混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
でも改稿が出来なくなってる……
拳で抵抗するで?
震える指先。それは紛れもなく俺の指のはずだ。だが俺の意思と反対にこの指は引き金を引いた。長年生まれてからずっと付き合ってきた
分からない……今まで俺の意思以外で動いたことが無い体に誰かの意思が介入しているような気がして、恐怖を感じる。そしてその内、俺の意識すら奪われるのではないのか、と
今は完全に俺の意思の支配下にある俺の体。だがいつまた勝手に動くか分からない。そしてその時に仲間を撃ってしまうかもしれない……
最悪の事態を想像してしまい、思わず歯ぎしりをしてしまう。まだ原因は分からない。そしてトリガーも分からない……
とりあえず師匠達と合流しなければならない。機体も戦闘は不可能で移動するのがやっとだ。これからは歩兵にて戦うか。
味方が居るはずの所に戻るとそこには両軍のHAWの残骸が散乱していて、立っていたHAWは1体も居なく、全てのHAWが見るも無残な姿になっていた。
全てが終わっていた戦場には異様な静けさだけ残った。
どのHAWもコクピットがやられていたり、バラバラになっていた。生きている者は居ないかもしれない。それほどまでに
俺も白熊とタイマンでは無かったらこうなっていたかもしれない。総力戦だったら、相手が白熊で無かったら……様々な要因が重なって俺は生きている。
これから基地に戻りたい所だが、もう機体も保たない。燃料タンクがいつ壊れても可笑しくない。途中で壊れて落下して死ぬのは惨めな死に方だ。
ここで雷鳴とはおさらばだな。
白熊との戦いでコイツが居なかったら俺は確実に負けていた。それだけコイツとイル・アサルトとの性能差があった。
イル・アサルトと言えども、結局はイルのチェーン機なのだ。長年イルが活躍しているがそろそろ新機体が出て来る頃だろう。エルス国も新機体の開発に勤しんでいる。
初めて乗ったのに俺の動きに応えてくれた雷鳴に感謝する。秋の空で冷たくなったボディを触りながらこれからの事を考える。
とりあえず通信機で師匠と連絡をとる。
「……こちらライン、そちらは師匠ですか?」
すると通信機から聞こえたのは良く聞き慣れた女の声だった。
「こちら、アリサよ。ライン、どうしたの?」
師匠では無かったが、問題ない。アリサなら師匠と一緒に行動しているはずだ。
「ああ、HAW部隊は双方壊滅した。だから残るは陸戦力のみになる。だから合流したい」
「……そうね。場所は指示するわ。敵は居ないと思うけど注意してね」
初めの沈黙の間は色々思うところが有ったのだろう。パイロットの中に見知った顔も居たのだろう。
逆にここがエルス国だったら俺は耐えれただろうか。知り合いが次々と死んでいく戦いで、俺は冷静で居られただろうか。
そんな中、取り乱さないアリサは強い心を持っているなと思う。
敵を探知しながらの行軍だが、何故か静の気を使う気にもならず、探知魔法で感知しながらの行軍となった。
そして何事も無く、指示された場所に着く。そこは戦場の真っ只中でここからじゃ敵味方分からない。
だがそんな不安は次の瞬間、振り払われた。
突如戦車が爆発する。その爆発は魔法や対戦車砲による物とは思えなかった。魔法や対戦車砲なら光が見えるはずだ。だが戦車は突如爆発した。
対戦車地雷ならあり得るが、そんな綿密な作戦を立てているとも思えない。そしてここは市街地だ。昨日まで車が通っていたんだから準備していたら爆発してしまう。
もう少し近づいて見ると1人の男が敵軍のど真ん中に突出していた。その男は日本刀を持っていてーー師匠だ!!
師匠は日本刀で戦車の装甲を泥のように切り裂く。そして銃撃を剣で防ぐ。それは部分的なウォールシールドに似ていて、剣を前に構え、その前面だけ防いでいる。そしてたまに来る砲弾を高速で回避し、弾すら斬っている。
もはや一方的だ。これが日本の最強“柳生”か。師匠の後ろには多くの味方が居るが、何もせずに見ているだけだ。なんだこれ、師匠一人で勝てるではないか。
ふと探知魔法に誰かが引っかかる。それは味方にしては可笑しい立ち位置だった。
敵か。なら師匠の手をわずらわせる必要も無い。俺が始末しよう。
幸い大通りを通らない為、路地を右左するだけで済んだ。探知した場所に着くと、そこには2人の兵士が密談していた。
「ここから狙撃すれば行けるな」
「ああ、ここからならあの盾の範囲外だ」
なるほど。違う方向からの攻撃か。でもそれで師匠を倒せるとは思えない。だからといって見過ごす訳にはいかない。
陰から肉体強化魔法を使って、飛び出して一気に距離を詰める。隠密行動のため、手持ちのナイフで片を付けるーー
ーー敵が二人とも突如振り返る。
何故だ!? コイツら魔法師だとでも言うのか!?
