混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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2-4 未来の為に……

 

 -地球連合軍南米基地 ルーカスサイド-

 

 ルーカスは机に向かって足を投げ出し、ふんぞり返って座っていた。そんな情けない様子はもはや座っていると言えるのだろうか。

 

 そんなぐうたらなルーカスの右手には報告書を持っている。先の戦いの報告書である。先の戦いは辛くも勝利したが戦況は未だ好転しない。

 

 先の戦い以降、地球連合軍と火星独立軍の戦いは膠着すると思われたが、火星独立軍にはまだ戦力があったらしくこちらに攻め寄せて来ている。

 

 そしてこちらが策や戦術を駆使して勝利を収めたがそう何度も上手く行かない。対策を練って来るし、更なる大軍を率いて来た。

 

 それに俺の戦力はもう……そして頼りにすべき戦力はーーどいつもこいつも動かない。約束では俺が抑えている間に準備を整えるはずなのだが。

 

 ルーカスは悔しさに歯を強く噛み締めた。だがどこかで役員達が動かない事を予想していた自分も居た事に気付く。そんな自分に苦笑いして、頭を切り替える。

 

 ルーカスは対策を練る……だがどうやってもこのままでは敗北は目に見えていた。今のままでは勝ち目は全く無い。

 

 だがふと戦力を全て結集すればーー

 

 という考えに至る。

 全ての戦力ーールーカス自身だけでは無く、地球連合軍全てである。もちろん、そんな簡単にはいかない。役員達が断るのは目に見えているのだ。

 

 だからルーカスは強硬手段に出るしか無い。いや、ルーカスは自分の意思で強硬手段を選択した。

 

 

 

 

 

 

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 ルーカスが決意した時から少し後の事である。

 地球連合軍はもはや宇宙での抵抗力を失っていた。いや、正確には戦う気のある戦力だろうか。

 

 唯一の戦力であるルーカスの部隊は先の戦いで半壊し、もはや先の戦いの半分程度であった。そして火星独立軍は先の戦力より増大しもはやルーカスだけの部隊では対抗出来なかった。もちろんルーカス以外にも地球を守ろうとする者も居るがどれも小規模であり、集めてもルーカスの艦隊には匹敵しない。

 

 やはり、役員達の艦隊ーー全体の7割近くの戦力が動かなければ勝ち目は無い。

 だからこそ新たな戦力を手に入れる為に下準備が必要なのであった。

 

 そしてその準備出来るまで戦力を温存しようと考えたのである。ルーカスは残存艦隊を月に待機させたのであった。

 

 

 

 

 

 

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 -地球直上 ユーリサイド-

 

「地球……俺達の故郷だ。そして憎き奴らが居る場所……」

 

 誰もが窓から地球を見下ろしていた。それぞれ様々な思いを胸に含めながら見ていた。

 ユーリもその中の一人だ。まるで素晴らしい作品の様な地球。青い海、時たま見える白い雲と陸地はいつまでも見ても飽きさせないほど神々しい。だが今はそれを晴れた気持ちでは見れない。

 

 地球直上には火星独立軍の戦艦や護衛艦、輸送船が多数存在していた。だがどこにも本来存在すべき地球連合軍がいない。

 

 ーーどこに行ったのか?

 

 というと宇宙の役員達の残存艦隊は月で待機していた。正面から戦うのは勝てないから挟み撃ちにするという名目で月に逃げたのである。 

 

 それを見た火星独立軍は意気揚々と地球直上に布陣していた。

 

「地球連合軍は腰抜けばかりだ。あの一戦……あの一戦だけ死を覚悟した。でも今はもう……」

 

 ユーリ達はあの一戦の後、地球連合軍の指揮官を調べた。そしてあの一戦を指揮したのはルーカスと判明した。

 ユーリ達はルーカスを警戒したが、あの一戦以降戦場には出て来ていない。ルーカスの動向を調べると左遷されたみたいである。地球連合軍の腐敗を切実に感じた。

 

「あれだけ優秀な指揮官を前線から外すとは……何を考えているのだ地球連合軍は」

 

 ユーリにはさっぱり地球連合軍の上層部の意向が分からなかった。

 だが、ある意味ユーリ達にとって好機である。

 ルーカスが居なければ、地球に侵攻出来るかもしれないとユーリは判断する。

 

「良し、全軍、地球解放作戦を開始する!!」

 

