混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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2-5 事態は猶予無し

 -地球連合軍南米基地 ルーカスサイド-

 

 ルーカスの部屋ーー長官室では7人がテーブルに置かれた地図を見ていた。

 地図とは地球連合軍本部内部の見取り図であった。

 

「では我が隊は援軍の抑えと?」

 

 迷彩服では無く、身体中に分厚い装甲をまとった男が質問する。

 

 魔法が当たり前になった今、銃の意義は魔法が無かった頃に比べて薄くなったが普通の人に取っては最強の武器だ。

 

 しかし、魔法師に取っては銃は脅威では無い。脅威なのは自分と同じ魔法師だ。

 

 魔法師の攻撃を生身で受けたら身体が一瞬で灰になる。しかし、この鎧を着ていたら一撃では死なない程度の防御力を保有するのだ。

 理屈は追々説明しよう。

 

 

 

 さて他の人はどうだろうか?

 

 ルーカスは魔法師では無い。なので、迷彩服色の軍服だ。戦場に出る以上指揮官も戦いに備えなければならない。迷彩柄のヘルメットも被っている。

 

 隣に居るのはアイリーンだ。アイリーンは魔法師なので鎧を着ている。しかし普通の鎧と違って、スマートな鎧で女性のラインが多少出てしまう物で、これは女性用の鎧である。

 

 女性用の鎧は部分的な装甲を胸、腰、背中、足、手に付けた物で他は黒いタイツである。因みに頭は額当てである。

 男性用と比べ防御力は落ちるが、明らかこちらの方が動きやすい。もちろんこの鎧は男性でも付けられるがほとんどが女性である。

 体力では男性に勝てないので機動力で戦うのである。もちろん例外はいるが。

 

 そして腰には剣を付けている。特に装飾の無いシンプルなロングソードである。髪はいつものサイドテール。

 

 

 

 他の人達は迷彩服である。魔法師と魔法師では無い人の割合は2:5である。

 

 魔法師が隊長の場合、部下も魔法師で魔法師は魔法師で固めると戦いやすいのである。

 

 ちなみに魔法師で無い部隊にも1人か2人魔法師は配置される。

 ウォールシールドや、治療魔法の為に。

 

 ルーカスは部下の質問に答える。

 

「そうだ。お前には敵の援軍が来た場合、お前の隊だけで防いで貰う」

「はっ!! 命に換えましても一兵も通しません」

 

 大きな鎧を男はビシッと敬礼をする。

 その見事な敬礼を見てルーカスは安心し、他の隊に指示を出す。

 

「他の隊は突入だ。アイリーンは俺と来い。突破口は頼むぞ?」

「はい。お任せ下さい」

 

 アイリーンは静かに敬礼する。

 

 

 

 

 

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 作戦会議が終わったルーカス達は輸送機に乗り込む。

 輸送機は轟音を発しながら地上を離れて行く。

 

 その窓からルーカスは夕日を不安そうな目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍基地北京 朱威サイド-

 

 朱威は爪を何度も噛んでいた。ルーカスの指示を思い出しイライラする度である。

 

 ルーカスはクーデターの賛同を得る時に指示ーー提案をしていたのであった。

 

 まず、火星独立軍がどこに降下して来ようが近くの部隊は防衛に徹する事。

 そして降下して来てない地点の全軍集まり次第、全力で殲滅するという作戦だった。各個撃破を恐れていた。

 

 朱威はそこまで待つと敵が体制を整えてしまうのでマズい、と考えていた。朱威は速攻作戦を行うつもりであった。

 

 朱威がまだかまだか、待っていると部下が駆け足で報告してくる。

 

「報告します! レーダーに火星独立軍を確認。落下予想地点はモンゴル地区ウランバートル付近です!」

「ウランバートルか……いきなり降下攻撃は避けたか……ウランバートルならば間に合うな?」

「はっ。我が軍の機動力を生かせば間に合います」

「よし、全軍出撃。ハエを叩き落とせ。一人たりとも地面を踏ませるな」

 

 部下は敬礼し、駆け足で戻って行く。

 

 ウランバートルと北京基地との距離は約400km。大気圏突入から着陸までは40分ぐらいかかる。400kmは戦闘機や輸送機にかかれば、30分もかからない。万全の体制で迎え撃つのであった。

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍ヨーロッパ基地 ユルゲンサイド-

 

「何ぃぃぃーー!!!??? 朱威が動いただと!?」

 

 部下の報告を受け、怒りの余り思い切り机を殴るユルゲン。

 その大きな音に部下はビクリと身体を震わす。

 

「は、はい。敵はウランバートルに降下する予定で朱威少将は降下予定地点に部隊を展開。迎撃すると思われます」

「アイツゥゥゥーー!!」

 

 ユルゲンは強く歯ぎしりしながら右手に持っていたコーヒーの入っていたコップを握り壊す。

 入っていたコーヒーはユルゲンのズボンにかかる。

 

「アチィィィ……あ、やっちまった……」

 

