meet again   作:海砂

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球児

 うーん、この一ヶ月の修行で、オレもかなりそれらしくなってきた。あ、念の扱いが、ね。

 一分で倒れていた堅も、今では15分くらいならもつ。……あんま変わってないとか言わないでね。

 何にも知らないオレにしてはものすごい上達の早さだと思うよ。たぶん。

 

 時間はともかく、堅をしながら考え事ができるようになったのが、実は一番大きい。

 能力、しかも『攻撃的な』モノって奴を早く考えなくちゃいけないから。

 でも、正直候補がありすぎて困ってる。二人に相談してみよう。とりあえず、二つは勝手に作っちゃったけど。

 

「ねーねーパーム、ウイングまだ釣りしてんのかな」

 

「んー、多分。それかゴンに連れ回されてるかもね」

 

「そっか。ウイング、何気に子供ウケいいもんなー」

 

 くじら島自体に子供はそんなにいないけど、旅行・観光で来る子供は結構いる。大抵はゴンがその場にウイングを無理やり連れて行くんだけど、なぜかどんな子でもウイングには懐いてるんだよな。よじ登られたり、ズボン下ろされたり、髪の毛むしられたりもしてるけど。元気な子供・引っ込み思案な子供・その他諸々、必ず気に入られてる。そして、ウイングもそんな状態にまんざらでもなさそうだ。ちなみに、その『子供』の中にはもちろんゴンも含まれる。

 外見は同じ10歳なのにゴンは、オレたちには同類・仲間みたいな感じで接してくるのに対して、ウイングには明らかに甘えのような雰囲気が混じっている。ゴンには父親がいなかったというから、親父さんに構ってもらっているような気分なのかもしれない。

 

「高校教師っていうより保父さんの方が似合うよなきっと」

 

「あー、園児に引っ張りまわされるウイングの様子とか目に浮かぶわー」

 

 バン!

 

「魚、大量に獲ったどー!」

 

 噂をすればなんとやら、だ。保父さんはドアを足で蹴り開け、川魚を両腕に抱えたまま乱暴に足で閉めた。

 

「あのさー、パームとウイングに相談があるんだけど」

 

「ああ、俺もちょっと話があるんだ。別に急ぎじゃないからお前さんの方が先でいいぞ」

 

 譲ってもらったので、早速本題に入る。

 

「俺も、発……能力を決めようと思うんだけど、相談にのってもらおうと思って」

 

「前に、野球関連の能力にするって言ってたよねぇ。具体的に浮かばないとか?」

 

「その逆だよ。何か色々たくさん思いついちゃって、どのくらい使えるのかわかんないから聞いてみようと思ったんだ」

 

 二人がおお、と、ちょっと感心したような目でオレを見た。ふふん、オレだってただのんびりと堅の修行ばっかしてたわけじゃないんだぜ!

 

「んで、えーと、もう作ったというか、できちゃった能力があるんで、それを先に紹介するよ」

 

 オレは手のひらに意識を集中させる。そして、ピンポン玉くらいの念の球を作り出した。

 

「一応、堅してて。なんかあったらヤバいから」

 

 二人が堅状態になったのを確認してから、その球を、軽く放った。すると、それがまるで意思を持ったように、速度を保ったまま軌道を変えて、ウイングの肩にぶつかる。

 

「いってぇ!」

 

 あ、やっぱり堅してもらっといて良かった。あんな小さな球でも結構威力があるんだな。

 

「ごめんね、ウイング。これがオレの最初の能力『暴投王』(アラカキ) 念をボール状にして投げると、一定範囲内の、オレ以外の誰かに必ずぶつけることができる能力」

 

 肩を押さえながら、ウイングが尋ねてくる。マジで痛そうだ、ごめんなさい……。

 

「その、一定範囲ってのはどのくらいだ?」

 

「だいたい18mくらい。正確には18.44m。マウンドからホームベースまでの距離と一緒。それから、相手を視認してることも条件に入るから、実質オレの前方180度に半径18mくらいかな」

 

 パームは面白い制約だなーとか言いながら頷き、ウイングはちょっと考え込んでいる。

 

「誰か、ってことは味方に当たる可能性もあるわけだな」

 

「もちろん。敵だけに限定したら威力がガタ落ちしちゃうし」

 

 一応、制約と誓約の概念も頭に叩き込んだつもりだ。

 