 ユーリの指揮の元、火星独立軍は動き出す。

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍南米基地 ルーカスサイド-

 

 火星独立軍が作戦を開始する秒読み段階の中、ルーカスは根回しをしていた。

 

「ふう……アイリーン、次は?」

 

 ルーカスは一息つきながら、アイリーンに尋ねる。

 アイリーンは手元をチラッと確認して、問いに答える。

 

「次はヨーロッパ方面軍最高指揮官、ユルゲン少将です」

「ほう、ユルゲン少将か。これは確実に仲間にしなくてはな」

 

 ルーカスはモニターでテレビ電話を掛ける。

 二回ぐらい呼び出し音が聞こえると向こうの秘書らしき人が電話に出る。

 

「はい、こちらはユルゲン少将の電話でございます」

「私はルーカス少将だ。ユルゲン少将に繋いで貰いたい」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 

 そう秘書が返すと、一旦画面が落ちる。

 1分ぐらい待つと画面が明るくなる。そこにはダークブラウンの髪をオールバックにし、少し汚れた顔をした、いかにも親しみそうな逞しい男が居た。

 

「おう、初めましてだな。こんな恰好で済まない、英雄様?」

「初めまして、ですね。さっきまで何を? ……後英雄は恥ずかしいのでやめて貰いたい」

「おっと済まなかったな。さっきまでは機械弄ってた」

 

 ユルゲンは手に付いた油汚れを首に巻いたタオルで拭き取る。少将になっても自ら機械を弄るのは彼だけだ。

 

 汚れを拭き取るとこちらを向き、ニヤリとする。

 

「ん? 何だ用件があるんだろ?」

「ええ。……単刀直入に言います。私と共に地球を守りませんか?」

 

 ルーカスの問いにユルゲンは顔をしかめる。

 

「おいおい、単刀直入に言うんじゃないのか? これじゃあ色んな意味に取れるぞ。お前が警戒してるのは分かるが……それじゃ伝わらんぞ? ……要するに連合軍を裏切れと言いたいんだろ?」

 

 ユルゲンの真意を突く言葉にルーカスは驚いた。

 

 まさか……見抜かれるとはな。流石、方面軍最高司令官の中で1、2を争うユルゲン少将だな……

 

 ルーカスは驚いた顔を戻し、頭を下げる。

 

「申し訳ない。ユルゲン少将を試させて頂いた。まさかお気づきだったか?」

「ふっ、左遷されたお前があちらこちらでネズミのように走り回っていると聞いている。それに1対1だ。ーーって事はヘッドハンティングしかない」

 

 全ての行動が筒抜けらしい。

 ルーカスの頬を冷や汗が垂れる。

 

「ユルゲン少将は耳が宜しいようで……ではお返事を頂けるだろうか?」

 

 もはや懇願だ。もしユルゲンがノーと言えばここまでばれているルーカスの計画は台無しだ。

 

 だがユルゲンの口調は変わらない。

 

「言うまでも無い。今の上層部に忠誠心は無い。もちろん協力しよう」

「ありがとう。助かる」

 

 ルーカスは再度頭を下げる。心の中で安堵していた。

 

 それを見たユルゲンはポリポリと頭を掻く。

 

「なあ、頭とか下げるの止めてくれ。俺達は仲間だ。仲間を助けるのは当たり前だ」

「ーーっ!? ……そうだな、ありがとう。……もうすぐ火星独立軍がやって来る。だから迎撃準備をして貰いたい」

「もう出来てるよ。どこにでも来いって事よ」

「頼もしい。ならば安心して他に取りかかれる」

「おう、他の奴にも手を回しておこう」

 

 ユルゲンは胸をドンっと叩き、ドヤ顔をする。

 ルーカスは安心して通信を切る。

 

 安心して背もたれに寄りかかっているルーカスにアイリーンがコーヒーを持ってくる。

 

「お疲れ様でした。やりましたね」

「ありがとう。何とかやれたよ……それにしてもユルゲン少将は噂以上の男だった」

「ふふ、ルーカス少将タジタジでしたね」

「……まあ、結果オーライだ」

 

 アイリーンはクスクス笑い出す。

 ルーカスは照れた顔を隠すように次の人物に連絡を取る。

 

「こちらはルーカス少将だ。ファビアン中将に繋いで貰いたい」

 

