混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
投稿してから私も一緒に読もっと(改稿)
師匠の背中はいつもの冷静な雰囲気ではなく、覚悟を決めた男の背中だった。
やはり師匠でも勝てるか分からないぐらい強いのかーー白い死神は。
長い白髪を風になびかせ、鋭い赤い目で師匠を見つめるノエ。
すると師匠は手を差し出してノエに握手を求める。
「人生で1番の強者と戦えることに感謝する。白い死神、敵に全く不足は無し」
ノエも嬉しそうに頷く。
「俺もあの柳生と戦えるとは……剣士としての長い歴史、見せて貰うぞ」
握手に応えるノエ。
まるで今から試合でもするかの様だ。だがこれから始まるのは死合だ。お互いに命を奪い合い、どちらが命を落とすまで戦う。
お互いに最後の挨拶を交わすと、距離を取って剣を抜く。
師匠は日本刀を抜く。日の光で綺麗な銀色にきらめく。
ノエは右手を開き、魔法剣を展開する。
魔法剣、授業の参考映像で見た物よりも格段に出力がおかしい。あれだけの出力を保ちながらも、涼しい顔のノエは本当に別格だ。
先程の笑顔も消え、お互いに殺気を放ち始める。
邪魔する者が誰も居なくなった今、2人の高まりを止める者は居ない。俺は見守らないといけない、この結末を。
そして今の俺なら分かる。師匠の刀には多くの気が集中している。あの高濃度の気でも大出力の魔法剣を止められるか……
-----
-柳生視点-
先に動いたのはノエ。
使う技はーー光弾だと!?
ノエの後方から無数の光弾が発生し、早いスピードで向かってくる。
横や後ろに跳躍してかわそうとするが、光弾は追尾して俺に向かってくる。これは防ぐしかないな。
気を体の前に集中展開させて光弾を受ける。次々と餌に群がるような魚のように盾に当たり、その度に小さな爆発が起きる。俺の気の力でも威力を完全に抑える事が出来ないというのか……
何とか全弾防ぎきれたが、疲れは決して小さい物ではなく、無視出来なく、肩で息をしなくてはいけなかった。
……このまま持久戦ではこっちが圧倒的に不利だ。俺は広範囲探知や気の察知など、戦闘向けではない。それに対して、白い死神は戦闘能力でのし上がってきた男だ。
日本最強と呼ばれてる俺だが、白い死神には遠く及ばない。なら埋めるために後、切れるカードはーー俺の命だ。ラインには悪いが約束は守れそうに無い。
とりあえず接近戦に持ち込むか。
ノエが再度光弾を放つ。だがそのスピードは最速時の俺には追いつけない。全力を足に込めて、前に踏み出す。目を見開くノエの顔が見れただけでも十分だ。
だが容易く剣を結ばれる。俺の気とノエの魔力が衝突し、高い音と火花が飛び散る。流石だな。白い死神と言えば、速度と防御力が最強を誇る。俺程度ではまだまだか。
「速い……まさか柳生がこれほどの速さだと思わなかったよ」
にやりと笑うノエ。だがその笑みは余裕を残しているような笑みだ。
「ふっ、馬鹿を言え。お前はまだいけるだろう?」
「もちろんだ。世界最速と呼ばれた男の実力をお見せしよう」
一旦お互いに距離を取る。世界最速と呼ばれた男の速さーー転生雷光。この速さの敵は今までに遭遇した事が無い。だが俺には秘策があった。そう、命だ。
体のリミッターを解除するーー長年の歴史で積み上げられた技は長く生きる必要の無い戦国時代に発案された物だ。目の前の戦に全力を賭ける武士によって生み出されたリミッター解除。一時的に強く成れるが、体にもの凄い負担が掛かる。
俺の命を賭ける戦いはこの戦いだ!!
「来い!! 白い死神、ノエ!!」
ノエはニヤリと笑うと技を発動させる。
「お望み通りーー転生雷光!!」
先程まで見えていたノエの体が光の粒子となって消えていく。そして一筋の光として向かってくる。見える。今の俺でも見えるが体が追いつかないーーリミッター解除!!
