meet again   作:海砂

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異界からの訪問

……ここが、異世界、か。文明のある程度発達したこちらの世界の国と大して変わらないか?

 

「どうやら念は使えなくなるみたいだね、それに心なしか腕力も落ちてる気がするよ♣」

 

 ヒソカは道端にとめてある車を軽く押しながら言った。普段の彼ならば容易く破壊することすらできるはずだ。成程、オレにとってはある意味で好都合な世界かもしれない。通りすがりの人間の会話を聞いている限り、言葉もオレ達の世界と変わらないようだ。

 

「ヒソカ、まずは格好をどうにかするぞ。この服じゃオレもお前も目立って仕方がない」

 

「了解♦」

 

 通りすがりの女性に、この国で宝石を売るにはどうすればいいかと尋ねる。この世界にも質屋があるらしいので、そこで持って来ていた宝石や金を売りさばき、この国の金(YEN)を手に入れる。それで適当にそのあたりの店に入り、オレとヒソカの分の服を見繕ってもらった。

 

 この世界のことはまだ良くわからない。奪うのは、またいずれ。

 

 

「それで、お前の恋人は何処にいるんだ?」

 

「そこのホテルかな? その中に居るよ♥」

 

 オレ達は、前の世界から、念能力者の能力によってこの世界へと跳ばされた。いや、跳ばさせた。目的は二つ。一つはオレ達の前から姿を消したお気に入りの玩具を見つけ出すため、もう一つは……単なる、暇つぶし。今のオレに前の世界でできることはない。ただ、待つことがオレにできる唯一の事。だからこそ、暇つぶしは必要だった。

 

「桂木裕美ってのが、一昨日からここに宿泊してると思うんだけど♦」

 

 カジュアルな服装のオレとヒソカ。どうやら、服飾文化もオレ達の世界とそう変わらないらしい。スーツを着たホテルマンが応対している。

 

「そのような方は、こちらにはご宿泊なさっておりませんが……」

 

「なら、ここに泊まる事にしよう。ツインを一部屋、お願いします」

 

「かしこまりました」

 

 適当に、ホテルのチェックインの用紙に文字を書き込む。……この文字が通用しないのは既に知れていることだが、外国人だということで押し通した。見た目からしてこの国の人間には見えなかったようだし、ビザなどの提示を求められなかったのは幸いだった。おそらく、海外の人間にも広く開けている国なのだろう。

 

「部屋とってどうするんだい?」

 

「ここで暴れるわけにもいかない。宿泊客になれば、ホテル内を自由に歩き回れる。まさか部屋に一日中閉じこもっているわけでもないだろう」

 

「成程♦」

 

 割と容易に、彼女達と出会うことは出来た。ヒソカ特有の嗅覚というか、勘というか。素振りは見せなかったが、少々驚いた……オレの知っている彼女達とは違う、成人した姿。フン、どうやらヒソカは既に知っていたようだ。あの能力者からこの世界を見せてもらっていたのだろう。

 

「なっ……あっ……」

 

「久しぶり♥ あとの二人は?」

 

「……っ、ウイング!!」

 

 全力疾走する彼女の後を追う。常人程度の身体能力は残っているようだ。だがこの世界に馴染むまでには、今しばらく時間がかかるかもしれない。

 

 ある部屋に入る彼女、飛び出してくる二人、見覚えがある三人組。いや、知っている彼らとは年齢が違う。同世代とは少し予想外だったかな。……向こうは、どうやら予想外の範疇をさらに大幅に超えている様子だ。

 

 オレとヒソカは、部屋の中へと引きずりこまれた。確かにオレ達は目立つ。

 

「何でお前さんらがここにいるんだよ!!」

 

「嫌だなぁ♥ 愛しのパームに会うために決まってるじゃないか♥♥♥」

 

「ハート乱舞するなキモイ次出したらぶん殴る」

 

「落ち着いてパーム。とりあえず丁重にこいつら追い出さなきゃ」

 

……見た目は成長しているが、中身は相変わらずのようだ。自然と笑みがこぼれる。……やはり、嫌いじゃない。こいつらのこと、纏っているこの空気。

 

「久しぶりだな、三人とも。……ウイングと似たような能力を持った奴が、オレ達の世界にいないとでも思ったか?」

 

 追跡能力と、そのターゲットの元へと飛ばすことの出来る能力者。それは、時空を超えていようが関係ない。稀有な能力ではあるが、無いと言えないのはウイングという存在を見て十二分にわかっていることだろう。

 

「だからってこっちくんな! そもそもこの世界にお前さんらはオーバースペックすぎるだろうが!!」

 

「残念だけど、この世界に合わせたスペックになっているようなんだよね♠ 団長はそもそも、念が使えないし♣」

 

 眉をひそめるウイング……その言葉が本当かどうか、測りかねているようだ。パームはハリセンを構えて仁王立ちしている……変わらないな、本当に。

 

「本当だ。といっても信じてもらう術は無いが。ヒソカは車を素手で動かすことすら出来なかった。これで、大体の能力は分かるだろう?」

 

