混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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とうとう開戦!! かつて無い大きな戦いが幕を開ける。


14-10 意味のある死

 

  幾度もの作戦会議と自分の機体を調整しながら来たるべき時を迎えた。

 

 けたたましくサイレンが鳴り、戦闘態勢に移行する事を知らせる。このサイレンは敵が要塞の一定距離まで接近したら鳴る物だ。

 

「ようやく敵さんが来たか……そろそろ筋トレも飽きて頃だったわ」

 

 筋トレを辞めて、起き上がったグレンが嬉しそうに呟く。

 

 作戦が決まった翌日から囮以外の部隊は左右の森林に伏せていた。光学迷彩で敵の衛星からの察知を防いでおり、もちろん機体は動かせなかった。だからやることは筋トレぐらいしか無い。

 

 俺は雷鳴や新武器のカタログを読んでいるが、他の面々は長らく使っているエルピスで今から読み込む物も無い。

 

 各々ハッチを開いて、中に入り、機体の最終点検に入る。弾薬や燃料は既に要塞内から出すときに万全にされており、後はその最終チェックだ。これを疎かにすると直ぐに生死に直結する。一発のジャムーー弾詰まりが全てを決する時もある。

 

 細かい所を見る時間は無いため、モニターで確認する。油圧システム、燃料漏れも無い。照準システムも正常に動作している。

 

 そしてIFFもしっかり入っているか

 再度確認する。日本の機体故、エルス国では無かったから書き換えたのだ。しっかりエルス国の識別信号だ。

 

 その時、隊長のユリエルから通信が入る。

 

「各員、通信は聞こえるな? もう作戦概要は詳しくは話さない。これは短距離通信だが、傍受の可能性もある。そして作戦は変更なく行う。

 それから新人の二人は部隊後方で戦って貰う。二人は既に初陣じゃなく、戦果を挙げてるようだが、今までの温い戦場じゃない。我々の行くところは死地しかない」

 

 最初はいびりかと思った忠告だが、そこには過酷な戦場を経験した戦士の経験が入ってる気がした。

 

「はい……」

「了解」

 

 グレンもどうやら素直に聞くみたいだ。ほんとたまに真面目になるんだよな。

 

 

 

 

 

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 -火星独立軍 ウルス・ブラン視点-

 

 アラスカの重要地点を落としてから地球連合軍の反撃は無く、すんなりとここまでやって来られた。

 

 だが目の前に山のように置かれている写真は地球連合軍の要塞を衛星で撮った物だった。

 なるほど、小出しにしないで溜める事で戦力差を無くそうとしているのか。

 

 衛星写真から巨大な要塞や多くの兵器が存在することが分かる。

 

 だがーー

 

「どれもこれも旧型ですね。もう戦争はHAWの時代ですよ。これだから地球連合軍は……」

 

 そう、一人の指揮官が呆れながら呟く。

 

 ソイツが言うとおり、多くの衛星写真にはHAWがほとんど写ってなかった。戦車や戦闘機、ミサイル砲台や固定砲座など、HAWが戦争の主体になってからは微妙な役割しか無くなってしまった物らだ。

 

 それらが数多く配置されてる要塞は数では我々の何倍も多かった。これが10年も前だったら世界最強、最大の軍隊と誇るのも当たり前だ。

 

 だがもう時代は進んでいる。どれだけ古い物を数を揃えようとも最新の物には敵わない。それを重々承知してるはずの地球連合軍は今になって何故、これだけの数を配置したのだろうか。

 無能と呼ばれる地球連合軍だが、以前の上層部が無くなって以降、それなりの優れた対応をしてきている。

 やはり気になるなこれは……

 

 だが他の面々は気にせずに地球連合軍を罵っていた。

 

「ふんっ、あらかたもうHAWが無いのだろう。だから今まで仕掛けて来なかったのだ。そして残る戦力を結集した様がこれだ。もう我々の勝ちは揺るがん」

「もう既に数多くの地球連合軍側の有力者達がこちらになびいている。これは世間が我々が勝つと予想している」

 

