混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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結構書いたのでタイトルが……


14-9 地球連合軍の実態

 

 給仕係のレジス少尉の見た目は長めの青髪と眼鏡が印象的で、体は細い。知的なイメージが第一印象だ。

 階級はこの会議室内で最低だと思われるが、その瞳には物怖じしない力強さがあった。

 

 先程までいきなり何だと思っていた軍人達、今では固唾を呑んで次のレジスの言葉を待っていた。

 

「まず、この要塞はアラスカ方面に向かって配置されており、左右の高い山々が正面以外からの攻撃を防いでいます。なので敵が来るのは一方方向ですが、一方方向と言っても180度。この兵器では30度しかカバー出来ないでしょう。なので敵を一カ所に集める必要があります」

 

 理路整然としている説明に思わず聞き入る。

 今まで全員の考えが統一されてるとは限らなかったが、これで統一された。だから全員が話しに付いてこれるし、食い入るように見るのだ。

 

「そこで、私は鶴翼の陣を提案します」

 

 鶴翼の陣ーーV字型の陣形で敵を包囲する戦い方だ。確かにこれなら敵は真ん中に集まるだろう。

 だが普通なら敵は広く配置してくるだろう。我々よりも規模はデカく、攻める側としては広く陣を敷く。

 これを包囲するにはこちらは更に大きく広げなければならないが、それは兵力の分散を意味し、簡単に包囲を突破されてしまうだろう。

 

 理想的な形は鶴翼の陣だが、それに至る過程の説明が足りなかった。

 

 何人か気付いたようで、難しい表情を浮かべている。

 

「レジス少尉、どうやって鶴翼の陣に持ち込むつもりだ? このままでは絵空事だぞ」

 

 気付いた中の一人が声を挙げる。

 

 レジスは頷き、説明を続ける。

 

「その通りです。最終の形はこのようにしたいのですが、そこまでのプロセスが足りません。今から説明致します。

 この要塞の前に狭い横陣を引き、これを囮にします。敵はこれに集中するため、自然に集まってきます。そこをあらかじめ左右に伏せていた部隊と基地内の部隊で鶴翼の陣を引きます。そして動揺した敵を真ん中に押し込んだら、レーダー砲により、殲滅します」

 

 小さな唸り声がいくつも聞こえる。唸り声を挙げるほど、見事な作戦だった。

 ユルゲンも頷くかと思ったら、悩ましい表情を浮かべていて、隣のソフィアさんも同じような表情であった。

 ソフィアさんに小声で聞く。

 

「……どうしたんですか?」

 

 ソフィアさんは目をつぶって少し考えた後、俺に話す。

 

「この作戦は見事だよ。だが問題が一つある。それは囮部隊は壊滅的状態になることだ。多くの敵に集中放火を受け、鶴翼の陣によって敵はそこを中心に集まる。もはや一人も生きて帰ってはこれないだろう。合理的な作戦だが、いかんせん我々も人だ。死地に部下を行かせるのは心苦しいんだ……」

 

 一見、最高に見えた作戦も実際は犠牲を払う必要があった。軍人である我々はそれでも実行し無ければならないが、迷うのが人だ。

 

 ユルゲンも複雑な表情で悩んでいた。

 そして暫くするとレジスの方を向く。

 

「レジス少尉、この作戦における囮はどうなるか分かってるか?」

 

 するとレジスはユルゲンを見つめ、目を細める。

 

「それは……死地という意味ですか?」

「そうだ……見事な作戦だが……」

 

 悩むユルゲンにレジスはユルゲンの前に詰め寄る。

 

「お言葉ですが、これが最小で最大の戦果を挙げられます。もし死地が嫌だとおっしゃるのでしたら、通常の横陣での戦いを致しますか? 

