混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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そろそろ日本編も終わりですかね……からの追加ストーリー

まだまだ続きそうです


13-20 虐殺

 

 ノエが立ち去ったのを見計らって大勢の部下を連れて将軍がやって来る。その顔は緩みに緩み、今にも笑い出しそうだ。

 

「良くやってくれた柳生よ。後は我々に任せるが良い」

 

 まさか……追撃するとでも言うのか!? さっきの約束を反故(ほご)にするのか!? 

 

 将軍の前で頭を下げる。

 

「将軍!! 我々は先程、停戦を約束しました。だからどうか攻撃はおやめください!!」

 

 だが将軍は全く取り合わない。

 

「何を言っている? 戦争中の口約束なぞ当てに出来る物か。それに一旦態勢を整えたいのかもしれんぞ? まあそのぐらいお見通しなのだがな……おい、約束通り、捕虜を解放してやれ」

 

 ダメだ。周りの部下といい、本人も功を焦っている。それほど今回の戦いにおける師匠の功績は絶大だ。一騎打ちで多くの将兵を救い、勝利をもぎ取ったのだ。もちろん人気はうなぎ登りだ。

 それを危惧している愚かな奴らは敵が損耗している所を叩き、あわよくばノエを討ち取り、地球連合軍からの多大な謝礼を受け取るつもりだろうか。

 

 将軍の指示の下、捕虜達は食糧と車を与えられ、最低限の武装と共に北に向かっていった。ノエも、もちろん一緒だ。新潟にて火星独立軍の船が待っているらしい。

 

 日本独立軍は監視という名の下、遠くから包囲する。

 

 事態がだんだん悪くなっているが、唯一止められる師匠は昏睡状態だ。医者によれば命に別状は無いが、意識はいつ戻るか分からないらしい。

 アリサも同じく昏睡状態だ。

 

 他に頼れるのは一人だけ居るが……話を聞いてくれるかどうか……

 

 だが何もしないのも性に合わない。待機組の天幕を訪れる。

 

 士官達の好奇な視線が突き刺さるが、一人だけ違う視線を感じる。

 

 そこには渋い顔をしていた山口が居た。

 

 目線が合うと、山口は仕方ないと言わんばかりに口を開く。

 

「……何の用だ? 柳生さんの寄生虫様は?」

 

 言い方がヒドい。それほどまでに自分が一緒に行けなかったのが悔しいのだろうか。

 

「……お前にしか頼めない事がある」

 

 今回は俺が頼む方だ。突っかかる訳にはいかない。

 

 俺が反抗しないことに山口は顔を怪訝に歪める。

 だが山口は話を聞いてくれた。

 

「……話してみろ」

 

 不機嫌な態度は変わらないが、眼鏡の位置を直した山口の表情は真剣だった。

 

 そして話を一通り聞いた士官達は誰もが顔を青ざめていた。

 

「なんて馬鹿な事を……」

 

「そんなことをしたら我が軍の信頼は……」

 

 と口々に言い、頭を抱える具合だ。これは何とかなるかもしれないぞ。

 

 そんな中、山口が一番先に我に返り、机に地図を広げる。

 

「無線は封鎖されているが、いや、まだ間に合うかもしれない」

 

 コンパスと鉛筆で地図に線を引き、時間を計算し始める。それに釣られ、周りの士官も準備を始める。

 

 そして目処が立ったのか走って天幕を出て行く士官達の最後に山口が残る。

 

「……今回の事は礼を言う。柳生さんとアリサさんは任せる」

 

 山口は俺の返事を聞かないまま天幕を出て行く。その期待に応えてやろう。

 

 

 

 

 

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 何時間経ったのだろうか。日も陰ってきて、暗くなってきた。寝ている師匠とアリサを見続けるのも飽きて来た頃だ。心配だが、やはりうんともすんとも言わない二人を見ているのも飽きる。

 

 開放された日本支部の医務室で2人は寝ている。

 またここでは先程まで戦っていた者同士が一緒に治療されている。多くの火星独立軍の捕虜がここに残った。その者の多くは日本人だ。

 そして内戦とも言えた戦いに終止符が打たれたことに誰もが喜んでいた。

 

 ちょっと涼しい風が窓から入ってきて、カーテンを優しく揺らす。

 

 まさかこんな戦いには巻き込まれるとは日本に来たときは全く思わなかった。そもそもこんな情勢すら知らなかった。無知な自分を恥じるばかりだ。

 

 その時、いきなり遠くが真昼のように明るくなる。一面じゃない。北の方角だけだ。そう将軍が向かった方角に極太の光の柱が空に向かって伸びていた。いや、空から地面に降り注いでいるのか。

 

 それと同時に封鎖された無線が動き始める。

 

「こちら、第114小隊!! 隊長が!! 光に呑まれーー」

 

「退却命令は!? まだ出ないのか!? このままでは我が軍はーー」

 

「俺達は手を出していけない物に手を出したんだーー」

 

 どの通信も悲痛な声を上げて途中で雑音に変わって行く物ばかり。

 

 通信内容から判断出来る状況はーー

 

 その時、慌ただしい足音がこちらに向かってくる。数は1。敵では無いようだ。事態が急変したか?

