meet again   作:海砂

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競売

 目覚めた。体が重い。

 うっかり元の世界に戻ったりは……していない。PC二台並べた俺の、ヨークシンの、部屋だ。

 床にシュートが転がっている。寝袋を使えといったのに、どうやらそのまま寝てしまったようだ。

 

……ちょっと待て。俺もコイツも、多分パームも寝てた……今日、何日だ!?

 

 あわててPCを起動して日付を確認する。確か俺たちが抜け出したのは四日、そしてその夜にクラピカが鎖を刺して、……パクが死ぬ。G・Iの最初のオークションは六日、今日は……六日!!

 急いでシュートとパームを叩き起こす。

 

「うーん、かち氷おかわり……」

 

「バカタレ! とっとと起きろ!」

 

 パームはすぐに起き出して来た。

 

「今……何日? 何時?」

 

「六日の朝10時、12時からオークションだ、急いで準備しないと!」

 

「弁当も食べる……」

 

 パームは無言でハリセンを具現化する。後のことは……言わずもがな、だろう。

 

 俺達はまずレンタルショップに向かい、タキシードとドレスを借りる。ついでにパームはヘア・メイクもしてもらった。シュートのタキシードが予想より小さかったので、一回り大きいサイズに変更してもらう。……やべっ時間間に合うか?

 正装した俺達は急いでタクシーを拾い、サザンピースオークション会場へと向かう。

 Bホール入り口、時刻は11時半を過ぎていた。……セーフ! 俺らの番号は298番。肉屋だ。801番だったりしたら全力で逃げるところだった。……いや、そんな人数いるわきゃないけどさ。番号札は、パームに渡す。

 

「よう」

 

 席を探している俺達に声をかけてきたのはフィンクスだった。……スルー、しちゃ駄目かなやっぱり。

 

「こんにちは。今日は奪うんじゃなくてオークションに参加、ですか?」

 

「ああ。まぁお前らが出て行ってから色々あってな……」

 

……詳しくは聞かない。というかこれ以上旅団に関わりたくない。

 

「そういえばパーム、お前ヒソカが旅団メンバーじゃないこと知ってたか?」

 

「は!? いや、全然……」

 

「ワタシ達もすかり騙されたよ」

 

 パーム、ナイス迫真の演技。とりあえず俺も目を丸くしておこう。おっと、もう競売が始まるか?

 

「ウイング、パーム、あっちの席あいてたよ」

 

「よし、じゃあフェイタン、フィンクス、また機会があったら」

 

「おう」

 

 二人と別れ、三席連続であいていた場所に移動する。シュートがキープした席は後方少し右より。まあ、品物は見えるし問題ない。ゴン達はどこかなーっと、多すぎて全然わかんねーや。

 

「パーム、最終確認だ。俺達の最高予算は982億ジェニー。バッテラがどこまで食いついてくるかはわからんが、全額を注ぎ込む勢いで落とすぞ。7本のG・I全部にその予算つっこみゃ、一台くらいはゲットできるだろう。三人入れればいいから、スロット片方空いた台でも両方空いた台でも構わないしな。オークションはお前さんに任せる。俺覚えてないしな、アップコール」

 

「オレは?」

 

「見てろ。くれぐれも絶対に指の仕草をマネするなよ。下手打ったら実刑だからな。知りたかったらオークション終わってからパームに聞け」

 

「了解」

 

 俺も、とりあえずは見ているだけだ。デオドロザウルスの糞の化石……いらんがな、そんなもん。

 

 数品が競り落とされた後、俺達の目的の品が出てきた。……グリード・アイランド……!!

