meet again 作:海砂
久しぶりに電話がかかってきたと思ったら、訳がわからないうちにバカと言われ一方的に切られた。
オレ……もしかして桂木に嫌われた?
そんなさなか、オレに単独インタビューの話が来た。深夜で実質10分程度のものらしいけど、新人二年目にしては珍しいらしい。……そんなんどーでもいいです……桂木……。
撮影は、遠征地の近く、大阪のスタジオで撮影されることになり、先発いきなり四死球でガタイのいい外国人選手に殴られて退場になったオレは、うまく傷を隠して大阪まで車で拉致された。
「おはようございまーす、今日はよろしくお願いしますねっ!」
インタビュアーはアナウンサーでもなんでもない、ただのアイドル志望の女の子らしい。一体どんなこと話せばいいのやら。
「よろしくお願いするッス……」
「あれ? 何か元気ないですね? ミサ、高木選手とお話できるの、楽しみにしてたんですよ?」
「光栄ッス……」
元気なミサとかいう女の子は、一生懸命オレのテンションをあげるべく色々と話しかけてくれる。けどそんなのでオレの心は晴れやしないのだ……。
「そういえば、高木選手って、地元にカノジョさんいらっしゃるんですよね?」
トドメの一撃。オレのテンションはどん底まで一直線に下っていった。よりによってその話題振るなよ……野球のことだけ聞いてくれよ。
「今日の撮影、深夜ですけど全国で流れるらしいんですよ。ミサ全国放送初めてだから緊張しちゃって。高木選手のカノジョさんもきっと見てくれますよねっ!」
……全国? オレの耳がピクリと動いた。
「オレのカノジョの話って、有名なの?」
「え? そりゃもう、学生時代から一途に恋し続けてるって、女の子の憧れのマトですよ? あんなふうに男の子から好きになってもらいたいって」
そっか、周りにはそういう風に見えてるのか。
「でもさ、正直オレの愛情とかって、女の子にとっては重たくね?」
「そんなことないですよー! 彼女がいるって公言しつつ、その相手に迷惑かけないように名前伏せるとかマスコミ対応するとか、よっぽど好きじゃなきゃ出来ないし、それだけ好きになってもらえたら女冥利に尽きるってもんですよ!」
……ソウカナ。
「でもさ、オレの彼女、遠距離恋愛になってから一回しか電話くれてないんだよね……メールとかは、たまにやり取りするんだけど」
「それはー! 大事な人の邪魔になりたくないっていう乙女のコイゴコロですよ! 高木選手わかってないなぁ」
……チョット自信回復。そっかな、オレ自信もってもいいのかな。
「それに、遠征で関東の方に行った時はラブラブなんでしょ? 何の問題もないじゃないですか!」
「ちょっと待って、何でそんなにオレのこと知ってるの?」
彼女は胸を張って答える。
「ミサ、インタビューの相手のことはきちんと調べてからお話しするのが礼儀だと思ってるんです! っていっても、情報源はワイドショーとか週刊誌なんですけど……」
きちんと、自分の仕事に誇りとかやる気を持って取り組んでるんだな……。オレも見習わなきゃ! せっかく好きなことやって、好きな球団に入って、しかも一軍で使ってもらえてるんだから! ……そりゃ失敗もするけど。
「ミサ、このお仕事が終わったら東京に引越しする予定なんですよ。なんだったら、カノジョさんと仲良くなって、情報流しましょーか!」
「いや、そこまではしてもらわなくても……」
「いーんですっ! ミサも恋する乙女だから、高木選手の力になりたいんです」
……いい子、だよな? ちょっと人の話聞かないフシがあるけど。
「それにミサ、高木選手と同じ年だから、カノジョさんともきっと仲良くなれると思います!」
え。同じ年? ……もっと年下かと思った。高校生くらいかと。
「弥さん、高木選手、スタンバイの方よろしくお願いします!!」
「はーい! そうだ、台本にはないですけどミサ、カノジョさんのこと振りますから、何かカノジョさんにメッセージとか言っちゃったらいいんじゃないですか? せっかくの全国放送だし!!」
多分、嫌とかいっても聞いてくれないくらいやる気マンマンだ。……TVでそんなこと言っていいのかどうか不安だけど、多分オレより経験豊富な彼女がいいって言ってるんだから問題ないのかな。よし、せっかくのチャンスだし、電話かけれない分、何か伝えることが出来たらいいな!! オレも彼女を見習って、前向きに元気にならなきゃ。今のオレ見たら桂木だってハリセン持ち出すに決まってる。
……ミサちゃんが引っ越したら、関東の方で試合をする時にチケット送ってあげよう。社交辞令かもしれないけど、この子ならホントに桂木と仲良くなっちゃうかもしれない。
そういや、試合はちゃんと見に来てくれるよな、桂木……よし、オレ嫌われてないかもしれない!
オレは両手で頬を思いっきり叩いた。……殴られたの、忘れてました……。父さん、母さん、左頬が痛いです……。