混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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14-12 戦士の戦場

 

 味方からの大規模危険エリアの指定が届いてから、直ぐに光は現れ、敵を丸ごと飲み込み、1機に留まらず、無数の敵を飲み込んでいった。それは無差別に敵を食らい、足掻くHAWを逃す事無く塵に変えていく。

 

 希望の光ーーそう言われていた新兵器の威力は俺や俺以外がおののくには十分で、誰もこの惨状に言葉が出なかった。

 レールガンだったら新兵器の威力に喜んでいたが、この圧倒的暴力とも言えるレーザー砲の凄まじい威力に恐怖を感じる。

 

 映像で見た威力と同じだが、それが無人の建物やHAWに撃たれたのとは違い、目の前で人が無残に死んだ。次第に燃え尽きるHAWが目について離れない。

 

 またそれが自分に向けられたとしたら……レールガンなら回避して当たらなければどうにかなる。だけどこの新兵器は回避しようがない。それほど広範囲を焼き尽くしたのだ。

 

 敵は光が見えてから何をしようと避けられない死に、何を思ったのだろうか。いや理解する前に機体が焼き尽くされてるかもしれない。

 

 そんなもはや虐殺と言えるような威力に戦場の時間が止まり、我々、地球連合軍はその威力におののき、敵は何が起こったのか分からず、唯々混乱するだけだった。

 

 だがそんな中、動く者が居た。

 

「全軍、今が好機です。残存部隊を殲滅して下さい」

 

 さっきまで聞こえていたオペレーターではなく、凛とした若い声でそれはレジス少尉だ。

 

「敵は今の攻撃で大半を失っています。また混乱している今、必ず勝てます」

 

 そうレジス少尉は言うが誰も動かない。いや動けなかった。

 レジス少尉が何故仕切っているのだ? という思いもあるが、それ以上のこの惨状を見たダメージがデカかったのだ。

 

 しかしその後にユルゲン閣下の声が続く。

 

「今のレジス少尉の意見は最もだ。我々何のために戦っていたのか? 敵に家族や故郷を踏みにじられない為だろう!! 我々は何としても勝たなければならない!!」

 

 その言葉に多くの者が動き始める。その一方、我々、代表直属部隊はソフィアさんの指示を待っていた。

 

「こちら、ユリエルです。ソフィア指揮官、どういたしますか?」

 

 少し困惑した声色を含ませてソフィアさんに問うユリエル隊長。

 

「……色々思うところも有ると思うが、ここは堪えて欲しい。ここで動かないのは下策。このまま地球連合軍に協力しろ」

「はっ……」

 

 参戦しろとソフィアさんが言い、それに従う。我々も動かないのは下策とは分かっていた。それにここで地球連合軍と勝手に決別する訳にもいかない。

 

「……全機、先程と同じように参戦する。陣形は崩すなよ」

 

 そして俺とグレンに重点的に注意する。

 別に先走りしたい訳じゃ……

 

 その時、オープンチャンネルを通して咆哮が聞こえる。野獣でも居るのかと思ったが、意志のある野獣だった。

 

「お前ら……戦場を汚しやがって……戦士と戦士が戦う場所が戦場なのだ!! それをこんな野蛮な兵器で汚しやがってぇぇ!!」

 

 ーー聞いたことある声だ。

 俺のHAWでの戦場経験は多くない。そして一際目立つ動きをしている機体ーーイルⅡだった。

 

「邪魔をするな!! どけぇ!!」

 

 そう言いながら一合もせずにセイバーを切り捨てるイルⅡ。

 その卓越した操縦技術には見覚えがあった。

 

 日本解放作戦を思い出すーー機体性能が全く違うにも関わらず、雷鳴と相打ちにした男ーー白熊だ。

 HAWとは思えない軽やかな動きで他を全く寄せ付けない。みるみる味方の数が減っていく。

 

「なんて奴だ……新型はそれほどの性能なのか……」

 

 部隊の誰かがそう呟くが、新型の性能はそれほど高くない。セイバーよりも雷鳴よりも高いが、大きな差は無く、十分渡り合える性能差だ。だがそれを忘れてしまうぐらい白熊の技量は卓越していた。

 

 白熊は粗方、周りのセイバーを片付けると、こちらに視線が向く。

 

 するとオープンチャンネルで声を掛けてくる。

 

「エルス国か……そこをどけ。邪魔しなければ見逃してやろう」

 

 少し落ち着きを見せた白熊。息を整えてるのもあるだろう。その瞳はまだ強い怒りを秘めていた。

 

 そして白熊の要求にユリエルは横に首を振る。

 

「我々も見ている訳にはいかないのでな。ここは戦場、我々全員でかからせて頂こう」

 

 1機に20機近くが襲いかかろうとしている。いくら白熊といえども……

 

 だがそうはならなかった。白熊の奮戦に我に戻った火星独立軍の攻撃が始まり、乱戦になり、ここに他のイルⅡが参戦したのであった。

 

