くなって来ているのか」
「そうか……このまま戦争が続くとあちらこちらで反乱が起きるかもしれんな」
ふとルーカスがアイリーンを見ると、アイリーンはまだ警戒を解いてなかった。いや、アイリーンだけでは無くルーカス以外の全員が。
ルーカスは慌てて全員に説明する。
「皆、紹介する。俺の軍人学校同期のライルだ。ライルは信頼出来る。卒業後不正をしてた上官を殴り、退職して、世界中を回って悪人達を懲らしめていたんだ」
その説明に全員は納得ーーいや、アイリーンだけはまだ警戒していた。
「確かに信頼出来そうな方ですが、敵の敵が味方だという証拠が有りません。それに生き残りの可能性も否定出来ません」
「アイリーン!!」
アイリーンに怒ろうとするルーカスをライルは遮る。
「いや、確かに嬢ちゃんの言う通りだ。確かに俺がルーカスの味方だとという証拠は無い。俺が生き残りなら危険だろう。なら証明しようじゃないか。軍人なら拳でな?」
「嬢ちゃんじゃ有りません!! 私はアイリーン。良いでしょう、拳で分かりあいましょう!!」
2人は剣を抜く。
ルーカスは止めようとするが、ライルに睨まれて諦める。
先に動いたのはアイリーンだ。
「一刀一閃!!」
叫びながら、剣を振り切る。
先ほど撃った技である。三日月の形をして、高速で飛んで行く。
それを見たライルは魔力を込めた剣で受け止める。
そして、左に弾く。
弾かれた技は壁に当たり、大きな穴を空ける。
技をいなしたライルは微笑む。
「へえ、アイリーンだっけ? やるじゃないか。流石はルーカスの嫁」
ルーカスの嫁という言葉を聞いたアイリーンは茹でダコのように真っ赤になり、必死に否定する。
「よ、嫁!? ーー嫁じゃないです!! 私は副官です!! それ以上でもそれ以下でも有りません!!」
それを聞いたルーカスはわざとらしく落ち込む。
「マジかぁ……結構仲良いと思ってたんだけどなあ……ただの上司と部下かあ」
ルーカスはため息を付く。
それを見たアイリーンは慌てフォローする。
「あっ……別に仲悪いとかでは無くてですね、特別な関係では無いと言いたかっただけで、あのっーー」
そんなよそ見をしているアイリーンにライルは攻撃を仕掛ける。
「おいおい、よそ見してて大丈夫かぁ? 余裕なら良いんだけど?」
次々と剣によるラッシュを掛ける。
アイリーンは我に返り、防戦する。
アイリーンの方が不利になる。
それは不意打ちのせい……では無く、力量の差であった。
アイリーンも剣を交えている間にだんだん察し始めていく。
この男はまだ本気を出していない……なのにこの力量……勝てない……でも!!
アイリーンは大きく跳び去り、距離を取る。
ライルはあえて追撃しない。
「来いよ。お前の思いをぶちまけろ!!」
ライルは左手で手招きする。
そんな余裕な様子に少しイラッと来るアイリーンだったが、チャンスを与えてくれたライルに感謝する。
「ならば、全力で参る!!」
もはやこの時点まででアイリーンには分かっていた。
ライルが敵では無い事を。
敵で有るならば、わざわざ待ちはしない。
それにこれだけの技量があれば、全員を同時に相手しても勝てるだろう。
もはやライルが味方なのは明白だ。
ならば、と。アイリーンはこの戦いを楽しむ事に決めた。
アイリーンは剣を納める。
そして腰を落とし、居合いの構えをする。
2人の間には少しの静寂が訪れる……
昔から強者同士の戦いは『静』と『動』がはっきりしていると言われている。『静』の間に敵の動きを予想し、『動』の一瞬で勝負が決まると言われている。
この2人も強者同士だ。一撃必殺を2人共狙っている。
そして2人は『静』から『動』へ移るーー
ーーアイリーンは叫びながら、一撃を放つ。
「居合い、一の太刀!!」
アイリーンの懐から放たれた一撃ーー1の太刀は鋭く、ライルの首を狙うーー
ライルは剣で防ぐーーがアイリーンには予想内であった。
防がれた剣は動かさず、左手で魔力で作った剣で切り裂く。
「居合い、二の太刀!!」
左から袈裟切りする。
魔力で作った剣はそのまま、ライルに届ーーかなかった。
ライルも防いだ剣を動かさずに、左手で新しい剣ーー青い剣で防いだ。
アイリーンは眼を驚愕で大きく見開く。
ライルは力の抜けたアイリーンの剣を軽く飛ばす。
飛んでいった剣は地面に当たり、乾いた音を立て、地面に転がる。
勝敗は決した。
アイリーンの敗北である
。
だがアイリーンの表情は晴れていた。
久しぶりに全力で戦い、敗れたのである。
悔しさより、清々しさで満ちていた。
心地よさに浸っていると、目の前に自分の剣が差し出される。
顔を上げると、笑顔のライルが居た。
「やるじゃねえか、アイリーン。まさか俺に二本目を抜かせるとは……おめぇは強いよ。これならルーカスを預けられる」
ライルはアイリーンの肩に手を置き、離れて行く。その足先は外だ。
その様子にルーカスは呼び止める。
「ーーっ!? ライル? どこに行く!?」
「ん?」
ライルは首だけ後ろ向き、
「これから始まるんだろ? お前の戦いがよぉ。なら早速行こうじゃないか」
ブラブラと行くライルを追いかけるルーカス達だった。