混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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新章に入ります。ここからは大局が大きく動きますので世界情勢がちょこちょこ入ると思います。


〈14章 ライン 新たな幕開け編〉
14-1 火星独立軍の一手


 

 火星独立軍が打った次の手は最新鋭機の投入であった。

 

 地球連合軍よりもHAW開発で先駆けている火星独立軍は次々と新兵器を開発していたが、それらは工夫を凝らした派生機やHAWモドキであり、コストは抑えられていた。

 

 ユーラシア大陸を制する大きな勢力の火星独立軍が何故節約しているのかというと多くの軍事企業が非協力的だったからだ。皆HAWという新兵器のおかげで勝っていると考えているのだ。だが、地球連合軍がHAWを配備してからも地球連合軍の劣勢は変わらなかった。

 

 それを見たユーラシア大陸に存在する軍事企業は火星独立軍にこぞって媚を売り始めた。そう、次なる王はユーリだと判断したのだ。

 

 多くの軍事企業の協力や資金を集めた火星独立軍は高性能機セイバーに匹敵する高性能機を開発し始めた。コストを度外視して。その先行機がアラスカに投入された。

 

 

 

 

 

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 -アラスカ方面 本部-

 

 管制塔から眺める外も今日も相変わらず吹雪いていた。セイバーも雪コーティングされており、雪対策は万全だ。

 視界が雪のせいで悪く、レーダーだよりなのは辛いところで、レーダーが誤作動してたら一環の終わりだ。

 

 そんな時、突如閃光が走り、格納庫が火柱を立てる。

 そして爆音と共に重い振動が地面を走る。

 

「何だ!? 来襲か!?」

 

 そう言ったのも束の間、目の前に白銀のHAWが現れた。セイバーは白にコーティングされているーー

 そのまま男の意識は飛んでいった。

 

 そして奇襲された地球連合軍はスクランブルをかけ、迎撃する。

 

 目の前に白銀HAW。見たことも無い色と形の機体だ。

 

 その機動性はセイバーを凌駕していた。そして武装も大型の砲身を装備していた。

 

「何だ、あの砲身は……まさか」

 

 砲身が光ったと思った時には味方の機体が一撃でやられていた。

 推測だが、あれはレールガンだ。

 

 敵は10機ぐらいで侵入していて、こちらは50機以上で応戦していた。

 

 圧倒的数で殲滅出来るはずが、奇襲の混乱と敵の技量の高さによってじりじりと負けていた。

 

「まさか……アラスカ方面軍がたった10機の新型に負けるというのか……」

 

 そう呟いたのも束の間、炎が自分の身を包んだ。

 

 

 

 

 

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 -白熊 視点-

 

 アラスカ方面の本部を奇襲した新型の中に白熊が居た。

 日本での敗北の汚名返上の為、新型への搭乗を志願した。あの時負けたのは機体性能差だと思いたい。

 

 それを実証する為に、この新型ーーイルⅡに搭乗した。そして実際に戦闘してみると何という事だろうか。あれだけ高性能機だと思っていたセイバーが遅いと感じる。

 イル・アサルトも早かったが、セイバーには及ばなかった。だがイルⅡならば超えられる!!

 

 2本のレーザーソードを抜いて、向かってくるセイバーにはマシンガンで誘導し、肩のレールガンで撃ち抜く。

 これならラインが使っていたのと大して変わらん。

 一撃でHAWを落とせるとは時代も変わった物だ。ラインが使っていた物よりは大型化、固定武装となってしまっているが、それらの不便さも威力が全てをかき消している。

 

 新兵器、レールガンとイルⅡの性能と乗っているパイロットの技量で火星独立軍は押していた。

 

 そして何度も猛攻を耐え抜いたアラスカ方面本部だったが、たった10機で陥落しようとしていた。

 

 地上では逃げ惑う多くの兵士が見て取れる。ここは難攻不落と呼ばれた基地で、アラスカ方面への最後で唯一の基地が陥落するとは誰も考えてなかったのだろう。

 

 敵の兵士ではあるが、無抵抗。撃つには忍びないと思い、銃口を下げるが、そこを味方が躊躇わずに撃つ。

 断末魔がコクピットまで聞こえてくる。

 

 味方に怒りを覚えたが、ここは戦場。敵を撃つことで何故怒られるなくてはいけないのか。そう反論されては何も言えない。

 醜い戦いこそが戦争という物なのだ。

 

 呆気なく陥落するアラスカ方面本部を遠目で見ながら、強くラインとの再戦を望んでいた。

 

 

 

 

 

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 アラスカ本部が陥落したという報告は日本に居た俺にも届いていた。これから事態が大きく動き出すのは明白だ。

 

「師匠。これはマズいことになりましたね……」

 

 黙々と書類に目を通す師匠に話しかける。いかにも話しかけるなという表情をしているが、これは別に怒っているわけじゃない。慣れない事務作業に疲れているだけだ。

 

 その証拠に直ぐに返答が返ってくる。

 

「……そうだな。均衡していた各戦線が崩壊するのは間違いない。だが地球連合軍も黙って見ていた訳では無いだろう。……しかし我々もエルス国も身の振り方を決めるべきという事態になるかもしれんな」

 

 俺の方を一瞥した師匠。まさかエルス国ってバレてる?