 総力戦になり、勝てたとしてもこちらの被害は甚大です。この中の何人もの人が亡くなるでしょう。しかしこれならば指揮官は一人で済みます。命令は一つ。ここを死守しろという命令ですから」

 

 落ち着いた様子で言うレジスにユルゲンは勢いよく立ち上がって、レジスの胸倉を掴む。体格差のある二人は一方的にユルゲンがレジスを壁にぶつけた。

 

「お前にはっ……心という物が無いのかっ!! よくこんな作戦をぬけぬけと!!」

 

 壁に叩きつけられたレジスだったが、変わらず冷たい目をユルゲンに向けていた。

 

「……私を殴って気が済むならいくらでもお受けいたします。ですがユルゲン閣下、お考え下さい。ここは地球連合軍、最後の砦。ここを抜かれれば大都市に侵入され、多くの人が亡くなるでしょう。そして地球連合軍はお終いです。……ここを守れるのでしたら私は如何なる処罰を受けましょう」

 

 レジスは冷たい目だったが、その瞳にはここを守ろうとする強い意志が感じられた。

 彼は非情ではなく、合理的なだけかもしれない。

 

 ユルゲンは腕を振り上げるが、凛とした声に止められる。その声はソフィアさんだった。

 

「……ユルゲン閣下。レジス少尉の言うことは何も間違ってはおりません。ここを重要視していらっしゃるルーカス長官のご意志をお忘れ無きよう……」

 

 ソフィアさんも反対だったはずだ。だがレジスの決意表明を聞いて変わったのだろうか。

 

 ユルゲンはソフィアさんの話を聞いて、振り上げた腕を戻し、レジスを解放する。

 

 未だ不機嫌なユルゲンが席に戻るところに一人の軍人が声を挙げる。

 

「ユルゲン閣下、レジス少尉の言うことは最もです。重要視されてるこの場所をユルゲン閣下に任せたのは信頼されているからでしょう。その信頼を裏切らない為にもこの作戦を取るべきです。そして私に囮をお任せ下さい」

 

 頭を下げる軍人にユルゲンは困惑した表情を浮かべる。

 

「お前がやらなくても……当の本人、レジス少尉にやらせれば……」

 

 だがその提案は否定される。

 

「ユルゲン閣下、聡明な閣下はもうお分かりですよね? 長年戦場で生きてきた我々はその若者一人に及ばなかったこと。これから未来ある若者より、無能な指揮官が囮に最適です。それにレジス少尉じゃ階級が足りなくて、部隊も動かせないでしょう。なら私が適任かと」

 

 穏やかな表情で言う軍人にユルゲンは顔を伏せる。

 

「そうやって……グレートブリテン島でも死にに行った!! なんでそうやって簡単に死にに行けるんだ!!」

 

 手が震え、顔面蒼白となっているユルゲンは分からないと首を振る。

 

「それは、我々はユルゲン閣下に付いてきたのです。ここに居る面々はルーカス長官ではなく、ユルゲン閣下の為に戦っています。

 例えるならルーカス長官は革命家。多くの膿を出してる一方、切り捨てられる人も居ます。ですが、ユルゲン閣下はそんな後ろめたい人でも受け入れて下さった。敵に寝返るかの瀬戸際で悩んでいる人がどれだけ救われたか。だから我々はユルゲン閣下の為なら死ねます」

 

 ここに居るほとんどの軍人が立ち上がり、ユルゲンに向かって敬礼を行う。それぞれの熱い思いが傍から見ている俺にも伝わる。

 

 にしても連合軍内部もまだ一つとは行かないようだな……

 ルーカス長官とユルゲン閣下、もしこの二つの派閥に分かれる事になったら地球連合軍はおしいまいだ。ただでさえ戦力不足なのに、離反者はもうチェックメイトだ。

 

 と最悪の想定をしている間にユルゲンは立ち直ったみたいで、決意を固めた表情をしていた。

 

「お前達の思いは受け取った!! 絶対に死を無駄などにさせん!! 必ずやこの戦いの勝利を勝ち取ろうじゃないか!!」

 

 会場内は今日最大の盛り上がりを見せ、歓声を上げて、そのまま閉会となる。

 

 与えられた部屋に戻る際にソフィアさんに尋ねられる。

 

「ライン、お前はユルゲン閣下をどう見る?」

 

 その質問の意図は何だろう? 分からないから俺は素直に答えるしかない。

 

「はい、聡明かつ、慕われている方だと思います。ですが人一倍、部下の死に対する抵抗感が大きいのかと。軍人としては失格ですが、あの性格ゆえ、多くの部下が付いてくるのだと思います」

 