 と既に勝った気でいるが戦場では何が起きるか分からない。仮にでも軍人だろうが、お前らは。

 

 俺は新機体を率いる隊長ではあるが、結局は一兵士。流れを変えられるほど偉くはない。だから精々俺の部隊配置だけは変えさせて貰う。

 

「先に報告しておきたい事があるのですが……」

 

 ここでの最高指揮官に伺いを立てる。上機嫌の上官は笑って許可する。

 

「なんだ? 手を出すなとでも言うのか? それは認められんな、ウハハハハハ」

 

 もはやコイツらは考える事すら辞めている。

 

「いえ、我々、イルⅡ部隊は今回待機させて下さい。わざわざ勝ち戦に出ることもないでしょうし、機体の調子が良くありません」

 

 これは嘘で、機体の調子は万全。当たり前だ。そんな不良な新型を前線に回すほど、火星独立軍は追い込まれていない。

 

 結局嘘に騙された上官はニヤリと笑う。

 

「確かにここで君たちが出る必要もないし、我々も働いとかないと何を言われるか分からんからな。分かった、待機しておけ」

「はっ」

 

 要求が通った事に安堵する。

 だがこの戦い、何かある。そう、俺の直感は警鐘を鳴らしていた。

 

 

 

 

 

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 敵は想定していたより多かった。数多くのHAWとHAWモドキーーアイギスを空輸で投下してきた。またその後方には拠点制圧の為の戦車や歩兵が無数に居た。そして突破口が開かれたら歩兵が突撃してくるだろう。

 

 俺が予想しているよりも火星独立軍は勢いづいていた。もはや正面から戦うのは不可能な程に。

 

 その時、オープンチャンネルにて敵から通信が飛んでくる。

 

「聞こえるか、地球連合軍に告ぐ。既にこの要塞は包囲した。援軍は来ない。そして戦力差は圧倒的。今すぐ武装解除して降伏するというのなら命は助けよう。また我が軍に加わるというのならそれなりの待遇は保証しよう。だが抵抗するなら皆殺しだ。ロサンゼルスから見えるよう大きな花火を上げてな?」

 

 そう言って高笑いする男。

 

 癪に触る言い方だが、この戦力差を見て俺も少し心が揺れた。作戦が上手く行けば勝てるはずなんだと信じるしかない。

 そして俺よりも不安なのは囮の部隊だろう。これからの作戦を聞いて居ない囮部隊は今頃絶望しているだろう。

 このまま時間が経つと離反者が出るかもしれないーー

 

 そこに不安を振り払うように威厳のある声で答えるユルゲン閣下。

 

「……私がユルゲンだ。どれだけの戦力差があろうと我々は降伏しない。勇敢なる兵士諸君聞こえるか、君たちの強い思いは必ず勝利へ導くだろう。だから前に進め。隣の仲間が倒れようと我々は未来へ進まなくてはならないのだ!!」

 

 この通信を聞いた囮部隊は歓喜に湧き上がる。もはや死兵となるだろう。

 ある意味どれだけ兵士の士気を落とさないかが、指揮官に問われる素質である。士気が無くては命令には従わないし、勝てる物も勝てなくなる。

 

 ユルゲン閣下はその素質には長けている。だからこそ、このような劣勢な方面を任せたのかもしれない。

 

 湧き上がる囮部隊を見たのか、敵の指揮官は舌打ちをする。

 

「良いのか? ここで犬死にしても? 降伏すれば家族と会えるぞ?」

 

 再度甘い言葉で誘惑してくるが、もう死兵となった囮部隊には通用しなかった。

 囮部隊でブーイングが巻き起こる。

 

 どうやら交渉は決裂だな。さて敵はどうするか?

