meet again   作:海砂

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遭遇

 えーと、俺はパームに殴られた。本物のパームにちょっと目つきが似てるよねって言っただけなのに、フルボッコにされた。んで気を失った。

 ちゃんとベッドに寝ていたのは、多分シュートあたりが運んでくれたんだろうと思う。

 パームの名前を決めるより先に、危ないから主人公ルートに近付かないようにしようね、とみんなで話をした。

 OK、今度は記憶は飛んでない。俺は正常だ。

 

 で、なぜに、今ココで、パームとシュートと『ゴン』が一緒に盛り上がってるんディスカ?

 

「あ、目が覚めたっスか!」

 

 っスかじゃねーよ。まだ顔中がいてーよ。多分ヒソカにやられたレオリオよりひどいことになってるよ俺の顔面。

 

「うむ、腕以外は無事のようだな」

 

 パームも乗るんじゃねぇ。お前はクラピカか。頭部ばっかり殴りやがって、これ以上アホになったらどうしてくれる。腕はなんともねーよバーカバーカ! とは心の中でしか叫べない小心者の俺様ですが何か?

 

「初めましてウイングさん! オレ、ゴン=フリークスって言います!」

 

 うん、知ってるよ少年。俺が知っている君より少しまだ幼いか。

 

 問題は何故キミがここにいるかなんだけど、そいつを二人に問いただす前に人として挨拶はしておかないとな。

 

「はじめまして。俺はウイングだ。呼び捨てにしてくれて構わない。……お前らもな」

 

 ゴンだけではなく、二人にも、そう伝える。外見は同世代のお子様なのにさん付けで敬語使われるのはなんだか変な感じだ。というか前の世界ではデフォルトで生徒に呼び捨てにされてたからな。あと、ちゃん付けとか。

 

「ねえ、ウイングもよその世界から来たの?」

 

 純朴なゴンの質問に驚いて二人を見る。思いっきり目をそらされた。……こいつら、話しやがったな。

 

「ああ、まぁな。こんなナリしてるけど本当はお前さんよりミトさんの方が多分年が近い」

 

 ゴンは目を見開いて俺を見た。そりゃそうだろう。外見ちびっこで中身が大人だなんて……「なんでミトさんのこと知ってるの!?」

 

 あれ? なんか自分で墓穴、掘っちゃった? 二人が笑いをこらえてやがるよ畜生。

 

「この人はね、全部じゃないけど少しだけ未来が見える人なのよ。占い師みたいなものかな」

 

 パームがデタラメなことを口走る。顔が引きつってるぞこの野郎。野郎じゃないけど。

 

 それに対して、ゴンは羨望とか好奇心とか憧れとか、そういったキラキラした眼差しで俺を見つめる。やめろ、そんな目で俺を見るなぁッ!

 

「じゃあさ、オレの未来のこととかもわかるの!?」

 

「ああ、まぁ、多少ならな」

 

 余計なことばかり言いやがって……絶対、絶対こいつら面白がってる!

 

 シュートは笑いをこらえるのに必死っぽい。お前が代わりに予言者になれよコンニャロ。

 

「たとえば……ゴン、君はハンターになりたいと思っている。そして、そう遠くない未来に、それは叶えられる」

 

……うん、俺もちょっと調子に乗ってます。だってこんな尊敬の眼差しで見つめられたことなんてなかったんだもんよ、元教師なのに。

 

「ほかにも、ほかにもわかるの?」

 

 もう俺にひっつかんばかりにゴンが身を乗り出してたずねてくる。

 

「んー、たとえば、カイトはお前さんより先にジンを見つける、とか、ハンターになる時にかけがえのない仲間が出来る、とか……あんまり詳しいことはいえないんだけどな、未来を紡ぐって言うことは簡単に世界を救ったり、滅ぼしたりすることが出来るからね。安易に知るものじゃない。意味、わかるか?」

 

 俺の言葉に、いちいち真剣に頷く。そしてゴンは本当に俺のことを予言者だと信じてしまったようだ。……ちょっと心が痛いけど、パームほどあくどくはないだろう。ていうかこいつが諸悪の根源だこのアマ。お前平気で嘘つく変化系だな、きっと。

