混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
-地球 地球連合軍本部-
地球連合軍本部の会議室は人がこれだけ居るのに音一つしなかった。
居る人は誰もがモニターに釘付けになり、誰もが声が出なかった。今起きている事に。火星付近で敵艦隊に遭遇し、宣戦布告を受け、戦闘になり大敗北した事に。
最初は良かった。宣戦布告を受けた時は会議室の誰もが自信満々に火星独立軍を一瞬で壊滅出来るだろうと意気込んでいた。
そんな中、ルーカスだけは冷静にユーリ達の言葉を考えていた。
(奴らは何を考えている……バックに何か付いているのか? ……いや、この情勢で奴らに付いて地球連合軍とやり合おうと思う戦力は無いだろう。
では一体何が奴らを『宣戦布告』までさせて戦えると思わせているのだろうか……)
宣戦布告するという事は地球連合軍を相手取り、戦争するという事だ。宣戦布告しないなら地球連合軍は大規模に動く事も無いだろう。討伐隊を出すが、ちまちまと出すだろう。
しかし、宣戦布告するのなら地球連合軍は負けるわけには行かない。負けるという事は地球連合国の崩壊に繋がる。全力を持って潰しに来るだろう。
ルーカスは答えを期待してモニターを見続ける。
すると答えはすぐに分かる。
画面の中では人型の兵器が地球連合軍を圧倒していた。
ルーカスはこの光景に驚愕する。
(なっ!? 何なんだこの兵器は!? 機動性、装甲、火力……全てにおいてわが軍より相手が上回っている……)
しばらく驚愕していたが、次第に納得し始める。
(なるほど。この兵器が有れば,我が軍に勝つ事も可能かもしれない……だから奴らは『宣戦布告』したのか)
そう考えている間にこちらの艦隊は壊滅し、独立軍の勝利の終わっていた。
皆が絶望している時、ルーカスは決意し、発言する。
「皆様お聞きいただきたい」
ルーカスの声にゆっくりと役員達の視線が集まる。
「皆様、今エドモンド艦隊が奮戦しましたが敗れました。そして奴らはまだ戦力を持っています。次に狙うのは……」
「地球だな」
司令長官が口を挟む。
次に地球が狙われる事に役員達はざわめき始める。
ルーカスは更に続ける。
「エドモンド艦隊の活躍によって奴らは少なからずダメージは受けています。ここで我らが全力を持って攻撃をすれば、勝てるかもしれません。どうかご助力を!!」
ルーカスは頭を下げる。もはやプライドで地球連合国の危機を救えるなら安い物だとルーカスは考える。
だが誰も答えない。
むしろ、役員達はルーカスに押し付け始めた。
「博打なんぞ出来るか!! 好機を待つ!!」
「私も勝てるか分からない戦いに戦力を費やすのは……もちろん戦いますわよ、好機に……」
「私は対策を練っておこう。その間は任せたぞ」
「大佐が言いだしたんだから何かいい策が有るのでしょ? 大佐がやりなさい」
そしてルーカスに白羽の矢が立つ。
ルーカスは少し想定していたが、余りのコイツらのクズさに怒りがこみ上げて来て、歯ぎしりしそうになった。
怒りを抑え、提案をする。
「では、私が抑えましょう。その間に対策を練り、好機を待つという事で宜しいでしょうか? ……後一つお願いが有ります」
「ふむ。コレでいいだろう。何だ言ってみろ」
「残存するエドモンド艦隊を私の艦隊に合流させたいのですが」
「そんな事か。良かろう」
ルーカスの提案はすんなり通り、会議は解散となる。
ルーカスは部屋に戻り、椅子の背もたれに思いっきり寄り掛かる。
最低限の戦力は揃えたが……厳しい戦いになるな……
とルーカスは頭を抱えているとそこに副官が入って来る。
「ルーカス大佐。会議お疲れ様でした」
「ああ……」
「これだけの戦力でやれるのでしょうか」
「やれるじゃない。やるんだよ」
「心中お察しします」
ルーカスは窓から空を見る。
いつも通りの空だったが、ルーカスには憎たらしく見えた。
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一週間後、地球連合軍本部にてルーカスは残存部隊と会合していた。
「奮戦ご苦労だった、サンダー大佐」
ルーカスは艦隊を率いる事になり、少将に昇進した。
もちろん大佐でも艦隊は率いれるが艦長は大佐ばかりなので少将の方がやりやすい。
その中の一人、サンダー大佐と会合していた。
サンダー大佐はルーカスに敬礼した。
ルーカスは敬礼を返すと席に座るよう促し、口を開く。
「エドモンド中将は残念だったな……」
「……本当にそうお思いで?」