 かなり批判してしまってこれは怒られるかもと横目でソフィアさんを見るが、特に怒った様子もなく、俺の話を吟味していた。

 

「うん、私も同じ意見だ。優れた方だが、危うさも兼ね備えている。仮にこの要塞ごと裏切るとユルゲン閣下が言ったら全員従うだろうな……まぁ、要するに後ろから撃たれる覚悟もしておけと言うことだ」

 

 その後ソフィアさんとは大した会話も無く、部屋の目の前に着いた。

 

 そこには何処かで見かけた事のある黒髪の坊主頭が見えている。代表直属部隊にはそんな頭は居なかったような……

 

 中に入るとその坊主頭が振り返る。人懐っこい表情と輝く瞳を見て思い出す。

 

「まさか、コウか!?」

「ーーそうです!! 覚えて下さったのですね!!」

 

 日本の時には結構お世話になったからな……

 

「そりゃあもちろん。でも何でここに?」

 

 日本が参戦するという話は聞いていない。一人で家出でもしてきたのだろうか?

 

「はい、柳生さんに言われてラインさんの機体を持ってきました」

「え? 俺の機体?」

 

 俺の為に用意してくれた事に心が震える。個人用に持ってきたというのは中々無いことで、大体が共用だ。

 

 そんな所にグレンが何かを口に頬張りながらやって来る。

 

「お疲れちゃん。ん? この坊やは?」

 

 コウを指で指し示して、聞いてくる。人を指差すんじゃない。

 

「ああ、コウは日本に居たときに俺のお世話をしてくれたんだ。ほんといたせり尽くせりだったよ」

 

 そんな……と照れるコウをお菓子を食いながら見るグレン。

 

「ほう、で? ここに何で居るのかい?」

「それがな、俺の機体だってよ!!」

 

 俺の機体という言葉に1番反応を示す。お菓子を食べる手を止めるほどだ。

 

「え? お前専用機? いつの間にかそんなコネを……」

 

 俺をまじまじと見つめるグレン。そんな見つめるな恥ずかしい。

 

「もう届いてるので見に行きませんか? あの、良かったら一緒にーー」

「よっしゃっ、行こうぜ!!」

 

 俺の手を引いて、ドンドン部屋から離れていく。迷いない進みだが道は分かっているのか?

 

「なぁ、グレン。道は分かるのか?」

 

 俺の声が聞こえたはずだが、振り返らないグレン。暫くすると立ち止まり、振り返る。

 

「そもそも、お前の機体が何処に届いているのか知らなかったわ」

 

 苦笑いするグレンに俺達はずっこけた。

 

 

 

 

 

 結局コウの案内で格納庫に向かう。

 格納庫に着くと、そこには地球連合軍のHAWでは無く、エルス国のHAWが並んでいた。

 そしてその中で一際目立ったのが黒色のHAWに人だかりが出来ていた。よく見るとその機体は雷鳴で、その周りを技術者が囲んでおり、どの技術者達も目を輝かせながら雷鳴を見ていた。

 

「あんまり調べないで下さいよ!! これはラインさんに貸してるという状態で、エルス国に寄与した訳ではないですので!!」

 

 慌ててコウが技術者達の集まりを散らす。技術者としては他国の機体は気になるよなぁ……同盟関係とはいえ、エルス国と日本は他国。エルス国と地球連合軍も同じような関係だ。まあちょっと違う部分もあるが……

 

「だがこれは雷鳴だし、日本の参戦とは取られないか?」

 

 日本は中立と公言してる以上、技術提供、戦力貸与(たいよ)はマズいはずだ。

 

 そんな問いにコウは不敵に笑う。

 

「この機体は日本からエルス国に亡命した兵士が乗ってた物で、武装解除の際エルス国が鹵獲したという設定ですので大丈夫です」

 

 ……師匠が考えたのだろうか……なんともグレーな所を攻めたな。

 

 目の前の黒い機体を見上げる。これからエルス国の緑色に塗られるらしいが、それもなんか寂しい気がする。せっかくの俺の機体なのに。

 

「なぁ、この機体を好きにカラーリングしても良いのか?」

 

 キョトンとした表情のコウだったが、意味を理解したのか頷く。

 

「もちろん良いですけど……やはり敵味方分かりやすくするために緑を基調として下さいね?」

 

 よし、これで俺の専用機だ!!