 そしてしばらくすると繋がる。

 モニターには少し髭を生やした白髪の老人が居た。

 だが眼光は鋭く、少しドキッとしたルーカスであった。

 

「お初にお目にかかります。ルーカス少将と申します」

「ふむ、お主が若き英雄か。なかなかいい目をしている」

 

 そう言うファビアンの眼光は鋭い。

 

「ありがとうございます。まだまだ若輩者で……」

「謙遜するか……それにお主、仮面を被っているな。わしには意味ない。正直に申せ」

 

 ファビアンに見透かされ、ルーカスは笑顔の仮面を取る。

 

「……流石ですね。砂漠の死の案内人と呼ばれる事だけは有りますね」

 

 するといきなりファビアンは笑い出した。

 

「ワッハッハ……ワシはお主の二倍は生きておる。まだまだお主は小僧じゃ。だがお主はいい目をしておる」

「そう……ですか?」

「どす黒く汚れた役員共とは天地の差じゃ。お主なら何かやりそうじゃな」

 

 ルーカスはふと用件を思い出した。

 

「ところで、ファビアン中将にお願いが有るのですが」

「ふむ。協力するぞ」

 

 即答するファビアンにルーカスはまさかと思う。

 

「え? まさかお気づきで?」

「あのバカ者から連絡来たわい。別にあやつの推薦で決めた訳では無いが」

「あやつ?」

 

 あやつと聞いて誰だろうと考えるが思いつかない……

 

 ふとユルゲンの言葉を思い出す。

 

「……まさかユルゲン少将ですか?」

「そうじゃ。バカ者じゃ」

 

 ユルゲン少将をバカ者扱いするファビアンに苦笑いするルーカスであった。

 

 

 

 

 

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 地球の軍隊は7つの方面軍で構成されている。一番上に役員達。その下に方面軍がある。アメリカ方面軍は役員達の直属部隊である。

 

 交渉の結果、アメリカ方面軍以外の方面軍最高指揮官全員に協力を得られた。役員達への不満も有るが一番はユルゲン少将の根回しが効いたのであろう。

 

 そして、ファビアン中将がこちらに付いたのが決め手となる。

 ファビアン中将は昔から軍に所属しており、人脈は数知れず。多くの元部下が要職に就いているのであった。流石に最高指揮官には部下は居なかったがどの最高指揮官の部下にも元部下は居るぐらいではあった。

 

 ルーカスはこの結果に満足した。ルーカスがもしクーデターを起こしても他の軍が従わなかったらただの反乱軍として鎮圧されてしまうだろう。

 

 そしてもうそこまで決行の日は近付いていた。

 だがルーカスの予想を裏切る事が起きてしまった。

 

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍基地 北京郊外-

 

 北京ーーかつて……いや今も多数の人口を保有し、大都市となっているーーの近くに地球連合軍基地は存在していた。だがもちろん、近くと言っても100km近く離れているが。

 そこに大部隊が待機していた。

 

 ふむ……これならば火星の奴らを一網打尽にしてやれる……

 

 と黒髪をギッチリと七三分けした男ーーアジア方面軍最高指揮官、朱威ーーが自慢の部隊を見ながら満足していた。

 

 これはフラグに見えるがそうでも無い。まず朱威はHAWを細かく分析していた。

 HAWは宇宙では機動力が良いみたいだが地上では同様には動けない。なぜならば地上には重力が有るからである。

 

 宇宙では重力が無いので進みたい分燃料を使えば良いが、地上では上に飛び続けるのに燃料を使い、横に動くのにずっと使う。

 このように地上では燃費が悪い。

 

 なので宇宙のように機動力を生かす事も出来ないだろうと朱威は予想していた。

 

 更に戦力の事もあった。宇宙では戦闘機と艦隊と戦ったが、地上では戦車、要塞、罠、戦闘機ーー空から一方的に攻撃出来るーーなどある。

 

 もはや地上と宇宙では勝手が違う。もはや今から始まる物扱いである。

 

 ククク……それに地上軍は宇宙とは違い、数も、質も違うぞ。

 

 と朱威は思っているが正にその通りだった。

 

 宇宙は役員の艦隊が7割も占めるが地上では1割しか無い。もはや7倍の数と多くの優秀な指揮官が火星独立軍を迎え撃つのであった。

 

 

 今ここに地上での戦いの火蓋は落とされるのであった。

 


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