 とりあえず、座らせてもらうことにした。椅子が足りないので、ヒソカがパームと一緒にベッドに座ろうとしたが断られた。というかハリセンで殴られていた。……まさかパームに逆らえないほど力が衰えているわけでもあるまいに、どうやらこの状況を楽しんでいるようだ、それなりに。

 

 オレは、前の世界から持ってきた木の実を五個、彼らの前のテーブルに広げる。

 

「向こうに戻るためのものだ。食べればすぐに、向こうへと引き戻される。お前達の分を合わせて五個だ。……戻ってくる気は無いか?」

 

「残念だが、あんな危ない世界、俺は二度とゴメンだ。たとえ死亡フラグが立っててもこっちの方が良いに決まってる」

 

 即答を返してくる。ビビリを装っているが、ここ一番の時には度胸のある奴だ。言っている意味は良くわからないが。

 

「オレも、この世界で野球をすることが一番大切だ。向こうに戻る気は無い」

 

「パームはボクのために戻ってきてくれるよね?」

 

「誰が戻るかボケが。クズが。カスが」

 

……ヒソカへのツッコミぶりも変わらないな。本当に……こいつらと居るのは、楽しい。笑っているのを不審に思われたのか、ウイングがこちらを窺っている。

 

「オレは今のところ、向こうの世界に戻っても仕方が無い。お前達に付き合ってもらうことにしよう。この世界でな」

 

 三人合わせてものすごく嫌そうな顔をされた。それはまだわかるが、何故お前まで嫌そうな顔をするんだ、ヒソカ。

 

「この世界は面白くないよ♣ ボクは向こうに戻って、一緒に暴れたいな……♦」

 

「一人で帰れバカピエロ」

 

「……そもそも、この世界に来た時点で念は使えなくなっている。その木の実を食ってお前さん達の、元の世界に帰れる保証が何処にある?」

 

……相変わらず、冷静だ。その知性を生み出すこの世界、非常に興味がある。たとえ、念が無くとも。

 

「そうだな、保証はない。……ヒソカ、お前がそれを食え。この世界に居る必要が無いのなら、一人で戻るんだ」

 

「お断りだね、せっかく愛しのパームに会えたのに♣」

 

「残念だけど私とあなたの縁は綺麗さっぱり切れたの。て言うか元からつながってないの。私にとってアンタは過去の人。それに念も持たず力も無い今の私に興味ないでしょう?」

 

「……まぁ、それは確かに♣ 団長、この三人に木の実をちゃんと、食べさせてくれるかい?」

 

「それは確実に約束しよう。殺してでも食べさせる」

 

 それが先のことであっても、ヒソカは待つだろう。オレはこの世界を楽しみたい。ヒソカは念を使える前の世界が性に合っている。……決まりだ。

 

「了解♦ じゃあボクは先に戻って、バトルオリンピアで遊んでおくよ……この世界に飽きたら、戻っておいでね♥」

 

 パームに投げキッスをかまして、殴られる前にヒソカは木の実を口に放り込んだ。刹那、ヒソカの姿が掻き消える。おそらく前の世界に戻ったのだろう。

 

「ついでに団長さんもお帰りになりませんか?」

 

「残念だが、オレは暇つぶしの方法を探していたんだ。お前らと一緒にいるのは飽きなさそうだし、念の使えない今はこの世界の方がオレに合っている。諦めて付き合ってもらおうか」

 

 帰る気は、さらさら無い。この世界に来る前にヒソカに聞かされた、この世界について……デスノートの世界。ここにはキラもLもいる。……面白いじゃないか。

 

「何だ、知ってたのか。だが残念ながら、お前さんの知っているデスノートの世界じゃない。あっちはあくまで俺の創作で、こっちは現実だ」

 

「だが、ここにはLもキラもいるのだろう?」

 

 力を使わず、念も使わず、知恵と知識のみで命を懸けて戦う世界……それもまた、面白い。

 

「ウイング、クロロに手伝ってもらうの、アリなんじゃない? 少なくともオレよりは頭キレると思うし」

 

 シュートの一言で、ウイングが悩んでいる……あと一押しといったところか。もっとも、こいつらの承諾が無くともオレは居座って関わる気でいるがな。

 

「ある程度のことは来る前に聞いてある。……お前達、Lとキラにそれぞれ目を付けられているんだろう? オレならそこから救い出すことも不可能ではないと思うが」

 

「……そうかもね。今は一人でも協力できる仲間が欲しいわけだし……クロロの頭がキレるのは確かだし」

 

 ウイングが頭をぐしゃぐしゃとかきむしる。……どうやら、観念したようだ。

 

「OKわかった。ただしお前さんはこの世界のことを知らな過ぎる。俺の指示に従ってもらうことと、他人を殺さない、傷付けないこと。これが最低限のルールだ。あと木の実は絶対に食わん」

 

「了解した。一先ずはお前に従うことにしよう」

 

……商談成立。この先どうなるのかは知らないが、随分と面白くなりそうだ……。

 

 オレは木の実を四つ、大切に懐へと仕舞い込んだ。


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