meet again   作:海砂

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死亡フラグ乱立

 あの日以来、夜神月と流河旱樹は連れ立ってそれぞれの授業の時に来るようになった。つまり一週間で2コマ。時間にして180分。……耐えられん、もうそろそろ限界だ(主に精神的な意味で)

 

 三週目、初日は駄々をこねた流河の意向により榎本武揚の生涯を追った。二日目は箱館府の意義について討論させた。

 

 四週目、初日は勝海舟に着目して意見を交換させた。二日目は他の学生の希望で坂本竜馬の暗殺について色々推理させてみた。

 

 五週目、つまり今日。……俺は教師になって初めて、仮病でサボった。

 

「これ以上あいつらとツラつきあわせてたら胃に穴が開く……」

 

 多分、本当に病気じゃないかってくらい、俺はげっそりしていると思う。メシ作るのもだるくて、朝からベッドでゴロゴロしていた。学校には電話入れといたから、休講の貼り紙なりなんなりしてくれてるだろ。もうシラネ。俺シラネ。

 

 これで講師クビになっても本望だ、あいつらと顔合わせなくてすむんなら。

 

 少しうたた寝していたらしい。玄関のチャイムの音で目が覚めた。今何時だ? ……昼過ぎか。

 

「……宅配かなんかか?」

 

 家に訪ねてくるような人間に心当たりはない。そういやダチと飲みに行ったりすることもなくなったな……みんな、忙しいしな。……ピンポン連打しやがって、電池もったいないだろうが。これでいたずらだったりしたら殺す、絶対殺す。

 

 ドアを開けると、そこには死神が居た。

 

「こんにちは、成瀬先生」

 

 目の下にクマのある死神がこっちを見ている……。

 

( ゚д゚)

 

(゚д゚ )

 

( ゚д゚ )

 

「何でお前さんがここにいるんだ流河……」

 

「何って、お見舞いです。もうすぐ夜神くんも来ます」

 

 夜神もくるのかよ! ……俺は即座にドアを閉めようとしたが、それはすばやくドアとの隙間にはさまれた流河の足にさえぎられた。何だコイツ押し売りかよ。

 

「なんてことするんですか。可愛い教え子がお見舞いにきたんです、お茶菓子のひとつでも出すのが筋というものでしょう」

 

 

 はて、何故俺は流河に茶など出しているのだろう……

 

「お菓子はないんですか?」

 

「スティックシュガーならあるが食うか?」

 

「はい、是非」

 

 食うのかよ。スティックシュガーを数本手渡すと、さっそく一本開封してざらざらと口の中に流し込んでいる。見てるだけで気持ちが悪い。

 

「で、見舞いなんて口実だろう? 何しにきた」

 

「さすが成瀬先生、お見通しですか。実は、先生に重要なことをお話しようと思って」

 

 大事なこと? ……まさか、自分がLだとか言い出すんじゃないだろうな……。

 

「私は、大学を休学することにしました。それで、お世話になった成瀬先生にはそのことをちゃんとお伝えしようと思いまして……」

 

 流河は手に持っていたスティックシュガーを出したティーバッグ紅茶の中にガンガン入れている。うわっ5本目……。

 

「休学するのか? ……残念だな。お前さん達の討論を見ることが出来なくなるのか」

 

 あれ飲んだらジャリジャリしてそうだな……って普通に飲んでるし。やっぱコイツおかしい。絶対オカシイ。

 

「いえ、成瀬先生にはこれからも私達の討論を見ていただくことになります」

 

「!?」

 

 なんだって? ど、どういう意味だ? ……嫌な予感はこういうときほど当たる。まさか……。

 

「私はLです。そして、成瀬先生は私がキラだと目星をつけている人物に狙われています。なので、保護を兼ねてこちらの捜査本部に来ていただこうと思いました。ちなみにその捜査本部には夜神くんもいます」

 

……マジか……かんべんしてくれ……一般小市民な俺をこれ以上巻き込まんでくれ……。ん? 今キラに狙われているって言ったか?

