混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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遅れて済みません。今週も忙しくて……来週は今の所空いてるので、間に合いそうです


14-3 懐かしい敵

 

 変な格好の侵入者は4人。それぞれ違う模様の仮面を被り、身体は紫色のコートで覆っている。

 体格はまばらだ。高身長のガタイのいい奴も居れば、小柄な奴も。それに女もいるみたいだ。コートで詳細な体格や得物は分からないが、それぞれ特徴が違う気がする。

 

 ドアを蹴破る時点で敵意があり、魔法師。ガタイのいい奴なら魔法を使わなくてもやれる可能性はあるが、蹴破ったのは目の前の普通の男。

 

 また今は昼間ゆえ、俺以外誰も寮には居ない。確実に俺を狙いに来ているという事だ。

 だが、狙われる理由が分からない。確かに何度も戦っているが、わざわざ敵国に乗り込んでまで、始末するほどなのだろうか? ここまで上手く行くのなら代表でも暗殺した方がエルス国には大打撃だろう? 

 

 まあ、そんなことに答えてくれるはずも無く、そのまま戦闘開始になる。

 

 敵は4人。戦闘タイプは分からないにしろ、数は不利で包囲されるのはマズい。狭い室内ではやりたくないが、ここでなら包囲されない。

 

 武器やAMAは無いが、誰か来るまで時間を稼ぐ。室内に居れないため、先手を取る。

 

 ドアを蹴破って男に右ストレートをお見舞いするが、半身で避けられる。だがそれは想定内。左手で男に向かって詠唱する。

 

「ファイヤーボール!!」

 

 敵に命中し、爆発音と爆炎が室内を駆け巡る。

 

 詠唱が早く、手早く火力が出せるファイヤーボール。対人には十分な威力だ。

 

 敵がAMAを付けていてもゼロ距離で撃ち込んだ魔法を受けたら流石にダメージは負うはずだ。俺も気で体を強化してなかったら痛手だった。

 

 炎が消えると、そこには無傷の男が何事も無かったように立っていた。

 

「馬鹿な……」

 

 思わず、口から言葉が漏れてしまう。

 初歩的な魔法のファイヤーボールだが、威力は中程度。AMAでも防ぎきれない。もちろん弾速が遅いなど短所もあるが、威力だけはそれなりにある。

 

 あり得るとしたら相当な高速詠唱かノエのようなプロテクト。もし俺のような肉体強化ならコートは燃えるはずだ。だがコートにはススすら付いてない。

 完全に俺の魔法は防がれたようだ。

 

 そんな完全な防御を見せた男だが、そこから動かない。逆にガタイのいい奴が飛び出してくる。

 

 得物は使わないようで、肉体強化らしい。

 ガタイは負けているが、俺には動の気がある。

 

 正面からぶつかっても負けない俺の体。それに気付いたらしく、戦い方を変える男。力だけでは無く、様々なフェイントや突如の足払いなど攻撃の種類に長けていた。

 俺は何とかすれすれの所で避けれたり、防げている。

 

 脳筋かと思えば、近接のスペシャリストだ。剛から柔もこなしている。これは避けるだけで精一杯だ。何とか距離を取らなくては……

 

 と思っていたら向こうから距離を取ってくれる。何故だ? 決め手が無いと思ったのか?

 

 そして次に前に出たのは女らしき人。これはまさか、タイマンを楽しんでいる?

 

 女も近接戦が得意らしく、猛スピードで接近してくる。そのまま突っ込んで来ると思いきや、突如、真横に跳躍する。あり得ない。真横に跳躍するにはスピードを一気に殺して、一気に加速だが、それを出来る人は見たことが無い。ノエや師匠でも不可能だ。

 

 予備動作の無い動きに俺は一瞬混乱するが、仲間に似たような奴が居た。だからこそ対処は出来そうだ。

 こういうタイプはかく乱するように動くが、最終的には直線の動き。だから最後だけに集中すれば良い。全てを一手に……

 

 全ての力を次の一撃に込める俺に女はかく乱を辞めて、距離を取る。コイツも様子見……

 

 そして残ったもう1人の小柄の男は懐からサブマシンガンを取り出す。

 今まで魔法師と来て、ここでただの銃撃だと味気ない。これも魔法のエンチャントによる銃撃だろう。

 

 あらかじめウォールシールドを展開しておく。これでただの銃撃なら防げる。

 

 そしてエンチャントの銃撃ならーー

 

 発砲音がけたたましく鳴り、銃弾が放たれる。

 

 そして案の定、ウォールシールドを貫通した銃弾を気の盾で防ぐ。

 風のエンチャントは魔法で出来てた物を貫通出来るが、気は魔法じゃない。

 俺の前でポトポトと銃弾が落ちる。万能な気の盾だが、かなり集中しないと出来ない。

 

 そう、今の(・・)俺なら出来る。

 もう1人の俺よ、力を貸せ。だけど、体は渡さんぞ。

 さっきまでの動揺が消えて、くっきりと情報が目から、鼻から、耳から入ってきて、多くの情報が頭で整理される。

 それと同時に闇が俺を襲うが、大したことない程度の闇だ。やはり今は激しい感情を持ってないからだろうか。

 

 弾を撃ちきると、それ以上攻撃してこない小柄な男。

 コイツも様子見……やはりコイツらはーー

 

「それ以上攻撃してこないのか? それともこれが本気か?」

 

 と挑発して見るが、大柄な男以外は大して変化は無い。

 大柄な男は苛立ちが少し感じられる。

 

 ……これで確信した。

 

 俺は拳を下ろし、全員に聞こえるように言う。

 

「仮装大会は気が済んだか? お前ら」

 

