meet again 作:海砂
ミサちゃんの監禁は、想像以上に酷いものだった。
私は今、竜崎の部屋にいる。このホテルのどこかの部屋で拘束されているであろうミサちゃんの映像を見た瞬間に吐き気がした。マンガで知っているものと現実を目の前に突きつけられるのは雲泥の差なのだと、今思い知った。
「……竜崎、確かに俺は弥海砂確保に同意した。だがこれはあんまりじゃないか?」
私達だけでなく他の捜査本部の面々も、この竜崎の方法には不信感を抱いている。全員で詰め寄れば少しはマシな方法に変えることが……竜崎なら、無視するだろうなぁ。
「第二のキラだと確定できるだけの物証が次々と集まっています。あとは、殺し方を自供させるだけです。だったら自白させるにはこの方法が一番でしょう」
竜崎はミサちゃんの頑固さ、我慢強さを知らない。一体ワタリにどんなことをさせるのかは知らないけど、それで自供は得られない……何とかして、それを知らせる方法は……駄目だ、このままミサちゃんを放っておく以外に解決策が見付からない。
「竜崎、オレとミサちゃんを一緒に監禁してくれ。ただし、あの拘束具は外して、自由に室内で動ける状態にして、だ」
突然、シュートが自ら、何かとんでもないこと言い出した! 具体的な内容を知らないからと自由にさせたのがマイナスに働いたか?
「それで弥からの自白が取れるとでも?」
「オレは彼女の性格を知っている。こんな方法じゃ彼女がやつれて死ぬのを待つだけだ。だったらいっそ、友人と思わせているオレと彼女を一室に閉じ込めて会話を盗聴する方が話を聞きださせる可能性は高いと思う」
「ちょっと待って、だったら私が……」
「パームは必要ない。一緒に監禁されるのは一人で充分だ。……どうだろう、竜崎? オレは彼女から第二のキラであることとその殺し方をうまく誘導して聞き出す。もしそれで駄目だったら、改めて彼女だけを拘束すればいいだろう」
周囲の人間は、それでも現状に比べればはるかにマシだと、シュートの意見を容認する方向で同意している。あとは竜崎がどう反応するか。
「……室内には死角のないように監視カメラと、盗聴器も大量に設置します。あなたが捜査の上で不利になるような情報を弥に渡した時点で今の状態に戻します。また、あなたの行動もその室内のみに制限させてもらいますし、カメラを外すことも許しません。……それでもいいですか?」
「もちろん」
直接この物語を知らないシュートが、というところで不安はあるけれど、その方法でいくことに竜崎も同意した。あとはシュートがどう立ち回るか……それだけが、心配だ。
「竜崎、オレが捜査本部の一員であるということは話しても問題ないな?」
「はい、確保の時に第二のキラ容疑、ということは伝えてありますので、その点は問題ありません。ただしそれ以上の捜査本部に関する情報は一切漏らさないでください」
「わかった、じゃあ今すぐ部屋を準備してくれ」
竜崎がPCの向こうのワタリに指示を出す。ミサちゃんの監視は映像を使ってここで行い、その間にワタリがカメラや盗聴器の設置をするんだろう。
すぐに準備が終わり、シュートとミサちゃん(彼女はアイマスクを付けられたままだ)がその部屋へと移される。
『えっ……何でシュートがここにいるの?』
『ごめん、オレも捜査本部の一員だったんだ。でもミサちゃんがあんな風に監禁されてるのを見過ごせなかったから、Lに頼んでこういう風に一室での軟禁に代えてもらったんだ。……少しは、マシだろ?』
『そりゃ、今までに比べたら遥かにいいけど……第二のキラ容疑って言うの、本当だったんだ……』
二人の会話も映像も、鮮明にこの捜査本部まで届く。この状態で余計なことは言えないだろう。
「……さすがですね」
ぼそりと、竜崎が呟いた。
「どういうこと?」
「いえ……一切の黙秘を続けていた弥が、彼を目にした途端にしゃべり始めました。この手段、案外悪くないかもしれません」
……これで随分、話の流れが変わってしまった。ミサちゃんが所有権を放棄するまで……夜神月が監禁されるように、シュートはうまく話を進めていけるんだろうか。ああ、やっぱり私が代わるべきだった!
「今はシュートを信じるしかないさ」
ウイングが気休めを言う。周りには『シュートが自白を取れるように信じる』という意味で聞こえているだろう。……本当に大丈夫だろうか。一つ歯車が狂えば全てがダメになる。シュート、信じて……いいの?
「竜崎、部屋に戻る。俺らの部屋のPCにもこの画像と音声を送っておいてくれ」
「了解しました」
私は一人でこの状況を見守ることに耐え切れずに、ウイングの部屋に押しかけた。画面の中の二人は、他愛もない話を続けている。
「シュートに出来る限りの知識は渡しただろう? アイツも馬鹿じゃない。うまくやってくれると信じよう」
あまりこの状況が長引けば、夜神月がミサちゃんを殺すかもしれない。時間がない事も、シュートはわかってるんだろうか。
『ミサちゃんはやっぱり、月くんのことが今でも好き?』
『あたりまえじゃん。一番は月だよ。もちろん、その後にシュートやパームも続くけどねっ』
シュートが、ミサちゃんを抱きしめる。
『……オレじゃ、駄目かな?』
何を言ってるんだと一瞬ピキっときたけれど、ミサちゃんを抱きしめて肩口に顔をうずめている今のシュートの体勢なら、監視カメラから口元を隠せる。……もしかして、これが目的で?
『あ、はは……何言ってんの? 冗談辞めてよ……』
『冗談なんかじゃない、オレ、ずっとミサちゃんのこと好きだったんだ』
会話の合間に、少しだけの空白。その間にこちらには聞こえないように、きっとシュートは所有権を放棄するようにささやいているんだろう。でなかったら鉄板仕込んだハリセンで撲殺してやる。
やがて、ミサちゃんは崩れ落ちるように倒れ、それをシュートがベッドまで運ぶ。そしてレムが出て行った。よし、うまくやった!!
『竜崎、聞いているんだろう? ミサちゃんが気を失ったんでオレも少し眠ることにする』
『あなたが弥を好きだというのは少し予想外でした。二股ですか?』
『何言ってんだよ、演技に決まってるだろ。じゃ、休ませてもらうからな、監視よろしく頼むぜ』
『了解です』
竜崎とシュートの会話も終わり、シュートもベッドに潜る。
「成功。レムはミサちゃんから離れたよ」
「俺はお前さんが発狂して部屋に殴りこむんじゃないかとヒヤヒヤしてたぞ」
一言多いウイングの口をハリセンで黙らせて、私も休むことにした。これで数日後、夜神月が監禁されにやってくるはずだ。……ミサちゃんとシュートが同じ部屋にいるってのが気に食わないけど、まあ監視されてる以上問題はないだろう。明日か、あさってか……夜神月がここに来てからまた、少し動かなければならないかもしれない。休息は取れるときに取っておく。前の世界で学んだことだ。