混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
グレンが持ってきた紙にはその日の18時に会議室に集合と書いてあって、時計を何度も見ても18時半を回っている。
グレンに一発拳を入れたが、それで済む話ではない。とりあえずグレンを引きずって、会議室に向かう。肉体強化を使えば簡単に担げるが、あえて俺はしない。
流石に引きずられるのは嫌なのか、自分で歩くグレン。
「大丈夫だって。俺らはアカデミーの上位勢だぜ?」
呑気な様子なグレン。しまいには人生はゆっくりと楽しむもんだと言い始める始末。
「馬鹿野郎!! そもそも集合時間に遅れるというのは相手に無駄な時間を使わせるんだぞ!! 相手との関係が対等だったとしても同じ事だ!!」
例え立場が向こうが下だとしてもそれは無駄な時間だ。待たせるならあらかじめ伝えるか、時間を変えるか。
「そう、カツカツするなって。戦闘以外でカツカツしても疲れるだけだぞ」
大きなあくびをしながら答えるグレン。
よくそこまで呑気で居られるな。
グレンがここまで自由気ままで軍に所属してられるのはグレンの実力が高いからだ。試験でも見せた様々な謎の力。未だに解明されてない力で本人も明かすつもりは無さそうだ。
またグレンが率いるの謎の軍団も理由の一つだ。我々と共闘したが、あれ以降戦場に出たという話は聞いていない。だが実力は確かだ。
という風にグレンには余裕が有るが俺には無い。だから余裕しゃくしゃくになんかになれない。
で駆ける俺に対してグレンは溜息を付いて俺を追い掛ける。
「申し訳ありません。遅れました」
会議室のドアを開いて、第一声で謝りながら、入るとそこには重い雰囲気が漂っていた。
顔を上げるとこちらを射殺すような視線で見つめる男や目をつぶってる者や眉間にしわを寄せてる者等、ほとんどが不快感を示していた。
「ほう、今年の新人は教育がなってねぇな?」
「何処の馬の骨か知らねぇ新人も居るようだな」
「日本で活躍したからって調子乗ってんのか?」
と多くの愚痴が噴出する。
そんな中、グレンは挑発的に睨み返す。
「新人だからと言って、ここまで言うか? ここの程度が知れるな」
馬鹿にするかのように鼻を鳴らすグレンに怒り狂った者達は立ち上がる。
「お互いにそれまでにしろ!!」
凛とした声で両者を止めたのは最前列に座っていた女。黙っていても凛々しさを感じられるたたずまい。ゆっくり立ち上がると両者を睨みつける。
「お前らも新人いびりもほどほどにしろ。……君も挑発的な言動は慎め」
両者共にその女の言葉を聞いて静まる。グレンも素直に聞くとは不思議だ。
「……余興は終わりだな? 新人二人は空いてる席に座れ。会議を始める」
空いてたの一番後ろの席。会議室は広めなので、100人居てもそこまで遠くない。
俺達が座ったのを見て、女は話を始める。
「新人も入った事だし、先ずは自己紹介から行こう。私は代表直属部隊、代理指揮官、ソフィアだ。組織上の指揮官は代表と副代表だが、実際は私が指揮を取る事がほとんどだ。代表や副代表は全体の指揮を取られるからな」
この女性がエルス国最強の部隊を率いているのか……これだけ多くの荒くれ者?達を率いれるのか?
だが、それは杞憂に終わった。その後、ソフィアさんの的確な指示に素直に従う野郎達。黙って従うのは信頼してるのが取れる。
盲目的に従っている可能性もあるが、それは面々の表情を見れば分かる。誰もが納得して動いている。
そのままソフィアさんの一方的な指示で会議は終える。
バラバラと解散する中、俺達に残れと言う。
ソフィアさんは俺達を見比べると面白そうに笑う。
「今年の新人は見事に特徴的だな。アカデミー時代から話題に尽きない謎の男、グレン。日本独立作戦の立役者と噂のライン。そしてどちらも実戦慣れしているとアカデミー卒業生とは思えないな」
ソフィアさんは俺達の体を舐め回すように見る。わざとだと分かるのだが、不快だ。
長らく俺らを見て満足したのか、やっと離れるソフィアさん。だが表情は妖しげだ。
「ふむ……二人とも良い体してる。どうだ? 一戦やらないか?」
わざとらしく妖しく言う。もちろん性的な意味は無いが、周りには無い大人の魅力に不覚にもドキリとする。
一方、手慣れているグレンは同じように妖しい笑みを浮かべて答える。
「貴女様の気が済むまでお相手しましょう。何戦でも。夜は長いですから……」
そう答えるとソフィアさんはおおきく笑い出す。
「アッハハハハハハ……グレン、完璧な返しだ。にしても二人は両極端な反応だな。そんなお前らは何故連んでる?」
何故って俺にも分からない。腐れ縁だが、それだけじゃ理由にはならない。
と戸惑っている内にグレンが答える。
「んー、コイツとは腐れ縁だけどそれだけじゃ無い。コイツと居ると面白くなりそうだからだ。俺の勘は良く当たるぜ?」
へへっと無邪気に笑うグレン。
面白い理由だな。だが悪くない。
「ライン、お前はどう思う?」
グレンの答えだけじゃ満足しなくて、どうやら俺も答えなければいけないようだ。
「グレンは一見お調子者に見えますが、やるときには頼りになる男です。最も信頼出来ない男だけど、最も信頼出来る仲間です」
最も、は言い過ぎな気がしたが、それだけグレンの事は信頼していた。謎が多い男だが、一度も裏切ったことは無い。卒業試験中の戦いで裏切れば大功を得れたの間違いない。それほど緊迫した戦いだった。
俺の答えに両者ニヤつく。正直に答えた俺が恥ずかしいじゃないか。
「いやーそれほど、俺の事が好きだったとは……夜空いてるぜ?」
「ほう、それはそれは邪魔してはいけないな。二人でじっくり楽しむように」
俺の事をチラチラ見て、キャーッとか言いやがって、男がやっても気持ち悪いぞ。
面白そうな視線を向けてくるソフィアさん。いやそんなことにならないから。
ソフィアさんが出て行くとグレンがおもむろに近付いてきて耳元でささやく。
また悪ふざけかと思って、グレンに一発入れようかと思ったが、グレンの声は真剣そのものだった。
「お前が更なる高みを目指すというのなら俺は手を貸すぞ」
ーー高み!?
どういう事だ!? と聞こうとしたが既にグレンは部屋を出ていた。