混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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今日は3話投稿する予定です……3話目は今日出来るかどうかですが


16-4 優しい願い

 

 さっきまで可愛らしい笑顔や困惑した顔でしていたラフィは今では嘘のように暗殺者のように冷たく鋭い殺気を俺に放っていて、そして繰り出す攻撃は完全に俺の急所を狙ってきている。

 

 練習から分かっている事だがラフィはずば抜けて強い。だが彼女が本気を出した所は見たことが無く、心優しき彼女は虫すら殺せない。いつも相手を気遣って手加減している、そう3年間一緒に暮らして気付いた。

 

 だが今、そんなラフィは消え去り、目の前には冷酷な暗殺者しか居ない。

 瞬時に迫るラフィの攻撃を何とか受け止め、鍔迫(つばぜ)り合いになったときに俺はラフィに語りかける。

 

「辞めてくれ!! 俺はラフィに刃を向けられない。俺とラフィ、そして残った者達で力を合わせれば逃げられるかもしれない!! お願いだ!! 聞いてくれ!!」

 

 するとラフィの氷のように固まった表情が一瞬だが、動揺を見せた。ここだ、畳みかけてラフィを正気に戻す!!

 

 だがその時、背中からリカディの苛ついた声が聞こえる。

 

「オイオイッ、ラフィ、何その雑魚に時間掛けてんだ? さっさとしないと俺が殺すぞ?」

 

 リカディの声にラフィの緩んだ表情が引き締まる。またその冷たい表情にーー

 

 鍔迫り合いは両手が塞がる程度で自由が利く足で蹴りを放ってきたラフィ。片足に力を込めて放った蹴りは俺の脇腹に直撃する。咄嗟に腹に力を込めて防ぐがその威力は細身と思えない程の威力で息が出来なくなる。

 

「ぐはっ……」

 

 脇腹から鈍い痛みが広がる。どうやら骨は折れてないがその痛みは俺の体勢を崩すには十分だった。

 

 頭では体勢を崩してはいけないと必死に警鐘を鳴らすが、体は痛みに支配される。体は勝手に両膝を地面につけ、息を整えようとしているとリカディの喜ぶ声が聞こえる。

 

「おおっ、決まったな!! トドメをさせ!! ラフィ!!」

 

 力を振り絞ってラフィの顔を見る。その表情は変わらず冷たい表情だった。俺への殺意を隠そうともせず、静かな殺意が突き刺さる。

 

 そして動き出した彼女に俺は全てを諦めてナイフを構える。

 ラフィ、お前とは戦いたくなかった。だが俺はここに死ぬわけにはいかない……俺はここを抜け出すんだ。両親を殺したコイツらに復讐せずに死ねない!!

 

「……ラフィぃぃぃぃぃ!!」

 

 俺の心から漏れた彼女を呼ぶ言葉は彼女への怒りだろうか、それとも懺悔だろうか、はたまた愛する人の名前を呼んだだけなのだろうか。それは俺にも分からず気付いたら叫んでいた。

 

 お互いに殺意を持って交差する凶器。容易く命を刈り取る鋭利な刃先は肉を突き破る感覚と共に赤い液体をまき散らす。

 

 頬からの微かな痛みよりも右手の感覚が俺の全てを支配していて、右手に持つナイフは深々と彼女の腹に突き刺さっていた。

 そして生暖かい赤い液体がナイフと傷口の隙間から零れ出し、赤く染まった右手が俺は人を刺したんだと実感させる。

 

 俺はなんてことをしたんだという罪悪感で胸が締め付けられる。そして急に吐き気がして胃の内容物が溢れ出る。

 吐いて少し落ち着いた俺はラフィの事が頭を過ぎり、顔を上げて見るとナイフが腹に刺さった彼女は膝から崩れ落ちて倒れる。

 

「ラフィーー!!」

 

 俺にはもう怒りや恐怖は無く、そこに居るのは弱ったラフィだった。

 

 抱き起こすと先ほどまでの冷たい表情は消え、いつもの優しいラフィが居た。

 俺が無事なのを見ると嬉しそうに微笑む。その微笑みに俺は1つの可能性にたどり着く。まさかラフィを俺を殺す気が無かった?

