混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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祝100話目!! ハーメルンには設定資料集分進んでいるので100話です。

そこでいつもお世話になってる皆様にお礼がしたくささやかな物ですがどれかお選び下さい。

1、いつも通りの更新でいいよ
2、裏話とか小話の更新(Twitter)
3、閑話
4、設定資料集の更新

以上の4つの内のどれかです。
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13-12 降伏

 俺達より上空から降ってくるのは30機ものHAW。機体は我々雷鳴に比べれば旧式のイルだが、そのパイロット達はなかなかの腕前があるだろう。そしてあの白色の専用機はーー

 

 ーーイル・アサルト。イルの派生機で、様々なチューニングが施されている。名前の通り、強襲よりでスピード、出力共にイルにはるか勝り、地球連合軍のセイバーにも勝る。この雷鳴にすら匹敵するかもしれない。

 

 高い機動力を誇る一方、様々な欠点が存在する。

 まず第1に装甲。結局はイルの改修機であるイル・アサルトは装甲を犠牲にしたことで軽量化し、大きな機動力を手に入れた。だが、その装甲はキャノン砲で木っ端みじん。マシンガンですら多く喰らえば致命傷になる。

 第2に武装のレパートリーの少なさ。主力であるマシンガンは総弾数が少なく、射程も短い。サブマシンガンと言っても良いだろう。

 そしてマシンガン以外に武装の変更が出来ない。キャノン砲とかが積めないのだ。また防御の(かなめ)の盾も腕よりちょっと大きいぐらいの盾だ。それも薄い。他に武装はレーザーブレード1本だ。

 

 このように機動力に全振りした結果、もはや紙装甲の特攻機のような物になってしまった。

 それ故、使う者は居らず……では無かった。セイバーに機体性能で劣る火星軍のエースパイロット達はこぞってイル・アサルトを使い始めた。その結果、多大な戦果を上げている。

 そう、だからイル・アサルトはエースパイロットの証であるのだ。

 

「……厄介な奴が来たな……」

 

 ボソッと口に思わず出てしまう。

 

 白色のイル・アサルトと言えば……

 

 相手は強敵。相手に不足は無い。大きく離れた実力だが、それだけ闘争心が燃えるのだった。

 

 

 そしてとうとう敵が射程内に入る。お互いの射程は同じぐらいで、同時に発砲を開始するだろう。

 

 落下してくる敵を狙い撃つのは簡単だ。勢いが付いた機体は急に向きを変えられない。そして落下速度を落とす為に逆噴射を始めるはずだ。最初はこちらが優勢だ。

 

 それにこのレールガンで先制攻撃をしてやる。

 

 空にレールガンを向ける。狙いは白いイル・アサルト。“白熊”との異名を持つ男だが、ここで落とす!!

 射撃連動システムによって狙い撃つ!!

 

 高度な計算機能によって先読み出来る射撃連動システムは百発百中。それも弾速の早いレールガンではどうしようもあるまい。

 

 まばゆい光と共に轟音を発っするレールガン。

 狙い通りに撃てた。やったか!?

 

 だがモニターに映る“白熊”はやはりエースパイロットだった。白熊は手に持っているサブマシンガンを連射し、その反動とブースターを器用に使って、不安定な状態から上手く躱したのである。

 

「なっ!?」

 

 思わず口に出てしまう。俺には想像出来なかった躱し方だ。本来銃の反動で機体が体勢を崩さないようにプログラムされているが、それを解除して、反動をもろに受けた機体は空中という不安定な場所での射撃によって態勢を崩す。それを利用して最小限の動きで躱したというのか。

 

 これがエースパイロット……もはや曲芸の域だよ。

 

 呆れ半分、驚嘆半分の混じった溜息をつくと緩んだ気持ちを引き締める。

 

 でもレールガンを躱したのを見るとやはりレールガンは一撃必殺。これをいかに当てるかだな。再チャージまで180秒。たった3分でまた撃てるのかと最初思ったが、戦闘中の3分はとても長い。実力差がある者同士だと一合もせずに終わる。

 

 さてどうしようかとレールガンをしまいながら考えていると、オープンチャンネルの通知音がコクピット内に鳴り響く。

 

 オープンチャンネル? 誰だ?

 

 国際救難無線はかなり昔から存在していて、主に救難用だが、敵と使うこともある。

 

 オープンチャンネルに繋げると低いおっさんの声が聞こえる。

 

「レールガンを装備したパイロット、聞こえるか」

 

 俺を名指しに白熊からの無線とはな。光栄なこった。

 白熊とその部下達はマシンガンの射程外ギリギリで空中浮遊する。

 

「ああ……聞こえている。何の用だ?」

 

 降伏でもするのか、とでも挑発したかったが実際にそんな余裕は無かった。

 

 すると白熊は驚いた声を上げる。

 

「ほう、若いな。お前のような若造が最新鋭機の最新鋭装備。相当、日本独立戦線も人手不足のようだな」

 

 俺を笑うために通信をしてきたのか不快だな。

 

