混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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こんにちは。こんばんは。

今回がユーリ編最後となります。
(まあ、この後も出てくるけどボソッ)

これからの視点は新キャラ中心となって行きます。

9/3改稿


1-8 開戦……我々の願いは一つ

 

 あれから何年経っただろうか……

 6……いや、7年だ。

 7年掛けて力を貯めて来た。

 

 そして僕ももう18だ。

 まだまだ若輩者だが、皆の助けを借りてここまで来れた。

 

 上を見上げると沢山のHAWが開戦を待って鎮座していた。

 その周りを兵士達がーーいや、仲間達が走りまわっている。たまに怒号も聞こえる。

 

「おーい、こちらにも部品を回せ!」

 

 皆はもうすぐ来る開戦に備えて大急ぎで最終点検を行っている。

 青年は踵を返すと、仲間達が声を掛けて来る。

 

「リーダー! 頑張って下さいね!」

 

 リーダーは背中を向けたまま手を上げ、応える。

 その背中は闘志に満ちていた。

 

 

 

 

 

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 司令部に戻り、長官室に入ると全員揃っていた。

 

 逞しくなり、大人になったがまだ少し幼さが抜けていない、男。

 

 成長したがまだ、少女と女性の中間のような可愛いらしさと美しさを兼ね備えてる年頃の女の子。

 

 少し、年を取ったがまだまだ全盛期の力が出せそうな身体と鋭い目つき。だが、皆は知っている。誰よりも優しい男だと。

 

 そして、もう何歳なのだろか……全然衰える様子の無い好々爺。

 

 全員が勢揃いしていた。

 読者の方もご存知な仲間達である。

 上からランス、アンジェリカ、サイオン、クリフである。

 そして入って来たのはユーリである。

 

「ユーリさ……ではなくリーダー。物資の確認終了しました」

 

 アンジェリカはユーリに向かって敬礼する。敬礼したは良いがアンジェリカの可愛さで締まりが無い。

 するとサイオンに優しく咎められる。

 

「アンジェリカ、今は俺達だけだ。コイツの事はユーリで良い」

「あっ、そうでしたね」

 

 アンジェリカはやってしまったという苦虫をかみつぶしたような顔をする。

 

「まったく、アンジェリカは抜けてんな。こんな奴に後方支援務まんのか?」

 

 ランスが溜息をつきながら不安そうにする。

 

 そこにクリフがフォローに入る。

 

「大丈夫じゃよ。アンジェリカは優秀じゃ。もはや医療、事務なら一流じゃ。かなう奴はほとんどおらんわ」

「なるほどな。……ユーリがいるからか」

「……ふふ、そうじゃな」

 

 2人がニヤニヤしながらユーリとアンジェリカを見る。

 ユーリには良く分からなかったがアンジェリカは赤面して、2人をポカポカと可愛らしく抗議していた。

 

 

 

 

 

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 少し経って、アンジェリカが落ち着くとサイオンが口を開く。

 

「さて、最終確認をしよう。まず食料、医療、問題無いか? アンジェリカ」

「はい! 準備万全です!」

「では弾薬、燃料、整備問題無いか、博士」

「ふふふ、楽しみだねえ、開戦が」

 

 博士は興奮を必死に抑えて話していた。

 自分の作ったHAWが披露される時が来たのである。

 

 今まで、戦闘機以下という評価を受けたHAWが戦闘機と戦い、世間に知らしめる事が出来るのだ。

 

 サイオンは目線をクリフに移す。

 

「魔法はどうですか? 先生」

 

 先生とはクリフの事である。

 7年の間、ユーリ達が魔法を習っていたから、クリフを先生と呼んでいる。

 

「うむ、量はいないが質ならそこら辺の奴には負けん」

 

 7年の間、ユーリ達にも魔法を教えつつ、見込みの有るものに魔法を教えていた。

 

「では、兵士の訓練はどうだ? ランス」

「ああ、なかなか良くなった。皆、良い顔してる」

 

 うんうんとランスは満足そうに頷く。

 

 サイオンが元軍人であり、ランスがスポーツが得意な事を生かし、皆に体力や筋力をつけさせていた。そして、歩兵等を育成していた。

 

「最後にユーリ、行くか?」

「ああ」

 

 ユーリはゆっくりと力強く頷く。

 

「では、始めよう。俺達の復讐を!!」

「「「おう!!」」」

 

 ユーリの掛け声と共に皆が声を挙げる。

 

 

 

 

 

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 -火星付近宇宙 地球連合軍戦艦-

 

 火星付近の宇宙では戦艦1 護衛艦2がパトロールしていた。

 

 ふあーーあという間抜けな欠伸が戦艦のブリッジに響きわたる。

 