 ムキマッチョハゲが大金槌で殴ってもびくともしない。轟音とともに置かれた台は粉々になったにも関わらず、ジョイステはそのまま、普通に起動している。……電力どこから持ってくるんだろう。ゲーム作った奴の中に電気具現化か変化させられる奴がいるのかな。……つーか普通にドライバーで分解できるのかどうかとか、試してみたい。もったいないし怖いからやらないけど。多分できねーけど。

 

「201番、さらに倍、240億です!」

 

 お、ゴンのミスが出たw

 

「298番、290億!」

 

 パームが動き始める。ここからは多分、バッテラとの一騎打ちになるだろう。ミルキは……ああ、今のコールで諦めたっぽいな。

 

「16番、340億でました!」

 

 会場は、ほとんどがパームとバッテラに注目している。特にパーム……俺らはガキだからな、随分目立っているようだ。

 

「298番、倍の680億!!」

 

 バッテラが少しためらう。……スロット一つしかない台にこれ以上出す気があるか……? いや、彼なら出すかもしれない。

 

「16番、700億!」

 

「298番、800億入りました!」

 

「16番、810億!」

 

「298番、860億! 他にありませんか?」

 

 おーおー、バッテラさんの頭から湯気が立ち上ってるみたいだ。……どこまで続くんだろうまさか900億まで出すか? 原作ではいくらまで出してたっけな、この人。

 

「16番、880億です!」

 

「298番、930億出ました!」

 

 どうやら、900億を突破した時点で諦めたようだ。……彼の財産も有限ということか。あと6本のG・Iを落札しなきゃいけないし、クリア報酬も払わなきゃいけないしな……いくらだったっけ、報酬。何百億ジェニーだったとは思うが。

 

「グリードアイランド、298番、930億で落札!! ありがとうございます!」

 

 よし、無事G・Iゲット! とすればもうこのホールに用はない。俺達はさっさとホールを後にする……。

 

「待ちたまえ」

 

 呼び止める聞き覚えのない声に振り向くと……バ、バババッテラさんとツェズゲラさん!! まさかここで奪われるとかねーよな!! ……あれ、何か忘れてるような……奪われる?

 

「……キミ達には負けたよ。まさか初日でこれだけ競ってくる人間がいるとは思わなかった。しかも、こんな子供とはね」

 

「一応、私達全員プロハンターですから」

 

 おおっ、パーム負けてない! よしここは俺は引っ込んでおこう。口では負ける自信があるぞ!

 

「ふむ……君達は何故、グリードアイランドを求めたのだ? それだけの大金を投じてまで」

 

「ゲームのクリア報酬……が、目的です。ですから、あなたと相容れることはありません、バッテラさん」

 

 バッテラさんは軽く眉をひそめる。

 

「だが、君達だけでクリアできるかな?」

 

「わかりませんが、必要があるのでやるまでです。……もうよろしいですか? 受け取りに行かなければならないので」

 

 ツェズゲラさんは何も言わず、俺達を品定めするように交互に見ている……どうせオレは一人だけダントツでヘタレだなとか思ってるんだろうなチクショー。

 

「……ということは、今後のオークションに参加することはないんだね?」

 

「はい。今回の一台があれば充分ですから」

 

 バッテラさんの顔に浮かんでいた冷や汗が、すうっと消えた様な気がする。……いやいやいや、俺達全部落札しようなんてそんな大それたこと思ってませんから!

 

「それを聞いて安心したよ。残りの6本でも同じように競ってこられたらと思うと、寒気がするからね」

 

「こちらも、一台手に入れることが出来て一安心です。残り6台、落札できると良いですね。それと……ご病気も、お大事に」

 

 パーム! 余計なこと言うんじゃありません!! ほら、バッテラさんが目を丸くしてるじゃないのっ!

