混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
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9/10改稿
-旗艦 ルーカスサイド-
最初ルーカスの言葉を聞いた者は耳を疑った。ルーカスの言葉が信じられない内容だったからだ。
戦闘機ーー航空戦力がこの世に出現して以来、艦隊決戦を行うのは昔話の中だけと言われている。航空戦力を持たなければ、一方的にやられ、艦隊決戦が始まる前にボロボロになるのである。それに相手が素直に艦隊決戦を行う訳では無い。逃げ回り、弱るのを待つのである。
だからルーカスの作戦は誰もが耳を疑うのであった。
「ルーカス少将。艦隊決戦はもはや昔の話です。今では艦隊決戦はあり得ません」
副官はルーカスにさも当たり前のように話す。
だがルーカスは凝り固まっている考えに呆れるように微笑する。
「ふう……もう少し頭を柔らかくした方が良いぞ」
ルーカスのトゲのある言葉に副官は少しムッとする。
「艦隊決戦は確かに普通に考えれば無理だが、無理な理由は知っているか?」
ルーカスは副官に教師のように問う。
これに対して副官は反撃するかのように喋り出す。
「それは近代戦では艦隊が近づく事は無く、戦闘機によって戦闘が決着するからです。戦闘機が勝てば勝利し、戦闘機が負ければ敗北です。また、艦隊で追いかけても相手の艦隊に追いつけないからです」
副官は自信満々に答える。
だがルーカスはダメ出しする。
「何で追いつけないと思うんだ?」
「こちらと相手に通常ならば速度の差はほとんど有りません。なので距離を詰めるには余りにも時間が掛かるかと」
「確かにな。相手が速度は出せる状況ならば、追いつけないだろう。だが今から我々の相手は回避行動を取るだろう?」
「ーーっ!? そうか! 回避行動ならば艦隊はほとんど動かない。ならば距離を詰められるかもしれません!」
副官は納得したのかしきりに頷き、どんどんテンションが上がって行く。
そんな副官を優しい笑顔で眺め、ルーカスは再度指示を出す。
「全艦最大戦速!! 奴らに砲弾をぶち込むぞ!!」
今度は全員が納得してすぐに取り掛かる。ルーカス艦隊は速度を上げ、真っ直ぐ向かって行く……
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-戦艦内 ユーリサイド-
指示を出した通りHAWはこちらに護衛の為戻って来るが、それよりも早く敵戦闘機はやってくる。
艦隊だけで耐えなければならない。しかし地球連合軍と違い、火星側の艦隊は戦闘向けには作られておらず、ミサイルはおろか近接火器も余りなかったのである。敵を迎撃というよりも、ミサイルを迎撃ぐらいしか出来ないだろう。
船内では予備のHAWを出そうとしていた。
「急げ! 敵はもうすぐ来るぞ!! 装甲はいい! マシンガンだけ持たせろ!」
整備している班長らしき人が班員を急かす。
「良し、準備が出来た奴から出撃だ」
一機ずつバラバラとハッチから出て行く。
不安定なHAWもどきはロープで船の上に固定される。装甲が無い分、重心が安定しないのだ。
そんなこんなしている間に戦闘機がやって来る。
艦隊の近接火器は火を吹き始める。HAWもどきもマシンガンを懸命に打ち続ける。その甲斐があってか、戦闘機が何機か落ちる。
だが、まだ沢山いるのだ。
「2時から4機、8時から2機来ます!」
部下の報告にサイオンは冷静に指示を出す。
「2時にHAWを向けさせろ。一機も通すな!」
命令を受けたHAWは2時に向き、マシンガンを撃つ。
戦闘機にマシンガンが当たり、火を噴くがミサイルを撃って来る。ファランクスは自動でミサイルを追尾し、砲身を回頭させながら迎撃する。
ミサイルはファランクスによって迎撃され、HAWとファランクスは次なる目標に銃口を向ける。
だがその時にはすでに他の戦闘機からはミサイルが沢山撃たれていた。ファランクスとHAWは必死に迎撃するが、如何せん数が多い。
ミサイルは弾幕をかいくぐりド真ん中に命中する。大きな音と共に火を噴く。
「ミサイル、中心部に被弾。火災発生。被弾ブロックを封鎖します。迎撃システム、及び航行には問題無し」
「そうか、命中したが重要な場所ではなかったか」
サイオンとユーリはホッとするが、危機はまだ過ぎてなかった。
部下が悲鳴を上げる。
「護衛艦メルバ、ラクトン、オルタ、被弾!! 戦闘不能!! 他の艦も被弾し、戦闘能力低下しています」