 

「ところで、お前さんがいるってことは、ここはくじら島か?」

 

「うん、そうだよ。知らなかったの?」

 

 知らんがな。

 えっなに、くじら島ってこんなジャングルみたいな森とかあったんだ。村っぽい印象しかねぇ。あと潮吹きっぽい煙。アレ活火山か? 地震が怖いよな。俺、ラノベに埋もれて死に掛けたことあるよ。ん? 地震より噴火のほうが怖いか。ま、どうでもいいけどな、その辺は。少なくとも原作でくじら島が壊滅したなんて話なかったし。

 

「ゴンくんは今何歳なの?」

 

 俺が非建設的な妄想に浸ってる間に、パームは現実を見ようとしている。偉いなあ、まだ10歳なのに。じゃなくて、女子高生か。

 

 女子高生! 響きはすばらしいがリアルな女子高生はろくなのがいないと悟った教師三年目。『まだドーテーっしょ?』とか普通に聞いてくるんじゃねぇよそんなに彼女いなさそうに見えるのかよ。いや、振られたけどさ。

 

「オレ? オレは10歳。パームさんたちは?」

 

「詳しくはわからないけど10歳ってことにしとくわ。ゴンくんと同じくらいの年に見えるでしょ?」

 

 一人だけ原作の知識が全くないシュートがどうも所在無さげにおろおろしている。ゴンが10歳ってことはまだ原作が始まる前だから、俺やパームの知識もあんまり当てにならないんだけどな。

 

「でも、パームさんやシュートさんは本当は17歳なんでしょ? その、別の世界では」

 

「そうだね、でも今は10歳。だから私やシュートのことも呼び捨てでいいよ。私もこれからゴンって呼び捨てにしていいかな」

 

「もちろん!」

 

 パームは順調にゴンを手懐けている。お前俺が気絶する前は絶対主人公に関わらないとか言ってなかったか? 女って怖ぇ。

 

「なぁなぁ、ゴン。この世界にも野球ってあるのか?」

 

 お、シュートが自己主張を始めたぞ。予想だがこいつは野球バカだ、間違いない。早くから朝練して授業中に寝るタイプだな。俺の生徒にもそんなのが何人かいた。ちなみにそういうヤツらは早弁もデフォルト装備だ。

 

「うん、テレビで見たことあるよ。この島には子供があんまりいないからそういう皆でやるゲームはできないんだけど。シュートは野球選手なの?」

 

「上手じゃないけどな。うん、一応、選手」

 

「コイツが投げる石はほとんど百発百中なんだぜ。動いてる鳥とかでも」

 

 おお、今度はシュートを尊敬の眼差しで見つめている。なんて純粋無垢なお子様なんだ、眩しすぎるぜ。

 

「俺たちはしばらくココに住むことになると思うから、シュートにボールの投げ方でも教わったらいいさ」

 

「それならウチにおいでよ!」

 

……ああ、そうだった。ゴンはこういう子だった。だが三人も押しかけちゃ彼はともかくミトさんが大変だろう。そう言ったが聞いちゃくれやしねぇ。ああもう、これだから強化系は頑固でよろしくない。

 

「私たち、食事や飲み物には困ってないんだけど、ココにはお風呂がないから、時々ゴンの家にお風呂借りに行ってもいいかな?」

 

 そうか……全然気にしちゃいなかったが、年頃の女の子が風呂に入れないのは嫌なんだろう。俺やシュートは川で水浴びすりゃすむけど、パームはそうはいかないだろうしな。

 

「だから、遠慮せずに皆でオレの家にくればいいのに」

 

「私たちは旅行で来てる人たちと違っていつまでいるのかわかんないから、そうずーっとお世話になるわけにはいかないのよ。お風呂を貸してもらえるだけでも充分ありがたいんだから。それを、ミトさんによろしくお願いしておいてもらえるかな?」

 

 パームの言葉にゴンもしぶしぶ頷く。……違うな、アレはきっと目が怖かったんだ。俺の時と同じで、言うこと聞かなきゃ頭からバリボリ食っちまうぞ的な目つきだったに違いない。女、マジ怖ぇ。

