meet again 作:海砂
第一試合、ゴンVSハンゾー。
二人は、拷問の途中でオレが止めさせないか警戒していたみたいだけど、何とか自力でこらえることができた。でも、まさか骨まで折られるなんて……なんで二人は俺に話してくれなかったんだ。
第二試合、パーム対ポックル。
練を相手に浴びせかけて、あっさりと勝利する。これでパームのライセンス取得が確定した。
そして第三試合……ウイングVSキルア。
「キルア、ウイングに勝たせてやってよ」
「んー、お前やパームなら考えたかも知んないけど、ウイングだしなー」
どうしよっかなー、とか言いながら、キルアが審判の前に立つ。ウイングはまだ、オレの隣で子羊のようにガクガクブルブルしている。とりあえず先に進まないとどうしようもないので、パームと二人でウイングを前に突き出した。
「第三試合、キルアVSウイング、始め!!」
「まいった、降参」
……!? 開始と同時にキルアが降参した。
「ウイング相手になんかやったってつまんないじゃん。明らかに格下だしさぁ?」
「ありがとうございます、キルア様……」
「お前、次に様付けしやがったら殺す」
「さ、サンキュー、キルア!」
これで、ウイングのハンター試験も合格だ。……キルア、オレからも礼を言うよ、本当にありがとう。
第四試合、ヒソカ対クラピカ。
ヒソカがクラピカに何かささやいて、そして自分から降参した。何を話したんだろう。脅し……じゃないよな。自分が降参したわけだし。
第五試合……オレの試合だ。
「終わったらちゃんと治療してやるからな。だから……早めに降参しろよ」
そう言いながら、レオリオはナイフを出した。悪いけど、見るからに弱そうだ。スキだらけだし、動きも遅い。多分、天空闘技場でいうと50階あたりまで行ければいい方だろう。
「開始!」
合図と同時にオレはレオリオの背後へと回る。能力は使うまでもない。
「なっ……!?」
「実力差、わかった? それとも、まだやる?」
避けるようにオレから離れて、レオリオは再びナイフを構えた。
オレは、今度は彼の真正面まで走り、軽く手首を叩く。音を立ててナイフが落ちた。
「……ッ!」
「無理しないほうがいいよ。その様子じゃ、痺れて利き腕はしばらく使えないだろ? 少なくともこの試合では」
次は、あのサングラスでも奪い取ってみるかな。そんなことを考えていると、レオリオは潔く負けを認めた。……思ったより早かったな。
「チャンスはまだあと2回ある。……お前ら、バケモノか? まさかお前もゾルディック家の人間だっつーオチじゃねーだろうな」
「ゾルディックの家で遊んだことはあるよ。キルアと知り合いだったんだから、それだけでも十分実力差がわかりそうなもんだと思ったんだけどなぁ」
オレはパームとシュートのところへ戻る。これで無事、三人ともクリアだ。レオリオは悔しそうにクラピカやキルアの所へ向かい、キルアに諭されていた。
「オレん家、ハンパじゃなくキツイからさ、住んでるだけでもそれなりに鍛えられるんだ。それにアイツは、まだあれでも全然本気出してないぜ?」
……たぶん、キルアは一回だけだけど、最初にオレの念を見てたからな。森を突き破ったボール。それのことを指してるんだろうと思う。
けど、解せない。こんなに普通なキルアが何故狂ったりする? ……だが、ウイングの占いは絶対だ。
六回戦、ハンゾー対ポックル。ゴンの時と同じように拷問を仕掛けようとして、ポックルが負けを認める。
七回戦、ギタラクル対キルア。変化はそこで訪れた。
ギタラクルがキルアに声をかける。
「久しぶりだね、キル」
「!?」
ギタラクルが、顔に刺さっている棒を一本抜いた。すると、奇妙な動きをしながら、顔が変形していく……。
「……兄……貴!!」
「や」