 最初に入ってきた男に微笑み掛ける。

 

 するとその男は仮面を取る。そこには見知った男ーーグレンが居た。

 

「ほう、何処で気付いた?」

 

 興味津々な目線を向けてくる。

 

「そりゃあ、それぞれの特性が似てんだよ。最初から順番に、グレン、アーロン、ティナ、マナン」

 

 名前を呼ばれるとそれぞれ仮面を外す。そこには満足げな表情を浮かべていた。

 

「流石だね!! ライン!!」

「お帰り。にしても強くなったわね……」 

「けっ、少しは強くなったみてぇだな」

 

 それぞれの反応を見せるマナン達。

 その中でも特にグレンは嬉しそうだ。

 

「いやあ、見間違えたわ。あの体制から咄嗟にゼロ距離で魔法からの、自爆はしないと。日本でかなり学んだみたいだな」

 

 師匠に教わった気は本当に凄い力だ。戦闘能力の底上げから、集中力、探知能力、と魔法と組み合わせると他の人より簡単に強くなれる。

 

 といっても簡単に習得出来る物では無いらしいが、俺は師匠のおかげで一カ月そこらで習得出来てしまった……恵まれた環境と運に感謝だ。俺が早く習得出来たのはもう1人の俺のおかげでもある。その代わり、前に出てくるようになったが……

 

「ああ、いい人に会ってな。その人に色々教わったんだ。代表には感謝だな」

 

 だが他の面々は首をかしげていた。

 

「代表に感謝とはどういう事かしら?」

「ラインは飛ばされたんじゃないの?」

 

 ティナとマナンが顔を見合わせる。

 

 ああ、そうか。公には左遷となってるのか。

 

「いや、左遷は建前で、俺は日本に遊びに行ってたんだが、そこで色々あって、日本独立戦線に参加して日本を独立させたんだ」

 

 そこまで話すとマナンが感嘆の声を上げる。

 

「凄い!! 独立はラインのおかげだったの!?」

 

 マナンはもっと聞かせてと言わんばかりだ。

 それに対してティナは疑いの目を向けている。

 

「流石に全部ラインがやったわけじゃないでしょ……でもそこにある日本政府の証明書が有るからにはそれなりの働きはしたみたいね」

 

 俺の部屋に入ってテーブルにある証明書を見て頷いてるティナ。

 

 一方、グレンはアーロンに尋ねていた。

 

「お前から見てどうだった? ラインの動きは」

「ふんっ、良い動きはしている。前とは別人のようだ」

「ほんと、別人(・・)のようだな」

 

 俺を見るグレンの視線は何処か含みが有るようだった。

 

 

 

 

 

「そういえばドリーは?」

 

 ドリーの代わりにグレンが居るから気付かなかったが、ドリーが居ないことに気付く。

 

 マナンは俺のキッチンで料理をしながら答える。

 

「ドリーはオークランドに行ってるみたいよ」

「で、何でお前らは休みなんだ?」

 

 それにはティナが答える。

 

「私はたまたま非番。マナンは無理矢理休んだみたい。アーロンは知らないけど、グレンはどうせサボりでしょ?」

「お、正解!!」

 

 ハハハと笑うグレンにティナがデコピンをお見舞いする。

 

 相変わらずだな、グレンは。

 

「わざわざありがとな。そういえば、俺が居ない間にアカデミーは卒業したんだろ? 皆、何処に配属になったんだ?」

 

 これにもティナが答える。

 

「まぁ大体予想通りよ。この馬鹿は代表直属。他は魔法科連隊よ」

 

 酒で良い気分となってるグレンが代表直属!? アホづらなのに……

 

「まぁ、アカデミーで成績上位だったから何となくは察したんだけど、この馬鹿を目の前にするとね……」

 

 忌々しくグレンを睨むティナ。グレンは怖い怖いと言いつつ、ニヤリと笑ってる。

 

「ああ、ライン。そういえば、お前にも来てたぞ~」

 

 ポケットからクシャクシャの紙を取り出す。綺麗に保存しろよと思いつつ、中を読むと思わず手から落としてしまう。

 

「どうしたの?」

 

 と心配するマナンは俺の落とした紙を読む。

 

「えー何々? ライン・グレスは以下の配属とする。……えっ!? 代表直属!? 凄い!! おめでとう!!」

「ええっ!? ラインが代表直属!? ちょっと見せて!!」

 

 ティナはマナンから紙をひったくると穴が空きそうなほど見つめる。そして目を離した時には落胆していた。

 

「嘘じゃない……ラインにも負けるなんて……」

 

 俺達とライバルのように競っていたから悔しさはあるのだろう。

 

「俺も何でかは分からん……」

 

 一応指揮官科には所属してたけど、必ず入れるとは限らないのが代表直属。

 代表直属部隊はその名の通り、代表直轄の部隊で、指揮権は代表、副代表にしか無い。そしてメンバーは100名ほどの少数精鋭。エルス国防軍から選りすぐりの戦士達が集まっている。その戦闘力は小国に匹敵するとかしないとか。

 

 そんな凄いところに配属されたという事は実力が認められたという事だ。

 

「同僚、よろしくな?」

 

 怪しい笑みを浮かべるグレン。嫌な予感しかしない。

 

 テーブルに置かれた紙をマナンが再度手に取ると、悲鳴を上げる。

 

「ら、ライン!! これ……これには今日18時に集まれって……」

「あ、そんなこと言ってたな……てへっ」

 

 時計を見ると時刻は既に18時を回っている。

 てへっ、じゃないよ!! これ、初日から遅刻だよ!!

 

 とりあえず一発グレンを殴ってから寮を飛び出す。

 


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