混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
また書き溜めします
日がまだ落ちない夕方、陽射しは強く俺の額に汗を掻かせる。
独身寮へ続く道は左右が木々に覆われており、青々とした葉が熱い夏を知らせる。
長い戦いでは無く、準備を含めても5日に満たない戦闘だったが凄く忙しい時間だった。自分やグレンの死に直面し、白熊や氷使いの女などの猛者達と戦った濃厚な戦闘で会ったと思う。
だがどの戦いも自分の実力不足を実感せざるを得ない物だった。
だから力が欲しい、と自分の心を再認識する。
部屋に戻り、ベッドに身を投げ出す。フカフカなベッドは今までの疲れを急激に癒やしてくれる。少ししか離れてないのにとても懐かしく感じる。そしてそのまま深い眠りに落ちていていく……
「……ン……イン……ラインってば!!」
突然聞こえた声に驚き、目が覚める。目の前に居たのは呆れ顔でこちらを見ていたティナはランニングするときのようなラフな格好で仁王立ちしていた。
「お疲れなのは分かるけど……来るって連絡してたでしょ? インターホン鳴らしても出て来ないから窓から入ったのよ……」
ふと近くの窓を見ると開いていて、開けっ放しにしていた事を思い出す。
「死んだんかと思った……心配させないでよ……」
大きく溜息をつくティナに済まない、と謝る。
謝罪の言葉を聞いて満足そうに微笑んだティナは手を叩いて動き出す。
「さて、マナンも来ると思うから掃除しなきゃね? ……こんな状態で人を呼ぶのかしら?」
周りを見渡すと何日か前の汚さに今回の荷物と散らかっていた。友人と言えどもこの状態で呼ぶのは流石にヤバい。
何も言わず部屋の片付けを手伝ってくれるティナ。一人でやるより何倍もの速度で綺麗になっていく。
そしてその途中でちょ……というティナの声が聞こえてきた。
どうしたんだ? と聞いても答えない。
気になって手を止めてそっちに行くとティナは固まっていた。
「何だ? 虫でも居たか?」
ティナの視線に合わせると俺のパンツがーー
「うぉぉぉぉ、これは済まない。見苦しい物を見せたな」
急いで下着を懐に入れ、収納スペースに入れておく。それを見守ったティナはスイッチの入ったロボットのように動き出す。
「いや、申し訳ない……でも野郎のパンツなんてそんなに見慣れないか?」
軍隊は野郎共ばかりなのでパンツで走り回る馬鹿も結構居る。もちろんダメなのだが厳罰にされることはほとんど無い。
するとティナは赤面しながら怒り出す。
「み、見慣れてるけど、見たいもんじゃないから!! 見てて恥ずかしくなってくるから!!」
先程までの固まった様子ではなく、慌てだすティナ。忙しい奴だな……
そんな掛け合いをしてるとインターホンが鳴る。モニターを見るとマナンが笑顔で待っていた。
ドアを開けて待っていると手にいっぱいの買い物袋を持ったマナンが入って来る。
「何だ、その量は!?」
思わず出た言葉にマナンは嬉しそうに笑う。
「だって、ライン初の大きな戦場だったでしょ? そこから無事帰還なんて凄いよ!!」
結局の所、俺が撃破したのは部隊で編隊を組んでたときの1、2機。また白熊には完敗。そしてユルゲン閣下の事は伏せられてる為、個人的な戦果は0だ。
苦笑いでありがとう、と返す。するとマナンが詰め寄ってきて俺の目前まで近付いてくる。
「ラインは分かってないけど、日本解放作戦から代表直属部隊に参加、そして第1次カナダ攻防戦に参加して生存は凄いんだよ!?」
小さい体で精一杯手を広げて大きく表現するマナンに俺は思わず笑ってしまう。
真面目な話だよ!? と怒るマナンだが俺は笑わずに居られなかった。マナンの優しさに触れて出てきそうな涙を見せたくなかった。
もうっ、と怒るマナンはキッチンに向かい料理を始め、その代わりティナが呆れ顔でやって来る。
「……アンタも不器用ね」
どうやら俺の真意がバレてるらしく、これはティナには敵わない。
「……その察し力をもっと戦略で活かせ」
精一杯の嫌みで返すと足を蹴られる。怒ったティナだが、目は笑っていた。
ちょうど今日は金曜日で明日は休日でマナンの美味しい手料理を肴に飲みまくった俺達は潰れていた。アーロンは用事があったらしく来られないらしい。
ふと外の風が浴びたくなった俺は寝息を立てている2人の隙間を通って、ドアから外に出る。
今日は晴れていて星がよく見え、無数の星は綺麗に輝いていて、神秘的な美しさを感じる。世界の不思議を知った今では何だがこの星も不思議に感じる。
そんな時、後ろからドアが開く音が聞こえ、横に気配を感じ、そちらに振り向くとティナが同じく空を見上げていた。
「……綺麗ね」
ポツリとそう呟くティナは何処か悲しそうに言う。
ティナは俺のこれから起きることに気付いてるのかもしれない、ふとそう思った。
「……ああ」
だが俺はその話題に触れられない。ここでそんな話をしたらこれが最後になる気がして。死ぬつもりはサラサラ無いが、嫌だった。
それから結構経った時にティナから話し掛けてくる。
「……ねぇ、これから何処行くか知らないけど、1つだけ言わせて」
その声は真剣味を帯びていて、俺の心は再び揺れた。俺はティナの顔を見れずに次の言葉を待つ。
ティナははっきりと強い声で俺に言った。
「……必ず生きて帰ってきて。地を這いつくばっても良いから」
前にも心配してくれたことが有ったが、それとは違って何か違和感を感じたが、俺の口からは軽口が出た。
「俺はミミズじゃないぞ」
そう言ってティナの顔を見るとティナは辛そうな笑顔を浮かべた。
それから会話は無く、ティナは部屋に戻って行った。横目でティナの顔を見たら、複雑そうな表情だった。
最悪の気分だが、ここで心の内を吐露したら何だが会うのが最後な気がして行けなくなる。
また帰ってきて謝ろう。目標が有れば生きて帰ってこれる気がした。