 

 俺が医務室から出ると目標を見つけたように近付いてくる。

 ん? 何処かで見かけた顔だな。

 

「お久しぶりです!! 整備班のコウです!!」

 

 ああ、レールガンの説明書を渡してくれた青年か!! 

 

 相変わらずの坊主頭が目立っている。

 

「久しぶりだな。あのレールガンは凄まじい性能だった。でも壊してしまった……申し訳ない。それで何か報告が有るのでは?」

 

 ああっ!? と失敗した顔をしてから用件を切り出す。

 

「申し訳有りません!! そうです大変なんです!! 将軍率いる部隊がーー全滅しました!!」

 

「やはりか……」

 

 今のは将軍配下の部隊か。そして敵は白い死神ノエ。ノエがSランクの理由は最強だけじゃ無い。そう戦略魔法師としての範囲殲滅攻撃を持つのだ。

 通称ヘブンズジャッジメント。そう天罰だ。あの大出力の魔法を展開出来る魔法師なんぞ他の誰にも存在しない。集団魔法でも一気に何人もの魔法師の魔力を使い果たしても可能かどうかだ。

 

 そしてヘブンズジャッジメントが放たれた地点は塵と化しているだろう。果たして将軍や山口はどうなっているだろうか。

 

 状況が分からない北の方角の夜空をただ見つめるしか無かった。

 

 

 

 

 

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 -ノエ視点-

 

 時間は少し戻る。

 

 柳生との約束通り、我々は火星独立軍に戻りたがる兵士をまとめ上げ、与えられた車両を使って北上している。

 半数ぐらいだろうか、日本人も残っていた。彼らは日本に居場所が無いもの、火星独立軍に忠誠を誓う者、一旗揚げたい者と様々だろう。

 

 何とか全員乗せられた車両群はゆっくりと移動する。

 

 そして後ろには監視の為か車両が着いてきていたが、明らかに意図が不明な部隊も来ている事も感知していた。

 

 ……柳生が約束を(たが)えるとは思えない。ラインも居る。……柳生よりも上に居るウジ虫共が湧いてきたか。

 

 近くに居る兵士に声を掛ける。

 

「おい、戦闘態勢を取れ。あくまでも退却だ。無駄な戦闘は避けろ」

 

 突然の戦闘態勢命令に驚きもせず、準備を始める部下達。停戦協定があったのにも関わらず、すんなり命令を受け入れる部下が居ることに嬉しくなる。

 

 今までいきなり特別な立場になったことで不満に思う部下も少なくなかった。可笑しい事言ったらここぞとばかりに反論してくる者ばかりだった。

 日本に来たのは正解だったかもしれん。

 

 後ろから追撃しようしている奴らには天罰(・・)を与えよう。

 

「おい、俺が殿(しんがり)をやる。1両以外は先に行け」

 

 そして残ったのはいつも俺の傍を離れない眼鏡を掛けた真面目な男。そいつだけだった。

 

「私が責任を持って、部隊に合流させます」

 

 そいつは部隊の中で1番速いだろう装甲車の運転席でハンドルを握っていた。

 

「俺はここで死ぬ気は無い、頼むぞ、タチバナ」

 

 タチバナと呼ばれた部下は自信満々に頷く。

 

 さて殲滅の時間だ。

 

 

 

 

 

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 -山口視点-

 

 気にくわない事だが、ラインからこの事を知らされてなかったら我々はただ見守るだけだった。もしかしたら我々が将軍を止められるかもしれない。

 

 逸る気持ちも抑えて、少数の部隊を連れて将軍の部隊を追いかける。無線は封鎖されてる為、繋がらない。足だけが頼りだ。

 更にアクセルを踏み込む。

 

 だが、もう少しという所で前面から眩い光が目を襲う。何とかブレーキで急停止する。

 

 対向車じゃない。森全体が光っていた。

 

 上から降り注ぐ光の極太の光の柱。魔法は分からないが、これは自分でももの凄い魔法だと理解出来た。離れたここまで地鳴りが感じられる。

 

 心が不安でざわめく。まさか間に合わなかったのではと。他のメンバーも同じようで、車を再発進させる。

 もう安全運転なんて気にせず、猛スピードで向かう。

 

 そして念願のたどり着いた場所は地獄絵図だった。開けた平原には無数の車両の残骸。人らしき焦げた存在もある。

 人が燃えた匂いはとても臭い。強烈な異臭に思わず鼻を抑え、涙が出る。

 

「何だこれは……」

 

 仲間の一人が思わず零す言葉に同感だ。

 

 どれも酷い死に方ばかりだ。ちょっとの熱量には耐えられるはずの鋼の戦車達も泥のように溶けている。

 どれだけの熱量が降り注いだというのか。

 

 考えただけでも恐ろしい。銃弾で死ぬのではなく、焼け死ぬ。それがどれだけ苦しいのか想像出来ない。

 

 その原因を振りまいただろう白い死神の恐ろしさで体が震える。

 何故こんなにも酷い殺し方を簡単にやれるのか。もはや虐殺では無いだろうか。

 

 その時、北の方角に向かって走る装甲車を見つけたが誰も追いかけようとはしなかった。

 

 


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