 ユルゲンは熱さで我に返り、コップを割った事を後悔していた。

 ハンカチでズボンを拭きながら部下に指示を出す。

 

「全軍出撃!! 急ぎ朱威部隊を援護するぞ!!」

 

 ここも慌ただしく全軍出撃する。 

 他の方面軍も直ちに出撃させるのであった。

 

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍本部 ルーカスサイド-

 

 輸送機は本部近くの滑走路に着陸する。逆噴射の反動で少し頬を引きつりながら。だが理由はそれだけでは無いだろう。先ほど入った情報ーー朱威の出撃の事もある。だがそれを顔に出さないのは流石だろう。指揮官の表情は部下の士気に関わる。

 

 輸送機が止まり、昇降口から降りると少し階級の高そうな兵士が慌ててやって来る。

 

「少将閣下。いきなりの訪問どうなされました?」

 

 ルーカスは風で飛ばされそうなヘルメットを抑えながら答える。

 

「部下からの連絡で、本部近くにネズミが入って本部を襲撃する予定らしい」

「ネズミ……スパイの事ですね。それならばご心配無く。我々の防備は完璧です」

「残念だが、相当な戦力らしい。だから我々が守りに来た。本部には報告してある」

「……そんな連絡は来てませんが」

「要するにお前には関係無いという事だ」

 

 ルーカス達は踵を返し、本部に向かって行く。

 その様子をあんぐり口を開けて見送る兵士だった。

 

 

 

 本部に正面から堂々と入る。堂々としていれば誰も止めて来ないのであった。誰もが立ち止まり、敬礼する。

 

 そしてエレベーターに乗り地下に行く。このエレベーターは27名等易々と乗れるほどのエレベーターである。もはや部屋ごと降りているような感覚だった。

 

 エレベーターの扉が開き、降りると長い廊下の正面に無駄に大きな扉が見える。

 その前には門番が二人居る。相手が少将だろうと流石にこの人数を見ると、睨みつけて来る。

 

 ルーカスは部隊に待機指示を出し、ルーカスとアイリーンだけがゆっくりと近づいて行く。

 

 目の前に行くと門番達は警戒感を隠さずに話しかけて来る。

 

「……ルーカス少将ですね。説明していただきたい」

「ネズミが来るらしい。我らは役員達の警護に」

 

 ルーカスはそう言い、ドアノブに手をかける……がルーカスは直ぐに手を引っ込めた。扉には電気が走っていたのだ。

 

「……魔法を解除しろ」

「出来ません。その装備ではお通し出来ません。武装解除して下さい」

 

 ルーカスはゆっくりと頭を門番に向ける。そして睨みつける。

 

「……どうやら、警護では無いようですね」

 

 その言葉と同時にアイリーンと門番は飛び出す。

 

 そして剣による火花を散らす。

 

「ルーカス少将お下がり下さい!! 此処は私が斬り開きます!!」

 

 アイリーンは剣戟からルーカスを守る。

 

 近距離では魔法より剣の方が早い。もちろん強化魔法はどちらも使っている。

 もはやルーカスには大量の線にしか見えない。剣同士の弾きあう音も連続して聞こえる。

 

 ルーカスは下がり、指示を出す。

 

「左右の廊下から5班以外2班ずつ分かれて、先回りして退路を塞げ!」

 

 部下は指示通り、小走りで分かれて行く。

 残ったのは5班の5人とルーカスの護衛の4人である。

 

 

 アイリーンは二人と戦っていたが苦戦している。

 ルーカスは護衛を援護に行かせる。

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍本部地下 アイリーンサイド-

 

 無数に繰り出される剣戟を丁寧に裁いて行く。その間にルーカス少将は逃がせた。

 

 だが、防戦するだけで精一杯である。流石に門番達ーーBランクーーである。

 ちなみにアイリーンもBランクであったが剣術には自信が有った。

 

 だから二人から剣戟を受けても耐えれるのである。

 だが時には隙が生まれる。

 

 鋭い突きを剣でいなすが、もう1人が姿勢を低くし、踏み込んで切りかかって来るーー

 

 ーー下段の突きーー

 

 ーーとっさに身体を捻ってかわそうとするが、相手の方が早いーー

 

 ーーが相手は突きを引っ込め、アイリーンから距離を取る。

 

 なぜ? と思った瞬間、火球が横を通り過ぎる。

 

 通り過ぎた火球は壁に当たり四散する。

 

 後ろを見ると、ルーカスの護衛達が援護してくれるみたいだ。これならやれる。

 

 アイリーンは剣を強く握りしめると駆け出す。

 

 相手は援護させない為にウォールシールドが1人、剣が1人で戦うつもりだ。

 

 ウォールシールドは剣を使う魔法師にとっては壁では無い。魔力を中和させ通り抜ける。

 そして剣を持ってる門番に切りかかる。

 

 二人は数十合剣戟するが、とうとう決着が着く。

 アイリーンが相手の攻撃が緩んだ隙に一撃を叩き込む。

 門番は即死する。

 