そう言ったサンダー大佐は怪しく微笑む。
ルーカスは一瞬呆気に取られるが直ぐに微笑んだ。
「そうか……サンダー大佐もこっち側か」
「はい。エドモンド中将は役員の中ではいい方でしたが上に立つ者としては承認出来ませんでした」
「確かにな。だが、エドモンド中将にはもう少し頑張って欲しかったが……奴らから助力が来ない以上我々だけでやるしか無い」
「我らは少将に忠誠を誓います!」
サンダーは立ち上がり、敬礼をする。
その敬礼はさっきより力強かった。
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-地球付近-
旗艦アルファードにルーカスは搭乗していた。
エドモンドが乗っていたプロビデンスと違い、この艦は通常戦艦である。
合計戦艦6、護衛艦8で編成された艦隊をルーカスは指揮していた。
このままではエドモンド艦隊より劣る戦力で戦う事になるのだ。
もちろんルーカスには策があった。
策を信じ、進んで行く艦隊だった。
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-火星付近 火星独立軍-
ユーリ達は戦艦に乗っていた。
「すごいな。これが戦艦かあ」
ユーリはしきりにキョロキョロして船内を見ている。
そこをサイオンに叱られる。
「ユーリ! 少しはリーダーらしくしないか!」
サイオンは怒り半分、微笑み半分で怒る。
だからユーリも大人しくする。
もうユーリも18歳になるがまだまだ子供である。
そんなユーリを暖かい眼差しで見つめる。
ユーリはブリッジに戻り、席に着く。
そこは艦長席とは違い、リーダーの席である。
艦長席にはサイオンが座っている。
サイオンは元軍人であるから艦長もこなせる。
先のエドモンド艦隊との戦闘はサイオンが指揮し、勝利した。
次はユーリにもやらせるのだ。
リーダーたるもの指揮も出来なくては。
7年の間に出来るだけ指揮能力を叩きこんだが実戦はまだである。
この戦いが初めてとなる。
そんなユーリにレーダー網に引っかかった事が伝わる。
「報告します! 敵艦隊発見! 戦艦6、護衛艦8です!」
「来たな」
「ああ。数は前回よりも少ない。どうするユーリ?」
そう問うサイオンは教官の目だ。
「HAWを出す。2/3だ」
「2/3か。って事は20機か」
サイオンは少し考えこむ。
しばらくすると口を開く。
「前回の戦いから見るとキツいな。全機出しても良いかもしれん」
「全機か。防衛に回さなくて良いのか?」
「攻撃が最大の防御とも言うしな。前回を見れば相手に余裕は無い。だからHAWに全力で攻撃してくるだろう」
「なるほど……良し全機発艦!」
ユーリの指示を受け、全機敵艦隊に向かって行く。
その時、レーダーに反応が有るのであった。
「報告します! 我が艦隊の左右に輸送船を発見! 3隻づつです」
「何!?」
「輸送船か……ふむ」
ユーリはやられたと思うがサイオンは冷静だ。そんなサイオンに気付いたユーリはサイオンに意見を求める。
「サイオンどう見る?」
「普通ならば、中に戦闘機を入れ、我々が無防備になった時を攻撃してくるだろう」
「じゃあ10機ぐらい返す?」
直援機が無い艦隊ほど弱い物は無い。ユーリの答えは至極当然の物だった。
だが、サイオンは違う答えを出す。
「いや……これは相手の策では無いか?」
「策?」
「ああ。我々が護衛を残し、少ない戦力で行かせ、相手は全力で殲滅するという偽兵の計だろう」
偽兵の計とは孔明が使ったと言われる策の一つで兵がいると見せかけ、兵を割いたり、敵を混乱させる為に使われたらしい。
「だから我々は相手の策には乗らん。全力で敵艦隊を撃滅する」
「……分かった。全力でやろう」
艦隊の護衛を残さず全て攻撃に回す。
そしてサイオンはしきりに輸送船の動きを確認する。
「どうだ? 輸送船に動きは無いか?」
「いえ。有りません。変わらず遅い速度でこちらに向かって来ます」
「そうか。ご苦労」
サイオンは一安心したのか艦長席に戻る。
そろそろHAWの攻撃が始まる頃だった。
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-地球連合軍 ルーカス サイド-
「敵が30機向かってきます!」
部下が少し慌てた様子で報告してくる。
(なるほど。そう来たか。プランBだな)
ルーカスは冷静に部下に迎撃命令を下す。
「戦闘機隊、全機発艦! 艦隊護衛に着け!」
艦隊護衛とは艦隊に近づいて来る敵を討つ作戦である。