 

「あの、私の出身とかについては聞かないのですか?」

 

 すると師匠は半笑いで返してくる。

 

「お前が何処の出身だろうと構わん。お前は俺達と共に戦ったんだ。それだけで十分だ」

 

 全面の信頼に目頭が熱くなる。ここを離れたくない。でも俺には向こうに待ってる人達が居るんだ。

 

「師匠、実は私はエルス国の出身です。だから戻らないといけません。これから更なる動乱へ向かう気がして……」

 

 師匠は手を止めて、俺の顔をまじまじと見る。

 

「なるほど……この感じはあの人のか。ようやく確信した。お前はブライス代表に言われてここに来たな?」

「何故それを!?」

 

 俺が脱走してきたという可能性もあるのに、見事に当てる師匠。流石だ。でもなぜ分かったのだろう。

 

「それはだな、わざわざスパイとして送り込むには間抜けで、目立つ外国人だからだ」

 

 間抜け……ヒドい……

 俺のしょぼくれた顔を見て笑う師匠。からかったのか!!

 

 師匠はニヤつきながら話を続ける。

 

「悪い悪い。でだ、スパイで無いなら脱走兵という可能性だが、我々に協力をするのは可笑しい。戦争が嫌なのに戦うか?」

 

 確かに戦いが嫌で逃げてきたのに戦うのは可笑しい。

 

「そして最後に思い付いたのはノープランだ。何にも考えずにここに来た。だから刑事に怪しまれるわけだしな」

 

 く、今日師匠ドSじゃないか?

 

「で、お前の格闘術、魔法とどちらもエルス国の物だ。これからは使う時には気を付けろ。そしてわざわざここに行かせたのはブライス代表の意向だろう。あの人には一度だけあったことある」

 

 ブライス代表と師匠が知り合いなんて意外な繋がりだ。だから日本に行かせたのか……

 

 俺が日本で学んだ事はもう1人の俺が存在すること。その俺は冷酷非情であるが、その戦闘スキルはかなり高い事。だがソイツに頼ったら最後。もう戻って来れないかもしれない。

 だから俺は自分でどうにかしないといけない。ソイツがいくら囁こうとも俺は頼らない。それをこの1か月修行したんだ。

 

 意志を固めていると師匠は話を続ける。

 

「ブライス代表は神速の英傑、と呼ばれていたな。今では衰えているが最盛期なら俺にも勝てるだろう」

 

 どんだけ強いのだろうか、ブライス代表は。

 

「それはさておき、お前はここに来た意味があったか?」

 

 先程とは違い、真剣な顔になる師匠。

 

「はい、師匠やアリサに会えて、俺は何のために戦っているのか再認識出来ました。また自分の実力はまだまだ足りないとーー」

 

 その言葉の途中で俺の肩に手を置いた師匠は満足そうに微笑む。

 

「それだけ分かれば十分だ。胸を張って帰国しろ」

 

 そう言って俺を執務室から追い出したのだった。

 

 

 

 その後帰国の途に付こうとしていた俺はアリサと面会する。

 

「帰国しようと思う。色々とありがとうな」

 

 まだ車椅子のアリサは寂しく笑う。

 

「……懐かしいね。ラインと会ったのがちょっと前なのに、凄く寂しく感じる。まさか本当にラインが救世主になるとは思わなかった」

 

 あの時、アリサが助けてくれなかったら俺は刑務所で日本を楽しむ事になってたかもしれない。運が悪ければ殺されてた可能性もある。

 

「いやいや、こちらこそありがとう。あの時、アリサに助けて貰わなかったら日本を満喫出来なかったよ」

 

 改めてお礼を返す。するとアリサは近付いてきて、俺にしゃがむよう要求してくる。何だ? と思いながらしゃがむとほっぺに暖かくて柔らかい感触を感じた。

 咄嗟に判断出来た。ほっぺにキスをされたと。

 

「ふふっ、救世主様に感謝の気持ちを伝えたの」

 

 小悪魔のように微笑むアリサはとても嬉しそうだった。

 

 

 

 さて山口とはちょっと話しただけで会話は終了し、コウはとても寂しがっていた。エルス国に来ないか?と誘ったが強くなってから行きます!!と言っていた。師匠のところに弟子入りでもするのだろうか。

 

 空港から国交が正常化したエルス国行きの便にやっと乗れる。隠れる事も無い!! 素晴らしいな!!

 

 と意気揚々と待合所で待っていると、肩を叩かれる。

 振り返り、その人の顔を見ると思わず、げっ、という言葉を出してしまった。

 

 そこに居たのはあの刑事、俺を怪しんだ刑事だ。相変わらずヨレヨレのコートとボサボサの髪だ。

 

「よお、ボウズ。やっぱり俺の勘は合ってたな」

 

 肩を何度も叩く嬉しそうに刑事。痛いんだけど……

 

「にしても俺が怪しんだ外国人が日本に革命を起こすなんてなぁ……おかげさまで俺の給料は暴落だ」

 

 火星独立国の支配下から抜けた事で日本の財政は一気に苦しくなった。地球連合国からの支援はあるものの、最盛期には及ばない。だからこそ、支出を抑えるため、公務員の賃金が下げられているのだろう。

 

 だがそう言う刑事も悲しい顔では無く、嬉しそうだ。

 

「……だがお前さんのおかげで日本人としての誇りは思い出せたよ。苦しくても日本としてやっていく。それが日本だよ」

 

 俺の肩をポンポンと軽く叩いて去って行く刑事。

 菓子パンのシールを俺に貼り付けなければ感動の別れになるのになぁ……

 


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