 もう1人は勝てないと踏んで逃げ出すがアイリーンに追いつかれ、背中から一撃を貰い死に至る。

 

 アイリーンは剣を納め、ルーカスの元に向かう。

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍本部地下 ルーカスサイド-

 

 アイリーンが一進一退の攻防をしているのをハラハラしながら見ていた。確かに早いが攻防ぐらいは分かる。

 

 そして決着が付きアイリーンが戻って来る。

 

「アイリーン大丈夫か!?」

 

 少し慌てているルーカスにアイリーンは微笑みを向ける。

 

「フフフ……ルーカス少将、大丈夫ですよ。怪我は有りません」

「そうか……」

 

 自分を心配してくれるルーカスが少し可愛く見え、微笑みがこぼれてしまう。

 安心したルーカスをアイリーンは急かす。

 

「ルーカス少将、先を急ぎましょう」

「ああ」

 

 アイリーンが扉を蹴る。バンッという扉が開いた音と共に護衛が突入する。

 アイリーンと共にルーカスも続いて突入するが、中はもぬけの空であった。

 

「やはり、もう脱出した後か……となると向かうのは隠し滑走路だな」

 

 ルーカスを先頭に隠し滑走路に向かう。

 

 そこには部隊を配置したから食い止めてると良いが……

 隠し滑走路へ行くには一般の通路を通る。そこに部隊を配置している。

 

 だがルーカスが着いた頃には、通路は部下の遺体で埋まっていた。

 

「……やはり無理だったか。すまない……」

 

 ルーカスは自分の作戦ミスを今は亡き部下に謝罪した。

 だが時間稼ぎになったのだろう。そう信じルーカスは前に進む。

 

 そしてルーカス達は隠し滑走路に到着する。

 アイリーンが扉を蹴破る。

 

 開いた扉の先には飛行機が飛び立とうとしていた。

 飛行機は轟音を鳴らしながら徐々にスピードを上げ、滑走路から離陸しようしていた。

 

 ルーカスは手に持っていたハンドガンで飛行機を撃つ。

 しかし、飛行機にはウォールシールドが張られていた。

 

「クソっ!! 後少しなのに……アイリーン頼む!!」

「お任せを!!」

 

 アイリーンは剣を抜き力を貯め、一撃を放つ。

 

「一刀一閃!!」

 

 そう叫び放たれた一撃は三日月の形を保ちながら飛行機に向かって行く。

 そしてウォールシールドとぶつかる。

 魔力はせめぎ合い、決着が付く。

 

 アイリーンの技はウォールシールドにかき消された。

 

「そんな!? あのウォールシールドは……中に凄腕がいるのね」

 

 アイリーンは自分の不甲斐なさに悔しさを噛み締めた。

 それを見たルーカスも悔しさの余り、壁を強く殴る。

 

 飛行機は二人をあざ笑うかのようにゆっくり地上から離れるーーつもりだった。

 

 突然飛行機が爆発し、破片が、炎が四散する。

 燃料も巻き込んでの爆発は余りにも大きい。

 

 その強い爆風はルーカス達にも届いて手で顔を覆う。

 

「く……な、何が起きたんだ……事故か? それとも……」

 

 ルーカスの脳裏には内部の裏切りが浮かんだ。

 

 だが一方アイリーンは気づいていた。

 

 爆発する直前に大きな魔力の波動を感じた……魔力を火薬とした爆弾?

 

 と考えるアイリーンだが結果は予想の斜め上を行く結果だった。

 

 

 

 しばらくすると爆風に寄る粉塵が収まって視界が開けて来る。

 その中にゆらり人影が見えて来るーー

 

 ーールーカス達は生き残りが居たのかと構える。

 

 しかし、聞こえて来たのは敵意の無い朗らかな声だった。

 

「おう、久しぶりだな。ルーカス」

 

 粉塵から出て来たのは短い金茶髪を左右に分け、額を出した、優男というより男もカッコイイと思う男が居た。

 

 ルーカスはその男を見て次第に驚愕で目を開いて行く。

 

「お、お前……ライル、ライルなのか!?」

 

 ルーカスはライルに向かって走り出す。

 しかし、その間にアイリーンが割って入る。

 

「ルーカス少将、お知り合いかもしれませんがこの男は私が突破出来なかったウォールシールドを、一撃で突破する力の持ち主です。それにまだ目的も分かりません」

 

 それを聞いたルーカスは冷静に考える。

 

「確かに。ライルが何故ここに居るのか分からんし、もし敵だったらマズいがーー」

 

 ルーカスは話を途中で止め、ライルの方へ歩きライルと握手する。

 

「ーーライルが敵ならば、俺は誰も信じられない」

 

 そう言ったルーカスはライルと嬉しそうにハグする。

 

 それを見たアイリーンはライルという男への興味が湧くと同時に自分よりライルの方が信頼されている事への寂しさを感じていた。

 


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