混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

139 / 147
人気投票して頂いた方にオリジナルエピソードをお送りしていたので今回は1話のみになります


16-3 卒業試験

 

 ラフィに手を引かれ、食べた朝食はヒドいもので固いパンに味のしない野菜スープぐらいだった。食べたい盛りの俺には足りないが誰もが黙々と食べている。俺も黙って、押し込むように食べ続けた。

 

 そしてその次は座学。やってることはどのように敵地に潜入するかというボードゲームみたいな物だった。求められたのは柔軟な発想と学んだ事を活かしつつ、考えること。学校の勉強とは違い、直ぐに達成感が得られる物だった。

 

 なので結構他の子達も楽しそうにやっている。これは二人一組でやるらしく、俺はラフィと一緒にやっていた。

 

 ラフィがプレイヤーで俺がホストだ。ホストは敷地に駒ーー兵士を配置していく。プレイヤーは兵士達の隙をついて殺したり、暗殺、奪取などの任務をこなす。

 駒の視界などで判定があり、ターン毎に見つかる判定などをサイコロで行う。見つかったらアウトだ。

 

 そんな難しそうなゲームでラフィは俺の配置した駒を次々と倒していく。分からない、色んな行動の意味が。

 

「……どんな風に考えているんだ?」

 

 するとラフィがノートを見せてくれる。そのノートは凄く使い込まれており、学校に通っていた俺のノートより使い古していた。

 

 開くと簡単な言葉で感想のような物が書かれていた。教科書のように手順が書いてあるわけでもなく、分かりにくい……

 俺の苦い表情を見たのかプレイを辞めて、ゆっくり丁寧に教えてくれた。

 

 そして昼食後、眠くなる時間には銃やナイフの練習。危険な物を扱うので眠気なんて吹き飛ぶ。

 

「ここだ。急所を突けばお前らの力でも人は死ぬ。もちろん俺でも死ぬが、やってみるか?」

 

 自分の首を叩きながら俺の方を見て楽しそうにニヤつくリカディ。悔しいが今の実力では敵わない。いつか、俺の実力が付いたら……

 

 俺が無言なのに満足したのか、リカディは話を続ける。

 

「人を殺す時は躊躇うな。躊躇ったら死ぬのはお前らだ。生きたいなら殺せ。失敗したらここには戻って来られない。面が割れたらもう死ぬしかない」

 

 指名手配されたら逃げる事は難しい。それはちょっと前まで普通に暮らしていたから分かっていた。だからマークされない初犯が重要なのだとか。

 

「もし敵を殺したくないと思ったのなら、失うのは自分の命だ」

 

 リカディはいきなりナイフで目の前に居た少年を斬りつける。腕を斬りつけられた少年は声にならない声を上げる。

 

「今のは浅く斬っただけだ。皮膚を切り裂いた程度でこれだ。死ぬような痛みはどれくらい痛いんだろうなぁ?」

 

 下品な笑みを浮かべながら俺達を見回す。リカディの不気味な笑みと仲間の悲鳴が俺達の恐怖を駆り立てる。

 

 そして斬られた少年は芋虫のように地面でうねり、激痛で悶絶している。それを横目で見たリカディはあごで指す。

 

「そのうるさい奴をさっさと連れて行け」

 

 すると何人もが待ってましたとばかりに駆けよって運んでいく。

 その迅速さに手慣れている感が出ている。まさか日常化しているのか、こういう事が……

 

 更に俺の恐怖が加速していく。もはやここでは常識など通用せずリカディこそが神であり、法なのだ。

 

「さぁて、今機嫌が良いから俺を斬りつけられたらここから出してやっても良い」

 

 リカディがナイフを放り投げると地面と当たり、乾いた金属音が鳴り響き、それを機に何人もがナイフを求めて殺到する。

 

 運良く手に入れた少年がナイフを両手で強く握り、大きな叫びと共に駆け出していく。その叫びは恐怖に自分が潰されない為だ。同じ立場の今なら分かる。

 

 全力で迫ってくる少年にリカディは愉快な笑みを浮かべるのを辞めない。

 

 更に大きくなる叫びと共に放たれた渾身の突きはリカディのーー体を掠めもしない。体重移動し過ぎて躱されてよろめく少年にリカディは背後から思いっきり蹴り飛ばす。ナイフを残して吹っ飛んだ少年は地面を転がり、止まった時にはピクリともに動かない。