 

「じゃあさ、オレ、毎日ここに来てもいい? いろんな話聞きたいし、シュートに野球も教えてもらいたいし、オレの友達とかも紹介したいしさ!」

 

「もちろんそれは俺たちも大歓迎だよ。そのうちミトさんにもご挨拶に行きたいしな」

 

 何だかんだいって、ゴンは素直でいい子だ。だから俺が気絶してる間に、二人も彼を受け入れたんだろう。異世界から来たなんて言ったって普通は信じないしな。

 でもそんな簡単に他人を信じちゃ駄目だぞゴン。普通、何事もまずは疑ってかかって、拳を交えたりしながら紆余曲折を経てマブダチになるもんだ。……って、原作で誰か言ってたな、カメレオンの奴。あーでも俺とゴンが拳交えたら死ぬか、主に俺が。

 

 日が随分と傾いた頃、パームの目力のおかげでゴンは一人で帰っていった。また明日も来るよ、と告げて。

 

「予想外の展開だったけど、オレらが今いる場所がわかっただけでも収穫にはなるんだろ? きっと」

 

「っていうかそんなことよりウイングの予知能力者の真似がさー、もー超ウケる」

 

 思い出したのか二人してひとしきり大笑いしやがった。ああもう、最近のガキどもはこれだから嫌だ。好かれてんだかおちょくられてんだか、いつも俺の周りに無駄にわらわらと寄ってきてた生徒どもを思い出す。高校生の考えてることなんて全くわかりゃしない。ほんの10年くらい前までは俺も高校生だったはずなんだけどなぁ。

 

「あとは、今が原作より前だってことも重要な情報だ……っていつまで笑ってんだお前ら、しまいにゃ殴るぞコラ」

 

「ごめんっス……いや、でも……ぷフっ……」

 

 とりあえずシュートの頭を叩いておいた。誤解のないように言っておくがパームほどのマジ殴りじゃないからな。ツッコミ程度の軽い奴だ。

 

「ゴンが試験を受けたのが12歳になる直前だったから……実質原作より二年弱ほど前になるかな」

 

 原作ゴンの具体的な年齢まで覚えてるとは……この女、侮れねぇ! だからといってけして好意的になるなんてありえないけどな。殴られた恨みは意外と深いぜ、パーム。いや、まぁ、ぶっちゃけどうでもいいんだけど。

 

「私の考えなんだけど、帰る方法は三つある」

 

 え、俺ひとつしか思い浮かばなかった。パーム、意外に頭キレるな。

 

「ひとつは、念能力による帰還。この中の誰かが、異次元への扉を開く能力にすればいい」

 

「そう簡単にできるもんスか?」

 

「まず出来ないと思う、多分。そこで」

 

「グリードアイランド、だろ?」

 

 グリードアイランドの中にあるカード。クリア報酬として外に持ち出したカードを使って帰還する。あのゲームシステムには興味を持っていたから、GI編に関してはほとんどの内容を覚えている。

 

「あくまで予想だが、使えるカードは『磁力』(マグネティックフォース)『離脱』(リーブ)『同行』(アカンパニー)『再来』(リターン) あたりだろうな。それで帰れなきゃどうしようもないと俺は思ったんだが……もうひとつは?」

 

「神頼み。気まぐれでこの世界に飛ばされたんだから、神様の気まぐれで元の世界に突然戻ることもありえないわけじゃないでしょ。つか神とかホントにいるんなら私らをソッコーで元に戻せって感じだけど」

 

……ようするに、どれも信憑性が薄いってことだね。うん、そんな気はしてたよ、ここに来たときから。

 念も覚えたし、別に元の世界に戻れなくても俺は構わないような気がしている。定年はまだ遥か先だったけど、これから第二の人生を歩むと思えば別にこの世界もそんなに悪くない。多少危険ではあるけどな。

 あ、シュートが捨てられた子犬のような目をしてる。一人だけ話についてこれないのは辛いだろうな。

 

「現時点での肉体能力に関してはシュートがダントツだと思う。念に関しては系統や作る能力にもよるだろうが、現時点で一番オーラ量が少ないのが俺、多いのはパームだ。パームは覚醒させた時のオーラの放出量がハンパじゃなかったからな」

