meet again   作:海砂

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デスノート盗賊

 翌日。パームの記憶も借りて、俺はシュートとクロロにヨツバ編の細部までを丁寧に説明していった。途中で『何故知っている』などと口を挟まれなかったのがありがたい。それを言っちゃあ話が進まなくなっちまうからな。

 

「ただし、今言った事が全て現実になるとは限らない。俺たちの介入によって、既にTVへのLの強行出演なんかの誤差が生じているからな」

 

 思い出して鬱になった。そもそもTVカメラ向けられただけでも緊張するってのに、あそこでペラペラと自分の推理を発表できるヤツがいるとしたらそれこそLくらいのものだろう。あ、あとライト。教壇に立つのとは全然違う緊張感と圧迫感を覚えたぞ。もう二度とゴメンだあんな役。

 

「今日は、竜崎も大学に行っている。つまり今日、竜崎は本名をミサに見られ、その直後にミサはこの捜査本部に拉致されるだろう」

 

「……なあ、話を聞いてたらミサちゃんが捕まるみたいだけど……結構ひどいことされるんだろ? 何とか助けてあげることは出来ないのかな」

 

 シュートは既に弥海砂に対して友人……或いはそれ以上の感情を持っているようだ。パームの前じゃ言えないけどな、恐ろしくて。

 

「そうだな、監禁の状態を見てもらえたら大体どういう扱いをされるのかがわかるだろうから、それに対してはいくらでも抗議して構わない。俺もするつもりだしな」

 

「オレはしない」

 

 クロロの性格上はしないほうが正しいと、俺も思うぞ。むしろミサを擁護なんかした日にゃ逆に怪しまれちまう。

 

「私も抗議する。だってあれはあんまりだもん」

 

 抗議したところで簡単にあの竜崎が考えを改めるとは思えないが、それでもやる価値はあるだろう。その場に夜神月がいないのが惜しいが、……それでもあれはやりすぎだと俺でも思う。俺ですらそう思うくらいだからこの二人はもっと激しく抗議するだろう。別にそれは構わない。問題はその先だ。

 

「数日後、……多分弥を監禁しはじめて三日くらいだろう。夜神月が捜査本部にやってきて、自分も監禁してくれと言い出す。この時点ではまだ夜神はキラとしての記憶を持っているから、特に反論はせずに、彼も拘束されるように仕向ける。そしてクロロ、ここをお前さんに頼みたいんだが……」

 

 頼みたい事。それは、監禁されるまでの間の、夜神月の尾行。彼が隠す……デスノートがどこに埋められたかを把握し、できれば横取りしておきたい。それだけで、夜神に記憶が戻る可能性が格段に落ちる。

 

「……オレでいいのか? そのままデスノートを持って逃走するとは考えないのか?」

 

「俺は今、お前さんを信用してる。そんな事をするヤツじゃない、とな。それに、お前さんはどっちかというとこの世界で使うわけじゃなく、……前の世界にデスノートを持って行きたいと考えているだろう。そしてヒソカとの約束も果たそうと思っている。つまり、デスノートを持って俺達の元に来るしか選択肢はないわけだ」

 

 左手にデスノート、右手にあの木の実。ううう、そんな場面想像するだけで鳥肌が立つけれど、この四人の中で最も身体能力に優れ且つ息を潜めて尾行を成功させられるのはコイツだろう。……念が使えるのなら、俺やシュートやパームでもいいんだけどな。

 

「わかった。それなら俺は今日から夜神家の監視・尾行に入る。連絡は……」

 

「私のケータイを持って行っていいよ。私達以外からメールや電話がかかってきても無視しておいていいから」

 

 パームがケータイを手渡す。クロロにショッキングピンクのスマホ、ぬいぐるみのストラップ付き。すごい組み合わせだな。……って見てる間にストラップ引きちぎりやがった!

 

「じゃまだ」

 

 何も言わないけどパーム怒ってる。すっごく怒ってる。念は使えないはずなのにオーラで判る。不思議。……何も言わずにハリセンでぶん殴った。キレてるキレてる。クロロは平気そうだ。嘘だあれ結構痛かったぞ!

 

「……かえして、それ」

 

 クロロは無言で引きちぎられたぬいぐるみをパームに手渡した。クマのぬいぐるみの首の部分がわずかに裂けている。大事なものだったのかな。……つかあれ? 見覚えあるぞアレ。確か……俺がまだ社会科教師だった頃に、生徒にもらったバレンタインチョコのお礼に、くれたヤツ全員に配ったぬいぐるみだ。……え? それまだ大事に持ってる? やべっシュートにばれたらまたややこしくなりそうなので見なかったことにしておこう。た、単にぬいぐるみ自体を気に入ってるだけかもしれないしねっ!

 

「ウイングかシュートへの連絡方法は……アドレスに入っているな。デスノートを回収したら一度連絡を入れる。それでいいか」

 

「ああ。他にも何か不審な動きがあったらメールでもしてくれ。使い方は判るか?」

 

「ケータイなんてどれも似たようなものだろう、弄っていればわかるさ」

 

 そういいながら、クロロは適当に色々とボタンを押してみている。

 

「ああ、ええと、ウイングの名前は『成瀬先生』で入ってるから。シュートはカタカナ。……読める?」

 

「この世界に来て少し勉強した。ひらがなとカタカナと、簡単な漢字なら読める」

 

 なら問題ないかな……ってもうひらがなとカタカナ覚えたのかよ早っ! 俺ハンター文字覚えるのに二年かかったぞ! しかも微妙に読み間違えてたぞ! クロロ……ガチで恐ろしい子……!!

 

「漢字も出来るだけ早く覚えたい。ウイング、お前の持っている小説本を1~2冊貸してもらえるか? 監視中に読みたいんでな」

 

 えーと、クロロさん。俺がこのホテルに持ち込んだ小説は『マリア様がみてる』だけなんですがそれでいいんでしょうか。いいんだな? いいのか? クロロとマリみて……駄目だ、想像するだけでへそが茶を沸かす。なんというむちゃくちゃな取り合わせ。でもとりあえず二冊、クロロに貸してやった。これを機会に貴様もヲタへの道を突き進むがいいさっ! そうすりゃ俺の人生も安泰だ。

 

 この世界に来た時に買ったと言っていた小さなトランクにショッキングピンクのスマホとマリみてを仕舞い込んで、クロロは出て行った。さすが仕事が早いですね。そのままヲタになって戻ってくればいいよ。アキバ案内してあげるよ? フィギュアの一個くらい買ってあげるよ? ガンプラもおまけにつけてあげるよ。ガチャガチャもしちゃえばいいと思うよ。

 

「俺たちはとりあえず、弥の監視と、竜崎へ苦情を申し立てるだけだ。あとはクロロの連絡待ち。弥が捕まってからはここから身動き取れなくなると思うから、何かしておきたい事があったら今のうちに……」

 

 俺の言葉は電子音に遮られた。ちくしょう、予想より早いぞ竜崎。

 

「もしもし」

 

「ウイングさん、弥海砂を確保しました。聴取にはあなたも同行してください」

 

「二人も連れて行くぞ。あ、クロロはさっき野暮用で出かけた」

 

「はい、玄関ですれ違いました。お二人もどうぞ一緒にお願いします」

 

 もう、拘束してしまってるんだろうか。あの状態には断固抗議するぞ! パームとシュートと意思を確認しあい、俺らは呼び出された部屋へと向かった。


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