 自分で好きに色を塗れるのはパイロットとしては凄い憧れで、共用ではない、自分の機体でないと不可能だからだ。

 

 そんな様子を見てたグレンは胸を張って俺の肩を叩く。

 

「ライン、数多の女を落とした俺に任せなさい」

 

 そう言うグレンの顔は今まで見た中で最高に悪巧みをしている顔だった。

 

「いや、させねぇよ?」

 

 そんな顔のグレンにさせるはずも無い。だがグレンは引き下がらない。

 

「なぁ、知ってるか? 機体に女の絵を描くと機体が落ちないっていう噂。かなり昔からあるんだよ」

「へぇ、そうなのか?」

 

 機体を触りながら急に真顔になって言うグレン。

 しかし振り返った顔はとても楽しそうな表情だった。

 

「まあ、今作ったんだけど」

「……」

 

 やっぱりコイツに任せられないなっ!!

 

 結局グレンに全てを任せる事はなく、コウやグレンの意見を取り入れながらカラーリングをしてみた。

 

 緑を基調として、元々の少し黒を残しつむ俺のイメージらしいところどころ稲妻を入れた。

 まあライトニングからだろうな……

 

 俺専用機という事で師匠から貰った新品の雷鳴を好きにカラーリングした達成感に浸った時、気付いた。コイツの武装はどうなっているのかと。

 コウに聞いてみる。

 

「なぁ、コイツには武装は付いてるのか? それとも俺らの武装を転用するのか?」

 

 コウはモニターで各部チェックを行いながら、答える。

 

「雷鳴既存の物が付いています。私意外にも技術者は派遣されてますし、弾薬も逐次日本から送られて来ますが……その内、武装面をエルス国仕様にしようかと考えてます。やっぱりいざという時に弾が無いと使えませんですし……」

 

 カタログを見せて貰うと、この前使ったレールガンも付いていた。

 そしてその他にも多くの武装が搭載されていた。

 

「えーと、左腕の盾を小型化し、ガトリングを装備しました。口径はマシンガンより小さいものの、連射性能は高いです」

 

 牽制用としては十分で、右手でレーザーサーベルを持てるから接近戦の布石になるな。

 

「そして、脚部ミサイルポット。両足、3連の6連式で撃ちきり武装ですが、威力は十分。HAWを木っ端微塵に出来ます。撃ちきったらパージして下さい」

 

 へぇ、脚に武装が付いてるのか。雷鳴だからこそ重量に余裕が有り、出来る芸当だ。

 

「後はこの前の機体と同じですね……レールガンとマシンガン、レーザーサーベルですね。OSはラインさん専用にチューニングするつもりです。後で感度とか調べますので……」

 

 機体を動かす為に必要なOSーープログラムみたいなものを俺に合わせるとかもうホントに専用機だな!!

 

 嬉しすぎて顔がニヤけてしまう。そこをグレンに蹴られる。

 

「ったく、何でお前だけに!!」

「痛っ、うるせぇ、お前にも部下みたいな奴らが居るだろ!!」

 

 前に一緒に戦ってくれた謎の軍団。あの人らはここにきてるのだろうか?

 

 しかしグレンは表情を曇らせる。

 

「……部下じゃないな。あれは家族だ」

 

 “家族”という言葉に俺の心は揺れる。心が痛み、負の感情が流れ込んでくる。それは怒りなのか、寂しさなのか分からない。

 

 ようやく心の痛みが治まると、グレンが申し訳なさそうにしていた。

 

「済まんな……家族の話をしたのは気が利かんかった。俺も家族を失ったんだ……」

 

 グレンから告げられた同じ境遇にまた心が揺らぐ。同類を見つけた気がして、そして同じ苦しみを感じているんだと思うとやるせなくなる。

 

「だがよ、家族と呼べる人達を見つけたんだ。お前もマナンやティナ達と仲良くなれただろう? それはもうかけがえのない“家族”だよ」

 

 珍しく優しい顔のグレン。時折みせる優しさに俺は思わず微笑んでいた。

 

 


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