固まっていた体が急にスムーズに動く。体感速度がもの凄く遅く感じる。この中でも動く腕で光の一筋を剣で斬りつける。
手に何かが当たった感触が伝わる。確かに剣は当たった。
斬った勢いのまま、振り返るとそこには歓喜と驚きの混じった表情を浮かべるノエが居た。
「まさか反応出来る奴が居るとは……今、急激に速くならなかったか!?」
まるで友達のように聞いてくるノエ。そのノエの体を見るとプロテクトにまとわれていた。咄嗟に発動出来る最強の盾か……厄介過ぎる。
「まだまだ俺には秘策が残ってる。柳生を舐めるなよ?」
向こうに合わせるように微笑んでやる。だが状況はこっちが圧倒的に不利だ。
最強の盾と最強の速さ。これが同時に咄嗟に使えるノエは最強を名乗るのに相応しい。
速さは何とかクリアした。だが火力が足りない……あの最強の盾ーープロテクトには傷すらつかない。
負けるにしてもヒビぐらいは入れたい物だ。
ふと悲観的な自分の考えに思わず苦笑いする。
手段は有るにはあるがーー
横で心配そうに見守るラインの顔を見る。ラインは俺に生きろと言った。
だが今の一太刀でも体はかなり軋んだ。体中が筋肉痛のように悲鳴を上げている。
そして新たな技を使えば十中八九死ぬ。……約束を破る事になるが、許してくれライン。
「次もお前の顔を驚かせてやる」
挑発するようにノエに言う。乗ってこいノエ。
分かっているのか、分かっていないのか分からないが、ノエはありがたい事に挑発に乗ってくれる。
「良いぞ。見せて貰おう」
ノエは同じく転生雷光を使う。真っすぐ狙うのは俺の頭。頭を貫く突きに俺はーー
リミッター解除し、剣を投げる。もちろんノエには容易くかわされ、そのまま突き進んでくる。
素手の俺には何も出来ないのでは、という表情のノエを驚かせてやる。
眼前に迫る魔法剣を気の
もちろん今日1番のノエの驚いた顔が見れた。もはや予想も出来てなかったようだ。当たり前だ。そして俺自身も信じられない。
だがノエはニヤリと不敵に微笑む。
「……人生で1番驚いたよ。剣を素手で掴む奴が居たとはな……これが有名な真剣白羽取り。流石は柳生。だが、2本目はどうかな?」
ノエは左手を真っすぐ伸ばすと、右手と同じく魔法剣を発動させる。同時に2本発動させるとはなんて魔力量ーー化け物か!?
そして大出力の魔法剣は俺の腹にーー
-----
何とか目で追えている最強同士の高度な戦いに俺は固唾を呑んで見守る。
師匠がやはり不利だ。でも師匠は強さというより柔軟さが売りだと聞いている。どちらの技も凄い性能なのに簡単にどちらも対策していく……
そしてあの最強の技、転生雷光を一度目で対策する師匠。もう目で追えなかった。一筋の光に何かしら反応したようでプロテクトが発動している……流石師匠だ!!
再度の転生雷光には無刀取りで対応する師匠。これが柳生か!!
だが、2本目の魔法剣に師匠はーー
ーー何も対策出来ずに腹を貫かれる。
「師匠ぉぉぉぉぉ!!」
思わず叫んでしまう。師匠の背中に見えるのはノエの魔法剣。腹を易々と貫通し、血が辺りに飛び散る。大きな穴が空いた腹からは止めどなく血が流れ、師匠の口からも血が流れる。
「グフッ……2本目か……やっぱり世界最強は、伊達じゃないな……」
師匠は苦しそうに力無く笑う。激痛に体を襲われているはずなのに意識を飛ばさない精神力。それに何故か瞳はまだ死んでいない。
ノエも同じように気付いたらしく、顔を怪訝で歪める。
「一体何を考えている!? お前は良く戦った……もう良い。今、楽にしてやる」
と介錯しようとするが、師匠はニヤリと笑う。
「まだ終わってないぞ……グフッ……むしろ、これは俺の想定内だ」
想定内!? 一体何を!? 混乱する頭の一方、目はしっかり異変を捉えていた。師匠の血がーー周りに散った血液が振動し、動いていた。
ノエも異変に気付いて、距離を離そうとするが、しっかり掴まれ、動けない。
「まさか……自爆覚悟のーー」
「武士道とは死ぬことと見つけたり!!」
それだけ言うと師匠は技を発動させる。
「ーー我が血の桜よ、舞い散れ!! 千本桜ぁぁ!!」
師匠の血は一瞬にして膨張し、無数の針山と化した。その中に師匠とノエは呑み込まれる。
ノエが逃げた様子は無い。じゃあ2人ともーー
近付きたくとも近づけない。無数の血の針には高濃度の気が込められ、易々と俺の体を貫通するだろう。
だから周りを駆け回る事ぐらいしか出来ない。だが何処にも隙間は無く、中の様子を伺う事は出来ない。
くそっ、どうなってるんだ中の様子は!?
