meet again   作:海砂

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すれ違った恋心

 桂木……パームが前に電話でウイングの能力がどうこう言ってたのを思い出す。……こういうことだったのか。

 

 部屋に入るなり、ウイングが盗聴器やカメラを探し始めた。……そして、十数個のカメラを見つけ出す。……盗撮? オレも手伝って全てのカメラを外し終えた後、オレたちは向かい合って座った。

 

「それで、この世界はどんな世界なんだ? オレにも予備知識をくれ」

 

 何だかんだいって、前の世界では二人の知識のおかげで無事に生還する事ができた。とすれば、今回も同様だろう。一体何の世界に来たんだか知らないが、少なくともオレの知っている日本とは少し……違うようだ。

 

 キラについてはニュースとかで少し聞いた程度……前に脱税疑惑をかけられた先輩が間違いで殺されるんじゃないかと怯えていたのを思い出す。けれどオレの知識はその程度だ。

 

「ウイング、どーする? 何処まで話す?」

 

「今のコイツなら全部話して大丈夫だろう。ちょっと小難しい事も多いが覚えてもらうぞ」

 

 そう前置きして、ウイングが説明を始めた。

 

 死神。デスノート。キラの正体。L。捜査本部の実態。死神の眼。それでさえ見る事ができないオレたちの名前と寿命。夜神月を騙したウイングの策。

 

「……簡単じゃないか。その夜神月とかいうのを殺せば全部カタがつくだろ」

 

 オレの台詞に、二人が凍りついた。何か問題でもあるのか? そんな凶悪殺人犯、普通は死刑だろ。

 

「いや、事態はそういうわけにもいかないんだ……第一、俺らが殺したらそれこそ殺人犯で捕まっちまう」

 

「てゆーかシュート……どしたの? 何か全然違う……」

 

 違うとしたらそれはパームのせいだ。……言わないけど。オレはまだ、この二人の仲を疑っている。そういえば、前の世界にいた時も、この二人は仲がよさそうだったし、オレと離れて一緒にいた時期もあった。……まぁ、あの時はオレが飛び出したんだけど……。それでも、12歳というあの時の年齢を考えても、二人で一緒に暮らしていた事は間違いない。そしてウイングはパームの片思いの相手……過去形になったとは言いがたい。

 

……自己嫌悪に陥る。パームを疑っている自分。ウイングを信じられない自分。何より、自分勝手で自己中心的な自分。でもその意識は考えれば考えるほど、どす黒くオレの脳裏を覆っていく。今は、とりあえずそんなことは置いといて自分達の命を守る事が先決だとわかっているけど……わかってるけど、どうしようもない気持ちだってある。

 

「Lに協力する、それはわかった。けど、実際に協力して夜神月がキラだということを証明するのか? それともその、漫画のとおり殺されていくのを黙って見過ごすのか?」

 

「そこは……私は、出来ればLを助けたいと思うんだけど……」

 

「俺は出来るなら関わらずに最後……キラが死ぬまで放っておくのが一番だと思っていた。けど俺達の名前と寿命が見えないと言う事、それにこれだけLとキラに注目されてしまっている今じゃ、Lが死んでキラの新世界になってしまった時点で俺たちは用済みと判断して殺される可能性も高い。……うまくLを誘導して、キラを逮捕させるのが現時点ではベストだと思っているが、どうだ?」

 

 天才L、天才夜神月、そんな奴らを出し抜く? 誘導? ……駄目だ、オレにそんなことができるとは到底思えない。けど、オレが関わらなかったらまた、ウイングとパームは二人でこの事態に挑むだろう……そんなことになったら……。考えたくも、無い。

 

「わかった。でもオレはあまり役に立てると思えないから、そっち方面は二人に任せるよ」

 

 実際に詳細な知識のないオレには動きようがない。そう言うと二人も納得した。一応、キラ事件に協力しているように意見などは述べるように……それだけが、オレに課せられた使命。……あとでLに、建築中のビルに筋トレ施設と投球練習場を造ってもらえるように頼んでおこう。長期間投げ込めないのはオレの野球生命に関わる。

 

 Lを救う。とりあえず決められるのはそんな所だった。ウイングは部屋から出て行き、オレは残る……パームと、話をしておきたかったから。

 

「パーム……」

 

 オレが話を切り出す前に、パームがオレに近付いてきた。ハリセンかと思って身構えたが、実際は……頭を、撫でられた、何度も何度も。

 

「ごめんね。事情がわからないのに何度もバカ呼ばわりしたりして。さっきウイングも言ってたけど、ここが違う世界だってコト、弥海砂が第二のキラだってコト、そりゃシュートが知るわけないもんね……本当に、ごめんなさい」

 

 そう言って、頭を下げられる。

 

「パーム……なんでオレに、電話とかしなかったの? いつもオレからかけてばかりで……メールもほとんどオレからばっかりで……」

 

 詰問するつもりだったのに、そんな気持ちは綺麗さっぱり消え去っていた。今の俺の感情はといえば、母さんに甘えるような、そんな心持ち。

 

「だって、野球はシュートの命でしょ? 邪魔できないよ! それに……野球選手になっちゃって……急になんか、遠い存在の様な気がして……」

 

……ああ。ミサちゃんの言うとおりだったんだね。パームがオレの頭を抱きしめる。椅子に座ったまま、オレはそのままじっとしていた。

 

「ウイングとのコトもなんか勘違いしてるみたいだけど、私の恋心は、H×Hの世界から帰ってきた時点で終わったことなのよ。そうウイングにも伝えた。だいたい、向こうの世界であれだけ馬鹿呼ばわりしてぶん殴りまくったウイングに、今更好きだって言えるわけないし、そんな気も起こらなかったよ」

 

 じっとしているオレの耳元で、何度もゴメンと呟くパーム。

 

「心配させてゴメン。何もわからないのに馬鹿呼ばわりしてゴメン。他にも……色々いっぱい、ゴメン」

 

……なんでオレはパームに謝らせてるんだろう。不安に思ってたのはオレだけじゃないだろ? お互いに、色々考えて、不安になって、思い悩んで。パームもそんな風に感じてたなんて微塵も考えてなかった、オレは何てガキだったんだろう。

 

「……もういいよ。オレの方こそごめん。パームのこと、信じられなかった自分に馬鹿って言ってやりたいよ、ホント。……愛想、尽きちゃった?」

 

「まさか」

 

 笑い泣きの様な表情で、パームは俺に向かって微笑む。……ああ、遠距離って、心もすれ違うくらいの距離なんだよな……もっと気遣ってあげればよかった。オレから電話すればよかった。もっと、話をすればよかった。

 

「パーム……オレ、パームの激励が必要だよ。オレが落ち込んでたら、パームのハリセンでぶん殴ってくれなきゃ、オレきっと復活できない」

 

「そだね。そのときは思いっきりコレでぶん殴ってあげる」

 

 手にしていたハリセンを見て笑う。オレは、立ち上がってパームを抱きしめた。まだ、間に合うよな。

 

 その晩、オレはパームの部屋で一夜をともに過ごした。時間はいくらあっても足りない。もっと話をしたい。もっと知りたい。全部。

 

 

★その頃のウイング

 

「あいつら……シティホテルの壁って実は結構薄いんだってコト、知ってんのか……? これは新手のイヤガラセか? ていうか俺ぼっちwwwwwワロスwwwwwwwwworz」

 

 隣の部屋で一人、悶々としていた。


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