meet again 作:海砂
私たちは今、ゴンの案内で、年に何度かやってくる商船の開く港市に来ている。
規模の大きいバザー、といった雰囲気で、テントの下には食べ物から生活用品、何に使うんだかさっぱりわからない道具まで様々なものが並んでいる。
フエルミラーのおかげで、とりあえず買えない様な金額のものはない。ので、集合時間だけ決めておいて、各自が自由に品物を見て回っている。
私は、お風呂だけでなく度々夕食をごちそうになったミトさんへのお礼に、珊瑚玉のブレスレットと珍しい焼き菓子をいくつか購入した。多分、男どもはこういった気遣いはできないと思うから。っていうか絶対あの二人がそんなところまで気が回るわけがない。
あとは、適当にブラブラしていると、刃物を専門に扱っている商人が、さまざまな商品を並べて呼び込みをしているのが目に付いた。
包丁やサバイバルナイフのような小さな物から、斬るというより叩き割るために作られたような大型の両手剣まで、節操なく並べられている。うわ、十徳ナイフまであるよ。
「お嬢ちゃん、こんなのはどうだい?」
薦められたのは皮むき機。ジャガイモとかの皮をむくのに便利なヤツだ。別にいらない、ナイフで充分事足りるし。
無造作に並べられた刃物の中に、面白いものをひとつ見つけた。……これだから、原作の知識って、便利。
鞘から抜くのに少し力が要り、引き抜いたそれは手入れを怠っていたのか、赤錆でボロボロになってしまっていた。
「おじさん、このナイフいくら?」
「ん? そいつはボロいしなかなか売れなかったしなー、鞘込みで200ジェニーにまけとくよ。しかしそんなもの何に使うんだい?」
500ジェニーコインを渡して、おつりとナイフを受け取る。一足先に待ち合わせの場所へと向かい、適当に座った。さっきその辺で拾った小枝にオーラを纏わせて、二箇所の目釘をトントンと打ち抜く。刀身を柄から引き出す。日本刀に近い作りのそのナイフの隠れた場所には、銘ならぬシリアルナンバーが刻まれていた。
「ふふっ」
意外なお宝を前に、私は目を細める。ほんの少しオーラの見えたこのナイフ、十中八九ベンズナイフだろう。攻撃能力がない以上、こういった武器は、私にとって身を守るためには必要不可欠。うれしくて、ついつい笑みもこぼれてしまうってもんだ。売り払って、もっと使い勝手のいい武器を買ってもいいしね。
刀身を再び柄に押し込んで、目釘を刺して固定する。居合や剣道の素養がない私には、こういった小さなナイフの方が小回りが利いてきっと使いやすいはず。あとは、この赤錆をどうするか……そりゃもちろん、アレでしょう。
ぽっぺけぺっぺっぱーっぱーっぱー♪
「タイムふろしーきー!」
突然のファンファーレに道行く人たちが振り返ったけどキニシナイ。気にしたら負けかなと(ry
ちなみに道具の名前を呼ぶのは別に制約ではない。そんなことしたらノドつぶされて一巻の終わりだもん。つまり、単なるシュミ。
さっそく風呂敷でナイフを包み、待つこと数分。はい、新品のベンズナイフの完成♪きっと、日本人とやりあった後に作ったナイフなんだろうなー。ん? JAPPONだっけ、こっちでは。
次に待ち合わせ場所に来たのはシュートだった。何も持っていないところをみると、特に買いたい物はなかったんだろう。
「なにそれ、ナイフ?」
「うん、護身用にね」
ベンズナイフの説明はめんどいので省略。ナンバーが浅いから結構な高値で売れるかも。ナイフくらいの大きさで日本刀型ってのも珍しいだろうし。ヨークシンのオークションとかにかけたらいい値がつくかなー。特に毒とかは塗ってなさそうだけど、日本刀を模しただけあって切れ味は鋭そう。うん、ホントいいもの手に入れた♪
時間つぶしに、適当におしゃべりしながら買った焼き菓子をいくつか二人でつまんでいたら、あとの二人が一緒にやってきた。ゴンは新しい釣竿を買ったのかな? ウイングは……ま、最初に買うって言ってた世界地図だけだろな。
「お前さんたちは、何か面白そうなもの手に入れたか?」
「なかった」
シュートは口を尖らせて、にべもなくそう言った。さっき聞いた話だと、野球のバットとグローブとユニフォームとボールを捜し回ってたらしい。……ホント、野球バカ。
「私は欲しい物手に入ったよー」
私の左手にはナイフ、右手にはミトさんへの貢物。
「さ、んじゃ、ミトさんに挨拶しに行って、それから出発しようね」
……二人が目を丸くして顔を見合わせている。あーあ、やっぱりミトさんにご挨拶するという発想がなかったんだなー。失礼なヤローどもだ。散々お世話になっておきながら。
「オレも一緒に行きたいなぁ」
ゴンがポツリとつぶやく。もちろん、ついてこさせるわけにはいかないし、実際についてくるわけでもないだろう。ただ、ひと時の別れがさびしいだけ。それは私たちも同じだ。
「また絶対に会うしな。そん時は立派なハンターになったお前さんを見せてくれよ?」
小さく頷くゴンの頭をなでているウイング。……ことあるごとに頭なでるよねこの人。ショタコン? 私もシュートも何回なでられた事か……両刀?
「……お前さん、なんか相当失礼なこと考えてやしないか?」
ウイングに睨まれた。どうしてそういうところだけカンが冴えてるかな、オーラ少ないくせに。オーラ関係ないけど。
感情の起伏が激しいミトさんは、さびしくなるわね、と、泣いていた。私も少し、もらい泣きしそうになった。
彼女にプレゼントを渡し、今までのお礼を述べて、そして小屋へと戻る。小屋まではゴンも一緒についてきた。
「そういえば、ゴンはなんで最初、この小屋にこようって思ったの?」
「猟師さんがずっと昔に使ってた小屋で、今まで誰も住んでなかったのに急に人の気配がしたから変だなって思って」
そっか。だから特に生活用品がなかったんだな、狩猟の時期に一時的に利用するだけの小屋だから。ベッドがあっただけでも良かったのかもしれない。硬かったけど。つかほとんど単なる板+毛布だったけど。
「ねえ、ホントにまた、会えるよね?」
ゴンの問いかけに、私たちはそろって同時に頷く。もう『主人公ルートに近寄らない』なんて言わない。……危険な所は避けさせてもらうけど。
ドラ焼きはすでに先ほどの市場で三個ほど食べた。体重がちょっと気になるけどキニシナイ。
ポケットを具現化して、どこでもドアを出す。マヌケなファンファーレが、なんだかいつもよりいっそう笑えた。
ゴンはウイングの予知能力(笑)を信じたくらいなので、何があっても興味を示しこそすれ、今さらそんなに驚いたりはしない。念を覚える頃には、私たちの能力に気付くかもしれないね。
扉部分に地図を入力する。そして、ククルーマウンテンを意識しながらノブを握り、開く。ドアの向こうは、もう小屋ではない。そびえ立つ山が、遠くに見える。
「じゃあね、ゴン」
サヨナラは言いたくない。永遠の別れに似てるから。だから私たちは互いに笑顔で「またね!」と手を振る。
扉を閉めて手を離す。ドアが消える。
こうして、私たちは一ヶ月強に及ぶくじら島での生活に終止符を打った。
またね、ゴン。またね、くじら島。