meet again   作:海砂

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偽造

 シュートに能力を見せびらかしてから数日。ほぼカンペキに能力を操れるようになった。

 なので、今度はウイングに自慢してみようと思う。

 

「……で?」

 

 早速話してみたけれど、反応は、薄かった。ものすごく薄かった。切ないくらい薄かった。

 

「もっとこう、スゲーな! とか、言ってくれてもいいじゃん!」

 

 ウイングは少し黙り、割と真剣な眼をして、言った。

 

「お前さん、本当の『制約と誓約』をまだ隠しているだろう?」

 

……あっさりとばれた。気付くわけがないと思っていたのに。

 

「実際問題、使えない道具が多すぎる。手から離れた時点で駄目なら、スモールライトやビッグライトも使えない。タイムマシンは元々ポケットから出す道具じゃないし、通り抜けフープは俺らが抜ける分にはともかくお前さん自身はその場所を離れられない」

 

「そうだね。そもそもどこでもドアで帰れる事を前提に作った能力だから」

 

「ポケットの数、持続時間は?」

 

 多分、かなりの部分を見透かされている。この人を少し甘く見ていたかもしれない。本編について、つまり念の能力についてはそれほど覚えていないように思っていたんだけど。

 

「ひとつだけ、自分の着ている服の任意の場所に作れる。持続時間は5分。その間に道具を出さなければ、二度とポケットを作ることはできない。破れた場合も同様。道具をひとつ出した時点でポケットは消失する」

 

 大きくため息をついて、そして、ウイングは笑った。

 

「確かに帰還にも戦闘にも向かない能力ではあるけど、生活する分には相当便利だな、ソレ」

 

 認めてもらえたのかと、少しだけホッとする。けれど、終わりではなかった。

 

「道具に対する制約と誓約を全部言え」

 

 口元は笑っていたけれど、目が全く笑っていなかった。一ヶ月ほど一緒に生活しているけど、こんなウイングは初めて見る。

 

「……同じ道具は、一日に一回しか使えない。取り出すときに、ファンファーレが鳴る。ドラ焼きをひとつ食べるごとに一個、道具を出せるようになる。限度は一日5回まで。それ以上は、いくらドラ焼きを食べてもポケットからは何も出てこないし、ポケットを出した時点で道具が取り出せないから、この能力は二度と使えなくなる。取り出すときに、脳裏に鮮明にその道具の形状を思い浮かべる。その前段階として、道具の効果と、その道具が使用された場面を覚えている必要がある」

 

「そんなことはとっくにシュートに聞いている。俺が聞いているのは『それ以外』の部分だ。道具の種類はほぼ無限だが、お前さんのオーラは有限だ。そんなちっぽけな制約でこんな能力を使えるわけがない」

 

……言わなきゃダメかなぁ。ダメだろうなぁ。メガネをかけていない彼の今の雰囲気は、蜘蛛の団長に少し似ているかもしれない。……正直怖い。助けを求めたい相手、シュートは狩りの真っ最中で、しばらくは戻ってこないだろう。

 

「道具を使用して他人を傷つけた場合、それが故意でも過失であっても、同等以上のダメージを受ける。それは、道具の効果から派生した結果でも同じ。だから、例えば石ころ帽子を使って誰かを殺せば、自分も死ぬ」

 

 石ころ帽子、メレオロンの『神の不在証明』(パーフェクトプラン)に効果が似てる。それなりに戦闘向きだったのかもしれないけれど、制約がまるで足りなかった。

 

「それから?」

 

「意思を持つ道具、たとえばミニドラのようなものは、出す事はできるけどこちらの意図通りには動いてくれない。ただし、彼らが出した道具その他は、私の手を離れてもそのまま利用できる」

 

「まだ、あるだろう?」

 

 有無を言わせない、逆らえない雰囲気。ああ、この人はやっぱり特質だ、妙なところでそう感じた。

 

「具現化した道具を傷付けられると、そのダメージが全て私にくる。壊された場合は最悪、死ぬ」

 

 あとは、もうひとつ。

 

「今、私が具現化できるのは、グルメテーブルかけとどこでもドア、フエルミラー、タイムベルトの四種類だけ。最高で10種類の道具を具現化できるように設定してあるけど、先のことを考えたら余地を残しておくべきだと思って、まだほかのは決めてない。……これで、全部。もう隠してもないし嘘もついてない」

 

 緊張している私の頭の上にウイングの手のひらが乗せられ、体がびくりと震える。だが、彼は明らかにほっとした表情で私を見て、そして、まるで子供相手にするようにくしゃくしゃと頭をなでた。……自分も子供の癖に。

 

「良かった。俺は、お前さんがそんな無茶な能力を作るために命や寿命をかけてるんじゃないかと心配だったんだ。具現化した道具は手を離せば消えるから、壊されることについてはそう問題ないだろう。数の制限は、悪くない。使えるアイテムを皆で考えていけばいいしな」

 

 ウイングが、そこまで私のことを心配してくれているなんて思わなかった。なんだか、うれしくて涙が出てきそうだ。こんなにも私のことを大事にしてくれる仲間がいて、私は幸せかもしれない。いや、間違いなく幸せだ。

 

「ところで他のはまだわかるんだが、何でまたフエルミラーなんだ? もっと他に使える道具があるだろうに」

 

 ふっふっふ。これが私のサプライズ。普通に食べ物や生活用品を増やすこともできるけど。

 

 ぽっぺけぺっぺっぱーっぱーっぱー!

