meet again 作:海砂
ウイングはすごいと思う。
オレたちは絶で追いかけるだけだけど、ウイングは円を糸のように伸ばして、まるでレーダーのように周囲を探っている。しかも、キルアにばれないように、見事にそこだけは避けて、しかもかなりの高速回転だ。
オレだったら……そもそも、あんなに円を細くすることすら出来ないだろうな。やっぱり、念の扱いに一番長けているのはウイングだと思う。前にそう言ったら「俺はお前さんらと違って念の総量が少ねーからだよ」とか言ってたけど。
どうでもいいけどウイングのは既に円形じゃなくなってるし、これも一つの念能力のような気がする。ただの応用? 練習したらオレにもできるかな。
そして割と早く、翌日の朝にキルアと三兄弟が接触した。そしてあっという間に三人を圧倒する。さすが、すげーなキルア……。
バッジを三枚ゲットしたキルアは、まず一枚目を投げた。それを、ウイングが追う。
そして二枚目!
オレとパームは円で警戒しながら全速力でバッジを追う。
うん、一応オレ、あっちの世界の、去年の県大会で盗塁王とったこと忘れてました、綺麗さっぱり。ついでにクラスで一番足が速かった、陸上部のヤツよりも。
つまりその……急ぎすぎてパームとはぐれちゃったよー!
とりあえず人の気配はしないのでジャンプしてバッジを手に入れる。しばらくすると、パームも追いついた。バッジの軌跡を追いかけてきたんだろう。
「アンタさ、女の子一人置いてけぼりにするってどうなのよソレ?」
「ゴメン、バッジを無事にゲットできたってことで見逃して」
そして再び円を展開し、今度はのんびりと二人で合流地点へ向かう。すでにキルアも三兄弟もその場にはおらず、ウイングもまだ……と思ったら、絶状態で木陰から出てきた。相変わらずウイングの絶は絶品だ。いやシャレじゃなくて。
「遅いぞお前ら」
「そっちにいたんだね、ハットリ君」
「おうよ、もう全力でバックレてきたぜ」
……あれ? ハンゾーって名前じゃなかったっけ。ハットリ君?
まあいいや、最初の予定通りだ。後は、また最初の状態に戻って今度はハンゾーだかハットリだかを探すだけだ。
それから二晩、オレたちはまだ忍者を見つけられずにいる。そしてウイングが、ハンゾーを見つける前に占いをしておこうといってきたので、持ってきた紙とペンで占いを開始した。その間は、オレとパームが交代で円を使う。
オレは最初に占ってもらって、ざっと読んだ後に二人にも見せた。
労せず島を出る貴方と、苦しみながら島を出る友
鈍鼠色の友が狂っても、けして後を追ってはいけない
追えば寝床に釘付けになり、追わねば札が手に入る
いずれにせよ別れが貴方を待っているだろう
……島は無事に出られるってことか。でも、この一文目の後半の『友』っていうのは誰だろう? あと二行目の方の『友』もよくわかんないな……鈍鼠色?