次々と被害報告が入って来る。迎撃能力の低い艦隊ではボロクソにやられるのは当たり前である。
サイオンとユーリがモニターで他の艦が火を噴いているのを見る。船からは次々と救命ボートで脱出しているのが見える。
「ああ、そんな……こんな事に成るなんて……」
この状況を見て呆けているユーリにサイオンが叱咤激励する。
「ユーリ!! 被害を見て落ち込むのは戦闘が終わってからにしろ!!」
その言葉にハッとしてユーリは我に返る。
「今はとりあえず、HAWが来るまで耐えるのだ!!」
ユーリは必死に部下を激励する。部下は激励され、奮戦するが現実は非情にも死の宣告を突きつける。
「本艦に近づいて来る敵多数……全部の迎撃は不可能……」
部下は悔しさを噛み締めながら報告してくる。全力を持ってしても全ての迎撃は不可能で命中弾が多数存在するだろう。
ユーリ達は死を覚悟した。
だが死をもたらす衝撃はいつになっても訪れない。
目を恐る恐る開けると目の前には一方的展開が始まっていた。そう、味方ーーHAWが戻って来たのである。
HAWは機体性能を存分に発揮し、戦闘機を次々と落としていった。
だが一方、全く動けないHAWも存在していた。被弾してやっとここまで来れたHAWである。
逆転された戦闘機達は動きを変え、動けないHAWに殺到する。
狙われたHAWのパイロットは急いで脱出する。
「クソッ!! 動けないHAWを狙うなんて卑怯だ!!」
「奴らも必死なのだ。機体は捨てろ!! パイロットの生存を第一に!」
戦闘機達は動けないHAWに攻撃すると思えたが、違った。戦闘機からケーブルが出て、動けないHAWにくっ付く。そして戦闘機達はHAWを次々と牽引し始めていた。
「何!? まさか奴らは……奴らの目的はHAWか!!」
「直ちに、HAWを破壊しろ!」
ユーリとサイオンは戦闘機の意図に気付く。
HAWは破壊しようとするが、戦闘機達が必死に妨害する。
「させるかぁぁぁぁぁーーー!! この作戦は我らの故郷を守るために必要なんだ!! うおぉぉぉぉぉぉーーー!!」
戦闘機達は必死に邪魔するHAWに食らいつ。もはや圧倒的な性能差だが、少しでも時間を稼ぐ為に妨害する。その勢いにHAW達は恐れをなし始めた。
「コイツら、全く引かない!? 何機も落としたのに全く恐れる事無いのか!?」
必死な戦闘機のパイロット達の奮戦に戦線は一時的に持ちこたえる。
そしてその間にHAWを捕獲した戦闘機は離脱する。
それを確認したパイロット達は安堵し、敵に向かって行く。
「作戦は成った。もはや、思い残す事は無い。……地球を頼みます少将閣下」
最後に敬礼し、HAWの集中砲火を受け爆散した。
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-地球連合軍 ルーカスサイド-
作戦は成功し、戦闘は終了した。多大な損害を受けた敵は火星に降りていった。
結果は痛み分けが良いところだろう。地球連合軍は多数の戦闘機を失い、船も何隻か失った。
それに対し、火星独立軍は船が全艦被害を受け何隻か沈没し、HAWもそこそこ被害を受けていた。
数字を見ると地球連合軍の敗北だが、火星独立軍の全戦力はそう多くない。そうなると痛み分けが良いところだろう。
しかし、多くの犠牲を払ってしまった。これからも我々は多くの犠牲を払うだろう。
母なる地球を守るため。大切な人を守るため。各々の立場は違うが地球を守りたい気持ちは変わらない。
そんな思いで散った勇士達にルーカスは心の中で敬礼した。
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ルーカスは艦隊を引き連れ、地球に帰還する。
待っていたのは昇進という名の左遷であった。
この戦いは地球連合軍全軍に伝わっていた。不利な状況の中、敵を打ち破る勝利を収めたルーカスの人気はうなぎ登りだった。
それを恐れた役員達は会議に参加させる訳では無く、一基地司令官として左遷した。それは南米大陸の基地であった。
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-南米大陸地球連合軍基地 ルーカスサイド-
飛行機で到着したルーカスを沢山の兵士が出迎えた。歓声が上がっている。それを見たルーカスは苦笑する。
「やれやれ、ここもお祭り騒ぎか」
とルーカスの呟きに副官が答える。
「それはそうですよ。ルーカス少将は英雄ですからね。私も誇りに思いますよ」