 だが、誰も注意しない。皆一様に暇なのだ。

 

 そんな中、暇を持て余した2人の兵士が歓談し始める。

 

「暇だなあ。最近ここらへんも静かだしなあ」

「そうだな。宇宙海賊もいないしなあ。もう根絶やしにしちまったか?」

「それはもったいないなあ。アイツらの財宝奪えるのがボーナスなのに……こりゃあカミさんにど突かれそうだな」

 

 ガックリと肩を落とす同僚に同意する。

 

「まったくだよ。最近暇で死にそうなのに、家に帰れば、カミさんに怒られる? ……もう、キャバクラでも行きたいわ」

 

 そんな提案に同僚は飛びつく。

 

「お、良いな!! じゃあ帰りに行くか!」

「あんまり高く無い奴な。財布に響く」

 

 軍人らしくない会話をよそにアラートは鳴り始める。

 いきなり大きな音に2人は椅子から落ちそうになるが。

 

 流石に軍人である。緩んだ顔を引き締め、画面に向かう。

 

 艦長から指示を受ける。

 

「おい、何だ!?」

 

 という艦長からの報告しろという命令に慌てつつも冷静に状況を伝える。

 

「所属不明艦が一隻近づいて来ます。……データと照合。該当無し」

「ん? 海賊にしては新型か? そんな資金どこに有るんだか」

 

 艦長は首を捻る。

 

 海賊は通常旧式の船を使う。そして数が罠を使って攻撃してくるがその様子も無い。

 

 再度、首を捻る艦長にオペレーターが笑顔で話す。

 

「新型みたいですね。なら大物ですね」

「確かに。俺達はツイてるな!! 財宝たっぷりだ!」

 

 船内が湧き上がる。新型ならば、拿捕すれば大金が手に入るからだろう。

 

「さてさて、戦闘機隊を発進させろ。護衛機と戦闘力を奪ってやれ!」

 

 そう艦長の指示通り、ハッチから戦闘機が次々と出撃していく。

 

 もちろん宇宙でも戦闘機が主力である。

 

 むしろ、戦力になるのは固定砲座や戦闘艦を除いたら戦闘機のみである。

 

 主力である戦闘機を最先端技術で作り、大量に所有している連合軍は今まで負けなしであった。

 

 また戦艦は普通の船よりはるかに巨大で多数のミサイル発射管、対空機銃、大砲を兼ね備えていた。もちろんどれも全自動である。

 

 そして船内には戦闘機を20機搭載していた。

 

 また護衛艦は戦艦を半分より小さくしており、小型、小回りがきく、速さ、コストの安さなどを売りにしている。

 そして戦闘機の搭載数は4である。

 

 この艦隊の合計28機で迎え撃つ。

 

 それに対し、海賊側は4機である。

 

 それを見た兵士達は笑い出す。

 

「何だあれは。作業用ロボットで相手しようというのか……馬鹿らしい」

 

 モニターに映るのは人型ロボットだった。この当時にも人型ロボットは建築現場等で活躍していたが軍事転用はされず、戦闘機が主流だった。

 

 その時、通信が入る。敵艦からの通信だ。

 

「何だ? 命乞いか? まあ、良いだろう、回線開け」

 

 オペレーターが回線を開くと、正面のモニターに映し出された。

 そこには青年が2人、少女が1人、老人1人、大人1人という奇妙な組み合わせがいた。

 

 そんな組み合わせを見た兵士達は思わず失笑する。海賊らしいみすぼらしい船員達だ。

 

 だが、笑われているユーリ達は気にせずに向こうから話掛けて来る。

 

「こちらは火星解放軍。地球連合軍上層部に繋げて頂きたい」

 

 予想外の言葉に思わず吹き出す者まで続出する。艦長も笑いを堪えようと顔を隠している。

 

 少し経って艦長は落ち付き、返答する。

 

「ククク……奴らは馬鹿なのか? ……クク、海賊なんぞと話す上層部がいると思うか? ……命乞いすれば命だけは助けてやろう」

 

 こうして兵士達と話している間にも可笑しく、笑いがこみ上げて来る。

 

 だが、予想に反して奴らは強気に来る。

 

「では、交渉決裂だ。宣戦布告する」

 

 自信満々なユーリ達に対し、艦長は頭に来る。

 

「おお、来いよ! 皆殺しだ!」

 

 艦長はユーリ達の言葉に激高し、攻撃命令を出す。

 

 戦闘機達は攻撃体制に入る。

 

 

 

 

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 -戦闘機隊 パイロット視点-

 

 全く奴らは死にたいのか? と疑問が湧くが気にせずにトリガーに指を掛け、引く。

 

 ミサイルは戦闘機から離れ、ロックオンしたHAWに向かう。

 