外で何も出来ずに慌てふためいて居ると、突如、血の針山は氷のように割れて崩れていく。
そして小さな粒子として消えた血の針山の跡に膝を付いて、俯くノエと血まみれで倒れてる師匠を見つけた。
「師匠ぉぉぉ!! 大丈夫ですか!!」
走って駈けよって師匠を抱き起こすが、もう虫の息だった。
「……ライン。約束は……どうやら果たせそうに無いみたい……だな」
何故自爆覚悟の技を!! と問い詰めたかったが、師匠の申し訳ないと訴える瞳を見て、言葉を飲み込む。
「……喋らないで下さい。今、衛生兵を呼びます」
急いで無線を取り出そうとするが、師匠は何処から出ているか謎な強い力で俺の手を握る。
「……良い。この傷と出血量ではどうせ助からん……それよりもノエと話をさせて……くれ」
体はボロボロだが、瞳にはまだ力が残っていた。強い意志がまだ揺らめいていた。
そして師匠の言うことは正しかった。なら師匠のやりたいことを優先させよう。
ノエを見ると大きく肩を上下させ、未だ片膝を付いていた。さっきまでの最強のノエとは思えない。今のノエなら俺でもーー
だが突如振り向いて俺へ殺気を放つノエ。その殺気の強さに膝が震える。
「……ライン、辞めた方が良い。今の俺でもお前ぐらい瞬殺出来る」
殺気から解放されると冷や汗がどっと噴き出し、立って居られなくなる。これが実力差か……
ノエはふらつきながら立ち上がり、師匠の元へ行く。
そして目の前であぐらをかく。
「……俺をここまで追い込む奴は初めてだ。見事だったぞ柳生」
疲れた表情で微笑むノエ。だが彼の体には傷一つない。師匠の自爆覚悟の攻撃でもダメなのか?
その一方、師匠は困った顔を浮かべる。
「……まさか俺の自爆攻撃でも……傷一つ負わないとはな……お前は果たして人間なのか?」
どういう意味だ?
俺には質問の意図が分からないが、ノエはピクリと眉をひそめる。
「……意味が分からないな。俺は赤い血の流れる人間だ。見せてやろうか?」
魔法剣で自分の指の皮膚を少し切るノエ。俺らと同じく、赤い血が染みだし、垂れる。
垂れた血を舐めながら、ニヤッと微笑む。
「ほらな。俺は人間だ。おっと、心臓でも見せようか、という流れには乗らないぞ?」
茶化すノエに師匠は無言で答える。どういう事か知りたいが、師匠は話を続ける。
「まあ良い……それで最後の話だ……この戦いは私の負けだ。だから……皆の命を救って欲しい……」
死にそうな師匠と立っているノエを比べると勝ち負けは明らかだ。悔しいが作戦は失敗。日本独立戦線は降伏する。降伏せずに戦ってもノエによって殲滅させられてしまうだろう。
なら師匠の約束通り、我々は降伏しよう。
確認するようにノエを見るが、ノエは頭を掻いて困った顔をする。
「あー、その話だが無かったことにするわ」
「ーーなっ!?」
約束を破るというのか白い死神は!! ならば俺達は最後の一人になるまで戦う!!
魔力を込め始めた俺にノエは慌ててちょっと待ったと言う。言い訳でも言うのか?
「違う違う。勝者である俺は要求する権利がある。それは、
1つ、日本領内では両軍は停戦する。
2つ、火星独立軍の捕虜、残存者を全員解放し、食料、移動手段を十分に与える事。
3つ、日本の統治は自治とする」
ーーっ!? これは事実上の日本撤退宣言!?
要求は安全で快適な撤退を支援する事。我々は戦いに負けて、思いで勝ったのか!!
でも何故、ノエは撤退宣言を?
ノエが居れば日本支部は陥落せず、援軍が到着次第、日本を奪還出来るのにしないんだ!?
そんな疑問にノエは答える。
「当然、疑問感じるだろうが理由は一つ。こんな自爆覚悟の奴がゴロゴロしている日本を統治するのは難しい。ならさっさと撤退するさ」
と言うが、何か違う気がする。もっと根本的な問題が有るはずだ。
追求するようにノエを見つめると困った顔をする。
「……ホントの理由はお前達に魅せられたからだ。一歩も引かず、自分の命すら武器にするんだ。中々居ないぞ、そんな猛者は。そして俺はお前らには生きて欲しいと思うからだ」
そう言うとノエは自分の指から師匠の口に血を垂らす。血を飲ませて何を!?
すると師匠の顔が安らかな表情に変わり、傷が塞がっていく。
何だ、何をした!?
「これは俺からの
今度は俺の質問に答える事無く、立ち去っていった。