「んで、もっと大きなボールにして……っていっても、野球のボールより大きくすることはできないけど……、それとオレが全力で投げた時の球速がストレートで大体140キロ前後だから、当てたら相当なダメージになると思う。あ、あとひとつ、誓約。一日に、同じ人間に四回ぶつけたら、そのダメージが倍返しでオレに返ってくる」

 

 デッドボールでの満塁押し出しサヨナラ負け。嫌な思い出だけど、こんな形で活きてくるなんて、あの時は夢にも思わなかったなあ。おかげでイメージもすごくしやすかったし、考えてる間に勝手に能力の方が制約誓約込みで完成されていった感じだった。実はこれ、初めて使ってみたんだったりする。通りがかりの人で試したら多分死んじゃうし。

 

「うん、野球のルールとシステムに合わせて、制約と誓約がうまくできてるじゃないか。けど、頼むからもう俺達が範囲内にいる時には使うなよ、マジで」

 

 ウィングが思いっきり真剣な眼で訴えてきた。そんなに痛かったのか……あんまり、球に力は込めてないつもりだったんだけど。気をつけないと、考えてるより強力なのかもしれないな。

 

「それからもうひとつ、作っちゃった能力があるんだけど……」

 

「もうひとつ!?」

 

「うん。能力名は『世界の王』(ワンチャン) 棒状のものを振ると、狙った敵に向かって球状のオーラが飛んでいく能力。使い慣れた道具がいいっていうんで、あっちの世界から持ってきた愛用のバットを使ったら効果は格段に上がったけど、一応普通の棒切れでも細めの木くらいならなぎ倒せた。王監督が現役時代にHRを量産した後楽園球場のセンターまでの距離、120.8m先まで狙うことができる遠距離用の能力にしたつもり。動く人とかが相手だと命中率がかなり下がる……んだけど、一本足でバットを振ったら割と当たるようになった」

 

ごく軽い制約だけど、言葉遊びとかそういう概念と一緒で、王監督のバッティングスタイルを制約にすることで、これよりも重い制約と同等の力を手に入れられた……んだと、思う。ついでに『一本足』打法には実際の王監督のスタイルの他に、現役時代の背番号の『1』、それにニックネームの『ワン』ちゃんをかけている。これも、効果に出てるのかな?

 

『暴投王』(アラカキ)ほどの攻撃力はさすがに得られなかったけど。

 

「……野球オタク」

 

「だな。しかも筋金入りだ。俺、後楽園球場の距離なんて初めて知ったぞ」

 

「別にいいじゃないっスかー」

 

 好きなことなら何でも覚えてるもんなんだよ! 特に、ガキの頃に好きだったものは!

 

「あと、あんま意味ないスけど、生卵ぶつけられたら威力倍増っス。で、今の王監督の背番号89とか、ホームラン記録868本とか、そういうの組み込めないかなーと思ったんスけど……」

 

「あーもういいもういい。現段階でじゅーっぶん使える能力だ、よくやった」

 

 えー、オレ的には全然納得いってないのに。

 

「で、それだけだろうな? 能力」

 

「実際に作ってるのはこの二つだけッス。でもまだアイデアとしては、バットを振って、確実に相手に当たるけど威力は小さいボールをぶつける『ノックの達人』(モリワキ)とか、オーラを飛ばして、その場所まで瞬間移動する『盗塁王』(ムネリン)とか、あとピンチになったら自動で発動して相手を燃え上がらせる『炎の中継ぎ』(マチャオ)とか、あと、マシンガンみたいに球を打ち出す『百打点カルテット』(ダイハード)とか、それと、本物のボールを使って超剛速球をぶつける『男投げ』(カズミ)とか、短くバットを持って包み込むように打つことで威力をアップさせる『代打の切り札』(オオミチ)とか、あと」

 

「まてまてまて、もういい。これ以上作ったらお前さんのオーラの限界値超えちまうだろうが。とりあえずお前さんの野球愛だけは痛いほど伝わった、つーか、イタい」

 

「私には全然全くこれっぽっちも介入できない世界だ……」

 

「俺だって、人名いくつかしかわからんよ」

 

 二人が完全に呆れている。……いいもん、オレには野球があるもん。球とバットだけーがー友達さ~♪

 

「とりあえずはその二つだけにしとけ? な? 悪いことは言わんから」

 

「あ、でも、さっき言ってた念を飛ばして瞬間移動、って言うのはあったら便利なんじゃないかな。基本的に近距離で戦う能力じゃないから、敵からの距離をとるのにいいかも」

 