キルアが、震えている。ゾルディックでキルアの兄ならば、それだけで相当な使い手だっていうことは間違いない。その上、ヒソカと同レベルで二人はこのギタラクルを警戒していた……たぶん、念もすでに使える。
「母さんとミルキを刺したんだって?」
キルアが、ちらりとパームを見た。パームもウイングも、無言で二人の様子を窺っている。
「まぁね」
「母さん泣いてたよ。感激してた。『あの子が立派に成長してくれててうれしい』ってさ」
ギタラクルは、とつとつとキルアに語りかける。キルアは、段々汗をかき、震えが大きくなり、そして呼吸も荒くなっていった。
そして、キルアはゴンと友達になりたいと言い、レオリオがとっくに友達同士だと言い……ギタラクルが、言った。
「じゃあ、ゴンを殺そう」
ギタラクルは試験官の一人に針を刺し、ゴンの居場所を聞き出す。……無意識にオレの足は、ドアの前までオレを運んでいた。クラピカ、レオリオ、ハンゾーがともに並び、そして試験官のグラサン達もそれに続く。ウイングとパームは動かないままで、じっとキルアとギタラクルを注視していた。
ギタラクルはオレたちを殺せないことに気付き、試合へと戻る。……キルアに、残酷な言葉を語り続けながら。
そして……キルアは、降参した。
「キルア!」
オレは急いでキルアの元へと駆け寄る。まるで、抜け殻みたいだ……オレの言葉も、クラピカやレオリオの言葉も、彼には届かない……ただ、虚ろな目をしていた。これが……狂ったキルア?
オレたちのことは放置されたまま、試験は続く。
八回戦、ボドロVSヒソカ。強さで圧倒したヒソカが一方的にボドロを叩き、最後に彼のそばでつぶやいた。そしてボドロが降参する。……たぶん、今度は間違いなく脅したんだろう。『次は殺す』と。
九回戦ボドロ対レオリオ。
レオリオがボドロの怪我と連戦を理由に延期を願い出たが、次のポックルVSキルア戦もキルアの状況から似たようなものだと判断され、そのまま試合が開始される。
そして……見た。
キルアが凄い速さでボドロの心臓を貫くのを。
止める余裕すら……なかった。あっという間だった。
そして、キルアは無言で会場を出て行く。もちろんオレは追いかけようとしたが、パームとウイングに止められた。
ああ、『友が狂う』っていうのは、この状況を指していたのか……。
悔しかった。キルアに言葉を伝えられない自分が。
悔しかった。キルアを止められなかった自分が。
悔しかった。キルアの後を追えない自分が。
悔しかった。キルアが見もしない自分が。
……友達、なのに。
その怒りの矛先は、オレを羽交い絞めにしている二人に向かう。
「何で止めるんだ! キルアがあんなことになって、どうして止めるんだよ!!」
オレは悔しかった。そして、気付いてしまったんだ……キルアにとってオレは、ゴン以上の存在になれないってことに。
気付くと、オレはホテルの別室にいた。取り乱していたオレは二人に気絶させられたらしい。二人にとって『余計な事』を口走られる前に。
「……何で、ああなることを知ってて、二人は黙ってたんだ?」
ウイングがオレの体を調べている。オレを気絶させる際に少々手荒な真似をしたらしい。起き上がると、軽い頭痛、そして首筋と腹部に鈍い痛みが走った。
「キルアが帰ってくることを知っていたから? キルアが無事に戻ってくることを知ってたから? 知ってたからって、あんな状態のキルアを見殺しにしたのかよッ!」
ウイングの手を振り払う。
「オレはもう、あんた達を信用できない。ゴンたちと一緒に行く。さよなら、ウイング、パーム」
何か言っている、彼らの言葉はオレの耳に入らない。扉を開けて、閉める。オレは、二人と決別した。
扉の前にいたサングラスに、ゴンの居場所を聞く。まだ眠りから覚めていないという。……きっとゴンなら、一緒に行ってくれるだろう、キルアを取り戻すためにあの場所へ。