meet again 作:海砂
流河……いや、竜崎は、キラが俺に注目している、ということ以外の全てを夜神にも話した。
つまり、俺が捜査本部に入ること、夜神をキラとして疑っていること、病気入院ということにしてそのまま俺は東応大講師を辞めること、などを話した。
……どうでもいいが俺の六畳半にキラとLが揃い踏みなんて予想だにしなかったぞ畜生。すんげー居心地悪いんですがここ本当に俺の部屋? 必要以上にくつろいでる竜崎が小憎らしい。いや憎らしい。
一通りのことを話した後、竜崎は帰っていった。夜神も帰ろうとしていたが俺が引きとめた、話があるといって。
……攻撃は最大の防御。俺一世一代の大芝居をやることにした。無謀とか言うな。だってこのままだといずれにせよ俺の死亡フラグ立ちっぱなしだもんよ!
俺は見舞いカゴのなかから果物を一つ取り出した。
「リューク、これ、やるから食っていいぞ」
適当に、リンゴを宙に放り投げる。……予想通りそれは、空中で止まった。夜神が驚愕と怒りの眼差しで俺を見ている。
「リュークに怒るんじゃないぞ。怒るならその存在を知っている俺に対してだ」
「……どういうことですか」
搾り出すように、夜神はその言葉を発した。今頃こいつの頭の中は高速で回転しているんだろうな。
「どうもこうも、そういうことだ。俺は死神の存在もデスノートの存在も、お前さんがキラだということも知っている……まぁ、お前さんのデスノートに触ったわけじゃないからリュークの姿は見えないがな」
ふよふよと浮いていたリンゴがじゃくじゃくと削られていく。おーおーむさぼり食ってんなリューク。
「成瀬先生、あなたは一体……」
「なに、お前さんも知ってのとおり、ただの一講師だ。まぁ、今で言うところのキリストみたいな存在とでも言っておこうか。俺は神の子、けれど俺は人間、だから磔にすりゃ死ぬし、けれど俺は全てを知っている」
……おー、悩んでる悩んでる。
「もしよければ、お前さんのデスノートに触らせてもらえないか? リュークに挨拶がしたい」
夜神は諦めたのか、俺にデスノートの切れ端を触らせてくれた。まさか俺が今更奪い取るとかそういうことはしないと、コイツもわかっていたんだろう。
「初めまして、リューク」
『くく、はじめまして、成瀬拓』
リュークは想像よりデカかった。そして想像より手や足が長かった。……デッサン狂ってるぞコイツ。
「……それで、僕をどうするつもりですか……」
「何、どうもしないさ。俺は今までどおり、お前さんとL、竜崎の討論を生で見物させてもらうだけだ。俺の立場はリュークとほぼ同じ。キラの味方でもLの味方でもない」
ひそめている眉はピクリとも動かない。今殺すべきだと思っているのか、それとも俺を利用しようと考えているのか。
「全てを知っている……そう言いましたね。ということは、僕がこの先どうするかもご存知ですか?」
「ああ、知っている。けどそれを言うつもりはない。それはLに対しても同様だ。……だが、そうだな。お前さんを信用させるために二つほど教えてやろう。一つはLの本名。フルネームはさすがに教えられないが、あいつは本名も『エル』だ」
「!!」
おー、また別方向に脳みそ回転させ始めたな。さあどうする、どう出る?
「俺がやることはお前さんの真似だ。適当に捜査本部に協力するフリをして、キラを追っているように見せかける。だから場合によってはLに協力しているように見えるかもしれない。だがその場にある物をもって推理できる範囲内にとどめ、それ以上のことは口走らない。監禁されようが拷問されようが、それは変わらない」
実際に拷問されたらあっさり口走りそうな気もするけどな。……たぶんLはそんなことしないだろ、俺に対しては。
「……Lにも僕にも協力しない……その言葉、信じていいんですね」
「信じるかどうかはお前さんの自由だ。これまで俺が話したことと総合して、お前さん自身が考えるといい。俺を殺すべきか、生かすべきか。利用したってかまわない、出来るものならな。ちなみに俺もデスノートを持っている。俺が殺されそうだと思ったら、俺は即座にお前の名前をそこに書き込むだろう。俺の持っているノートはお前さんらのと違って、偽名でも顔さえわかれば殺すことが出来る。まあ、お前さんの場合は本名もわかってるがな」
そんなんもちろん持ってません。けど、ミサとレムの時のことを思い返して、その程度の抑止力は持っておくべきだと思った……ハッタリだけどな。
『くくっ、なるほど。名前も寿命も見えなかったのはそういうわけか』
……え? 今何つった? 名前も寿命も見えない……俺の? だよな。
成程俺に注目してたのは知っているからじゃなくて、実際にそういう弊害が出てたってことか。俺が異邦人だからか? ……それくらいしか他に理由が思い浮かばんぞコノヤロウ。ってことは桂木と高木も名前見えないってことか?
「……わかりました。あなたの言葉を信じます。何より、見せていないリュークの存在とデスノートのことを知っているだけで、あなたが普通でないことは理解できます」
「よーし、物分りのいい生徒は好きだぞ。それに免じてもう一つ、いいことを教えてやる。もうすぐ……いや、既にだな。死神がもう一匹、デスノートを携えてこの世界に舞い降りる。それが誰かまでは言うつもりもないがな」
「!! ……貴重な情報、ありがとうございます。……それでは、また、捜査本部でお会いしましょう」
「ああ、またな。夜神、リューク」
夜神は部屋を出て行った。その途端、俺の気力は風船がしぼむかのようにふしゅるーと抜けていったぞコンニャロ。あはは膝がガクガク震えてますぜ。
「しっかし、名前も寿命も見えないッつーのは意外だったな」
……しかし、てことは桂木はともかくTV中継とかで高木もすぐにバレるんじゃね? ……一応連絡して注意しといたがいいかな。けどTVに映るななんてムチャだしな……いいや、何か動きがあるまでほっとこ。
そして俺はいそいそと、捜査本部に移るための準備を始めた。いや必要最低限の荷物をまとめるだけなんだけどな。ゲーム持ってってもいいかなぁ。あとで竜崎に聞いてみよう。