meet again 作:海砂
借りてたタキシードとかを返してから、俺達は家に戻った。
パームがウイングを正座させて説教している。……よかった、ウイングが先にやったってだけで、本当はオレも同じことしようとしてたんだよなー、実は。
「まぁ、もうこうなっちゃった以上はどうしようもないよね。……さて、本当にどうする? ツェヅゲラさんの試験、駄目もとで受けてみる?」
「……俺は絶対に受からない自信があるけどな」
ウイングはまた余計なことを言ってパームに叩かれている。試験か……そんなに大変なことなのかな。
「ねえ、ウイング、パーム」
「ん?」
「またさ……ウイングの占い、やってみようよ。今後の指針が何かしら出るかもしれないし」
そうね、と頷きながらパームはハリセンでバシバシとウイングを殴っている。可哀想だけど助けない。だって下手にかばったらオレも殴られるもん絶対。なので、無視して紙と鉛筆を持ってきた。
「ウイング、よろしく」
「かしこまりましたでおじゃる……」
ウイング、なんか壊れかけてない?
最初に占ってもらったのはパーム。
貴方の武器はその手の内にある
それで翼を殴るといい
糸口は翼が持っているだろう
それを引き出す為に
……翼?
「ウイング」
パームの声が妙に優しい。……これはやばいかもしれない。あ、ウイング……翼!
轟音とともにパームがウイングを吹っ飛ばした主にハリセンで。
「ちょっと待ってパーム、オレとウイングの占いも見てみないと!」
何とかパームをなだめて、オレも占ってもらう。
貴方の武器はその手の内にある
それを翼にぶつけるといい
糸口は翼が持っているだろう
それを引き出す為に
……あれ、パームと大して変わらない占いがでてきた。……どっちのことかな、武器。とりあえずバットを握り締めた。
「ウイング、ちゃんと硬しといてねー殺す気でいくから」
「ちょっと待てお前ら、俺の分も占わせてくれせめて!」
とりあえず、ウイングの占いが終わるまでは待つことになった。
今こそ貴方の秘密を話す時
覚悟を決めて現実へ還るその時が来る
怪我をする前に全てを打ち明けよう
さもなくば、二人が貴方を永遠に眠らせる
「……どーゆーこと、ウイング」
こ、怖くてパームの顔見れませんオレ。多分般若より怖い。オーラでわかる。
「眠らされる前に話します、全部話しますっ!」
ウイングは、以前に教えてくれた
「うごぁっ!」
納得いかないから、
「ちょっ、まっ、おまっ、ちょっ!」
反論させる暇も無く、オレ達はウイングをひたすらボコる。
「俺が死んだらお前さんら多分一生元の世界に戻れないぞ!!」
二人の手が止まる。……死者の念は強まる……そういうことか?
「ウイング、何で黙ってたのさ……オレ達が帰りたいのはわかってたんだろ?」
「とりあえず、暴力はナシにしてくれ。……俺は以前のパームのこともシュートのことも知っている。パームに関しては多分本人もわかってるだろうが、戻ったら失恋が確定的だ。シュートは……お前さんは、俺の知る限り、現実逃避するような人間じゃない。それがこうして今ここにいるということは、それだけ辛い思いをしてきたんだろう。そんな過去を忘れてこの世界にいられるんだとしたら……その方がいいのかもしれないと俺が勝手に思っただけだ。相談しなかったことは謝る」
そっか……そういえばウイング達には話していなかったっけ、オレが逃避願望を抱えていた理由。
「ウイング、オレの逃避願望はもう解消されてるよ。オレは、もう一度前の、あの世界に戻って野球がしたい」
「私も、覚悟は決めてる。失恋なんて誰もが一回は経験することだし、そんなに深く考えなくていいよ」
……パームとオレの声が重なった。
「ウイング自身はどうしたいの?」
ウイングは少し黙り……言った。
「俺は、どちらでもいいと思っていた。今の世界は確かに前の世界より俺にとっては楽しいけれど、それだけのリスク、危険を伴っている。お前さん達が本当に覚悟を決めているのを見て、納得できたら……その時は、ちゃんと帰してやるつもりだった。これは嘘じゃない。それが、今なんだろうな……」
ウイングはオレとパームの手をとった。
「もう、この世界には戻れない……逃避は出来ないぞ? いいんだな?」
「待って、最後にゴンとキルアに会いたい」
ウイングは手を離した。
「……そうだな。あいつらにはちゃんと別れの挨拶をしないといけないしな。それに……クラピカへのプレゼントもあることだし」
部屋の片隅においてある緋の眼を見る。変わらずにそれは、鈍く紅く光っていた。
ゴンと連絡を取り、彼らの元へ向かう。
ちょうどその時、クラピカもそこを訪れていた。
「ゴン、キルア、……お別れだ」
「私たちは、元の世界に戻るよ」
三人は驚愕のまなざしで……でも、嬉しさ半分寂しさ半分、といった感じで、俺達を見ていた。
「帰る方法見つかったんだね!」
「じゃあ、もうお前たちとは会えなくなるんだな……」
オレは、首を振った。ウイングが前に言っていたこと。
「諦めたら可能性はゼロだけど、諦めなければ可能性は無限大! 誰かの同じような能力で、また会えるかもしれないしね!!」
クラピカとキルアが、ゴンとウイングが、目を合わせて、笑った。そう、可能性は0じゃない。
「オレ達が友達ってことにかわりねーしな」
……パームが、マントで隠し持っていたものをクラピカの目の前に出す。
「これが、私たちからの餞別。……ん? 餞別って出て行く人にあげるものだっけ? あ、置き土産、置き土産だ」
マントを取り去る。……そこには、間違いなく本物の、緋の眼。
「これは……」
「俺らが旅団から取り返してきた、正真正銘の緋の眼だ。これで一つ、お前さんの目的が叶ったな」
呆然としているクラピカに、ゴンが良かったねと声をかける。パームは半ば無理矢理、クラピカにそれを渡した。
「……すまない、お前たちには感謝してもしきれないよ……。この恩は必ず返す、また、いずれ会う時に」
クラピカは、泣いていた。……それだけ大切なものだったんだな……。
「ゴンとキルアにはコレだ。暗証番号は1192」
ウイングが自分の通帳を手渡す。まだ50億ほどは残っている。こいつらが金に頓着するような性格じゃないのは重々承知しているが、あって困るようなもんでもないだろ。
「ありがとう、ウイング!」
「キルア、全部お菓子にして食っちまったら承知しないからな!」
ウイングの冗談に全員が笑う。……そう、オレ達はこれでお別れなんかじゃない。だから、湿っぽい別れなんていらない。
「じゃあ、……また会おうね、みんな!」
「またね!」
皆と別れ、もう一度自宅に戻る。
「覚悟、……決めたか?」
オレ達は、それぞれの目を見て、深く頷く。ウイングは、オレとパームの手を握りしめた。
「……また、な。パーム、シュート」
ウイングの胸元辺りが発光する。……だんだんとそれは輝きを増して、俺達全員を包み込む。
「
一瞬で、オレ達の意識は暗黒に落ちた。