 黙って通信を切ろうとしたとき、白熊は話を続ける。

 

「だが、この奇襲のような戦術。そして1機の損失だけで基地の防衛戦力の排除。見事な実力だ」

 

 今度は褒めてきた。何を考えているんだ、分からない。

 

「若者よ。戦士たるものはお互いを讃えるのだ。そして倒した相手の名前を覚える。私は白熊ことウルス・ブランだ。お前の名は?」

 

 戦士として認めて貰えてるというのか。いや機体性能と装備の差だろう。だが名乗られた以上、名乗り返すのが礼儀だ。

 

「俺は……ライン・グレス。白熊と戦えるとは光栄だ」

 

「ライン・グレスか……お前は日本人でも無いのに何故日本の為に戦う?」

 

 その質問に多くの思いが込められている気がした。戦う理由を重視するのが戦士という者か。

 

「俺は日本が好きだ。多種多様な新しい考えを認め、それでもなお伝統という良き物を残す……そんな特別な国なんだ。火星独立軍のような一括統治を許したら日本の独自性を失ってしまう!! だから俺は日本を守る為に戦う!!」

 

 大した理由じゃないかもしれない。でも好きな物を守る為に戦うなら本望だ!!

 

 すると白熊はふふっと面白うに笑う。

 

「日本が好きか……なるほど、単純かつ明快な答えだ。若いからか、複雑なしがらみを背負ってないようだな。良い答えだ。戦うのに十分な理由だ」

 

 俺はお前がここから立ち去らない以上戦う気だがな。

 

 だが白熊は予想外の質問を飛ばしてきた。

 こちらの全機体に通信を飛ばしてきた。

 

「私の名はウルス・ブラン。白熊と呼ばれている。もしお前達がその機体と共にこちらに降るというのなら命は保証しよう。また私は日本支部とのコネを持っている。日本支部へ自治権を認めるよう進言しよう。白熊の名は伊達ではないぞ」

 

 ……まさか降れなんて言ってくるとは思わなかった。

 

 そして俺達が戦う理由を奪いに来ている。

 目の前に、かの有名なエースパイロットと30機のHAW。敵は優勢なのにこちらに有利な条件での講和をしようと言っているのだ。

 一見すれば譲歩しすぎな講和だが、その中身は多くの意図が含まれている。

 

 まず俺達の降伏によって最新鋭機、雷鳴が無傷で手に入る。これからの更なる技術発展と戦力大幅増強が望めるだろう。

 

 次に時間を稼ぐ事が出来る。今なら日本独立戦線と火星独立軍の差が少ない状況だ。時間が経てば敵は部隊を集め、その戦力差はとてつもなくなる。滅ぼすのは赤子の首を捻るかのように簡単だろう。

 

 そして敵は無傷で戦いを勝利で収められる。これは白熊の大手柄だろう。危機に陥った基地を無傷で救い、兵を失わずに反乱分子を殲滅出来るのだから。

 

 このように奥深くまで考えないといけないのだが、目の前に転がる餌に早くも動揺し始める味方のHAW達。

 

 この提案は怪しいが戦わずに、死なずに済んで平和が来るかもしれないという、涎が出そうな程の大きな美味しそうな肉を目の前に置かれているような物だ。分かっていても、もしかしたら、という考えが捨てきれないのだろう。

 

 だがこれは罠だ。まず、そもそも敵が約束を守る確証が無い。口約束であり、約束という物は立場が対等な者同士がする物だ。今は対等かもしれない。だが1週間後には確実に立場は一変する。立場が強い者が一方的に破っても、弱い立場の者は何も出来ないのだ。

 

 だから俺この話に乗ることは出来ない。それに話に乗ってもこのまま何も変わらない気がする。

 

「部隊を代表してお答えしよう」

 

 ざわついていた味方も俺の答えを聞くために静まる。

 

「我々は……降伏はしない」

 

 この答えに味方は賛否両論に別れる。そもそも断固戦う者。出来るなら戦いたくない者。旗色が悪くなったので逃げたい者。様々な者が部隊に居るようだ。

 

 こんなんじゃ勝ち目は無い……幾ら最新鋭機があってもパイロットの気持ちがバラバラでは実力も発揮されない。

 だがここで負ければ師匠達に被害が及ぶ。負けられない。

 

「我々は日本の未来の為に戦う。家族の為、子供の為、大切な人の為に。その意志は揺るがない」

 

 この言葉でざわついていた味方も覚悟を決めたのか息を呑むのが分かる。そう、戦う理由は1つだ。覚悟を決めろ。

 

 すると白熊はレーザーソードをゆっくりと抜く。

 

「若いのに見事な決断だ。その決断が正しいかは誰も分からない。だが最悪の結果を選ばなかったようだな。そう、何も選ばないという思考放棄だ。でもお前は選んだ。ならそれを貫いて正解にして見せろ!!」

 

 再度始まった戦いに俺は歯を食いしばって足のペダルを踏み込むのであった。

 


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