すると一人は伏せた射撃体勢から体をしならせて飛び起き、もう一人はハンドガンで応戦してくる。
ウォールシールドを展開しながら突っ込むしかない。
先に仕留めるのは体勢の悪い狙撃手からだ。ナイフで突くがギリギリの所で躱されてしまう。ヘルメットのあごひもが切れて、ヘルメットが地面に落ちる。
ヘルメットが外れて、フワリと広がったのは黒い長髪。そう、目の前の敵は女だった。
顔は整っていて綺麗な黒髪が似合っている。そんな感想を思っている間にも見事な身のこなしでバク転して距離を取る女兵士。
魔法で強化した俺の攻撃を躱すとは只者じゃないなコイツ。
そしてもう一人はウォールシールドを張っているので諦めたのかと思ったら、変な方向に弾を撃ち出す。
何をしてるんだ? と思ったのも束の間、鼻先を銃弾が掠める。
ーー跳弾か!?
魔法を使っているとはどちらも思えない。魔法が使えるなら2人居るので正面からぶつかったら良いはずだ。
ならばこの2人は常人にしてこの技術を?
跳弾を受けないために慌てて距離を取りながら素直に感心する。
だがこの高い技術の持ち主なら尚更退くわけにはいかない。何か師匠にダメージを与える手を持ってるかもしれない。
とりあえず建物で射線を切って潜む。敵の位置は探知魔法によって把握出来る。敵は未だこちらに気を取られ、射撃体勢になっては居ないようだ。
正面からやるか? だが片方は回避方法しか分かっていない。それにもう1人もまだ何か有るかもしれない。
なら俺も出し惜しみしてる場合じゃない。
出来れば使いたくなかったが静の気を使う。これが原因とは限らないが、これを使ったときにもう1人の俺が出て来たから嫌だった。
目を閉じる。爆発音や銃声が鳴り響くが、俺の心はいったって平穏だ。もう発動させるのも慣れた。問題は時間が掛かり、無防備になることだが……
そして再度目を開けた時には敵の正確な位置や心の声が聞こえる。あの2人はどちらも女兵士だったか。俺の対処と速やかな任務達成を天秤にかけているようだ。焦りが感じられる。
何ともクリアに感じられるのだろうか。
さっきまでは敵の未知なる実力に不安を感じていたが、今なら敵の実力も分かる。相手はこれ以上の手を持っていない。
正面から突っ込み、跳弾女から倒せばもう脅威は存在しない。さっきまでとは違い、何の戸惑いも無く、サラッと作戦は決まる。
ウォールシールドを展開して真っ直ぐ駆け抜ける。もちろん跳弾女は跳弾を狙うが、俺は壁を踏み台にしてジグザグに動く。慌てて跳弾女は連射するが、そんな当てずっぽうな射撃では当たるはずも無い。
間に跳躍女がナイフを片手に入ってくるが、遅いーー腹を蹴り飛ばす。
優に何メートルも飛んで、壁に激突する。気をやったようだ。
相方がやられたと焦る跳弾女は俺に向かって連射するが、ウォールシールドには全く意味が無い。次々と弾丸がウォールシールドに当たっては地面に落ちていく。
そして直ぐに弾が切れる。マガジンがもう無いらしく、ハンドガンを投げつけてくる。もちろんハンドガンはウォールシールドに阻まれ、地面に落ちて乾いた音を鳴らす。
そして急に情けない声で泣き始める。
「いやぁ……殺さないでぇ……」
何を言ってるんだコイツは? 戦場に出た以上、男女関係なく殺されるのは当たり前だろう?
何とも醜い姿なのだろうか。こんな奴が兵士の火星軍も落ちぶれたな。
それともこれはコイツの作戦か?女と油断したところで殺す算段か? まあどうでも良い。殺すだけだ。
ナイフを振り上げると女はヒッ、と小さな悲鳴を上げて縮こまる。
体は細かく震え、涙か鼻水か分からないくらいグシャグシャの顔になっていた。
そしてナイフを振り下ろそうとした時、突如腕が動かなくなる。
何故だ!? 俺は戸惑っているのか!? コイツは多くの仲間を殺してきたかもしれない。そしてこれからアリサを殺すかもしれないんだぞ!!
もう1人の俺を必死に抑え込むが、どんどん感情が溢れてくる。
そして涙が頬を勝手に
力が抜け、ナイフが手からこぼれ落ちる。地面に当たり、鋭い金属音が鳴り響く。
未だ抵抗するもう1人の俺を抑え込みつつ、視界を女に向ける。すると女は俺のコロコロと変わる顔芸に驚きながらもチャンスと落ちているナイフに手を伸ばす。
馬鹿野郎!! 女はまだ戦う気があるぞ!!
もう1人の俺に叱咤すると体の抵抗が無くなる。既に女はナイフを片手に向かってきていた。
もはや躊躇は有るまいーー
瞬時に出せるファイヤーボールで片を付けるーー
魔法を詠唱しようとした時、突き出した腕に強い痛みを感じて、咄嗟に引っ込めて距離を取る。
腕は折れてはいない。だが何が起きた!?
女が居る場所を見るとそこには師匠が女を肩に抱えて立っていた。
「師匠!? た、助けに来てくれたの……ですか?」
本当に助けに来てくれたのだろうか? なら腕に走るこの痛みは一体……
すると師匠は俺を睨みつけると苦々しく呟く。
「ライン、お前を拘束する」
ーーっ!? どういう事だ? 師匠が裏切ったというのか!?
困惑する俺に対して師匠は無言で日本刀を抜くのであった。