 

「フエールミラー!」

 

 早速道具を取り出した。ウイングは呆れている。

 

「……せめてそのファンファーレは何とかならんのか、マヌケすぎる」

 

「えー、これがないとドラちゃんって感じがしないもーん。それに、立派な『制約』になるし」

 

 そう言って、ウイングに頼んで500ジェニー硬貨を一枚、ミラーに映してもらう。取り出したソレは、鏡に映したことで裏表が逆になったコインだ。そして、またその裏表逆のコインを映してもらい、取り出したコインは……普通のコイン。

 

「あー、さかさまになった奴をもう一度映して元通りにするってわけか」

 

「小学生のときに思ったんですよねー。こうすればいくらでもお金偽造できるのにのび太バカだなーって。で、紙幣だとナンバーなんかで偽造がバレるかもしれないから、こうやって地道にコインを増やしていけば、当座の生活費には困らないかなって思って」

 

 地味だけど地道にコツコツ大作戦。5分あれば、けっこうな枚数を偽造できると思う。

 

「……本当、生活のための道具だなぁ」

 

 笑いながらウイングは、私の抱える鏡を使ってせっせとコインを偽造している。これってやっぱり犯罪になるのかなぁ。でもバレないよね、多分。

 

「お前さん、本当は帰る気ないんじゃないか? こんな、こっちの世界で生きていくための道具ばっかり作りやがって」

 

……息をのんだ。今、ウイングに言われて初めて気付いた。そうだ。ドアだけに限らず、もっと元の世界に帰れそうな道具は探せばいくらでもあるはずだ。なのに私は今のところ、せいぜいドアくらいしか、そのための道具を使えるようにしていない。思いつかなかっただけ?思い出さないようにしている?

 

 嘘だ。私は帰りたい。早く帰りたい。そのために、戻るまでの間、この世界で暮らしていかなきゃいけないから……あれ?

 

「何をそんなに悩んでる? お前さんらしくないぞ。この能力を使ってこの世界で修行して、新たな念能力を生み出すなりグリードアイランドでカードを手に入れるなりして、お前さんの望む世界に戻ることができるじゃないか。伝えたいんだろう? お前さんの、三年間の恋心を」

 

 そうだ、伝えたい。これだけは譲れない強い想い。なのに私は……帰りたく、ない……?

 

 悲しい夢の結末は、きっと戻った後の現実世界。思いは叶わない。言葉にすれば、これまでの関係も崩れてしまう。怖い、辛い、嫌だ、好き、必要、失った未来、……帰らなければ、悲しい夢は夢のままで終わり、現実にはならない。第一、私はその相手の顔も名前も覚えていない。ならば、きっとこの想いもいつか風化して消えるだろう。この世界で暮らしていくうちに、やがて。

 

 違う、それじゃ駄目だ。あの夜、私は決断したじゃないか。今のままでは私は壊れる。この深すぎる想いに終止符を。そのために、帰らなきゃ。

 

 私は心に蓋をする。自分の心を偽って、本当の気持ちを上手に隠す。

 造られた望みは一刻も早く帰ること。私は目指す。これからも、ずっと、帰ることができるその日まで。

 

 

 

能力名『四次元ポケット』(ドラちゃんのポッケ)

 

・体中の衣服のどこか一箇所に、任意でポケットを作ることができる。

・素肌や、他人の服などに具現化することはできない。

・具現化したポケットの制限時間は5分。

・制限時間内に道具を取り出せなかった場合および、ポケットが破れてしまった場合、二度とこの能力は使えない。

・道具を一つ取り出すと、自動的にポケットは消える。

・ポケットの中に物を入れることはできない(能力者本人の手を除く)

 

能力名『未来の道具』(ドラちゃんのひみつどうぐ)

 

・ドラえもんに出てきた道具のうち、任意の10種類を具現化することができる。

・前提条件として、『四次元ポケット』(ドラちゃんのポッケ)を発動し、そこから取り出さねばならない。

・具現化したポケット一つにつき、道具はひとつしか取り出せない。

・同じ道具は、一日に一度しか出せない。

・道具の具現化されている時間は5分間。

・出した道具は、能力者から離れた時点で消える(体の一部と接触していれば問題ない)

・一つ目は自由に取り出せるが、一日に二つ目以降の道具を出す場合、一つにつき一個、ドラ焼きを食べなければならない。

・道具を出せる回数は、一日に5回だけである。

・道具を取り出す際に、その道具の形状および、原作あるいはアニメにて使用された場面を覚えていなければならない。

・道具を傷つけられた場合、能力者は同等のダメージを負う。

・道具を取り出す際に、定型のファンファーレが周囲に流れる(音量は、人が軽く大きな声を出す程度)

・自らが意思を持つ道具は、能力者の意図通りには動かない。ただし、それらが出した道具やその効果などは、能力者の手を離れてもそのまま利用できる。ただし、持続時間は出した道具と同様、5分間である。

・具現化した道具の能力で手に入れた物体に関しては、持続時間を越えても消えることはない。


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