混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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一区切りが付いたので、ひとまずお休み致します。

更新の仕方を変えまして、話の流れ毎のまとめて更新にしようかと思います。

次の更新はまとめて更新致しますのでお楽しみに。次回更新は何時になるかは分かりませんが


14-19 怪しい笑み

 -地球連合軍 ユルゲンサイド-

 

 緻密な作戦と巧妙な工作によって仕組まれた本丸への攻撃には俺も命を諦めかける。

 だがエルス国の若者2人によって、敵は撃退され、そして片方のグレン、彼の実力は魔法師ではない俺ですら異常に見え、魔法師である護衛達のあれほど驚いた表情は初めてで、そして恐怖すら混じっていた。

 

 彼は一体何者なのかーーそんな疑問と共に頭の中の魔法師の要注意人物を網羅しつつ、手は端末でグレンについて調べる。だが出て来るのはエルス国の魔法師である事しか公開されてなかった。

 もちろん同盟国とはいえ、戦力の全てを明かさないのは常識とはいえ、あれほどの実力を持つ者は噂で聞こえてくるはずだった。

 

 また情報部からは卒業試験の際に飛行魔法を見せるなど、相当な実力の魔法師とは書かれていたが、要注意人物とは書かれてはいない。あれは間違いなくAランク以上の戦術級魔法師ーー要注意人物であると断言出来る。地球連合軍で対抗出来る者は数えられるほどしか居ない。

 

 色んな可能性を探っていると、レジス少尉が目を細めて忠告してくる。

 

「良かったのですか、あの条件では我々が圧倒的に不利です」

 

 楽しげに話しつつ帰るラインとグレンを見送りながら、心配そうにしているレジス少尉の肩を叩く。

 

「信頼関係と言う物は一方通行じゃない。我々が彼らに恩を返している間は彼らは我々と敵対しないよ。そしてこれから大きくなる彼らへの投資だよ。そう、恩を仇で返す彼らじゃない」

 

 口角を上げて笑う俺にレジス少尉は頭を下げる。

 

「……浅慮失礼致しました」

 

 

 

 

 

 ユルゲン閣下を救出後、俺達は部屋への帰路についていた。

 通路は慌ただしく駆ける兵士が多く居て、本丸襲撃や火災への対処も有るだろうが、どうやら地上部隊が帰ってきてるようだ。

 

 泥で顔が汚れた兵士が多く、疲労で呆けている顔を浮かべながら壁に背を預けている者ばかりで、よくよく考える朝からずっと戦っている。

 

 長期戦にはならなかったとはいえ、今日はかつて無いほど激しい戦いだった。戦争が始まって以来、この日が最も戦闘で死んだ日かもしれない。

 

 レジス少尉の立てた作戦は上手く行き、敵に多くの損害を与えたがそれと共に多くの味方を失った。

 この中にも囮となった部隊に家族や友達が居たかもしれない。

 

 そんな光景を見ながら部屋に着き、扉を開けるとすさまじい怒りのこもった視線を俺らに向ける掃討戦から戻ったソフィアさん達が居た。

 

「……どこ行っていた?」

 

 ドスの効いた声を出すソフィアさんに俺らは震える。

 

「え、あ……地球連合軍の手伝いを……」

 

 何とか絞り出せた声で答えるが、更に鋭い視線を送られる。

 

「……誰が、いつ、手伝えと言ったか?」

 

 ソフィアさんは待機命令を無視した事に怒っているのだろう。返す言葉もない。

 

 そんな状況でもグレンは言い返す。

 

「確かに我々は命令違反をしましたが、それは地球連合軍側の要請がありまして、ユルゲン閣下にお問い合わせ頂ければ直ぐに分かるかと」

 

 と胸を張って言うグレン。誰もが訝しむがソフィアさんは冷静にユルゲン閣下に連絡を取る。

 

『……エルス国代表直属部隊指揮官代理、ソフィアです。大変申しわけありませんがそちらでライン、グレン両名が手伝ったという事は本当でしょうか?』

『ああ、それは本当だ。こちらから休憩中なのに要請してしまった。勝手にやった事、申し訳ない』

 

 とユルゲン閣下から直接聞いたソフィアさんは渋々と許してくれた。

 

「……何とも腑に落ちないが、ユルゲン閣下の面目を潰すわけにはいかない。今回は許そう。だが次から連絡しろ」

 

 言葉の最後に俺らを睨む。

 

「さて、戦闘も終わった。我々も引き上げよう。ユルゲン閣下に挨拶してくるからその間にシャワーや準備をしておけ」

 

 手を叩いて解散し、各々動き始める。でも俺らはーー

 

「お前らはここから動くな」

 

