meet again   作:海砂

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カニ鍋ディナー

 私は気付いていなかった。

 ズレは着実にこの世界を蝕んでいる。それは、私やウイング、シュート、クロロ……異邦人の存在。

 キラは私達を意識し、私達は殺されないように動き、その結果Lをも振り回す。

 それがどれだけの重大なズレを生むかなんて考えても見なかった。前の世界では、私達の存在はうまく修正されて原作どおりにことが運ばれていたから。そしてこの世界ではそううまくはいかない……やがてそれを知ることになる。

 

「ウイング、ミサミサからビデオ届いたよ」

 

 25日夕方、L達との会議に参加していた私達の元へ、ワタリから連絡が入る。原作どおり、ミサミサは『キラを見つけることが出来ました』といった内容のビデオをサクラTVに送りつけたようだ。

 

 すぐにその場にいなかったウイングとクロロにも連絡を取って、一緒に全員でそのビデオを見た。内容は、原作のまま。

 

「見付けたって、まずいぞ……」

 

「まだ大丈夫だと思うけどな。今までのビデオでは『会う』っつってたのにこのビデオでは『見付ける』っつってる。多分第二のキラは、キラが誰なのかを知ったというだけで接触まではしてないんじゃないだろうか」

 

「ウイングさんの言うとおりです。既に接触していれば、キラが『見付けた』などと言わせるとは思えない」

 

 あれ? 心無しか、Lのウイングに対する信頼感が増しているような……ああ、青山の件で何か吹き込んだんだな、きっと。

 

「申し訳ないんだけど、人と会う用事が入ってるので、私とシュートは外出してもかまわないでしょうか」

 

「……ええ、構いません。どちらに行くか、また帰ってくる時はワタリに連絡を入れるよう、いつもの通りお願いします」

 

 会議途中で抜け出すのは心苦しい、つーか疑われそうでコワイんだけど、夜のニュースをミサミサが見てしまう前に連絡を、できれば会っておきたい。

 

 私はシュートを連れてホテルを出た。道中で、ミサが警察からのメッセージを見て夜神月に会いに行くという原作での経緯をシュートに細かく説明する。

 

「とりあえずオレからミサちゃんに連絡してみる。……この場合、原作どおりに事を進めたほうがいいのかな?」

 

 本当はキラとミサを会わせたくないんだけど、それやっちゃうと原作と乖離しちゃうかもだからね……一応、会わせる方向で行こう。

 

「んじゃ、TVを見るように仕向けよう。一緒に見た方がいいかな?」

 

……どうだろう。一緒にいたら、一緒にキラの所へ行こうとか言い出しかねないしな……それはさすがに、ちょっと怖い。でも一緒に行けば原作と同じかどうかを目の前できっちり見ることが出来る。うーん……どうせ夜神月には色々疑われてるわけだしな。

 

「よし、ミサちゃん家に遊びに行こう」

 

 電話をする。今日も彼女はオフだって事は既に把握済み。多分出てくれるだろう。

 

「もしもし、今ヒマ? 近くに来たからさ、良かったら一緒に夕飯食べない? うん、シュートも一緒だけど、それでもよければ。え? いいの? わかった、じゃあテキトーに買い込んでいくね!」

 

 最初はTVのあるファミレスかどこかに呼び出すつもりだったんだけど、近くにいるんなら自宅へおいでよと誘われた。好都合だ、このまま一緒に夜のニュースまで行動しよう。もう少しうまい具合にミサに情報提供を出来るかも。

 

 

「いらっしゃーい! みんなで食べようと思ってお鍋の準備しといたんだ!」

 

 出迎えにでてきたミサはいつもと変わらない。ニュースの前に、何を話して、何を話さないでおくか。それはシュートとこの家に向かう途中に全て打ち合わせておいた。とりあえずは、友人として振舞うのが第一だ。何よりも彼女とレムの信頼を勝ち取らなければいけない。ライトには敵わないかもしれないけど、彼女の中でそれなりに重要な位置を占めていれば、殺されることはないだろう。

 

「はいこれ、お土産。鍋にするって言ってたからパームとカニ買ってきたんだ」

 

「うわっすごーい、やっぱり野球選手って儲かるの?」

 

 ミサは、私達が上着を脱いだりしている間に、カニの足をもいでぼちゃぼちゃと鍋に放り込んでいる。つか何故一人暮らしなのにこんな大きな鍋があるんだろう……そして、私達が来る前に、そのまま渋谷や原宿に行ってもおかしくないくらいしっかりがっつりメイクをしているんだろう……謎だ。

 

「んー、普通の高卒社会人よりはもらってる方なんじゃないかなぁ」

 

「そのくせ私にはあんまりおごってくれたりとかないよね。私よりミサちゃんの方が大切なんだ、へー、そー、ふーん」

 

 軽くシュートをおちょくってテンパらせるとミサはゲラゲラ笑ってる。この雰囲気……いける!

