meet again   作:海砂

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後日

 朝。目覚めた私は、全てを思い出していた。

 

 私の名は、桂木裕美(かつらぎゆみ)。17歳。

 成瀬先生に片思いしてて……振られるのが怖くて、逃げ出した。

 でも、もう逃げないよ……ウイング!

 

「成瀬先生、少しお時間よろしいですか?」

 

 授業が終わって放課後、私は成瀬先生の元へ足を運んだ。

 

 職員室を離れ、二人になれる場所に移動する。

 

「先生……私は、ずっとあなたのことが好きでした。大好きでした。……ありがとう、ウイング」

 

 先生は、満面の笑みで私の頭を撫でてくれた。

 これは失恋なんかじゃない。新しい始まり。そして、変わらずウイングとシュートは私の大切な友達で、仲間。

 

「ありがとな、桂木。俺も、お前さん達のことが大切だよ。それは今も変わらない」

 

 その言葉だけで、私は天にも昇るほど幸せだった。

 

―――――

 

 桂木の告白を受けて、実は少しショックだった。

 

『好きだった』って過去形かよ! みたいな。いや別に現在形でもそれはそれで困ったんだけども。

 けど、アイツは笑顔だった。これでいい。良かったんだ。

 

 ちなみに念能力は戻ってきてからどんなに踏ん張っても発動することは無かった(残念!)

 

 俺はもう一度自分の足で踏み出すために、学校を辞めた。あ、もちろん年度が終了してからだけど。

 

 覚悟を決めて、別の学校の、今度は正職員になるために。

……のはずが、うっかり大学の頃のゼミの教授に誘われて、なぜか今は大学で講師として教鞭を振るっている。

 

 人生どんな風に転ぶかわかんねーもんだな。けど、これはこれで悪くない。

 高校で教えた経験のせいか、授業がわかりやすいと学生には評判がいいらしい。

 

 大学に進学した桂木とプロ野球選手になった高木とは、今でも親交がある。

 高木の方が稼いでるのに、薄給の俺がいつも奢らされるのは何故だろう。年上だからか、そうなのか?

 

 二人はどんどん成長している。俺も……少しは成長できているだろうか。

 

 わからないけど、そう信じて前に進むしかない。

 

 とりあえずは目の前にあるこの論文をやっつけてしまえば、うまくいけば准教授に出世できる。

 

……ゲーム作ってた頃に比べりゃなんてこと無いさ。なんてったって日本語だからな!

 

―――――

 

「シュート、負けたらハリセンでぶん殴るからね!!」

 

試合前のパームの言葉。……想像するのも恐ろしい。こいつはマジでやる。ていうか殺る。ハリセン持参してやがる。

 

 9回裏、ツーアウト。

 

 ここからだ。ここから、オレの人生が始まる。

 観客席ではウイングとパーム……じゃなかった、成瀬先生と桂木も見てくれている。

 ここで踏ん張れなくてどうするよ、オレ!

 

 一球、高目から落ちるスライダー。見逃しでワンストライク。

 

 二球、ストライクゾーンからほんの少し外したインコースのストレート。

 

……以前のオレだったらここでぶつけていただろう。でも今のオレは違う!

 

 バットが空を切る。ツーストライク!

 

 ボールを受け取って、後ろを見る。オレには仲間がいる。

 前を向いた。そこにも、仲間がいる。

 右を見ても左を見ても、オレの仲間がそこにいてくれる!

 

 三球目。渾身のストレートはど真ん中を突き抜けて、ミットにおさまった。

 

「ゲームセット!!」

 

 オレはキャッチャーに抱きついた。大柄な彼はオレを軽々と抱き上げる。

 

 オレのフォークは捕れないけど、彼がいると安心して球を投げることが出来た。

 

 次々と仲間がマウンドに駆け寄ってくる。オレには仲間がいる!

 

 人は、たかが県大会でって笑うかもしれない。けど、オレにとってはこれが大きな一歩なんだ!!

 

 

―――――

 

……そして。

 

 

 今日の俺は講義が無いから夕方から出勤なのだ。さて、そろそろ行くかな。

 

 TVのリモコンを手にとって……ん? 画面が乱れた?

 

『番組の途中ですが、ICPOからの全世界同時特別生中継を行います』

 

 関係ないな。俺は電源を消し、そのまま大学へと向かった。

 

 

to be continued...?




次話オマケ

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