 とユリエル隊長が俺らを見張る。まるで捕虜じゃないか……

 抵抗しても仕方ないので大人しくしよう。

 

 

 

 

 

 俺ら代表直属部隊は帰路についていた。輸送機に乗り込み、行きと同じ航路で帰る。

 ふと行きの時に失った味方を思い出して気持ちが重くなる。

 

 その護衛には再び地球連合軍が担当するわけだが、今回はなんとエーススカイが護衛についてくれたのだ。

 我々の輸送機を三角形で囲むように飛んでいる。

 

『前回は我々の落ち度でそちらの多くの兵士を死なせてしまったとユルゲン閣下はおっしゃっていた。だからユルゲン閣下直々の命令で護衛させて頂く』

 

 と感情が見えない声で淡々と言うロイさん。

 

 その一方、ディレクさんは操縦席で足を伸ばして暇そうにしている。

 

『あー、目の前に美人、現れないかなぁ。全速力で突っ込むのに……』

 

 再度溜息つくディレクさんに背面飛行でコクピットをギリギリまで近づけるエレナさん。

 

『黙らないとケツにミサイルぶち込むわよ』

 

 と物騒な事を言って黙らせる。

 

 そんな楽しそうな様子にソフィアさんは少し笑う。

 

『わざわざ、エーススカイに護衛させるなんて恐縮です』

『いえ、あの後、敵が撤退せず戦うのだったら我々にも空中戦やる出番があったかもしれません。ですが今回我々には出番が有りませんでした……それに基地に居ても腕も鈍ってしまうのでこの任務受けさせて下さい』

 

 確かにわざわざ呼んだのに戦闘は俺らの時だけ。それでは可哀想だと思ったのか任務を与えたのか。

 

 と言っても前に襲撃してきた部隊は全滅させたし、元々地球連合軍の勢力内だ。ただゆっくりと飛行していただけになった。

 

 エルス国付近になるとエルス国の戦闘機が飛んでくる。それを見たエーススカイの面々は機首を戻して帰って行く。

 

『安全に航行出来たこと感謝致します』

『いえ、我々は今回も出番が有りませんでした。それよりも無事にここまで守れて幸いでした。またお会い出来る時を楽しみにしてます』

 

 その通信を最後に猛スピードで離れていく。

 

 

 

 

 

 輸送機はウェリントン基地に着陸する。歓声を聞きながら降りるーーという事は全くなく、誰も待って居ない。仕事の一環であるから当たり前だ。

 

 解散命令は出ていて、ソフィアさんは代表へ報告しに行った。俺とグレンは独身寮に向かう。バタバタしていたからか、何とも懐かしい感じがする。木々が生い茂り、涼しい風が頬を撫で、陽射しは暑く夏を感じる。

 

 その道すがら、俺はグレンに聞きたい事があった。

 

「グレン、お前の力は一体何処から、どうやって手に入れたんだ?」

 

 グレンはノエのような魔法師の血筋があるわけじゃない。それに血筋が有ってもノエのような規格違いは生まれない。

 それに何故力を隠そうとするのか、俺は知りたかった。もしグレンが実力を地球連合軍にでも売り込めば、大喜びして好待遇で迎えてくれるだろう。現状ノエに対抗する魔法師が居ない地球連合軍は苦戦している。

 

 グレンは風で髪をなびかせながら考えながら話し始める。

 

「……そうだな。先ずはあの事から話すべきか」

 

 着いてきてくれ、という言葉と共に背を向けて歩き始める。俺は言葉を飲み込み、後ろを歩く。

 

 そして着いたのはアカデミー内の図書館。ICカードと警備員に許可を求めてから入る。

 

 中は相変わらずの凄まじい広さで、本が無数に置かれている。俺らの他にも軍人やアカデミー生が勉強していて、静粛な雰囲気は変わらない。

 前に来たのはマヤと会った時か……

 

 と哀愁に浸っているとグレンに呼ばれる。

 

 グレンについていくと古文書が置いてある書庫に着く。どの本も古く、扱いは丁重でなくてはならない。

 山ほどある古文書の中から何かを探すのだろうか。

 

 するとグレンは突然魔力を発し始める。なっ、ここで魔法を使う気か!?

 

 火気厳禁はもちろん、魔法はどれも威力が高く、図書館では不必要である。

 

「おい、こんな所で魔法とか何を考えてんだ!? バレたらクビどころか、監獄だぞ!?」

 

 だがグレンは辞めず、本棚に手を置く。すると1つの本が本棚から飛び出て来る。

 もはや童話の世界のようで、開いた口が塞がらない。

 

 その本を手に取って振り返ったグレンの微笑みは今までで1番怪しかった。

 

 


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