そう言う副官の笑顔に少しドキッとしたルーカスであった。
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「ふう、一段落ついたな」
ルーカスと副官は引っ越し作業をしていたが一段落付き、コーヒーで一服していた。
「お疲れ様です。今日はこのぐらいにしておきましょう。これから歓迎パーティーが有るらしいですよ」
「またか……」
ルーカスはまたパーティーに出る事に飽き飽きしていた。
その一方、副官はワクワクしていた。
「そんなに落ち込まないで下さい。今日のパーティーは気軽な兵士達のパーティーですから」
「……そうだな。そういえばお前も出るんだったな」
「ええ!! 久しぶりのパーティーですからテンションが上がってきました!!」
「まだ早いぞ。……もう上がれ。準備に時間掛かるだろう?」
「ありがとうございます。では失礼します」
副官は顔を緩ませながら敬礼し、部屋を出て行く。
そんな副官を見送りながら、引っ越し作業を再開する。
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-パーティー会場-
外は静まった夜。この時開かれた歓迎パーティーだが、企業やら、有力者が集まっているパーティーであった。
服装は男性はタキシード。女性はドレスだった。しかし、兵士達のパーティーでも有るので無礼講。服装はしっかりしてても内容は宴会の様だった。あちらこちらで歌や一発芸、酔っ払って潰れる者も多々。
またルーカスも絡まれていた。主に女性に。
「ルーカス閣下。先日の戦いの勝利おめでとうございます」
「○○企業の代表取締役の娘の●●です。いつも私達の兵器を使っていただきありがとうございます。良かったらこの後空いてますでしょうか。2人きりで密談と行きたいのですが」
「英雄様ー!! お話を聞かせて頂けませんか?」
ルーカスの周りは様々な女性に囲まれていた。どこかの人妻やら、ビジネスと見せかけての夜のお誘いやら、単純にアイドルに会う気分の人やら、千差万別の様子を呈していた。
だがルーカスは内心、手の平を返したようなこの女性達……いや、有力者にも、呆れていた。
今まではルーカスには女性の付き合いはほとんど無かった。
だが、今はどうだろうか。手柄を立て昇進したとたんこれほどの女性が熱狂的に集まって来たのである。
女性達が熱狂的な一方、ルーカスの心はむしろ冷めていた。この女性達を全く信用していない。だが表には出さず、笑顔で接していた。
しばらくしてルーカスはそろそろ抜けたいなと思って抜けようとしたが、女性達に回り込まれてしまう。内心罵倒を浴びせたいが、相手は有力者の関係者。蔑ろには出来ない。
まだ話すのか……と絶望していた時、一人の女性がルーカスを連れ出す。その女性は他の女性には軍の急務と言って女性達をはがしていく。
外に出て、その女性はーー普段、シュシュでサイドテールにしている金髪をストレートのロングにしている。流れるような金髪は月に照らされ、輝いている。服装は胸元の大きく開いた黒のドレス。長身でモデルのような凛々しい彼女には似合っているーー副官のアイリーンである。
「ルーカス少将、大丈夫ですか?」
「ああ……助かったよ」
この時は本当にアイリーンが天使に見えた。
「本当にずっと美人囲まれてましたもんね。まさにハーレムでしたよね」
「やめて欲しい……それに本当の好意じゃないしな」
「それでも英雄色を好むですし、本当は嬉しかったんじゃないですか?」
「だからーー」
そこまで言いかけて口を噤む。
ルーカスは気づいた。アイリーンが不機嫌な事を。そして今までの言葉で察する。
「そうか。アイリーン、すまなかったな」
「……何がですか?」
「構ってやれなかった事だ」
アイリーンは一瞬驚いた顔をするが、直ぐに不機嫌に戻る。
「別に構って欲しいなんて言っていません」
「確かにな。……ところでその服似合ってるな。わざわざ新調したのか?」
誉められたアイリーンは一瞬喜ぶが、不機嫌に戻す。だがにやけ顔は隠せて無い。
「前に買いましたが着る機会が無かったのでこれが初ですね。……後、お世辞でも嬉しいです」
「別にお世辞では無いが。さっきの女性達より綺麗だと思うぞ?」
「……ありがとうございます」
アイリーンは後ろを向いてしまい、顔を見せない。その後しばらくはこちらに顔を向けなかった。
だが明るい満月だけはアイリーンの喜ぶ顔を見逃さなかった。