meet again 作:海砂
まずはパームから、念の定義と使用法、ヨンタイギョーとかいうものを教わった。これについては、マウンドで感情をコントロールしていた経験のおかげか、割と簡単に、数日でそこそこ見れるようにはなった。まだ実戦レベルには程遠いけれど。
彼女が言うには『練』と呼ばれる、通常以上のオーラを体外に留める方法をずっと続ける(この状態を『堅』というらしい)と、オーラ=生命エネルギーを使い果たして、最初のパームのように倒れてしまう。けれどそれによってオーラの絶対量を増やすことが出来るらしい。そして、オレは顕在オーラ量が非常に高く、燃料切れさえ起こさなければ、かなり強力な技を使えると知った。
能力については、オレは『放出系』という、簡単に言えばオーラを飛ばす能力に適性があるらしい。
修行については『堅』の状態を出来るだけ長く続けることが最も近道だと教わった。ちなみにフルマラソンを完走できるだけの体力を持つオレでも、最初は1分でぶっ倒れた。これによって、念能力が体力とはまったく別の部類のものだと身にしみて実感した。
『放出系』についての説明を受けたとき、なんとなく頭に浮かんだものがあった。野球のボールだ。
オーラをボールに見立てて放出することができれば、オレ自身が今まで培ってきたピッチングやバッティングの能力が役に立つんじゃないか、と思ったからだ。そしてパームは、自分に合う能力には、インスピレーションも大事だと言っていた。なので、堅の修練とともに、発……必殺技について考えていこうと思っている。具体的になるのは、もっと先のことになるだろうけど。
……とりあえず、頭がパンクしそうなので、まずは堅を維持することに全力を注ぐのが先決かもしれない。できれば、堅を維持しながらそういったことを考えられるようになればいいなぁと思う。纏ならともかく、堅に関しては今はまだ、全然無理だけど。でも、野球のトレーニングと同じで、やればやるだけ効果が実感できるのはちょっと楽しい。
「ねーねー、能力どんなのにするか決めたー?」
ウイングさんは、オレが獲りすぎて余った獲物を港の方に売りに行っている。一応ここで生活および修行していくために、滞在できるだけのものをそろえたいそうだ。この間行った時には、オレたちに替えの洋服や、あとコップなんかも買ってきてくれた。この間やった水見式が、練のいい練習になるそうだ。
……なので、小屋にはパームとオレの二人だけ。そして、すでに堅をかなりの時間維持できるパームは暇なのかオレに色々と話しかけてくる。もちろん、堅や纏をしながら、だ。
「うーん、野球関連の能力にしようとは思ってるんだけど、これだ! っていうのはまだ決まってない。それより先に、普通に念が使えるようにならないといけないし」
「ひっひっひー、私もう能力決めちゃったもんねー」
パームは、オレの遥か先を行っている。元々知識があるせいか、念に関しては修行もオレより効率的にやっているようだ。まだ腕立て伏せ10回はできないみたいだけど。
「へぇ。今見たいって言ったら見せてくれる?」
「ふっふっふっ……」
不気味な笑みを浮かべながら、パームは自分の着ているTシャツの腹部を両手で隠す。
「サっプラーぁイズ♪」
彼女が両手を離すと、そこにはなかったはずのポケットが出現していた。……そんだけ?
「あっ、今ちょっとバカにしたでしょ! このポケットの具現化は次のステップへの準備みたいなもんなんだから!」
ばれた。そして頭はたかれた。痛くはないんだけど、こいつ、すぐに手を上げるよな。コミュニケーションが乱暴すぎると思わないでもないけど、言ったら怖いので言わないでおく。
「さてさて次のサプライズ」
具現化したポケットの中に手を突っ込む。そして、ポケットよりもはるかに大きなものを取り出した。
パッパカパッパッパーッパッパ~ン♪
……間抜けなファンファーレと共に。
「どこでもドアー♪」
……うん、わかったよ。ドラえもんなんだね君は。
「制約と誓約、覚えてる?」
「うん」
「私の能力、まずは
そういいながら、彼女は取り出したドアから手を離す。すると煙のようにドアが消えてしまった。
「こっちの具現化は相当メモリ使うから、制約は多め。
「便利なんだか不便なんだかよくわからない能力だな」
「何言ってんのよ! これでグルメテーブルかけを出したら、好きなもの食べ放題! フエルミラーにお金を映して偽造し放題! こんな素敵能力ないってば!」
あ、それは確かに便利かもしれない。オレ、この世界にきてから実はカツ丼食いたくてたまんないし。
「んで、同じ道具は一日に一回しか出せないし、一日最大5回しか道具を出すことはできない」
「最大?」
「うん。一回はタダ。二回目以降は、ドラ焼きを食べた分だけ出すことができる。最大4コ食べて、五回ね。この世界にドラ焼きがあるのはゴンからリサーチ済みだし、グルメテーブルかけで出してもいいし。我ながらカンペキだわ!」
オレ……この人についていける自信がありません。父さん、母さん、世の中にはこんな人もいるんですね。
「あ、でもさ、それってどこでもドアで、元の世界に帰れるんじゃねーの?」
生き生きとした表情で能力を見せびらかしていたパームが、突然風船のようにしぼんでいく。
「試してみたんだけど、どこでもドアは地図をインプットしないとその場所に行けないみたい。確かにそういうシーンはあったしね」
……あるんだ、そんなシーン。知らなかった。やばいマジついていけない。オレもガキの頃ドラえもんはけっこう好きだったつもりなんだけど、こいつとは次元が違いすぎる。
「とにかく、できるだけ道具を思い出して、戻れるようなアイテムを探すから、シュートはできれば攻撃系の能力にしてくれると助かる」
「なんで?」
「だって、私の能力、帰る事前提に作ってるから、多分戦闘に関してはあんまり利用法ないんだ。空気砲やショックガンなんか念能力者に効くわけないし、桃太郎印のきび団子は食べさせる瞬間に手から離れて消えちゃうし。できればしばらく具現化したままにできればよかったんだけど、放出系とは相性悪いうえに制約が足りなかったから」
確かに、ハッキリは覚えていないけど、ドラえもんの道具で、手から離さないままで攻撃できるような武器はなかったような気がする。オレもこいつも覚えてないだけで、何かあるのかもしれないけど。
「ウイングは特質だから、私よりも元の世界に戻る能力を作れる可能性が高いんだよね。でも、そうなると、悪意を持った殺人者が目前に現れたときに対応できずジ・エンド。だから、一人だけでも攻撃能力の高い人がいて欲しいの。……まぁ、無理にとは言わないけど」
いや、むしろその方が好都合かもしれない。バットもボールも、個人的には嫌だけど、凶器として使うことができる。オレの方が確かに攻撃的な能力を作ることはきっと容易いはずだ。たとえば、単にボールに模した念のボールをぶつけるとか……。
「わかった。でもオレの具体的な能力を決めるのはもっと念のことを知って、修行してからにするから」
「うん。私も体力鍛えなきゃねー。目指せビスケ姐さん!」
誰だ、ビスケ姐さん?
……とにかく、全員が鍛えないとどうしようもない。二人の会話から察することのできる原作情報だと、日本なんかよりはるかに治安が悪いみたいだし、念のような技もあるし。
この世界で生き残れるのか?
今、オレは自分で考えたことに愕然とした。
『元の世界に帰る』ではなく『この世界で生き抜く』ということを当たり前のように考えている。
……オレはもしかしたら、元の世界に戻りたくないのかもしれない。……9回の悪夢から逃れるために。