「シュート、次の試験でキルアが狂う。けど、ちゃんと無事に帰ってくるから、絶対に追うな。何があってもだ。あとついでに言っとくがゴンが次の試験の最初に拷問を受ける。それでもちゃんと合格するから絶対手を出すな」
「鈍鼠色の友ってキルアのことなの? じゃあその前の『友』は?」
「わからん。キルアでないことは確かだが、ゴンたちを指すのか俺らを指すのかまでは……あとの占い次第だな。この場合の『札』は、今の試験のプレートじゃなくてライセンスのことだろう」
キルアが狂う? 想像したくない。もしそんな場面に遭遇して……友達がそんな状態になってて、いくら無事に帰ってくるっていわれても冷静でいられる自信は……ちょっと、無い。
ウイングは次にパームを占い始めた。書き上げた紙をパームに手渡す。……一瞬で、パームの顔色が真っ青になった。
占いの結果を見せてもらう。
道は二つあるだろう、選ぶのは貴方自身
取引を持ちかけるか、或いは一人で逃げ出すか
己を相手に差し出せば、札は必ず手に入る
逃げれば貴方の夢は一生、叶うことなく終わるだろう
「お前は今すぐザバンに戻れ、パーム」
ウイングが即座に帰還を促す。この占いの意味くらい、オレにだってわかる。
もしヒソカに取引を持ちかけたら……きっと、パームが……。
けれどパームは、首を横に振った。
「馬鹿! ライセンスなんかよりお前さんの方がはるかに大事だろうが!」
「そんなのわかってる! 札が手に入らないっていうだけだったら、私はとっくにどこでもドアを出してるよ。でも、もし『夢が一生叶わない』ってのが『一生、元の世界に帰れない』っていう意味を指してるんだとしたら!?」
オレもウイングも、驚いた。今が試験中だったせいか、その可能性にまで考えが至らなかった。たぶんウイングも同じだろう。
「それでも、俺はお前さんをヒソカに差し出すわけにはいかない」
「オレだってそうだよ! だってパーム、好きな奴いるんだろ!?」
オレは余計なことを言ってしまった、と、後悔した。パームが、今まで見たことも無い、泣きそうな、さびしそうな顔をして……なのに笑ったんだ。
「正直……どうせ帰れないかもしれないんなら、つーかまあ、帰れなくてもいいや。顔もなんにも覚えてないような人より、今回のことでヒソカのオンナになるって手もアリかなって思ってるんだ。ほら、一応フツーにすればまあまあ美形だし、何しろ強いし……さぁ」
だったら、だったら何でそんな顔するんだよ……ッ! オレは無意識に、パームの頬を引っ叩いていた。
「嘘だってすぐわかるようなウソつくな! まだ好きなんだろ? ヒソカなんか嫌なんだろ!? 綺麗なままで元の世界に帰りたいんだろ!!」
パームはすこしの間、頬を押さえたまま放心してオレを見て……それから、表情はそのままに、ボロボロと泣き出した。……しまった、つい殴ってしまった。ただでさえ余計なこと言ったのに、さらに泣かせてどうするよ、オレ!
「……な……」
パームが小さな声でつぶやく。
「……殴ったね、親父にもぶたれたことないのに!」
……え? パーム今なんつった?
意味がわからないままボーゼンとしていると、ウイングがこらえ切れないといった感じに吹き出して、すごい勢いで大笑いし始めた。
「お前さん、案外余裕があるな。さ、ブライトさんにぶたれたついでに正直なところ全部吐いちまえ、楽になるぞ」
パームも、まだ涙は止まっていないけど一緒に大笑いしている。……なんか、オレ一人取り残されてる気分。
「ヒソカは嫌だ。まだ、あの人が好き。でも、帰れなくていいっていうのは……ちょっと本気だった。ゴメン、帰るのが怖かった。だって、帰ったら絶対振られるし……だったらこのまま三人で楽しくやっていくのもアリかもな……とは、思ってた。でも、なんかシュートにぶたれていろいろ吹っ切れた。うん、私やっぱりあの人のこと、顔も名前も覚えてないけど、それでも好き。好きだってちゃんと伝えたい。綺麗なままで、でもきちんと帰りたい!」
今度はきっと、嘘はついていない。これがパームの本音で、すべての気持ちの吐露なんだと思う。
カチリ。
あれ? 今、何か音がした。前にも聞き覚えがある気がする。何の音だろう。
「今、何か音、したよね?」
「そう?」
「……空耳じゃないか?」
空耳だったのかな……まあいいや。パームはもう泣き止んでいる。涙の跡は残っているけど、それでも笑ってる。
ウイングも、そしてオレも笑う。今は、それでいい。ヒソカのことは後で考えよう。
さあ、とりあえず試験の続きだ。まずは、ハットリ君を探すところからだ。あれ? ハンゾー君だったっけ?