 

「……君達の幸運を祈るよ。それじゃあ」

 

……意外だったな。てっきり交渉してくるものだとばかり思っていたんだが。パームの目力がバッテラさんをも怯えさせたということか。恐るべし、パーム。

 

「さ、受け取りに行こう♪」

 

 笑顔のパームが、俺は心底恐ろしいよ。こいつが仲間で良かったと思うべきか。

 

 小切手と引き換えに、GIを受け取る。軽く梱包されたその中身を確認し、自宅へ戻ろうとタクシーを捜していた……その時。

 

「ヘイ」

 

……なーんか嫌な予感がします。ものすごーく嫌な予感がします。振り返りたくないです。このまま全力で逃げ出したいです、多分追いつかれるけど。

 

「ワタシ達盗賊。欲しい物は……盗み出すね」

 

 パームとシュートも真っ青になっている。そういえば、最初のG・Iはこいつらが強奪するんだった! パームも忘れてたらしい。そこは俺も忘れてたんで責められないが……ヤバい!!

 

 覚悟を決めて振り返る。……見覚えのある盗賊が、二匹。

 

「……私達も、これがどうしても必要なんだけど。今後競売に出てくるモノの方を奪うわけにはいかないの?」

 

「さぁな、オレ達が欲しいのは今で、目の前にソレがある……お前らから奪わない理由がどこにある?」

 

……ピーンチ! 最大のピンチ!! あああ寝坊さえしてなければ占いでこの状況を切り抜けられたかもしれないのに俺のバカバカバカー!!!

 

「無理矢理奪い取るつもりないよ。だから、さっさと手渡すね。怪我しないうちに」

 

 パームとアイコンタクトをとる。

 

 流石だよな俺ら。

 

 じゃなくて!!

 

「……俺達が入ったあと、残り1枠、だけじゃ駄目ですか?」

 

「一人しか入れないんだろ? 駄目に決まってるだろーが」

 

……うううこいつら相手に交渉は無理ぽ駄目ぽもう駄目ぽ。

 

「……もしこれ奪われたら、俺二度と小説書かないしゲームも作らない!」

 

「!!」

 

 ん、フェイタンに少し反応があったか? 神頼み半分で言ってみただけなんだが。

 

「私ももう、作曲をやめる。一生」

 

「!!」

 

 おお、今度はフィンクスが固まった。……好きだったんだな、パームの書いた(パクリの)曲が。

 

「それくらい、大事なものなの。……見逃しては、もらえない?」

 

「オレ、フィンクスにフォークとカーブの投げ方、教えたよね」

 

 さらにシュートが畳み掛ける。いいぞもっとやれ!

 

「……そうか……お前らそんなに命いらねーのか」

 

 やべっ逆効果になった、フィンクスがマジギレ寸前だ!! ……俺はパームからG・Iを奪い取り、丁重に二人に差し出した。

 

「カンベンしてくださいッ!!」

 

……そう、俺は二人を守るためならどんな手段も厭わないのだ!

 

「わかればいいね。ワタシ達も別に争いたい訳違うから良かたよ。……ウイング、今後の活躍も楽しみにしてるね」

 

「パームもな」

 

……直角に頭下げて差し出した手の上が軽くなる。顔を上げた時、すでに二人はいなかった。アジトに行けば会えるんだろうけど……。

 

 うう、パームとシュートがなんか俺に冷たい視線を投げかけてくる。だってコレ仕方ないじゃんよ!! あの二人と俺らと、どっちの実力が上かなんて一目瞭然じゃんよー!!

 

「で、これからどうするの? お金はもう無いよ?」

 

 大きくため息をついたパームが、呆れたような声音で言う。ううう、南極か北極にいるかのように寒いです、パームさん……。

 

「……二人ならツェズゲラさんの審査にも受かるとオモイマス……でもどう考えてもボク無理デス……」

 

「それじゃ意味ないよね。オレら二人だけプレイしても駄目だし、その場合クリア報酬はあのオジサンの方にいっちゃうんだろ?」

 

 クリア報酬は大丈夫だけど……返す言葉もございません……。イヤホント、すんません、先走りました。でもああしなきゃ三人ともお陀仏だったと思ウンデスヨボク……。

 

「とりあえず、家帰ろっか。ここで立ち話ってのもなんだし、ねぇウイング?」

 

……ボク殺されるかもシレマセン……。


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