 川崎選手な。あの人はオレの、盗塁の心の師匠だ。いつかはイチロー選手との合同キャンプにオレも混じりたい。

 

……よし、ベース間の距離を上限にすれば多分問題ないだろ。んで、実際は瞬間移動じゃなくて盗塁するわけだから、間に壁とかあったらそこでぶつかってダメージ受けるとかにすれば、かなり瞬間に近い速度で移動できるはず……! あっでもあの人関連の能力だったら『神の右手』とかもアリじゃね? あと車庫入れが下手だから、何かそれ関係のトリック仕込むとか……

 

「……なんか考え込んでやがるぞ」

 

「多分、その、名前忘れたけど何とかっていう選手のデータとか記録とか頭の中に呼び起こしてるんじゃない?」

 

「……俺、なんかこいつを見る目が変わりそうだわ……」

 

「私も……」

 

 

 二人の生暖かい視線とクールなアドバイスにより、オレは新たな能力、『盗塁王』(ムネリン)を手に入れた。

 

 前もって戦う場所に念を仕掛けておいて、トリッキーに動いたり攻撃される直前に避けることも可能だとか、そういう発想はオレには全然なかったから相談してホント良かったと思う。持つべきものは仲間だな。団体競技サイコー!

 

 制約は、オーラを飛ばせる及び移動できる距離の最大が、ベース間の距離27.431m(90フィート)。オーラを飛ばす時に障害物があると、そこにぼとっと落ちる。移動時に自分と移動先の間に障害物があると、それにぶつかって動きが止まり、結構なダメージを受ける。一旦設置したオーラは触れることではがせる。一回移動すると、その場所に設置してたオーラは消える。……うん、こんなとこかな。

 

 ためしに部屋の端から反対の壁際にオーラを飛ばしてみる。んで、移動! お、念じるだけでオッケーぽい。

 

「よし、ほぼ瞬間移動だ。だがシュート、飛ばすオーラは陰で隠しておけよ。下手したら敵に見破られる」

 

「了解ッス!」

 

 こうして、オレの能力はほぼ確定した。

 

 ほぼ、というのは、オレは他に思いついた能力を捨てる気がないぜ、って意味だ。もっと修行してオーラ量増やして、絶対他の能力も手に入れて見せる!

 

「……あー、野望を燃やすのは非常に結構なことなんだがな、能力として出せる数……メモリは基本的に一定値だから、修行でオーラ量増やしても能力を増やすことはできないと思うぞ」

 

 ウっソ! マジで? ……へ、へへ……燃え尽きちまったぜ……真っ白に、な……。

 

能力名『暴投王』(アラカキ)

・球状のオーラ(最大で野球のボール大)を投げることで、確実にターゲット一人にぶつけることができる。

・能力者が視認しており、かつ半径およそ18mの範囲内にいる人(あるいは能力者が認識している生物)全てがターゲットとなり、複数の場合はターゲットを選ぶことはできない。

・能力者自身はターゲットに含まれない。

・同じターゲット相手に一日四回以上ぶつけると、能力者はそれ以上のダメージを負う。

 

能力名『世界の王』(ワンチャン)

・棒状の何か(バット程度の長さがあれば、何でも構わない)を持ってスイングすると、任意で野球ボール大のオーラを飛ばすことができる。

・狙える範囲は、120.8m以内の、能力者から視認できるものに限る。

・必ず、一本足打法でスイングしなければならない。

 

能力名『盗塁王』(ムネリン)

・事前にオーラの塊を飛ばしておくことで、飛ばした先の任意の場所にほぼ瞬間移動できる。

・飛ばすオーラの塊の数については無制限だが、出すたびにオーラを使用することになる。

・出したオーラは触れることで任意に回収でき、それによって使用したオーラ分だけ回復することができる。

・実際には超高速で動いているので、間に障害物があるとそれに激突し能力者は大ダメージを受ける。

・オーラを飛ばせる範囲および移動できる範囲は、能力者を中心におよそ27m以内に限られる。

・オーラを飛ばす際に障害物があると、重力に従ってその場に落ちる(接着性などはない)

・一度移動をすると、設置されていた念の塊は消える。




最初にこのSS書いたのが5年以上前なので、シュートの知っている選手の範囲が年齢に対してちょっとおかしいのはご愛嬌。
今だったらまーくんとかマエケンが出てくるのかな?
ホークスだったらギータとか今宮とかか???

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