meet again 作:海砂
クックックックックックックックック……。
(クが多いぞ、リューク)
僕は今、非常にくだらない飲み会につき合わされている。
同級生に土下座までして頼まれて、馬鹿な女子大生とのいわゆる合コンという奴だ。
確かに僕が居れば、そこに女性が集まるというのはわかる。けれど、入学早々どうしてこんなくだらないことで時間を潰さねばならないのか……最初は、そう思っていた。
桂木。下の名前は誰が聞いても教えようとはしなかった。
彼女は、そんな馬鹿な女子大生の中で、一人だけ異彩を放っていた。それは時事問題でもあるキラ事件に話題が変わった時。他の女どもは『週刊誌にLとキラは同一人物だって書いてあった』だの『人が死ぬの初めて見た』だの非常にくだらないことしか言わなかった。それだけで、程度が知れるというものだ。
だが彼女は違った。一人、キラとLは別人物であると自分の考えを述べた上で、キラが殺しをするために必要なもの……顔と名前、それを見事に言い当てて見せたのだ。途中で笑ってごまかしていたが、おそらく独自にキラ事件を追っているか、でなければ僕と同じように警察関係者が身内にでもいるのか……ともかく、大学名で人間は計れないと、ひとついい勉強にはなった。
「夜神くん、この後二人で抜け出さない?」
馬鹿な女がしきりに誘ってくる。
「ごめん、ウチ門限厳しいから……ええと」
「マリ。マリって呼んでもいいよ」
「ごめんね、マリちゃん。この埋め合わせは必ずするから……ええと、そうだ。携帯の番号とアドレスを交換しよう」
桂木、あの女は異常にガードが固い。住んでいるところも携帯の番号も一切自分の情報をもらそうとしない。何故こんな場所にいるのかが不思議なくらいだ。このマリとかいう女曰く、すでに恋人もちゃんといるらしい。
仕方がない、この女が連れてきたということで、何かこの女から情報がつかめるかもしれない。少々うざいが仕方ないだろう。
……そこまで考えて、僕は不思議に思った。何故僕は彼女をここまで警戒している? 所詮ただの合コンで会った今後出会うことも無い人間じゃないか。何か、嫌な予感がする。
『ライト』
「外では話しかけるなといっただろう、リューク」
小声で死神の言葉に返事をする。幸い店の中は雑然としていて、誰も僕の言葉に気付く様子はない。
『随分とあの女にご執心のようだな。桂木って言ったか?』
「……」
先ほど、さりげなく彼女の隣に座って色々と話しかけてみたのだが、一般的な話題や学術的なことについては普通に返してくるのだが、自分のことについては妙にはぐらかす。そもそも、こういう席でフルネームを名乗らないというのもおかしい。『どうしても名前呼びたいならパームって呼んでね、意味はヒミツ★』とか言っていたから、もしかしたら日本人ではないのかもしれない。いや、顔立ちは日本人だが……。
『こんな奴、人間界に来て初めて見た』
!! リューク、それはどういう意味だ?
『ちょっと待って……ええと、別に言ってもいいかな。あの女、名前も寿命も見えない。そんな前例は聞いたことないぞ。もしかしたら人間に化けた死神とか? あっそれじゃ他の人間に見えないか』
死神の眼をもってしても名前と寿命を見ることが出来ない女……? 決まりだ、コイツは普通じゃない!
それがプラスと出るかマイナスとなるかは判らないが、少なくとも僕の今後に影響を及ぼす可能性がある。……流河のいない時にこの女と接触できたことを幸運に思うべきか……。
「マリちゃん」
「なぁに?」
場は解散の方向へ流れようとしている。桂木はそそくさと帰る準備を始めていた。
……ひとまず、この女から聞けるだけの事を聞きだそう。友人というからには、もしかしたら名前や他にも色々と知っているかもしれない。
「……さっきはああ言ったけど、この後、よかったら少しお茶でもしないかい?」
馬鹿な女ほど釣るのは容易い。願わくば、僕の読みが外れていないといいのだが……。こういう女は、いや、女全般が、どうも好きになれない。
その後、彼女が歴史学科に在籍し、二人は同じゼミの友人だということ、彼女の家は大学のすぐそばにあるのだということ、下の名前はゼミの中の誰も知らないということを聞き出した。……家に行ってみるか? 家族はさすがに下の名前で彼女を呼ぶだろう。うまくそれを聞けるとは限らないが。しかし突然家に行くというのもおかしいかもしれない。もう少しこのマリとかいう女と親しくなって、できれば僕も友達の枠の中には入れればあるいは……。
『人間って、面白!』
「少し黙れ、リューク」