meet again   作:海砂

99 / 117
団長と月の取引

 くそっ……! まさか時計に仕込んでいた切れ端を奪われてしまうとは……心当たりはあの時だけ、パームに時計を貸したあの時だ! あの女、知っていたのか?

 

 かろうじてノートを手放す前にほんの少しだけ破り取る事ができた。とはいえあれだけの人の中で、特に竜崎の目の前だったので、小指の先程度しか破れなかった。今記憶を失うわけにはいかない。

 

 現在の所有権は、ウイングにあるようだ。彼が退室する時にレムも一緒に出て行った。今は……ひとまずあのノートのことは忘れよう。幸い、監視は解かれることになった。ひとまずミサに伝言をしてノートを掘り返させて……そうすれば、問題はないはずだ!

 

……待てよ。時計に仕込んでいた切れ端の存在を知っているような奴が、ノート本体を放っておくか? 少なくとも僕なら……くそっ、こんなことになるなんて……。念のためにミサにはノートを探しに行くよう伝えるとして……もし無いとしたら、ノートはどこにある? こいつらが持っているのか? Lが知っている様子は無い。持っているとすればやはりウイングかパームか……あの四人のうちの誰か。

 

 数日後、しょんぼりしたミサがノートが無かったことを報告しに来た。やはり奪われていたか。Lに疑われていたあの状態で、他に切れ端を仕込む余裕はなかった。何とかして、もう一冊のノートを取り戻さなければ……。リュークさえ見えれば少しは有利になるんだが……どうする?

 

「おー夜神、やっと来たか。ちょっと付き合ってくれないか?」

 

 ウイングが何も知らないような顔をして僕に声をかける。コイツはとんだ食わせ物だ。もう少し警戒しておけばよかったが、神の子発言などから考えても竜崎ほどではない、と甘く見すぎていた。

 

「何の用ですか?」

 

 大学から直行で僕はいつもこの捜査本部に足を運んでいる。今日は竜崎のところへ行く前にウイングに捕まった。別室に連れて行かれる。そこには、クロロが待っていた。

 

「単刀直入に言おう。お前さん、持っているのか?」

 

 何を? ……愚問だな。デスノートの欠片を僕が持っていることも見通している。いったいどこまで知っているんだ、こいつらは……。

 

 左手に握りこんでいたノートの切れ端を見せる。人の名前を書く余裕も無いほどの、小さなカケラ。竜崎の目の前で切り取るのは、これが精一杯だった。

 

 

 

「……ということは覚えてるっつーことだな。よしよし、ちょうどいい。あ、この部屋の監視カメラは切ってあるから竜崎の目は気にしなくて大丈夫だぞ」

 

「夜神月、お前のデスノートはオレが持っている。もちろん、所有権もオレのものだ。お前には見えないだろうがここにリュークもいる」

 

 クロロが親指で虚空を指し示す。ここで嘘をつく意味も無い。本当にこいつがデスノートを所持し、そしてリュークもそこにいるのだろう。レムはすでにウイングの傍にいる。

 

「はっきり言う。お前さんに勝ち目は無い。その切れ端を渡して何もかも忘れろ。その方がお前さんにとっても周囲の人間にとっても幸せだ。俺はLがお前さんらを処断しない方向に持って行きたいと思っている。その切れ端を放棄するなら、お前さんの身の安全は保障しよう」

 

 馬鹿な。そんなことができるはずが無い。いや……ここは従ったように見せて何とかしてクロロの持つノートを奪う……くそっ、もう少し考える時間さえあれば……。

 

「お前に時間を与えると碌なことは無い。断るというなら俺は今すぐノートにお前の名を書く。これは取引ではなく警告だ。さあ答えろ。死か、服従か」

 

 ウイングはともかくコイツは……本気でやる。迷い無くノートに名前を書き込むことのできるタイプの人間だ。時間が無い。……何とか引き伸ばす方法を……。

 

「……どこまで知っているんですか」

 

「全部だよ、夜神月。お前さんが言ったとおり俺達は別の世界から来た。その世界には、この世界の未来についての預言書がある。最初に言っただろう? お前さんがどうするかもすべて知っている、とな。諦めろ。お前さんを死なせたくは無い、これは俺の本心だ」

 

 クロロがノートを取り出す。……タイムオーバーか……。

 

 彼がノートを開く前に、僕は切れ端をウイングに手渡した。これで……新世界も終わりか……。

 

 

「OK。じゃあ俺は捜査に戻る。夜神、いっしょに行くか?」

 

「オレがこいつに話がある。ウイングは先に行っていろ」

 

 ウイングとレムは出て行き、僕はクロロと二人きりになった。

 

「話って何ですか?」

 

「何、すぐに済む。お前にプレゼントがあってな……」

 

 そう言いながら、クロロは何かを僕に手渡してきた。くしゃくしゃになった紙片……デス、ノート!!

 

「本の方は渡せないがな。それだけならお前にくれてやろう」

 

「…………何故」

 

「オレはお前のことが嫌いじゃない。お前の考え方もな。だが本は譲れないし、今は記憶が戻ってないふりをしてもらう。そう遠くない未来、オレ達は自分達の世界に戻る。もう二度とこの世界にくることはないだろう、無論手出しもできない。……そのあとにお前がこの世界をどうするか、それは自由だ。だが言っておく。それでオレ達を殺そうとは思わないことだ。その時はどうなるか……わかっているな?」

 

 予想外……死神じゃない方の神はまだ、どうやら僕に味方しているらしい。クロロがこういった考え方を持っているのは、おそらくウイングにとって計算外だったのだろう。

 

 今はクロロの持つノートが奪えなくても構わない。いずれ奪う方法を考えるか、死神をうまく使う、あるいは殺せばいいだけだ。僕ならやれる、その自信がある!

 

「……感謝する」

 

「ならばお前の言う新世界とやらをここから実現して見せることだな。オレはそれを楽しみにしているよ」

 

 クロロは一瞥もせず部屋を出た。リュークもまた彼に憑いて、出て行ったのだろう。この切れ端はおそらく僕が時計に仕込んでいたものか。でなければ僕にもリュークが見えるはずだ。

 

「ク……ククク…………アハハハハハハ!」

 

 見せてやるよクロロ、新世界の創世をね。それを歯噛みしながら何処かの世界で眺めているといい。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。