 

「えーと、じゃあ、まずはその、念ってヤツの能力を磨けばいいってことっスか?」

 

 ついてこれないなりに、理解しようと努めている。シュートも、どうやら頭はそこそこ切れるようだ。

 

「とりあえずはそうだけど、グリードアイランドに行くためには出来ればハンターライセンスをとっておきたいところなんだよね。だから最初は、シュートは念の修行、私とウイングは肉体能力の強化に努めるべきだと思う」

 

 うーん、俺ってやっぱりいらない子のような気がしてきたぞ。こいつらに唯一勝ってるのはほんの数年の人生経験だけだもんな。

 

「あとは、各自どんな念能力にするか……の前に、水見式、やっとくか」

 

 汲み置きの水を桶のギリギリ一杯まで入れて、コップの代わりにする。適当に外から葉っぱを一枚取ってきて浮かべる。ちょっとデカいけどこれでも問題ないだろう、多分。

 

「シュート、この桶の横に手を近づけて『練』……えーと、全身の煙を増やしながら桶に集めるような感じでやってみろ」

 

 言われたとおりに、シュートが手をかざす。多分、才能があるんだろう。こいつは知らないはずの四大行を簡単な説明だけでやってのける。

 桶の水がじわじわと濁る。……いや、色が変わっている? 少しすくい上げてみると蛍光色のような半透明の黄色い液体が指の隙間を通って桶に流れ落ちた。

 

「放出系かぁ。バットとか持ってるから強化系の方が使い勝手がよかったんだろうけど、こればっかりはしかたないか。次、私やっていい?」

 

 別の桶にまた新しく水を溜めて、パームが水見式を行う。やらなくてもわかるぜ、こいつは絶対変化形だ!

……と思ったら、また水が濁り始めた。こいつも放出系かと思ったが、すくい上げて見るとさっきとは違い、銀色の砂のようなものがざらざらと手に残る。えええ、変化形じゃないのか?

 

「具現化系か……強化系が理想だったのだが」

 

 はいはい、クラピカのモノマネはもういいから。こいつクラピカが好きなのか? リアルで出会ったらどうする気だろう。

 

 それはともかくとして、最後に俺が桶の水を集めて手をかざす。これで普通の水がなくなっちまったからまた汲みに行かなきゃなー、とか考えながら練を行っていると、三人の中では一番劇的な変化が起こった。

 

「……分裂?」

 

 浮かべていた葉の枚数が増えていた。大きさは元の葉よりも小さいが、5枚、6枚と、最初の葉からアメーバのようにどんどん分離して増えていく。

 

「特質系? うそぉ、ウイングにカリスマなんかこれっぽっちもないじゃない」

 

 うるさい、そんなの俺が一番よく知っている。けれど、水に浮かんだ大量の葉が、俺は特質だと雄弁に語っていた。

 最初に浮かべておいた葉と、増えた葉の一枚をとって見比べる。大きさ以外は寸分違わぬモノだ。葉脈の張り具合まで完璧にコピーされている。他のものも調べてみたが同様だった。……これに何か意味は、あるのか? そういや旅団にコピーする能力の奴がいたな。いや、あれは確か具現化系のはずだ。

 

「あとは、各自がどんな能力にするかを決めるだけだな。パーム、シュートへの能力開発方法の説明はお前に任せていいか?」

 

「いいけど、ウイングはどうするの?」

 

「体を鍛えがてら、水汲みにでも行ってくるさ」

 

 空の桶を抱えて小屋を出る。桶は全部で5つ。前はひとつで精一杯だったけれど、一人で軽く全部の重さを持てるくらいにはならないと、この世界で生き残るのは難しいかもしれない。うまくいけば、ハンター試験を受けてこの世界で豪遊するのも悪くないだろう。戻る気ならば、それ以上に鍛えなければ意味がない。いずれにしても鈍った体力を取り戻すために、俺は体を鍛える覚悟を決めた。

 

……あーあ、俺、インドア派だったのに、何でこうなっちまったかな。


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