 

「俺がキラに狙われているのか?」

 

「狙われているという言い方は不適切かもしれません。正確にはまだ、注目している……その程度です。ですがいつ殺されるかわかりません。成瀬先生は、顔も名前も知られています。……ああ、もしかしたらご存じないかもしれませんが、キラはその人物の名前と顔がわかれば殺すことが出来る、と考えています」

 

 注目……そういや夜神も妙に俺に声をかけてきていたな……えっ、いつの間に目付けられてたの俺、ヤバくね!?

 

「大学は辞めていただきます。申し訳ないですが、おそらくこのまま講師を続けていれば、命の方が危うい筈です」

 

「……その話が本当なら、そうかもしれないな」

 

 殺されるくらいなら大学の講師なんかコッチから願い下げだ。持ち出し禁止の貴重な文献や蔵書を見ることが出来なくなるのは痛いが、そんなん命あっての物種だ。

 

「……おかしいですね」

 

 ?

 

「成瀬先生は、妙に落ち着き払っています。まるで、私がLであり、キラが自分の身近にいることを知っていたかのようです。……そうではありませんか?」

 

 何を言い出すんだこんガキャ……いや、あれ、流河って何歳だっけ。俺よりは下? だよな? 多分。

 

「いや……動揺して言葉が出ないだけだ。だが、お前さんがLだというのは……信じられる気がするよ。俺の生徒にしておくにはもったいないくらい、お前さんには知識も洞察力も推理力もある。歴史なんぞ探偵の推理とやってることは大差ないからな」

 

「そのとおりです。歴史も事件も、残されたものを手がかりにして真実を探し出す……成瀬先生、実は私はあなたに捜査の協力をしてもらいたいとも考えています」

 

 その時、再び玄関のチャイムが鳴った。先ほどとは違い、今度は一回だけ。

 

「夜神くんが来たようです。成瀬先生を捜査本部にお呼びすることはこれから夜神くんにも話しますが、それ以上のこと……私が話すこと以外は彼には内密でお願いします。先に言っておきますが、私がキラでないかと疑っているのは、彼です」

 

……ジーザス、どうやら俺に選択権はないようだ。とりあえず、Lの傍にいることが身の安全につながる様だな……OK、働かずにいい所に住ませてもらってメシ食わせてもらえると考えよう。余計なことをしゃべらなければ、キラもLも、まさか俺が全て知っているだなんて気付かないだろう。……ん? すでに気付かれてるのか? 目を付けられてるってのはそういうことか? でもそんな素振りは見えないし、何より俺が知っていることがわかってるならキラは俺を殺すだろうし、Lだったら拷問でもしてキラのことや能力を聞き出すだろう。……どこまでバレてるんだ?

 

「わかった。とりあえず俺は玄関に出るぞ。夜神も呼んで茶を振舞うから、彼に話してもいいことは今この場で話してしまってくれ。それ以上のことは言わない」

 

「ご協力ありがとうございます……」

 

 俺が玄関に出ると、夜神が小さな果物カゴを持って立っていた。

 

「突然押しかけてすみません。具合が悪いとお聞きしまして……流河が先に来ていますよね? 見舞いの品を持っていくべきだと言ったんですが聞いてくれなくて……あ、これよろしかったら召し上がってください。できるだけ手軽に食べられるものばかりを選んできたつもりです」

 

 みかん、バナナ、パインの缶詰に……リンゴは彩りか。今頃こいつの後ろではリュークが食いたがってるんだろうなー。

 

「ありがとう。流河もいるから、よかったらお前さんもあがっていけ。茶くらいなら出すぞ。風邪とかじゃないからうつる心配もない、単なる寝不足だ」

 

 さてさて、ここからどうなるか……できればLが殺される前に逃げ出しておきたいな……いや逃げてもキラに殺されるだけか……えっ俺もしかしてカンペキに死亡フラグ立っちゃった? うわー助けて神様。

 

「夜神くん、先にお邪魔しています。成瀬先生には先に重要なことについてお話しました。夜神くんも、よろしければどうぞ」

 

 何でお前がどうぞとか言うんだよ……あああ、何とかしてこの檻から出なきゃ俺死ぬ……いや単に逃げるだけでも死ぬか……俺どうすればいい? どうしたら助かる!? どうするよ俺!!


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