meet again   作:海砂

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スパイの可能性

 このビルの全ての場所に死角なきよう、随所に監視カメラを設置してある。そのカメラで彼らの生活をのぞき見た私は絶望した。

 

「……竜崎」

 

 夜神月に同情されている気がする。せつない。一体自分が何をしようとしているのか判らなくなってきた……。

 

「月くん、私も彼らに混じってきてよいでしょうか……」

 

「何を言っているんだ竜崎! 僕らがしっかりしないとキラ事件は進展しないだろう!!」

 

 そう、その通り。しかし私は、人間には休息も必要だと思い、遊戯室を用意していた。捜査員の憩いの場となればと思っての事だ。それが……何故こんな事に……。

 

 私が悩んでいる間に、夜神さんが全て解決してくれた。金品を賭けていないとはいえもっと真面目にやれと彼らの元へ単身で殴りこんでくれたのだ。これで私も一安心。すでに彼らがキラだという疑いは微塵もないが、すぐそばであのように遊び回られると非常に不愉快だ。

 

「あれ、模木さんは?」

 

 ようやくこの部屋に顔を出したウイングとそのほかの面々。シュートだけはトレーニングのため別行動……あの娯楽室は今のうちに撤去するようワタリに言っておくとしよう。

 

「弥海砂のマネージャーとして面接に同行しています」

 

「なるほど、ヨツバへの潜入まで行っている訳か。ということはアイバーもそっちだな」

 

 遊び呆けていたとはいえ、多少はこちらの動向も気にかけていた様だ。するりと話に混じって普通についてくる。これだけの頭脳集団を遊ばせておくのはもったいない。私や夜神月には敵わないまでも、大きな戦力となる。

 

「竜崎、ウエディは現在自由に動かせる状態にあるか?」

 

「はい、まぁ、今は大丈夫です」

 

「それならば彼女に頼んでヨツバメンバーの内、火口・尾々井・鷹橋・葉鳥の四名の自宅に監視カメラと盗聴器を付けさせろ。オレの推測ではこの四名の内の誰かがキラだ」

 

 クロロの推測……私の推理とほぼ一致する。何故この四人があんな風に遊んでいたのか理解できない。私と月くんだけでキラを捕まえられると思ってのことか、それとも他に理由があるのか……。別口の捜査をしていたとは、到底思えない。

 

「尾々井は違うと私は感じましたが、残りの三名については同意です。ウイングさんはどう思われますか?」

 

「俺が怪しいと思ったのは、その中から尾々井を除いたその三人と紙村だ。三堂・奈南川はキラの能力を持っていれば単独行動をとるだろうし、尾々井は小細工を弄する性格とは思えない。樹多はコイルとの接触の窓口になった事から違うと考えられる」

 

 という事は、特に怪しいと思えるのは推理が重なっている火口と鷹橋、葉鳥の三人。

 

「夜神くんはどう思ってるの? ちなみに私はウイングの推理とほぼ同じだけど、紙村はないと踏んでる」

 

「何故紙村を外して葉鳥を入れる? 僕はあの二人は同様の性格……キラに脅されていると見ているんだが」

 

 夜神月も私とほぼ同じ考えらしい。メンバーの中でも特に気の弱い二人……自分から率先してキラになるとは考えづらい。けれど、紙村と葉鳥は確かに違う。その点に気づいているのは私とパームだけのようだ。

 

「会議の様子をもう一度よく見てみたら? 紙村は消極的ながらも意見を述べているのに対して、葉鳥は全くといって良いほど己の意思を表に出してない」

 

……つくづく思ったのだが、パームは私と同じいぢめっこ気質のようだ。着眼点が全く同じ……気の弱い人間のどこに着目してどういたぶろうかと考える方法がまるで同じ。これは、夜神月やウイングにはない発想だ。

 

「脅されているにしては『言わなさ過ぎる』という事か……」

 

 彼女の言葉に、夜神月も納得したようだ。もちろん、私も同じ事を考えていた……。

 

「それではターゲットを火口・鷹橋・葉鳥の三名に絞ってカメラを設置しようと思います。聞いていましたね、ウエディ?」

 

 パソコンの中の一台の画面が切り替わって、彼女の映像が届く。

 

「わかったわ……ただ、火口の家は少々面倒なセキュリティーになっているから……その三人だけでいいのなら、そしてリアルタイムではなく仕掛けて後に回収するという方法でいいのなら三日で可能よ」

 

「はい。彼らの自宅と携帯、それに車の中にもお願いします」

 

 了解と言葉を残して、彼女はワタリと共に任に付いた。

 

「竜崎、葉鳥についてもう一つ気になる点がある」

 

「カナさんの事ですね」

 

 ウイングは私の返事に頷いた。捜査本部に押しかけてきた人間がキラ候補者の親族、普通ではありえない確率だ。けれど怪しすぎて逆に疑いたくなくなってもくる……。

 

「彼女には松田さんと一緒に裁かれた犯罪者のチェックを頼んでありますし、現在は外出も禁じてあります」

 

「彼女がスパイかもしれないということか……」

 

 その可能性はきわめて高い。ただ、演技にしては彼女の素振りは少々大げさすぎるし、何より兄が死んでいるというのは事実だ。けれど監視の目を外すわけにはいかない。夜神月と私を繋いでいるこの手錠のように。

 

 ひとまずは、これで出来る手を全て打った。あとは、ミサが戻ってくるのを待つだけだ……。


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