混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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新年あけましておめでとうございます。3年目となった今100話を越え、多くの人が見てくださり、作者としては感無量です。
設定資料集の方も更新しました。良かったらご覧下さい。

今年もよろしくお願いします


13-16 一筋の光

 微かな不規則な振動とエンジン音が聞こえる……

 それは戻った意識を覚醒させるには十分だった。

 

 目を開けると、上にホロが見える。どうやらトラックで寝かされてるらしい。

 横に顔を向けると、日本人らしき兵士の姿が見える。どの兵士も共通してるのは苦悶の表情を浮かべている事だ。よくよく見るとほとんどが何処かしらに包帯を巻いてる。なるほど、ここは負傷兵を運ぶトラックか。

 

 そういえば、頭が床に付いてるが振動は余りない。流石はトウキョウだ。しっかり道路の舗装がされてる。

 

 外を見ると、煙と炎が所々から上がっている。さっきまで俺はーー

 

 痛む頭で犯した罪を思い出す。

 俺は自分の手で仲間を殺すところだった。それを止めてくれた師匠には多大な感謝の念を抱く。それと同時に、あの時の自分の異常さに心が震える。

 

 何故、俺は次第に師匠が敵だとどんどん思っていったんだ? まさか師匠は女兵士を殺そうか悩んでる俺を止めようとしてくれたのではないか? という発想が何故浮かばなかったんだ? 

 あの時の俺は頭の回転が凄く早かった。だけど今思うと、とても思考が偏っていた。そう、師匠が敵だという方向に。

 

 異常な偏り方だ。まるで誰かに誘導されたかのように。

 

 見えない何かに操られてるような気がして、落ち着かないでソワソワして居ると急にトラックが止まる。

 

 何事かと外を見ると、師匠が目の前に来ていて目を細めて俺を見る。その視線は鋭く、まるで俺を殺すかのような視線だ。

 

「……起きたか、ライン」

 

 低い声でそう言う師匠。 

 

「……ご迷惑をお掛けしました」

 

 頭を下げて、これが最初で最後に言いたかった言葉。俺を信頼してた人を裏切った俺にはもはや居場所は無い。ここに置いて貰ってるのも“情け”だろう。

 

 身体はある程度動く。ならば直ぐにここから立ち去ろう。

 トラックから降りて、立ち去ろうとするが師匠に止められる。

 

「待て、何処に行くつもりだ」 

 

 エルス国に戻ろうかと思っている。直接行く方法は無いにしろ、間接的に方法はいくらでもあるはずだ。

 

「故郷に帰ろうかと思いまして……」

 

 帰ろうかと思ったのも束の間、師匠に力尽くで振り返らされる。

 師匠の表情には悲しみと怒りが見て取れた。

 

「なぁ、お前はそんな情けない奴だったか? 恐れて前に進めない奴だったか!?」

 

 ズキリ、と心が痛む。でも俺はここから去らないとまた傷つけてしまう、師匠やアリサを。

 

「もう……誰も仲間を傷つけたくないんです。俺の力は制御出来ない。せっかく手に入れたのに……申し訳ありません」

 

 再度深々と頭を下げる。もう戦いたくは無い。仲間を傷つけるくらいならいっそのこと……

 

 すると師匠は不敵に笑う。

 

「ふっ、そうか。もちろん弟子の失敗は師匠の責任だろう? なら、俺がここで腹を切ればよかろう」

 

 いきなり地面に座り込んで腹を出す師匠。まさかハラキリをするつもりじゃないよな!?

 師匠は小太刀を抜いて、自身の腹に向ける。そしてそのままーー

 

 ーーそんなことはさせない!!

 

 何とか刺さる前に手を全力で抑えて、勢いを殺せた。小太刀の先端が腹に当たり、血が少し流れる。気も使ってない。ホントに刺すつもりだったのか……

 

 激しく息を乱す俺に、師匠は満足そうに微笑む。

 

「お前なら止めてくれると思っていたよ」

 

 厚い信頼の視線を俺に向けてくれる師匠。何故なんだ……

 

「何で、何で師匠は俺をそこまで……」

 

 分からない。何故師匠は外国人で知り合ったばかりの俺にここまでしてくれるんだ?

 

「それは……お前は俺の弟子だからだ」

 

 弟子だからーーその言葉だけで俺の心は救われた。曇っていて、見えなかった空が一筋の光によって一気に晴れたようだ。嬉しくて胸がギュッと締め付けられる。それは苦しみではなく、喜びだった。

 

 そして涙が止まらずに出て来る。無限に出て来るような気がする。久しぶりに出た涙に全てが洗い流された気がした。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 敵の基地内に前線基地を作る日本独立戦線。そこまで戦線を押し込んでいるのだろうか。

 

 そして俺の涙がやっと止まった頃に師匠は椅子に座って話を始める。

 

「師匠で俺は、お前を一人前にしてやらないといけない。そして暴走を止めるのも俺だ。だから言っておく、あの力は俺が許可するまで使うな。良いな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 嬉しくてニコニコしてしまう俺の顔を見て、師匠は苦笑いする。

 

「なんだ、いきなりニコニコして……気持ち悪いな」

 

 ぐ、師匠に気持ち悪いって言われた……

 

 明らかに気落ちした俺に戸惑う師匠に突然近づいてきた山口が驚く。

 

「柳生さん!? どうしたんですか!? ……お前かっ!?」

 

 また山口に敵意を向けられる。だが直ぐに師匠が止める。

 

「いや、何でも無い。それでどうした?」

 

 切り替えの早い師匠に、慌てて山口が答える。

 

「は、はい。既に敵の防衛戦力は壊滅状態。後少しで本丸にたどり着きます」

 

 戦況はかなり優勢みたいだ。あそこでHAWを全滅させたのが良かった……

 

 だがここまでで1点気になる事が……

 

「師匠」

 

 俺の問いかけに頷く師匠。同じ事を考えて居たみたいだ。

 

「ああ、多分本丸に奴がーー白い死神が居る」

 

 目の前に見える基地内に化け物が居ることに安全地帯に居ても心が全く休まらなかった。

 


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