 慌てて参加しないだろう人達が駆けつけて運んでいく。

 

 その一方、参加する者達はまたナイフに飛び付く。

 

 次は少女が手にして、ナイフを逆手に構える。先ほどまでの力の入る突き重視の構えよりも斬りつけやすい型だ。さっきの少年の構えは一般的な構えでどれも対応している。それに対し少女の型は格闘術と合わせて使う物で、パンチと共にナイフが迫る。浅く斬ることになるがこの場合は正解だとラフィのノートには書いてあった。

 

 両手と格闘術の足回りをしっかり使いながら小刻みに攻めていく少女。リカディは全部を躱していくので少しずつ隙が出来ていく。反撃してこないとなると攻め手が有利だ。そして大きな隙に少女はナイフを持つ手を繰り出していく。

 

 躓いてよろめいたリカディにナイフが迫るーーがそのナイフを人指し指と中指で止めるリカディ。そして歓喜の顔に変わりつつあった少女の顔に拳がめり込む。

 

 顔面を血だらけにして、仰向けに倒れた少女にまた救護班が駆けつける。

 

 その様子を見てた物達はもう戦意を無くしていた。誰も来ないのを見てリカディは大きく溜息を付く。

 

「はぁ……骨のある奴はたった2人か。もうやめだ。後片付けをしとけ」

 

 やる気を失ったかのようにリカディはさっさと去って行く。終了時間にはなってないが、どうやら休みになったらしい。血に濡れたナイフを残して。

 誰かが隠し持つ事も可能だが、リカディには敵わない。それが分かった俺らにナイフを盗む勇気は無かった。

 

 

 

 

 

 誰もがここから完全な脱出を図りながら、結局誰も成功せずこの日から3年が経ち、また何人か逃げたそうとして見つかって殺された。

 

 俺は逃げなかった1人だ。自分の実力では逃げられない、そしてリカディをどうにか殺すことを考えている。ここに居れば居るほど両親の仇や仲間の仇、そして理不尽な暴力、それをリカディに返したかった。

 

 俺は15歳になり、ここを卒業することになり、また一緒に卒業する仲間の中にはラフィも居た。ラフィはまだ15歳に満たないが実力は十分。むしろ今までで最強と言われている。

 

 俺が卒業すると決まり、何故か今回卒業したいとラフィはねだったらしい。ラフィは今まで本気を出してこなかったらしく、その実力の高さに誰もが驚いた。

 

 卒業にあたり、最後に試験が課されるらしい。それは非公開、卒業生にしか知らされない。

 

 当日、迷彩服を着て集合させられる。今回の卒業生は8名。大体1年毎に卒業生が決められる為、今年を逃したら次は来年だ。とりあえずここを出たかった。そして軍に通報して皆を解放する。

 そう決意を決めて、目の前に居るリカディを睨みつけるとリカディは俺を見て面白そうにニヤける。

 

「さてこれからお前らには卒業試験を受けてもらう。合格者は4名以下。例外は認めん。そして今回はチーム戦だ。仲の良い奴と二人組を組め」

 

 仲の良い奴? 俺はラフィを迷い無く選ぶ。他にも仲が良い奴は居たが、ラフィは特別だ。

 隣に居るラフィに視線を向けるとラフィもこちらを見ていて頷く。

 

 二人組が4つできた所でリカディは始める。

 

「決まったか? よし、使う武器はナイフだけだ。お互いに向かい合え」

 

 最初に比べて、嬉しそうに笑うラフィと向かい合う。ラフィも成長し、少し女性らしさが出て来たか。だが栄養不足だからか身長や体重や体つきは細く、小さいままだ。だがその身軽さを使って素早い動きで敵を撹乱が得意だ。

 

 風に煽られ、ラフィの長い髪が揺れる。痛んでいるが絶対手入れをしたら綺麗になる。そしてオシャレをして大きくなったラフィは誰もが振り返る美人になるだろう。だが目の前に居るラフィは栄養不足の華奢な体は鈍く輝くナイフを持っている。環境が違えば彼女は絶対輝いた。これがなんて理不尽だと思わず居られない。

 

「今から卒業試験を発表する。……目の前の奴を殺せ。生き残った方を合格とする」

 

 そう言われた俺は頭が真っ白になって、思わずリカディを振り返るが繰り返すリカディの言葉は変わらなかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。