 

「いっただっきまーす。あ、ミサちゃん、TVつけてもいい?」

 

 時刻は8時過ぎ。原作であの放送が流されるのは確か9時ごろだったはず。それまでTVを適当に付けておこう。たまたまお笑い番組をやっていたので、チャンネルはそのままにしておいた。

 

「そういえばさ、ミサちゃんってアイドルの卵なんだよね。仕事オフが多いってやばくない?」

 

 カニ鍋ってのはいいね。殻をむくのに夢中になるから多少会話が唐突でも割と平気だし、無意識に色んな情報を植えつけることも出来る。

 

「パームひどーい、そんなミサが売れてないみたいに言わないでよー。引越し直後だから多めにお休みもらってるだけ! これでもバンバン舞い込んできてるんだから、お仕事!」

 

 シュートに狙っていたハサミをとられたので、軽く殴った。ミサはギャハハ笑いをしている。……女の子がその笑い方はどうかと思うんだけどミサちゃんがやると可愛いから得だよなぁ。私がやると男衆ドン引きに違いない。

 

「オレは肩の調子が悪くて調整中だけど、ミサちゃんも似たよーな感じって事かー」

 

「私は大学休学して、とりあえず暇人だしね」

 

「えっ何で休学? まさかシュートが故障しちゃったからケアしてあげようと思って?」

 

 まさか。んなわきゃねぇ。っつったらまた凹むだろうかコイツ。

 

「ちょっとやらなきゃいけないことがあってね。すぐにわかると思うよ。ミサちゃんがキラと会った後くらいに」

 

「えっ、じゃあスグにミサ、キラと会えるの?」

 

 さすがに、キラの話題には食いついてくるのが早い。うまく誘導して、こちらに有利になるように情報操作しなきゃ……。

 

「うん……実は、私達も一緒にキラに会いに行きたいなーとか思ってるんだけど……」

 

「別にいいけど、ミサまだキラが誰かわかんないよ?」

 

……は? カニの身ほじほじしながら今さらっと、とんでもないこといいませんでしたかミサさん。

 

「え、だってTVで見つかりましたっつってたじゃん!」

 

「うん、見つかったんだけどね、候補が二人いるの。どっちがキラかまではわかんなかったんだもん」

 

 何で!? 寿命の見えない夜神月がキラで決まりじゃないの!?

 

「ミサの死神の眼ね、知ってるかもしれないけど、ノートを持ってる人の寿命が見えないの。でも、あの日青山で寿命が見えない人、二人いたんだよね。どっちかがキラだとは思うんだけど」

 

……思い当たるフシが一つ。あの馬鹿の存在ですねわかります。

 

「あー、ソレ、オレらのツレだわ多分。寿命だけじゃなくて名前も見えないヤツだろ? そっちがツレ。名前見えてる方がキラで間違いないよ」

 

「そっか!! あー、二人ってホントに、ミサに協力してくれるんだね、嬉しい!! でも他にも名前も寿命も見えない人、いたんだー」

 

 名前のわかっている方……夜神月のことは既に調べていて、住所も大学も突き止めているらしい。良かった、そこからやり直しになってたら今夜のニュースに間に合わない所だった。ビミョーなズレ、修正完了かな? 後でウイングにきっつい一発をお見舞いしてやろうそうしよう。

 

「あと一人いるけどねー、そいつ殺人狂の変態だから、ミサちゃんは近付かない方がいいと思うよ」

 

「あはは、何ソレー」

 

 和やかに、カニ鍋ディナーは進んでゆく。ニュースの時刻まであと少し。私達は、出来る限りミサから情報を聞き出すように努めていた。他にも原作と違う部分があるかもしれない。注意深く、でも悟られないように。


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