meet again 作:海砂
「もしもし……シュート? 久しぶり」
久しぶりに電話が来たと思ったら、彼にしては珍しく、夜遅くだった。
身体が資本な職業上、できるだけ規則正しい生活を心がけているらしい。私には真似できないな。
『久しぶり……寝てた?』
「いや、起きてたよ。アンタじゃあるまいし」
『そっか』
余りに久しぶりすぎて、なんだか会話がぎこちない様な気がする……ああ、そっか。そういえば私が夜神月のことで電話かけて以来だから、もう半月以上も声聞いてなかったんだ。こんなに話しなかったのって初めてじゃないかな、多分。
「どしたの? こんな夜遅くに珍しいね」
『いや……ちょっと、声聞きたくなって』
……昨日の試合で、シュートは外人選手にデッドボールぶつけてぶん殴られて退場になった。それは今朝のニュースでも言ってたからよく知ってる。二人とも退場処分になったとか何とか。……それも、珍しい。最近のシュートはH×H世界での頃と違って人にぶつけるようなことはなかったから。
「声くらい、いつでも聞けるでしょ? 気にしないで電話してきていいのに」
『……うん。何かちょっと、色々考えちゃってて』
最後の会話を思い出す。……やば、私馬鹿呼ばわりして切らなかったっけ、電話。
「もしかして最後の電話のこと気にしてた? ごめん、あの時ちょっとテンパってて」
『ううん、もう気にしてない。それよりさ、来月の中ごろに、このまま怪我とかしなければそっちでまた試合があるんだけど……良かったら、また見に来てくれる?』
野球には興味ないけど、シュートが投げるのには興味がある、断る理由もない。
「うん、喜んで。またチケットくれるんでしょ?」
『うん。でさ、今日、大阪でTVの収録があったんだけど、そこで仲良くなった子が東京に引っ越すっていうから、その子も招待しようと思うんだ。隣の席になると思うけど、いいかな?』
「いいけど、女の子?」
『うん。アイドル志望で、雑誌とかでモデルもやってるみたい。オレたちとおない年だってさ』
同じ年の、雑誌モデルで、アイドル志望……あれ? 何か嫌な予感がするぞ。
『エイティーンっていう雑誌の専属モデルだったらしいんだけど』
エイティーン。どっかで聞いたことあるぞ(雑誌的な意味じゃなくて)
『……弥海砂って子なんだけど』
……………………………………もっぺんゆって、名前。
『アマネ、ミサちゃん』
……………………………………。
『もしもし? 桂木?』
……………………………………。
『もしもし? つながってる? もしもし!?』
……………………………………こンの。
「馬鹿シュートがぁあああッ!!!!」
しまった。勢いで電話切っちゃった。……この場合、シュートは別に悪くない……よね。でもこれでミサミサに私の存在がばれた……っつーかミサミサがシュートに接触した? 私には月が接触してきた……これは偶然? ……ウイングに電話をかけてみた。つながらない。大事な時に使えないなホントにこの馬鹿教師……。
じゃなくて。ええと。接触っつったってとりあえずは合コンの時に会ったっきりだし、でもマリが夜神くん狙ってるから協力してとか言ってるし……ええと、シュートとミサミサが仲良くなったのは何で? あ、TV収録って言ってたから……こっちは偶然かな。
電話が鳴る。シュートかと思ったが、知らない番号からだった。誰だろう?
「もしもし?」
『もしもし……久しぶりです。夜神月という者ですが、覚えていらっしゃいますか? 桂木、裕美さんですよね』
絶望って多分、こういうことを言うんだと思う……目の前が真っ暗になった感じがした。
『……突然ごめん。どうしてももう一度話がしたくて……マリちゃんに電話番号を聞いたんだ。今、大丈夫かな?』
「えっと……ごめんなさい、もう寝るところだから」
『ああ、そうか……ごめんね、こんな夜遅くに。改めてかけなおすよ。本当に、ごめん』
電話は、それで切れた。……あああああちょっと待って頭の中が破裂しそう……。
マリが電話番号教えた? そこまではまだわかる。でも今、夜神くんは『桂木裕美』ってフルネームで呼んだよね? 私は、ここがデスノートの世界だとわかった時から、出来る限り自分のフルネームを隠して行動してきた。2年生になってから知り合ったマリは、私の下の名前を知らないはず……なんで? 何で知ってるの? この世界の夜神月は死神の眼を持ってるの? でもそれじゃつじつまが合わなくない? でもどうして? それ以外に考えられない?
……もしかして、夜神月は私のことを調べた? フルネームくらい、学校に問い合わせればわかるかもしれない。一年の時の同級生なら知ってる。家族に聞かれたら一発だ……けど、そんな話は聞いてないから多分それは違う……何で? どうして?
もう夜も遅かったけれど、私はその後一睡も出来なかった。そして、散々悩んだ答えは『わからない』ただそれだけだった。