混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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こんにちは。こんばんは。

ここからは新キャラの視点が多くなって行きます。

9/3改稿



〈2章 ルーカス 革命編〉
2-1 宣戦布告


 -地球連合軍 本部-

 

 机に手を置き、報告書を難しい顔で読んでいる男が居た。

 

(またもや艦隊がやられたか……もはや無視出来ない戦力が存在している事になる。これは俺1人の手に負える問題では無い)

 

 そう男は判断すると立ち上がり、コートを着て部屋を出た。

 向かう先は地球連合軍上層部だ。

 

 

 

 

 

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 ちょうどこの日、定例会が開かれる日であった。

 定例会は地球連合軍本部で開かれる。

 

 会場に向かう廊下はこれでもかというぐらい豪華絢爛である。

 下にはフサフサの絨毯が引かれ、上にはシャンデリア。

 男自身はもったいないと思っているが必要らしい。

 権力を投影させる意味だとか。

 全く男にはその意味が分からない。

 

 そんな事を思いながら歩いていると定例会を行う部屋に着いてしまう。

 

 入り口には門番が居て、男を見るなり敬礼し扉を開ける。

 

 2人とも凄腕の魔法師である。

 この部屋に地球連合国上層部が集まるのだから至極当然だが。

 

 部屋に入ると誰も居なかった。

 

 男は自分の腕時計を見るが、まだ開始まで時間が有る。

 焦る気持ちをおさえて時間を待つ。

 

 時間になるとぞろぞろと上層部の役員達が入って来る。

 役員達は歓談しながら席に着いていく。

 

 入り口から一番奥の正面が地球連合軍最高司令官。

 左右に入り口に向かって、役員達が並ぶ。

 左右に4人ずつ合計9人である。

 

 男には席は無い。定例会のメンバーでは無く、参考人である。

 発言権も、決定権も存在しない。

 情報や状況を説明するのに呼ばれただけであった。

 

 

 

 

 最高司令官のしゃがれた声によって定例会が始まる。

 

 最初は予算の配分やら福祉やら経済の話が始まる。

 だが、どれも共通して言えるのは自分達が不利益を被らないように決めているのだ。

 

 もはや金儲けの会議である。

 福祉に関しても、マスコミ対策であり人気取りである。

 

 男は内心呆れながら終わるのを待っていると、定例会は終わりに近づく。

 

 最高司令官が終わりを告げようするのを男が遮る。

 皆が顔をしかめるが、最高司令官はしぶしぶ発言を許す。

 

「……ルーカス=フォンブライアン大佐、発言権を与える」

「はっ! ありがとうございます!」

 

 ルーカスは敬礼し、状況を説明する。

 

「最近、火星付近に派遣した艦隊からの通信が途絶えました」

「通信障害じゃないのか?」

 

 ルーカスは首を横に振り否定する。

 

「いえ、反応がロストしています。全滅したと思われます」

 

 その答えに役員の一人が立ち上がり声を荒らげる。

 

「全滅!? ……バカな。宇宙一最強な地球連合軍艦隊だぞ! 今まで苦戦したこと無いんだぞ! ありえん!!」

 

 こんな大声に対してもルーカスは冷静に努める。

 

「……これは事実です。すでに戦艦3、護衛艦8、戦闘機多数失って居ます」

「まさかこんな事が有るのか……」

「いやはや信じられん……」

 

 役員達は互いに信じられんと呟く。

 

 そんな役員達の呟きをよそにルーカスは本題に入る。

 

「私の範囲内で調査しましたが全く相手の全容が分かりません。なのでどなたかのお力添えを承りたくお願いしに参りました。どなたかお願い致します」

 

 ルーカスはこんな奴らに頭を下げたく無いが、力を借りなければ勝てない事は明白だった。

 もはや自分の動かせる戦力はほとんど無い。

 だから頭を下げてまでも戦力が必要なのであった。

 プライドを必死に抑え、頭を下げ続ける。

 

 だが役員達はお互いに押しつけあうだけであった。

 

「アナタが行けばいいでしょう」

「いやいや、私の部隊は再編したばかりでまだ戦いには……アナタが適任だと思いますが」

「私の部隊は旧式ばかりで……」

 

 もはや誰もが行きたくなかった。

 ルーカスが諦めたそうになった時ーー

 

 1人の男が名乗り出た。貫禄が有り、その目は自信満々だ。

 

 この名乗り出に皆すぐに賛同し始める。

 

「おお、エドモンド中将殿か。これは最適ですな」

「ええ、エドモンド中将殿ならば無敵ですな」

 

 賞賛されたエドモンド中将は自信満々に声を高々と宣言する。

 