 命中し、木っ端みじんだ! と思ったのも、つかの間HAWはミサイルに対し垂直に移動する。

 

 ミサイルは急に目標を失い、迷走する。

 

「何だと!?」

 

 パイロットいや、見ていた者が全員驚く。

 

 何なんだ奴らは……そんな機動をするのか!? と最初は驚いたが、ならばとバルカンに切り替える。

 

 再度攻撃体制に入り、トリガーを引く。

 機体下部から轟音を発し、機関砲から銃弾を撃ち出す。

 

 銃弾の雨がHAWに命中する。

 ガガガガガッと金属同士が擦れる音が響き渡る。

 

 だが、物ともせずHAWは反撃する。

 右手に持つマシンガンを戦闘機に向けるーーバルカンの銃口が光ると共に、戦闘機が火の玉になる。

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍 戦艦ブリッジ-

 

 全員が呆然としていた。

 ミサイルが当たらない機動、バルカンでは物ともしない装甲、戦闘機を一瞬で落とす火力。

 

 誰もが現実を受け止められなかった。

 そんな間にも戦闘機は次々と落ちていく……

 そんな時、戦闘機から通信が入る。

 

「何なんだアイツは!? ミサイルは当たらねえし、バルカンは効かねえ、隊長もやられちまった! どうすれば良いんだ!? ーーなっ、うわあああぁぁぁ」

 

 戦闘機隊からの通信が途切れる。

 そのパイロットの悲鳴でブリッジの皆が我に返る。

 

「総員、しっかりしろ! 奴らにミサイルを雨のように降らし、避けれなくしろ!」

 

 全員がすぐに取りかかる。

 少し経つと準備出来たと声が挙がる。

 

「よぉし、ミサイル全門発射!」

 

 戦艦と護衛艦から多数のミサイルが発射される。

 無数のミサイルが向かって行くのは圧巻である。

 これだけのミサイルが向かえばやれるだろうと艦長は微笑む。

 

 このミサイルに対してHAWは左右に散開する。

 それに釣られミサイルも左右に散開しようとするがミサイル毎に目標がバラバラなので、ミサイル同士が衝突し爆発する。そして誘爆が起き、ミサイルはほとんど落ちる。

 

 残ったミサイルはHAWに付いているファランクスで迎撃する。

 

 ※ファランクス=現存する兵器の一つ、イージス艦などでミサイル迎撃の際に使用するガトリング砲。近接防御火器とも呼ばれる。

 

 これで全てのミサイルは迎撃された。

 HAWは平然とこちらに真っ直ぐ向かって来る。

 

 艦長以下誰もが、当たる事を祈っていた。

 だが、現実は非情にも真逆だった。

 

 誰もが不安になる。戦闘艦の弱点は近接である。

 更に相手の射程に入ろうとしているのだ。

 不安なるのは仕方ないだろう。

 

 艦長は勇気を振り絞って声を荒げる。

 

「総員、対空戦闘用意! ファランクス起動! 主砲オートで迎撃開始! 総員衝撃の備えろ!」

 

 HAWの射程に入る……

 

 それと同時にこちらの近接火器の射程でもあった。

 轟音を鳴らし、多数のファランクスと主砲が撃ち始める。

 

 だがファランクスはHAWの装甲に弾かれ、物ともしなかったが、主砲は命中すると撃破出来たのである。

 

 おおーーと歓声が挙がる。

 

 主砲が致命傷になる事を知ったHAW達は回避行動を始める。

 

 長期戦になると不利だと判断したHAWは2方向から同時に攻撃する。

 

 片方の迎撃に気を取られ、もう一方の迎撃が手薄になる。

 そしてとうとう艦橋の目の前に入られ、銃口を向けられる。

 

 その銃口から放たれた銃弾は艦橋を破壊し、船が轟沈し、抵抗らしい抵抗も出来ず艦隊は壊滅する。

 

 

 

 

 

 

 

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 -地球連合軍本部 ???サイド-

 

「何? 火星のパトロール艦隊と連絡が取れないだと?」

 

 報告を受けている男は詳細を部下に求める。

 

「はい、火星付近をパトロールしていた艦隊、戦艦1、護衛艦2と連絡が取れません」

「一時的な物では無くて?」

「はい、ジャミング及び故障では無く、ロストしました」

「何だ? 海賊にしては戦力が有りすぎる……とりあえず、艦隊を回せ。逐次報告せよ」

「はっ!」

 

 部下は敬礼して下がって行く。

 

 1人になるとさっきの事を再考する。

 

(やはり、何かが起きている気がするな……まあ何にしろ報告を待たなければならんな)

 

 男は窓から空を見上げる。

 見上げた空はいつもと変わらない空だったが、今夜は星が一つも見えなかった。

 


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