 

 そこにユルゲン閣下が追撃をする。

 

「どうやら猿の話は我々には分からなかったな。それともなんだ? 怖いから降伏させようとしたのか?」

 

 明らかな挑発だ。流石に敵は乗らんーー

 

「今すぐその口に石を詰めてやる!!」

 

 と怒鳴って、一方的に通信を切る。

 どうやら挑発が上手くいってしまったようだ。

 

 そして敵がこちらに動き出す。

 空をHAWが飛び、地上をゆっくりとアイギスや車両群が進む。

 

 始まった、俺にとって初の大きな戦闘が!!

 

 敵は左右の森林を避け、中央の平原を通って、要塞に向かう。その要塞の前には固定砲座やHAW達が陣取っており、陣形を組んでいる。

 

 そして射程内に入ると攻撃を開始した。無数のミサイルと砲撃をお互いに撃ち合い、回避行動に移るHAWや戦闘機。一方、動けない地上部隊は必死に迎撃するが、飽和攻撃に次々と命中していく。

 

 最初は両者とも互角のような損害だったが、次第に数の差、そして兵器の性能差が出始め、地球連合軍が一方的にどんどんやられていく。

 無数にある固定砲座も次々と砲身が曲がったり、砲撃が止まっていく。山の段々に配置した固定砲座もHAWによって簡単に破壊されていく。高いところにあると地上部隊からは狙いにくいが、空を自由に飛び回るHAWとってはただの的である。

 

 次々と上がる黒煙と聞こえる爆発音。もはや蹂躙されていた。俺が予想しているよりも早く壊滅しそうだった。

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍 囮部隊-

 

 戦闘が始まり、最初から全力で撃ち合う。砲撃の振動がテーブルのコップをガタガタと揺らす。

 

 私自身見たことも無い程の一斉砲撃だ。その事に心が躍るが、戦果を見て顔をしかめる。

 

 空にいるHAWにほとんど当たらず、地上のHAWモドキが数台火を上げてるのといくらかの車両をやっただけだった。

 

 もはや全体から観ると損傷率は1%にも満たず、我々の攻撃は終了した。そこからは覚えていない。

 

 あちらこちらから上がる悲鳴と救援を求める通信が無数に入る。だが、それに答える余裕は無い。

 そして敵の攻撃の振動でテーブルにあったコップが地面に落ちて、割れる。

 それを見て、それが今の我々の状態だとふと思いつき苦笑してしまう。

 

 壁の隙間から見える我々の惨状に私はただただ、ユルゲン閣下のご活躍を祈るしかない。

 

 その時、ふと見えた敵のHAWがこちらにバズーカを向けているのが見えた。そのして発射された弾をゆっくり見ながら、迫り来る死を笑ってやった。

 

 

 

 

 

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 -要塞内部 ユルゲン-

 

 小さな衝撃音が無数に響く。山の外殻が攻撃されてるだけで内部は全く無傷だ。だがこの衝撃で何人の命が奪われただろうか。

 

 そんな考えが頭の中を反芻(はんすう)する。

 

 そんな時、一人のオペレーターが顔面蒼白にして振り返る。

 

「囮部隊の指揮官が戦死しました……既に命令系統は混乱。もはや戦える状況ではありません」

 

 簡単に予想された事態だったが、胸が締め付けられる。ほんと軍人には向いてないのではと思うが、誰からも軍人が向いていると言われる。矛盾していると思う。だが求められている以上、その期待には応えたかった。そして守りたかった、この仲間達を。

 

 頭から心の痛みを振り払い、声を振り絞る。

 

「敵は既に外殻に取り付いている!! そして地上部隊も草原中腹。今が好機だ!! 全軍、第一段階開始!!」

 

 俺が宣言するとオペレーター達が次々と通信をして各部隊に伝達していく。

 

「作戦開始。作戦開始」

 

 その言葉で室内が埋まる。そして映し出されたモニターには次々と内部から出撃していくHAW隊。

 まず鶴翼の陣が決まらなければ負けに成るため、この作戦に全てが掛かっていた。

 

 俺は何も出来ない歯がゆさが顔に出ないようにするのに精一杯だった。


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