「皆さん、賛同ありがとう。私の艦隊は無敵無敗を誇る艦隊であり、最大の艦隊である。もはや地球連合軍最高の艦隊である。

 そんな私が全力を持って徹底的に潰そう! もはや地球連合軍に正面切って戦うのと同じ!! 我々の勝利は揺るがない!! 皆さんはごゆるりと休まれよ」

 

 会場に称賛の拍手が響き渡る。

 

 拍手が鳴り終わると同時に閉会される。

 役人達はぞろぞろと出て行った。

 

 そんな中、ルーカスはエドモンドに感謝の意を申し上げようと近づいた。

 

「エドモンド中将閣下、ありがとうございます」

 

 ルーカスは深々と頭を下げる。

 だがエドモンドの反応は冷たい物だった。

 

「別にお前の為にやるわけでは無い。これは我が艦隊だけでやる。お前は地球で見ていろ」

 

 頭を下げているルーカスをよそにエドモンドはルーカスを鋭い目で一瞥し、去って行った。

 

 エドモンドが部屋を出て行くとルーカスはゆっくりと顔を上げる。

 

(奴の動機も功績を上げる為だろうが、これは最良の事態だ。地球連合軍最高の艦隊が戦うのだ。上手く行けば、相手を殲滅。どんなに悪くても相手の戦力が分かる)

 

 顔を上げたルーカスの顔はしたり顔だった。

 

 

 

 

 

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 -火星付近 エドモンド艦隊-

 

 エドモンド艦隊は一死乱れない陣形で進んでいた。

 編成は輸形陣。

 旗艦を中心に円を描いていた。

 

 戦力は戦艦7、護衛艦10の大艦隊であった。

 どの艦も最新鋭の装備を付け、兵士達も自信満々であった。

 

 そんな中、一際大きい艦があった。

 旗艦のプロビデンス。

 設計段階から旗艦用に作られ、他の戦艦より多数の防衛火器、多数の戦闘機を搭載可能だった。遠くからも一目で分かるぐらい分かりやすい旗艦であった。

 

 もちろん狙われ易いが、装甲、火力、航続距離共に最高レベルである。むしろ相手を返り討ちにしていた。

 

 更にプロビデンスには特殊装備が搭載されていた。

 レールガンである。

 レールガンは電位差のある二本の電気伝導体製のレールの間に、電流を通す電気伝導体を弾体として挟み、この弾体上の電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用によって、弾体を加速して発射するものである。

 

 要するに、既存の兵器より高威力、高弾速であるという事だ。

 

 これを装備したプロビデンスは最強の戦艦と言えるだろう。

 そんな戦艦に乗っているエドモンドは上機嫌だった。

 

「早く出てこないか。我々の艦隊が直ぐに捻り潰してやるのに」

 

 だんだんイライラして来たのか、肘掛けを人差し指で何度も叩く、エドモンドに朗報が来る。

 

「閣下! 正面に所属不明艦隊発見! 戦艦3、護衛艦3を確認!」

「ほう、なかなか戦力があるじゃないか。だが我々の勝利は全く揺るがん! 殲滅してやれ」

 

 部下に指示を出すエドモンドに通信が入る。

 

「所属不明艦隊から通信です!」

「何!? ……そうか怖じ気づいたか」

 

 にやけるエドモンドの目の前のモニターに映し出される。

 ユーリ達だ。

 

「我々は火星独立軍。地球連合軍上層部に繋いで頂きたい」

「火星独立軍? ……いつの間にか独立してるんだか……俺はエドモンド中将。俺が上層部だと言っても過言では無い」

「では、アナタに伝えよう。我々、火星独立軍は地球連合軍に宣戦布告する」

 

 それを聞いたエドモンドは笑い出す。

 しばらく笑い、落ち着いたエドモンドは返答する。

 

「全く、その程度で宣戦布告とは……良いだろう宣戦布告を受けてやろう。だが今から全滅するのだ。圧倒的にな」

 

 エドモンドは自信満々にユーリ達に問いかける。

 だがユーリ達は淡々と返答する。

 

「では、遠慮無くやらせて貰おう」

 

 この言葉を最後に通信が途絶える。

 多少不機嫌なエドモンドは部下に指示を出す。

 

「全機発艦させろ! 一瞬で方を付けてやる!」

 

 その指示通り、艦隊全ての戦闘機が発艦する。

 合計180機だ。

 この数の戦闘機が飛ぶのは圧巻だろう。

 

 そんな中、副官が許可を求めて来る。

 

「閣下。奴らの宣戦布告を上層部に報告してもよろしいでしょうか?」

「好きにしろ」

 

 副官の問い掛けには興味は無く、戦闘機の発艦の様子に夢中なエドモンドであった。

 副官は上層部に報告する。

 

