meet again 作:海砂
ウイングの言葉が妙に引っかかった。
『夜神月のように記憶を失った者だとしたら?』
面白い、あいつらに黙ってでもやる価値は、あるかもしれない。違っていたところで彼女が何を言おうと信じてはもらえんだろうしな。
『お前、また何か企んでるだろ。そういうとこ、ライトに似てるな』
そうか? オレがあんな小僧と一緒にされるとは心外だ。直接自分で手を下すこともできないような小物と。
「松田、竜崎が呼んでいる、オレと代われ」
「え? あ、は、はい」
部屋を出て行き残されたのはオレとカナの二人だけ。竜崎がカメラで覗いているこの部屋。見られたところで支障はないし、さすがにその程度のことはこの女でも気づいているだろう。
「クロロさんと一緒に仕事すんの初めてやなー。よろしゅう」
オレは偽りの笑顔を纏い、彼女と握手を交わす。カメラからは見えないように彼女に手渡したそれは、確実に彼女に変化をもたらした。
「……あ」
叫び出すかとも思ったが、それはなかった。……どうやらウイングの推測は的を射ていたらしい。
「気分はどうだ、桜木加奈子」
「……むっちゃサイアクやわ。何でアンタがコレ、持っとんねん。死神は?」
「行きがかり上、偶然手に入れただけだ。お前には見えないだろうがここにいる」
彼女は軽く空中に視線をめぐらせ、そして再びオレに戻す。
「同じもんが他にもあったちゅうことか」
「理解が早くて助かる」
間違いなく、彼女はデスノートを持っていた。それにどんな意味があるのかはまだわからない。これから聞き出すことであって、今すぐに必要なことではない。これで、オレはLもキラも出し抜いた。軽く笑うと、彼女に紙片を握らせる。夜神月の時計から奪った、小さな紙切れ。
「お前が持っていた方がいいだろう。オレは別に持っているからな、それは必要ない」
「アタシも別にいらんのやけど」
それならば捨てようが燃やそうが自由だ、そういうと彼女は押し黙ったまま、渡した紙片を握り締めた。小さく屑になった紙片、それでも意味はある。デスノートを所有したことのある人間にとっては。
「で、アンタ何がしたいん?」
「真相を知りたいだけだ、他意はない。無論、他の人間に教える気など毛頭ない」
カメラで覗いている奴はいるかもしれんがな。それはオレの知ったことではない。
「さぁな……アタシにもわからへん。ただ、一人だけはアタシがやった。あの人の望むようにしてやっただけや」
彼女の示す一人、それはオレの予想が正しければおそらく彼女の兄だろう。
「所有権は?」
「元々アタシのもんやった。それを叔父さんに渡して、必要な時はまた取り戻せるように。一度はその時、そしてもう少し後でまた受け取るつもりやってんけど……アンタのせいで予定が狂ってもうたやん」
「オレは知らんな。だがこれで少々面白いことになった。お前の目的が何かは知らないが、オレと手を組まないか?」
『クックック……面白!』
三人の命を救う目的から、キラの世界をこの手で作り出す目的へと。三人が死ななければ、この世界がキラの物になろうと特に問題はないだろう?
「悪いけどお断りやわ。アタシにはアタシの目的があって動いとる。それに他人は邪魔なだけやねん」
即答、か。一体何の目的があるのかは知らないが、それもまた面白い。
「つーわけで、コレはアンタに返す。もうアタシには触らせんといてね。その辺におる見えへん死神さんもサイナラ」
ぐしゃぐしゃになった紙片をつきかえされ、その瞬間に彼女は元に戻った。……ノートのことを何も知らない頃へと。
「行くぞ」
オレはリュークを連れて部屋を出た。
これで情報を手に入れた。最初……というには語弊があるが、一番最初にデスノートを手にしたのはこのカナという女だったという事。この事がオレにとってどういう形のアドバンテージになるのか……今後が楽しみだ。
「二人のほかに……誰か、いた?」
「誰もいないぞ、竜崎」
監視をしていた者の目には、カナとクロロしか映らない。二人の間であたかももう一人いるかのような、不思議な会話がなされていた。
「……死神……だ、と?」
竜崎の目が、暗く光った。
「竜崎、お呼びですか!!」
そこに空気を読めない男が飛び込んでくる。
「別に呼んでません。戻ってください」
マッツーは凹んでいた。