 

 すると彼女が弱々しい声で喋り始めた。

 

「……グレンお兄ちゃん、……無事で良かった……」

 

 初めて聞くラフィの声は彼女らしい可愛い声で今まで全く声を聞いたことが無かった。俺は彼女が喋れないものだと思っていたがそれは違った。彼女は何かしらの理由で声を出さないようにしていたのだろう。生まれつき喋れなかったにしては流暢過ぎる。

 

「教えてくれ。ラフィは俺を殺す気が無かったのだろう?」

 

 すると彼女は嬉しそうに微笑む。

 

「……流石……だね。危険な賭け……だったけど、ゴホッゴホッ……ちゃんと私を刺してくれた……」

 

 血を吐きながら俺を褒めてくれるラフィに俺は険しい顔で横に首を振る。

 

「俺は、ラフィを刺してから気付いた。そうまんまとラフィの掌で踊らされていたんだ。俺は知力も戦闘力もラフィには敵わない。だから俺よりもラフィが生き残った方が良いのになんでっ……」

 

 俺が話している間にも彼女の口からは血が吐き出され、腹からは止めどなく血が流れている。そして彼女の瞳も虚ろになってきていた。

 

「それはね……私が暗殺者としてしか……生きる道が無いから……」

 

 彼女はゆっくりと身の上話を語り始めた。

 

 

 

 

 

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 私は物心ついた時にはもうここに居た。周りに居るのは男の大人ばかり。特に何かを勉強する訳でもなくここの中で自由に遊んでいた。

 

 そしてある時からちょっと上ぐらいの子達と一緒に勉強するようになったの。それはもちろん今と同じ内容。でもその時の私は読み書きも難しい思考も出来なかった。他の子は学校行ってたらしく、みるみると上達して卒業していった。

 

 本来なら3年で卒業がほとんどなんだけど、私は歳も実力も足りなかった。

 

 更に5年も経った頃、グレンお兄ちゃんがやって来て、最初ね、ここのルールが分からなくて困惑するグレンお兄ちゃんは怒られていた。私は可哀想だと思って助けた。

 他の子も助けた事あるんだけど、私と話が合わない事が分かると急に態度が冷たくなるの。だから私は喋らなくなった。でもね、グレンお兄ちゃんは私が喋らなくても仲良くしてくれた。私は凄く嬉しいかったよ。

 

 そしてグレンお兄ちゃんよりも私は5年も長く勉強してるから出来るの。でもやっぱり3年で卒業するグレンお兄ちゃんは凄いや。

 

 ここでは凄いかもしれないけど、私はここ以外知らない。分からない。

 だからね、私よりもグレンお兄ちゃんが生き残った方が良いの……

 

 

 

 

 

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 そう話しきった彼女は貯めていたのか今までで1番多くの血を吐き出す。それは彼女の死期を早めてる気がして嫌だった。

 

 鮮血が俺の顔にかかり、それは俺の涙のように流れていく。

 

「……何言ってんだ。2人で外に出よう。美味しい店知ってるんだぜ。スイーツでもパンでも食べ放題なんだよ……だから目を開けてくれよ……」

 

 もうラフィは目を閉じて微かに笑うだけで、俺の問いかけに返してくれなかった。彼女の手も握り返してこず、彼女は俺の腕の中で最後まで笑いながら逝った。

 

 もう目を覚まさない事は分かっている。だが体は暖かく、彼女はただ寝ているだけにしかみえない。

 

 そんな彼女に吐き捨てるかのように苛立ちをぶつけるリカディ。

 

「俺らが手塩にかけて育ててやったのにまさかガキに恋だの愛だののくだらねぇ感情で負けやがって。幾らお前に賭けたと思ってんだ!!」

 

 そう言いながら近寄ってきて、ラフィの顔を蹴り飛ばすーーコフィの口からの血が俺にかかる。

 

 その瞬間、頭の中が真っ白になった。

 

「ーー死んだ奴すらこの扱いか!! 俺達を何だと思ってんだ!!」

 

 溜まっていた怒りが爆発する。彼女ーー死者への冒涜(ぼうとく)に我慢出来なかった。

 

 するとリカディはこめかみに青筋を立てながら俺の胸倉を掴む。

 

「てめぇ、死にたいのか?」

 

 この3年間にされた恐怖が蘇り、体が震えるが気力だけで睨み返す。それが功を奏したのか、リカディは舌打ちをして胸倉を離す。

 

「……生意気なガキだが、今年はこれ以上卒業生を殺せねぇ。まあ良い、お前に会うことはもう無いのだからな」

 

 リカディはもう俺と関わらないつもりらしいが俺は溢れ出る感情が止まらなかった。だがラフィに言われた言葉を思い出すーー

 

 ーー生き残って……

 

 死を前にして残した最後の言葉は世界を呪う言葉でもリカディへの怒りでも自分の夢でもなく、俺の幸せを願う物だった。

 

 そう、命を懸けて言われた優しい願いは俺が壊れないように守ってくれたんだ。

 


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