 戦闘機が180機に対しHAWは30機で対抗する。

 

 6:1である。もはや勝敗は見えてるように見えた。

 地球連合軍だけには。

 

 しかし現実は真逆だった。

 前回の戦闘を踏まえ、HAWは左手に盾を装備していた。

 盾を構え、戦闘機を次々と落として行く。

 

 それをモニターで見ていたエドモンドは呆然とする。

 

「な……何なんだこれは……俺の戦闘機が……次々と落とされて行く……」

 

 5分も経たない内に戦闘機部隊は全滅する。

 HAWは次なる獲物……艦隊に向けて進行してくる。

 

 しばらく呆然としていたが副官の呼びかけで我に返る。

 

「はっ!? ……全艦対空戦闘用意! 一機もうち漏らすな!」

 

 全艦が対空戦闘を準備し始める。

 ファランクスを四方八方に向け、主砲も旋回し始める。

 

 エドモンドが手に汗握っていると、HAWが射程内に入る。

 それと同時に全艦が一斉に火を吹く。ドンドンという振動は更にエドモンドを不安にさせる。

 

 だが現実はその苛烈な火線で次々とHAWを撃破していった。

 

「良し! 流石我が艦隊だ! このまま殲滅してやれ!」

 

 火を噴いて落ちていくHAW。

 だが味方がやられている隙にドンドン迫っていった。

 

 そしてとうとう喰らいつかれる。

 

「護衛艦サイン大破!」

「護衛艦アルバ沈没!」

「戦艦ナタリー航行不能! 総員退官します!」

 

 次々と味方艦の損害が報告される。

 その部下の声は悲鳴のように報告する。

 

「護衛艦ラガーから救援要請! ……ラガー沈没!」

「戦艦タフィー艦橋に被弾! 戦闘不能!」

 

 エドモンドが次々と舞い込んで来る被害報告に呆然している間にも次々とやられていく。

 

 そして、プロビデンスにもHAWがやって来る。

 

「敵、3機接近! 迎撃開始します!」

 

 プロビデンスの対空火器が全力で唸る。

 

 ジグザグとHAW達は回避行動を始める。

 プロビデンスが放ったレールガンが盾ごと貫通し、一機撃破する。

 

 艦内が少し湧き上がる。

 

 だがHAWのマシンガンが火を吹く。

 ファランクスや主砲に命中し、爆発する。

 

「5番、9番砲塔被弾! ファランクス11、13、14、17、22、25、番使用不可!」

 

 そして敵の接近を許してしまう。

 

 艦橋の目の前に立ちふさがるHAW、銃口を向けられる。

 艦橋に居た全員が死を覚悟したーー

 

 

 

 

 

 だが目の前のHAWがいきなり爆散した。

 隣の戦艦のフローラの援護である。

 

「おお! フローラよ! 良くやってくれた!」

 

 エドモンドはフローラを絶賛する。

 しかしその直後フローラは爆散した。

 

 その爆風からHAWが5機も出て来た。

 

「なっ……」

 

 エドモンドが驚いている間に集中放火を受け、プロビデンスは爆発した。

 

 

 

 

 

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 -戦艦 マルケス-

 

 目の前でプロビデンスが爆散した。

 もはや戦況は一方的だ。

 

 味方艦がこれだけやられたが相手の損失は7、8機。

 まだ火星側の戦力は十分だ。

 

 もはや勝ち目は無かった。

 マルケスの艦長は決断する。

 

「全艦に告ぐ。もはや我々に勝ち目は無い。全艦全速力で退却せよ! 本艦が殿(しんがり)を努める!」

 

 殿とは敵の注意を一手に引き受け、味方が退却するまで最後まで残る事である。

 もちろん危険な役目である。

 

 艦長以下マルケスは殿を志願した。

 各艦から感謝の通信が入る。

 

 マルケスを除いた艦は全速力で戦線を離脱する。

 

 もちろんHAWは撤退する艦隊を追撃しようとするが、マルケスはちょっかいを出し、注意を引く。

 

 HAWが回避行動に移る間に各艦は戦線を離脱する。

 

 追撃を諦めたHAWはマルケスに集中放火を浴びせる。

 マルケスは一瞬で爆散した。

 

 

 

 この戦いで地球連合軍は戦艦7→3 護衛艦10→5という大損害を受ける。

 戦闘では部隊の1/3を失うと惨敗という目安が有る。

 地球連合軍は戦闘機全滅、艦隊の50%以上の損害とエドモンド戦死という壊滅的損害を受けた。

 

 それに対し火星独立軍はHAW30機中8機損失、10機大破という損害を受けたが艦隊は全く無傷だった。

 

 

 

 ここに火星独立軍の大勝利に終わる。

 

 


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