「各機、2対1で対応しろ!! 我々の方が数が上だ!! ライン、グレン。お前らは別れて他の面々と組めーー」

 

 一筋のレールガンが空を裂く。

 

 その先にはいきなり笑い出した白熊の姿があった。

 

「会いたかった……もう一度戦いたいと思っていたところだ!! ライン!!」

 

 喜びの感情が溢れ出し、口角を上げた白熊は俺目がけて真っ直ぐに突っ込んでくる。ユリエル隊長が間に入るが、蹴り飛ばされる。

 

「どけっ!! お前には興味ない!!」

 

 空中で上手く体勢を取り戻すユリエル隊長だが、他のイルⅡに阻まれ俺の援護には来れなさそうだ。

 

「ライン、無理をするな!! 時間を稼ぐだけで良い!! その間に他を片づける!!」

 

 だが他の面々も苦戦しており、駆けつけるのはまだ先になりそうだ。

 その時、一人の暇人が援護してくれた。

 

「フリーな俺が援護してやんよ」

 

 白熊の進行方向にアサルトライフルをばらまくグレン。突然の攻撃に思わず、動きを止める白熊。

 先読みされた事に警戒度が上がったようだ。

 

「ほう、小僧……いいセンスしてるではないか」

 

 ニヤリと笑う白熊にグレンはわざとらしく照れる。

 

「いやーあの白熊さんに褒めて貰えるとか今日辺りに死ぬのかな?」

 

 と不吉な事を言い出すグレン。するとその態度に顔を曇らせた白熊がマシンガンを構える。

 

「そうだな。今ここで死なせてやろう」

 

 そう言った白熊に銃口を向ける。

 

「グレンをむざむざやらせるつもりはない。2対1だがルーキーだから許してくれよな」

 

 軽口と共に精一杯笑う。

 相手はセイバーを一瞬で倒すエースパイロット。俺らも一合かみ合えるか……

 

 俺の軽口に呆れて、溜息を付く白熊。

 

「ふぅ……私と互角に戦った奴が何を言うかな? 彼は十分に強い。そう、今の君とは別人みたいに」

 

 鋭い眼光で俺を見る。

 もう1人の俺を見てるような気がして、胸騒ぎがする。

 

「まるで言い訳に聞こえるな。俺がじゃ無かったとでも言いたいのか?」

 

 とわざと挑発する。はい、そうです、と素直に言うわけにもいかない。

 

 だが易々と挑発に乗る白熊では無かった。俺を細い目で見ると微かに笑う。

 

「まあ、良い。君らがルーキーだからといって手を抜くつもりは無い。戦場で兵士ならば女、子供だろうと、等しく死を与えられるべきだからな」

 

 そう言って動き始める白熊。その動きは以前と比べ物にならないほど速く、軽やかな動きだった。

 

「ライン!! コイツは強いが、こちらは2対1!! 連携を取ればやれるぞ!!」

 

 少し声が上擦っているグレン。やはりグレンでも緊張はするものか。

 

「ああ、どうする? 何か今回も奇抜な作戦は有るか?」

 

 俺の言葉にニヤリと笑うグレン。

 

「いいや、何も無い。だが方針はある。お前は自由に戦え。俺はそれに合わせる」

 

 思考を放り投げているのかどうなのか分からないが、打ち合わせの無い連携は極めて難易度が高い。

 

 かと言って他にすることは無いのでグレンを信頼するしかない。

 

「分かった。お前を気にすることなく戦うからな!!」

 

 迫り来る白熊に右手のアサルトライフルと左手のガトリング、脚のミサイルポッドで応戦する。最初から全力だ。

 

 その全力攻撃を白熊は難なく躱す。風で揺れる葉のように全く先が読めない。同じHAWのはずなのに、何故ここまで違うのか。

 

 前と同じく、射撃連動システムが全く約に立たない。マニュアルに切り替えてやるが、今度は体が着いていかない。そして白熊に全く当たる気配が無い。

 

 そこに横からグレンが介入する。その援護は適確で、避けようとする先に置いておくという物だ。普通ならばこれで詰みだが、白熊はまだ余力を残していた。

 

「良い連携だ。ルーキーとは思えん、熟練したチームのようだ。このまま成長すればエースパイロットになるかもしれんが……君らはここで死ぬ」

 

 満足そうな笑みから一変、軍人の殺意のこもった目つきになる。

 

 撃ちきったミサイルポッドをパージし、少し身軽になった機体で身構える。

 

「先ずはーー邪魔者から退場して貰おう」

 

 その言葉と同時にグレンに迫る猛スピードで白熊。

 援護射撃をしようとするが、白熊が俺とグレンとの一直線上に入り、誤射を恐れて撃てなくなった。

 

 グレンや俺も一直線上からどかそうと動き回るが、どう足掻いても抜け出せない。

 

 仕方なくレーザーサーベルを抜いて追うが、もう白熊はグレンに接近していた。

 

「やべっ……しくじったわ」

 

 そうグレンがぼやいたのが最後、白熊のレーザーソードはグレンの機体を貫いた。

 


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