ルーカスは艦隊と戦闘機の2方面作戦によって迎撃するつもりである。
艦隊の射程をギリギリまで使い、近付かれたら、戦闘機で迎撃するというお互いの弱点を補う作戦である。
しかし、いくつかの問題も発生する。
総合して言うとどちらも全力で戦えない。
これは戦闘機が艦隊の間をぬって戦うので、機動力をフルに使えない。
また、艦隊も誤射が怖くて迎撃出来ない事。
だが、これは同種戦の場合である。
そもそも機動力ではHAWに勝てない。
ならばHAWも少し動きにくい、艦隊の中で戦闘すればどうだろうか。
更に艦隊の近接防御ではほとんど役に立たないなど艦隊は無用の産物と化していた。
もちろん主砲は有るが高速で動き回るHAWに当てるのは至難の技であり、弾幕によって当てた物である。
1艦の主砲では命中率は1割にも満たない。
ファランクスは豆鉄砲と化していた。
もちろん、ずっと当てれば倒せるが。
今までの常識からは考えられない作戦を始めようとしていた。
「全艦射撃用意! ーーってぇぇぇ!!!」
ルーカスの叫び声と共に全艦がミサイルを発射する。
ミサイルは雨のように敵に向かって行く。
それを見たHAW達は散開し、各個回避行動を始める。
ファランクスが起動し、バリバリと轟音を鳴らしながら迎撃を始める。
そして爆発と共に無音となり、爆風から続々とHAWが出てくる。
30機中5機くらいしか戦闘不能に出来てない。
ルーカスは軽く歯を噛み締めてミサイルの無力さを感じた。
(予想していたがここまで効果が薄いとは……)
普通ならばこれで戦闘機達はかなり撃墜、大破する。
しかし、HAWは予想以上の回避性能、迎撃力を保有していると認めざるを得なかった。
だがまだルーカスは諦めてなかった。
「次、主砲の弾幕開始! 戦闘機部隊は温存しろ!」
ルーカスの指示に従い、主砲を発射し始める。
一面は主砲の火線で埋まる。
HAW達はランダム運動を開始しながら着実に近づいてくる。
途中何機かは墜ちるが、全く勢いを失わずに近づいて来る。
ドンドン近づいて来る様子に恐怖のあまり、腰を抜かす者も出てきた。
これだけの弾幕にも関わらず、全く勢いが衰えないHAW達。
ルーカスも焦りが出てくるがリーダーたるもの動揺は顔に出さない。
必死に焦りを抑え、一機でも多く墜ちるよう心の中で祈る。
そんな様子を見た部下は自分も頑張らなくては……と恐怖を抑え、奮戦する。
そしてとうとうHAWの射程に入る。
ルーカスは立ち上がり、部下に指示を出す。
「作戦開始だ! 全員奮戦せよ! 此処からが正念場だ!」
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-戦艦内 ユーリサイド-
何かが違和感があった。
このまま奴らは前回の二の舞になるのか……
またもや大敗北するのか……
そうは思えなかった。
奴らは前回、今回より多い戦力で負けたのに、今回も負けに来たのだろうか。
そうは思えない。奴らはこちらとやり合う気で来ている感じがする。
ユーリはそう考えていると部下から報告が入る。
「HAWの射程に入ります!」
「良し、攻撃開始!」
サイオンの号令の元、HAWが攻撃開始する。
だが突然のアラームにビックリする。
「何だ!? 何事だ!?」
サイオンの催促に部下が慌てて確認する。
「ちょっと待って下さい…… っ!? 敵輸送船から戦闘機多数確認!!」
この報告にサイオンは肘置きを拳で思いっきりドンッと叩く。
「クソッ!! まさか搭載してるとは!! 裏を掻き過ぎたのか!?」
ユーリは冷静に努めて、サイオンに提案する。
「どうするサイオン? さすがに戻さないと厳しいと思う」
ユーリの落ち着いた声を聞いて、サイオン自身も落ち着きを取り戻す。
「……ああ、戻す。全機だ」
「全機!? 向こうに攻撃出来なくなるよ?」
「少し戻したらこちらの護衛は出来るが戦力が分断され、攻めた部隊がやられる」
「なるほど。じゃあ一旦退却だね」
「ああ」
サイオンは悔しがりながら、指示を素早く出して行く。
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-旗艦内 ルーカスサイド-
(ほう。良い判断だ。相手の指揮官はなかなか優秀だ。最初は読み間違えたが、最良の手を打ってくる)
HAW達が引き上げて行くのを見ながら、ルーカスはまだ見ぬ相手の指揮官を素直に誉める。
「だが、この手は読んでたかな?」
ルーカスはしたり顔で指示を出す。
「全艦突撃!!」