meet again   作:海砂

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デスノ編開始


meet once again
人生最大の危機


 桂木裕美20歳。

 

 高校生の時、ちょっとフツーと違う経験をした20歳。

 

 でもまぁ、とりあえず今はフツーの女子大生。

 

 そんな彼女は今、人生最大の危機を迎えていた。

 

 

「よし落ち着こう私」

 

 一人で満員の個室に座っている私は、両手で頬を叩いた。

 

「まず現状把握。友達に誘われて、駅前の居酒屋でコンパ。OK?」

 

 必死で自分に向かって言い聞かせているが、はたから見ると不気味なことこの上ないだろう。幸いなことに今このトイレに人はいないが、誰かが入ってきたら即座に退散するかその場でゲロを吐くだろう。きっとそのくらい、コワい。

 

「人数合わせの合コンだと知らされたのは道中。彼氏いるけどキニスンナって言ったのが友達のマリ。……よしOK、まだ酔いは回ってない」

 

 まだ乾杯のビール一杯だけしか飲んでいないし、私自身、それほど酒に弱いわけじゃない。

 

「で、相手は天下の東大生。ここまでは問題ナシ。……問題は」

 

 大きく息を吸って、吐いて。いつまでもこの一つしかない便器を占領しているわけにもいかない。私は、覚悟を決めてトイレから出る。

 

「……大丈夫かい?」

 

 心臓が止まるかと思ったその元凶がトイレの前で待ち伏せてたー!!

 

「ええと……桂木さんだっけ。友達も心配してるよ」

 

 座席の方を見ると、……確かに友人たちは心配しているようだ、別の意味で。ものすごく別の意味で。

 

「い、いえ……大丈夫。それより夜神くんの方こそいいの? みんな待ってるんじゃない?」

 

「いや、実はこういう場所は余り好きじゃなくてね。今日も無理矢理連れてこられたんだ。だから実は、桂木さんの様子を見てくると言って逃げてきたんだよ」

 

 こっち見んな! と大声で叫びたいのを何とかしてこらえ、無理矢理みんなの下へと引き返す。勿論、目の前の元凶も一緒にだ。その彼は、目の前の女の苦悩など知る由も無いだろう。

 

 友人たちは一様に、その元凶の彼を狙っているようだ。ここへ連れてきたマリも、どうやら夜神くん狙いらしい。

 

「ちょっと、何話してたのよ二人で!!」

 

「気分悪くなったんじゃないかって心配して見に来てくれただけ! 知ってると思うけど私彼氏いるから別に狙ってないから!」

 

 小声で話した後、1オクターブは違う声音で、マリは夜神くんに話しかけていた。今は恨むよマリ、よりにもよってこんな人物と引き合わせるなんて……!

 

 

 高校生の時、私はひょんなことからマンガの世界に飛ばされた。今こうして現在の日本に戻ってこられたのは私の努力の賜物であり、ちょっとヘタレな先生と、ちょっと野球バカな彼氏の努力の賜物でもある。

 

 しかしとある日、私は気付いてしまったのだ。ここが『現実』ではないということに。

 

 その発端は一年生の冬、大学でTVを見ていた時だった。

 

『番組の途中ですが、ICPOからの全世界同時特別生中継を行います』

 

 たった一本のニュースが、私の視界を反転させたような気がした。

 

「DEATH NOTE!?」

 

 私はまず、以前マンガの世界に飛ばされた原因、元高校教師の成瀬拓の下へ電話をかける。だが、それは相手の都合でつながることは無かった。次に、一緒に飛ばされた仲間であり、現在は恋人でもある高木蹴人へと電話をかけるが、これも徒労に終わる。高木はアニメやマンガ、ゲームなどに興味の無い野球一筋の野球バカで、実力も伴っていたため地方の球団において寮生活をしている。そんな彼が何かのプラスになると、私には到底思えなかった。そして実際、役には立たず、バカと叫んで電話を切った。

 

 そして私は自宅へと戻る。本来ならば持っていた筈の『DEATH NOTE』の単行本、そして映画版『DEATH NOTE』のパンフレット、さらにはDVDが数本。……それらは全て、まるで最初から無かったかのように消し去られていた。

 

「……間違いない……!」

 

 TVをつけると、先ほどの生中継中に殺されたリンド・L・テイラーについての詳細が流されていた。……要人暗殺の実行犯として暗躍していた男で、アメリカにて逮捕され、死刑になる予定だった男……。私はそこまでのことは知らなかったが、重要なのは、その聞き覚えのある名前と殺されたという事実。これは明らかに、DEATH NOTE初期に描かれていた状況と酷似……いや、そのものである。

 

「裕美、どうしたの!?」

 

「なんでもない!」

 

 どうすればいい、どうすればいい、ドウスレバイイ?

 

 もしも自分の知っているマンガのとおりに世界が動くのだとしたら、ここから、何人もの無実の人間が死んでいく。例えばFBI捜査官、例えば警察官、例えばヨツバのライバル会社関係者……。

 

 救うべきか、守るべきか、逆らうべきか、従うべきか、様々な感情が私の中を錯綜していた。

 

 その時、携帯電話が鳴る。表示されている名前は……成瀬先生。

 

「拓ちゃん!」

 

 飛びつくようにして私は携帯電話に出た。

 

「おー、久しぶりだな。どうした? 急に」

 

 彼は状況の切実さをわかっていないのか、のほほんとした感じで返事をする。私の中のナニカがキレた。

 

「こンの馬鹿ヤロウ!! テメーのせいで大事になってんじゃねーかこの馬鹿、チョー馬鹿!!」

 

 電話の相手はしばらく耳を押さえた後、文句を愚痴愚痴言ってきたのでもう一度キレたら、素直に話を聞いてくれるようになった。そして私は、一部始終を話す。

 

「……桂木。関わるな」

 

 全てを聞いた彼は、一言、そう口にした。

 

「たとえこの世界がデスノートの世界だとしても、だ。お前さんや俺達にもわからなかったように、これまでの現実となんら変わらない、普通の日常だ。そこにキラが介入してきたとしても、少なくとも犯罪を犯さなければ殺されることは無い。もう一つ……キラを、追わなければ、だ。FBIが死のうが警察官が死のうが、お前さんには関係ない、遠い世界の出来事か、でなければ映画の中の出来事だと思え。下手に関われば、日常がなくなる。……もう、俺の能力も使えなくなった今、本当の現実に戻ることは不可能だろう……。悪いが、俺にはどうしてやることも出来ない」

 

……納得がいかなかった。けれど彼の言うとおりだった。何のコネもカネもないただの一般人が、キラに関わったらどうなるか……いや、それどころかキラの目にすら入ることも難しいだろう。それこそ重犯罪でも犯さない限り。

 

「いいか。お前さんにできることは何もない。数年すれば、キラはいなくなるんだ。そして元通り、だ。見なかったことにしろ、そしてこれからも見てみぬ振りをするんだ」

 

 無言で、私は電話を切った。

 

 それから数日間、何をしたかよく覚えていないが、両親が何も言わないところを見ると多分、普通に大学に通っていたんだろう。

 

 意識してみれば、キラの情報はネットやニュースから普通の番組にまで幅広くどこにでも転がっている。今まで気付かなかったことの方がおかしいくらいだ。何処にでも転がっているが、核心に触れる部分は何一つ落ちてない。

 

 裕美は、世界に関わることをやめた。

 

 

 やめた。

 

 やめたのに。

 

 何で隣で夜神月がメシ食ってるんでしょーか神様、教えてください……。

 

 あれ、もしかしたらこの場にリュークもいるってことだよね、多分。……面白っ……くねぇ!


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